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343.お礼に、手を貸して……ブフッ。

お待たせしました。


更新時間がバラバラですいません。


ではどうぞ。



「――では必要な機材などは私が揃えます。広告収入の方も、条件を達成出来次第、私の方から手続は行っておきますので」


「はい、よろしくお願いします。――椎名さん、正直な所を聞いても良いですか?」



 話の締めに入り、一番肝心な所を思い切って聞いてみることにする。


 学校終わりに待ち合わせた個人経営のカフェ。 

 あまり広くはない店内の奥、1つしかないテーブル席で向かい合う。 


 椎名さんは普段はしていない眼鏡の位置を直し、首を小さく傾げる。



「何でしょう? ……セクハラな発言は止めてくださいね。新海様がいなくなったら御嬢様が悲しまれます」


 

 しねえよ。

 ってか仮にしたらしたで、俺は知らない間に社会から抹消されるのかよ。


 嫌だな怖いな何だろうなぁ……。

 この人と二人きりとか、本当胃が縮む。



「しませんから……。――ラティア達の“歌の動画”、大丈夫ですかね、色々と」



 それで趣旨が伝わったらしい。

 コーヒーを一口、上品に(すす)り、柔らかく微笑(ほほえ)む。



「送っていただいた動画はちゃんと拝見しました。投稿用はまた別の物をキチンと撮り直した方が良いでしょうが、“歌声”そのものは何の問題もないかと」



 それを聞いて安心する。

 


「良かった……空木の言ってたこと、疑ってたわけじゃないんですけど。流石に心配で」


「ああ……まあ空木様はいい加減な所はありますが、親しい関係の方を(ないがし)ろにはなさいません」



 それは……うん。


 空木が“ラティア達の顔伏せによる歌動画”の投稿を提案してくれた。

 勿論それが単なる適当な思い付きで、何となく言ってみただけではないとは分かってる。


 

 それでも、これからラティア達が積極的に社会に向けて、何かを発信していくかもしれない。

 そのことに尻込みしていたのは確かだ。



「どれほど注目が得られるか。それこそ、これだけで生計が立てられる程の人気になるかは、私にはわかりません」



 椎名さんは引き受ける以上は無責任にならない様にと、言葉を選んで、正直に言ってくれる。

 そこが椎名さんらしく、真摯に向き合ってくれている様に感じて、とても好感が持てた。 

 

 

「ですが、良いチャレンジだとは思います。私個人としても皆さんそれぞれの歌声、とても惹かれる物があると感じましたので」


 

 空木が提案してくれた趣旨は、ラティア達を顔出しNGの歌い手として、社会的に有名にしてみないか、ということだった。


 ロトワの歌しか聴いていない段階で、他皆にも歌の高いポテンシャルがあると感じてくれたようで。

 だからラティア達全員、動画投稿サイトに“歌っている所を乗せればバズる!”と思ったらしい。


 そしてそれが進むと、ひいては、公には動き辛いラティア達の社会的な活動範囲を広げる、その助けにもなるかもしれないというわけだ。



「ありがとうございます。……まああまり大きくは考えず、ラティア達の趣味の一つにでもなれば、くらいに最初は捉えておきます」


「フフッ、ええ。……っと、すいません、御嬢様から電話が――」



 椎名さんはスマホを取り出し、周囲を見る。

 他に客はおらず、60過ぎくらいのマスターさんも“どうぞ店内でお話しください”の優しい顔だ。


 

 椎名さんは俺とマスターさんに目で断りを入れ、電話に出る。

 通話口を抑え、スマホをピタッと耳にくっつける。


 

