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347.その黒いオーラ消そう、ねっ!?

お待たせしました。


ではどうぞ。



「はぁぁ、疲れた。休憩しよう……」



 セットしていたタイマーの音で、動かしていた手を止める。 

 シャーペンをノートの上に放り、伸びをしてから部屋を出た。



 平日の夜。

 もしかしたら学園祭の準備で、教室に残っているクラスメイトもいるかもしれない。


 夜の学校という非日常で、劇の完成に向けて協力し合う。 

 そんな共通の時間を過ごすことで、仲を深める異性もいるかもしれない。


 これぞTHE青春というものだろう。


 

 ……そんな中でも、俺は変わらず家で、一人黙々と勉強である。



「が、学生の本分は勉強だから……毎日こうしてコツコツ積み重ねるのが大事だから、うん」 

 


 階段を下りながらも、自分の灰色な学生生活を思い、自然と言い訳が口から出ていた。

  

 そ、それにこの後、大人気スーパーアイドルのかおりんとも会う予定だし!

 俺だって非日常的な時間くらいあるもん!!



 ……はぁ、やめよう、余計に虚しくなる。



 志木だってどうせ事務的な話で呼んだんだろうし……。




「……うーん、ボクは別に欲しいものとか、ないかな」


「そうなんですか? 私も直ぐには思いつきませんが……そうですね、食べ物とかなら色々と浮かんで来ますけど」



 リビングに入ると、ルオとラティアがソファーに座って雑談していた。

 レイネもいるにはいるが、キッチンの方のイスに座り、一人で(くつろ)いでいる。  

 薄い雑誌をペラペラと(めく)り、時折リビングの二人に視線を向けるといった感じだ。


 

「――あっ、ご主人! 勉強はもう終わり?」


「おう。この後ちょっと出ることになるけど……」



 志木に呼ばれて、これから出ることは既に伝えてあった。

 ラティアも付いて来るため、今夜はルオとレイネだけになる。


 冷蔵庫からお茶を取り出す時に、念のためもう一度同じことをレイネに告げておいた。



「おう、分かった。んじゃ、隊長さん達より先に寝ておいても良いんだよな?」


「そりゃ勿論。待ってなくて良いからな」



 今はもう令和の時代だからな……。

“俺より先に寝てはいけない”なんて、正当な理由があっても口にするのには中々勇気がいるだろう。



「…………」

 


 レイネと軽く話す中、意識はラティア達の雑談へと向く。

 ラティアとルオが何を話しているのか、凡その察しはついていた。


 ……というのも、ラティア、そしてレイネも実は協力者だからだ。


 

「――それで、えっと、何の話だっけ? うーんと……あっ“100万円が当たったら何が欲しい?”か」


 

 ルオが思い出し、二人の話が再開される。

 


「はい。フフッ、夢もありますからね、こういう他愛ない話題でも、結構暇や時間を潰せて楽しいですよね」



 単なる雑談の様に見えて、だが真実はルオの“欲しい物”調査なのだ。



 ラティア、そしてリヴィルが来てから1周年記念のお祝い会は既にやっている。

 そして今度はルオの番だった。

 

 なので、ルオ以外の全員で共同戦線を張り、プレゼント候補を密かに聞き出そうというわけだ。

 


「あー、あたしも戦場で暇な時、結構それやったな~……」



 離れたキッチンから、レイネが相槌を打ってラティアを援護する。

 そしてルオが反応してこちらを見た時、レイネはさりげなく読んでいた雑誌を持ち上げた。


 ルオに見えるよう掲げられたその表紙には“貰って心から嬉しいプレゼント特集!!”との一文があった。



 ルオに気付かれないようにルオの欲しい物を探る、というのがミッションだ。

 なので、レイネは結構ギリギリを攻めている。

 目で見て、でも意識には上ってこないくらいがベストだ。

 

 レイネはその線を狙ってるんだろう。 

 

 

「うーん……額が大きすぎてボク、やっぱりパッとは出てこないや。ラティアお姉ちゃんの言う様にお菓子とか食べ物、とかかな……?」   



 ルオが気付いて、不自然に話や態度を変える様子もない。

 そしてヒントとなるワードも出た。


 レイネやラティアの誘導は成功していると言うことだ。


 

 流石だぜ……。

 有難くこの情報を活用して、プレゼントを考え――



「――ちなみに……ご主人だったらどうする? 100万円当たったら」


 

 うおっ、こっちに飛んできた!

 ここで俺がドジると、ラティア達に疑いの目が行くこともありうる。

 


 ひ、捻り出せ!!


 100万円、100万円手に入れたら――



「ふぃ、フィギュアとか、沢山、買ってみようかな? アニメキャラとかの」 

  

「フィギュア? ……へぇぇー、そっか」 


 

 ギャァァァ!

 言葉とは裏腹に“何でだろう?”って顔してるぅぅ!!


 全く納得してないけど、俺に配慮して引いてくれた表情だぁぁ!!



 いや、俺だってコレクション癖とかないよ!?

