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344.クッ、赤星め!!

お待たせしました。


ではどうぞ。



「――そう、今っ!!」


「はいっ!! ――やぁっ! たぁっ!」



 ルオの指示に合わせる様に、椎名さんがステッキを振るう。

 


「コッ、コケッ?」



 完全に背後を取っての一撃。

 だが巨大鶏はビクともしない。


 気味の悪い紫色をしたトサカ頭を、不思議そうに傾げる。

 まるで“……今、何かしたか?”とでも言いた気な顔だ。


 人程の大きさをしているだけに、その仕草には一切の可愛さ・愛らしさを感じない。


 正直キモ怖い。

 全国ご当地マスコットに1体はいそうな、どうしてこうなったと言いたくなる見た目だった。



「っ!! 今日の晩御飯、唐揚げ、決定です!!」



 しかし椎名さんは全く怯まない。

 既に戦闘回数にして4度、同じ経験をしていたからだ。



 攻撃しても、最初は全くダメージが通らない。

 それをしっかりと理解しているので、脚を、そして手を、動かし続けた。



「っし、良いぞシイナ!! あたしとルオが付いてるから、その調子だ!!」


「はいっ!!」



 ルオとレイネが完全バックアップで椎名さんをサポートしている。

 それに赤星が動き回り、対象の注意を引き付けていた。



「≪水よ、刃となりて、敵を刻め――≫」

 


 後衛の皇さんは、状況の変化に応じて、いつでも魔法を発動出来るように準備している。 



「コッ、ココッ――」



 一方で、俺が相手するもう1体が、大きく羽ばたこうとした。

 囲まれている仲間を助けるために飛ぼうとしているのだ。


 だが、そうはさせない。



「ちょっとは学べよ鳥頭っ!! ――【敵意喚起(ヘイトパフューム)】!!」 



 今にも天上近くまで上昇しかけた鳥モンスターが、重力に屈するように一気に真下へと着陸。 

 さっきと同じ場所へと戻ってしまう。


 そして仲間の袋叩きの危機などまるで忘れてしまったかのように、俺へと怒りを露わにした。



「コケェー!!」


「うっせぇ! ダンジョン内は響くんだよ!! 静かにしてろっ!!」


 

 俺もそれに対抗するように声を上げながら、体調の悪そうな紫の(くちばし)にアッパーを入れる。


   

 ……この一連のやり取りも、既に戦闘が始まって3度目だった。



「コッ、コケェェ! ココッ……」



 やはり同じことを繰り返していても、ダメージの蓄積は無視できないようで。

 攻撃を食らう毎に、巨大鶏の元気は無くなっていく。




「コケェェ? コッ、ココケ!!」



 一方で椎名さんの所の奴は、まだまだ元気一杯。

 逆にこちらへと加勢しに来そうなくらいだ。


 

 ただこうして、俺と椎名さんの間で戦闘に差が出ていることで、改めて自分はちゃんと戦えているのだと実感した。

 

 椎名さんにも今後は少しでも戦えるようになって貰えれば……。  






「……っし、今回はここら辺で良いだろう。――ハヤテっ、行くぞ!!」

 

「うん、レイネちゃん!!」



 レイネの合図で、全員が一斉に今までとは違う動きを始める。

 椎名さんは大きく後退し、皇さんのほぼ真ん前まで下がった。

 

 逆にレイネと赤星が並走して前に出る。

 一瞬の内にモンスターへと迫っていた。



「リツヒ! 魔法は大丈夫っ、ボクらで行ける!! ――やぁぁぁ!!」



 ルオもほぼ同時に駆ける。

 皇さんが詠唱を破棄するかしないかくらいの内に、大鶏へと鋭い蹴りを入れていた。



 そして更に二人の挟撃が入る。

 赤星が分厚い羽の壁をナイフで何度も切り裂くと――



「しぃっ、らぁ!!」



 レイネは更にそれを上回る速度と技術で、首を文字通り落としに行った。



「コッ――」


 

 怒涛の攻撃になす術なく。

 悲鳴を上げる暇も与えられないまま、巨大な鶏は3人に仕留められたのだった。




「コッ、コケェェ……コケッ、コッ――」



 俺が相手する残りの1匹は、完全に勝敗が決したのを察したらしい。

 弱々しい声で鳴き、瞳から雫を出して、情へと訴えかけてくる。


 ……だが残念ながら、俺の心を動かすには程遠く。


 いや、お前、さっきまで俺に怒り心頭だったじゃん。

 敗北寸前になって、キモ怖い顔で泣き落とししようとしたって無理あるって。  

 

 それにさっき、物凄い耳キーンってなったし。

 あれで鼓膜が破れてたらどうすんの?


 誰かから大声上げられる度に、今日のこと思い出してビクッてなったらどうすんのさ?


 

 お前責任取れんの?

 なぁ、なぁ!!


  

「弱肉強食が世の(つね)なり、貴殿に恨みはないが、蹴り捨て御免!!――」 

     

「コケェェェッ!?」



 相手がそれっぽい感じで来たので、俺も何か侍っぽい感じで応じた。


 こうして今回の戦闘も無事、椎名さんの経験値とすることに成功したのだった。

 世は儚い……。

 


「新海様。今の蹴り、物凄い恨みつらみが混じってたように感じましたが……」 



 …………。

 

 あぁぁー、やっぱりちょっと耳の調子、変だなー聞こえないなー。



 さっ、椎名さん、慣れないことの連続で疲れたでしょう!

 しっかり休憩を取って、次に備えましょうね!!



 ジトーッとした視線には気付かないフリをして、休憩の準備に率先して取り掛かったのだった。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆  



「どうだ? 痛いか?」



 レイネが椎名さんの革ブーツを脱がせ、脚の様子を見ていた。

 触診していくが、椎名さんの表情が痛みに険しくなることも無い。

 


「いえ、大丈夫です。ちょっと疲労感はありますが、全然、問題ありません」



 先程見つけた広間へと一旦引き返し、休む時間を取っていた。


 椎名さんは戦闘だけでなく、ダンジョン内を歩き回りのも全くの初心者だ。

 意識的に休憩を多くとり、ストレスや疲れが溜まらないように配慮した。




「……っし。まあ見たところケガとかもなさそうだ。歩き辛いとか何か違和感が、とかはまあ、慣れだから」


「はい。ありがとうございます」



 レイネはそれ以外にも、ダンジョン内で気を付けるべきことを伝えて行く。

 ここに来るまでに何度も口にしていたが、実戦を経た上で改めて聞かされると、また違う気付きもあるだろう。



「リツヒは大丈夫? 疲れたりしてない?」


「はい! 私はまだ魔法を1回使用しただけなので――ほらっ、この通り、ダンスもバッチリ踊れちゃいます!」



 皇さんはその場で軽快にステップを踏んでみせる。

 ルオもそれを見て一転、一緒に楽しそうに休憩時間を過ごしていた。


  

「運動は元々あまり得意な方ではなかったんですが……ふふっ、探索士になってからか、ダンスを覚えるのも早くなった気がします」    


「あー、それはあるかも」

 


 赤星が聞いていたのか、同意するように離れた位置から頷いた。

 なるほど……やはり探索士になって単に戦闘が出来るようになるってこと以外にも、良い効果はあるようだ。

  


「ですよね! 私、ダンジョン探索を頑張れば、こうしてアイドル活動にもいい影響があるってわかってから、更に一生懸命に頑張れるようになりました!」


「うんうん。……おっ、それ、今度のライブの踊りだよね、律氷ちゃん。……ははっ、もう今直ぐにライブが始まって出たとしても大丈夫なくらいの完成度だね!」



 赤星にお墨付きを貰えたからか、皇さんはとても嬉しそうに笑った。



「これに、歌も合わさるんだよね! ボク、今から凄く楽しみ!」

 

 

 皇さんの踊りを見て、色々とライブの想像が膨らんだんだろう。

 ルオのウズウズした様子が伝わってくるようだ。


 

「はい! 私も、今から学園祭やライブがとても楽しみです! 準備も怠ってません! 今このまま出たとしても、十分皆さんに驚き、楽しんでもらえると思います!!」


「うん。私も……そうかな。柄じゃないかもしれないけれど、ワクワクしてる。今直ぐに始まっても、きっと皆に驚いてもらえるようなパフォーマンスを見せられる」



 当日の主役となるだろう皇さん、赤星の二人が、とても前向きに盛り上がっていた。

 ……うん、それは凄く良い事だと思います。


 思うんだけど……。



 ――今直ぐに始まったとしても、その痴女服(いしょう)では出ないで欲しい、かな~?

 

 ある意味違った驚きをもって迎えられることになるから、ね?  

 さっ、流石にそこん所は二人とも、分かってる、よね?

 

 今身に着けている、大精霊から贈られた装備もステージ衣装として使えないことはない。

 ……が、使ったが最後、多分当人たちよりも俺の方が、回復できないダメージを心に負うことになるだろう。



 幾ら何でもそこまでの常識観はまだ奪われてないだろうと信じ、俺は一人、後で桜田の常識観のケアもしておこうと決めたのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「お疲れさまでした。後はまた、今日と同じことをコツコツ繰り返して行きましょう」


「はい。お疲れ、様でした……」



 あの後2階層に降りて戦闘を4回挟み、今日のダンジョン探索は終わりにした。

 元から近くの月極駐車場に置いていたハイエースに乗り込み、ようやく人心地着く。


 黒の遮光カーテンを完全に締め切ると、椎名さんは大きく息を吐いて席にもたれかかる。



「フフッ、お疲れ様、椎名。戻るまで時間あるから、今はゆっくり休んで」


「はい、ありがとうございます、御嬢様……お言葉に甘えて……」

 