 ……でも実は、俺がそんな願望を持っていると思われると、それはある意味ヤバい。



 勿論コレクションの趣味に偏見はないつもりだ。

 それにラティア達は、既に俺がアニメ等を好んで見たりすることを知っている。


 だから、オタクっぽい趣味を持っていると思われることは全然構わないのだ。


 

 そうではなく。

“お金がかかりそうな趣味嗜好を、実は我慢している”と思われる。

 それは“自分達の存在が、知らない間に金銭的な重荷になっているのでは?”と誤解される可能性を内包しているのだ。



 だからここは、その可能性を断ち切るためにも……。




 ――道化がいる。


 

□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「――いや、“そっか”じゃない、ルオ! もっと熱くなれよ!」


「……へ?」



 まさか、俺がいきなり熱を持って語り始めるとは思っていなかったのだろう。

 ルオは驚いて目が点になっていた。


 ……よし。



「いいか、大好きな推しのヒロインを、その姿形そのままで、表情まで忠実に再現されて自室に置けるんだ! これはとても凄い事なんだぞ!」


「……えっ、えーっと」



 ルオはどう反応していいか困惑している。

 俺も自分で何を言ってるか半分くらい分かってない。


 だがもう走り始めてしまった以上はそれを好機ととらえ、ここぞとばかりに捲し立てるしかないのである。

 


「モテない思春期ボッチの悲しい自室に花を添えてくれるんだ! ふとその姿を見たいと思ったら、いつでも目の届くところに推しがいる――クッ、物作り大国日本の職人さん達め、憎いことをしてくれるぜ!!」


「…………」

 

 

 圧倒されているらしい。

 ルオはポカーンと口を開いて俺を見上げていた。

 

 だが今更もう後戻りもできまい。

 今の熱量のまま突っ走るのみだ。



「まあ最近は学生にも手が届くお買い得なフィギュアが増えたからな。フッ、悪い。そうだ、100万円もいらなかったぜ。5万円あれば部屋を二次元のヒロインで一杯に――」

  



「――なるほど。つまり、ご主人様は。三次元の異性よりも、二次元の可愛いヒロインに囲まれることがお望みだと言うことですね?」



 ……えっ?

 えっと……ラティアさん?



「フフッ、参考になるのはシチュエーションやキャラクター性ばかりだと勝手に決めつけていましたが……やはりその“可愛らしい・ちょっとエッチな感じの(イラスト)”も、重要な要素だったのですね」



 ひっ、ヒィッ!?

 いや、あの、えっと!!


 これは色々とですね、お互いに誤解があるというか!

 話し合えば人は分かり合える種族と言いますか、ね、ねっ!!


 だから、その黒い笑み、ちょっと何とかなりませんか!?



「……ですが三次元――生身の女性もきっと素敵な所はあると思うんです。ですので……ルオ」


「――は、はい!!」



 ほらっ、ルオも敬礼で反応しちゃうくらい怖いんだって! 

 ラティアさん、笑顔はそのままでいいから、黒いオーラ消そう、ね!?



「フフッ。私も僭越(せんえつ)ながらサキュバスとしての努力を重ねて行きます。ルオも、生身の女性は素晴らしい所も沢山あるんだと。そうご主人様に知っていただけるよう、これからもっと【影絵】を練習していきましょう。……ね?」


「はぃぃっ!! ぼ、ボク、頑張りますぅぅぅ!!」 



 今ですら物凄いオーラを出してるって言うのに、更に努力を重ねて行くらしい。




 ……えっ、ラティアはラスボスか何かにでもなりたいの?



 

「……さて。話はこれくらいにしましょうか。――ではご主人様、先に玄関にてお待ちしていますね?」


「お、おう……」



 この後の用事のために、ラティアは先に話を切り上げて部屋を後にした。

 リビングのドアが閉まり、足音が離れて行くと、誰からともなくホッと息を吐く。



「……隊長さん、まあドンマイ」


「……おう」



 レイネはそう励ましてくれるが、気は晴れず。

 俺はまだこの後もラティアと一緒に、志木の元へと向かわねばならない。



 クッ、気まずい!!



「――あの、えっと、ご主人」



 ああ、気まずいと言えば――



「おう。その、なんだ。まあさっきのは俺の暴走だ。あんまり気にしないでもらえると助かる」


 

 頬をかきながらルオに詫びる。

 変な誤解をさせない様にと道化として振る舞ったら、黒ラティアが降臨する羽目になってしまった。


 ルオはとんだとばっちりだろう。

 そう思っていたら――

 


「――ううん! ボクも気付けなくてごめんなさい!」



 ルオに謝られてしまった。

 ……えっ?



「その、ボク、色んな人を【影絵】で再現して来たけど、やっぱりちょっと照れや恥じらいがどこかにあったんだと思う! ご主人に“ボク以外”を見せるってことで、無意識に!」


「いや、あの、……ルオ?」 


 

 今度は俺がポカンとする番だった。

 


「ラティアお姉ちゃんに言われて分かったよ! ボクがもっとリアルで! もっとエッチで! もっと可愛く再現出来たら、ご主人が現実の女の人にもっと興味を持てるかもしれないんだよね!?」


「いや、そんなことは――」

   


 反射的に否定の言葉が出ていたが、ルオは既に自己完結してしまっていた。


 赤星や皇さん、それに桜田が大精霊の装備を身に着けてしまった時と、心境的に近いものがあった。 


 

 俺の知っている身近な相手が、何故か変な方向に成長を遂げて行く。

 それを俺は何とか手を伸ばして止めようとするが、その手は虚しく空を切るのみ。


 

「ボク、頑張るね! 今まで以上にもっと真剣に、再現してみる! 早速カオリお姉さんでも練習をしてみようかな――」



 やめて!! 

 今から会いに行く相手だから、せめて違う人にして!! 



 ある意味で、他の高校生では体験できない非日常的な日常。

 それに俺は慣れることなく、また胃を痛めることになるのだった。



ラティアを始め、魅力的な奴隷少女が5人もいるんだから、そんな話題の変え方したら、そりゃそうなりますよ(白目)




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― 新着の感想 ―
[一言] >「ふぃ、フィギュアとか、沢山、買ってみようかな? アニメキャラとかの」  織部「新海「舐めてるだけで最高なんだ!」」 新海「お前ふざけん 淫魔「お可愛いこと……!」(暗黒オーラ) 新海「」…
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