 

 本当に疲れたのだろう。

 普通では見せない程姿勢を崩して、休む態勢になった。



 椎名さんは戦闘で完全に無傷だったが、それが疲労と無関係だとは到底言えない。


 初めて生きたモンスターを相手に、何度も何度もダメージの無い攻撃を繰り返した。

 

 ダンジョン用のブーツだって、今回のことが無ければ履くことはなかったものだ。

  

 モンスターに接近するためそれでダッシュして、距離を取る時はバックステップを何度も踏んで。

  

 あるいは単にそのブーツでダンジョン内を歩き続け……。



「……椎名さん、脚、ちょっと見せてもらっても良いですか?」


「えっ? あっ、はぁぁ……どうぞ」



 同乗している赤星も、やはり気になったんだろう。

 姿勢はそのままでいいと気遣ってから、椎名さんの脚に手を持って行く。


 服はダンジョンに出る前にまた着替えていたので、ただの運動靴を脱がし、自分の膝上に乗せた。


 脚のマッサージをしようと言うことか。




「陸上部だったから、脚のケアも、結構自分達でやってたんだ。……どうですか、椎名さん? 痛かったら言ってくださいね」



 赤星は、素足になった足裏を、ゆっくり親指で押していく。

 時には力を入れ、時には優しく労わるように。



「あっ、ぁぁっ、んっっ――だ、大丈夫、です。とても、気持ちいい、です」



 …………。



「ははっ、それは良かったです。――こことか、どうです? やってもらったら気持ちいい場所なんですよ」


「いっ、あっ、んっ!――」



 えーっと……。

 ……俺、ここにいて良いんですかね?



「……その、帰りは送ってってもらうって話だったけど。レイネ、ルオ、俺達、電車で帰ろうか」



 何とも言えない居心地の悪さを感じ、俺がそう提案すると――



「? えっ、ああ……まあそれでも良いけど」


「……? ボクも、別にそれで良いよ?」



 二人はやはり分かっていないらしく、首を傾げて一応の同意だけを示してきた。



 全然察してない顔!!

 この場面だと、逆にラティアの“フフッ、お可愛い事”顔の方がむしろ頼もしい!!


 まだ自分以外に状況を把握してくれている人がいる分、まだ救いがある。



「あんっ、んっっ!! ――にっ、新海様、だ、大丈夫です、お、お送りしますからっ」


 

 椎名さん、義理堅さを見せてくれるのは今度で良いから、先ずはその漏れ出る声を抑え込みましょうよ!!


 ってか赤星もどんだけ独学の指圧マッサージ上手いんだよ!!

 あの椎名さんが、自分がどんな顔して、どんな声を発してるか分かってないくらいって!!


 赤星、お前は探索士やアイドルだけじゃなくて、怪しいマッサージ師になっても成功出来るぞ、俺が保証してやる!!



「あの、陽翔様? このままお送り出来ないとなると、椎名自身が気にします。……それとも私と一緒に車で帰るの……お嫌でしょうか?」



 いや皇さんも気付いて!!

 椎名さんは先にもっと気付かないといけないことがあるって!!   



 ……クッ、赤星め!

 善意100%で椎名さんの体を気遣ってのことだから強く言えねぇ!!  




「えと、全然嫌とかじゃなくて……あ、じゃあちょっと缶コーヒー飲みたくなったんで。ジュースとかも一緒に、直ぐ買って戻ってくるから!」

 

 

 俺は何とか言い訳を考え付く。

 そして周囲に人がいないことを確認してから扉を開け、車から飛び出た。



 ……よ、良かった。

 扉を閉めたら、椎名さんの色っぽい声は、外には漏れていない。


 


「……コーヒー、飲んでから戻ろう」



 出来るだけ時間をかけ、戻った頃にはマッサージが終わっていることを願い、俺はトボトボと歩き出したのだった。



夜に感想の返し、また再開できそうです。

まあそれでも少しずつになりますけども……。


以前の100件以上溜まってた時よりはまだ少ないはずなんで、コツコツと頑張って行きます……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 意識してないエロさだからこそ気になりますよね。 おっさんが湯槽に浸かったときの、ああぁぁ~。 とかなら全く気にならないんでしょうけどね。 [一言] にゃーん♪  ∧∧ (・∀・) c( …
[気になる点] >ジュースとかも一緒に、直ぐ買って戻っくるから! →ジュースとかも一緒に、直ぐ買って戻ってくるから! [一言] > さっ、椎名さん、慣れないことの連続で疲れたでしょう!  慣れないこと…
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