「……はい、はい。分かりました、赤星様、ルオ様、レイネ様と合流完了、ですね?」



 そこの部分だけは、俺に聞こえるくらいの大きさで口にする。

 この後俺と椎名さんも、ルオ達との用事があるからだ。



 報告も済み、話は切る流れに。

 だがその寸前で雲行きが怪しくなる。



「……えっ? 今いる場所、ですか? ……フフッ、大丈夫ですよ御嬢様。店員の方以外、他に人はいません。しっかり新海様と二人きりになれる場所へと来ていますから」



 ……椎名さんの口から“俺と二人きりになれる場所へ来た”なんて聞かされて、一瞬ドキッとした。

 だが何かが違う気はする。


 皇さんも多分俺と同じ気持ちになったんだろう。

 その言葉を聞く椎名さんがいきなり慌てだした。



「はい!? えっ、いや、御嬢様!? “伏兵”って何ですか!? 私は別に、新海様と密談をしていただけで――って赤星様! 御嬢様に今変なことを吹き込んでませんか!? “二人だけで密談は立派な伏兵”って聞こえましたよ!!」

 


 ……長くなりそうですかね?


 とりあえず話し合い自体は済んだので、マスターさんにアイスコーヒーのおかわりを頼んだのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「――あっ、ご主人! お疲れ様っ!!」


「うっす。ルオも、レイネもお疲れさん」



 会計を済ませ指定された待ち合わせ場所まで行くと、既に4人が揃っていた。

 レイネと赤星が保護者的な感じで控えている。



「御嬢様っ!! ですから、先程も電話で説明した通りで――」



 到着早々、椎名さんは土下座するくらいの勢いで皇さんへと近づいて行った。



「……椎名は油断も隙もありませんね。そんな伏兵椎名なんて知りません。今日は皆さんにビシバシ(しご)いてもらうと良いと思います」          


 だが椎名さんは冷たくあしらわれる。

 頬を膨らませた皇さんはプイとそっぽを向き、結局ルオの元へ逃げてしまった。



「うぅぅ……、違う、違うんです御嬢様……」



 ……まあしばらくすればいつも通りに戻るだろう。

 あまり気にしないことにした。






「でっ? 隊長さん、今日はあたし等はどうすればいいんだ?」

 


 集合した駅前から移動して、皇さんが案内してくれた近くの空き地に来た。

 そこに隠れる様にしてあったダンジョンの中へと進む。




「んーっと。まあ基本的にはいつも通りダンジョンを攻略してくって感じ。ただ――」



 レイネの質問に答えつつ、背後を歩くルオと椎名さんへと視線を移す。


 ルオが身振り手振りで、戦闘の際に気を付けるべきことを伝えている。

 椎名さんは全てを吸収して自分の物にしようと、真剣な様子で聴き入っていた。

 


「今日は椎名さんの戦闘をサポートするのが目的だから。レイネと赤星には、敵が1体になるように誘導して欲しい」


「申し訳ありません、椎名のためにお力をお借りすることになり……」

  


 皇さんは本当に申し訳なさそうに俺へと謝ってくる。

 別にいつもやっていることだし、戦うこと自体はなんてことない。


 ……ただ、その手にあのウンディーネ装備の着替えを持ちながら言われると、ねぇ?


 

「あんまり気にしない方が良いよ、律氷ちゃん。一応これは新海君達にとっても良い事なんだから。だよね?」


 

 赤星がそうフォローしてくれる。


 皇さんにあまり気負わせないようにという配慮だろう。

 こっそり俺にウィンクしてくれたので、やはりそう言う気遣いだと思う。


 ……ただ、その手にあのシルフ装備の痴女な着替えを持ちながらされると、ねぇ?



 この後着替えるにしても、もうちょっと恥じらいというか躊躇(ためら)いを持って欲しい。  

 ……もう二人はその脳内に、“これを着るのが当たり前”という認識が染みついてしまったと言うことだろうか。



 ……クソッ、色んな所で織部の影を感じる!!



「ああ、そうだな……」


 

 心ここに在らずな、何とも言い辛い気持ちで返事するのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「そうそう!! “ボクがシイナお姉さんの時”って、やっぱりそのステッキでの物理が基本だから!」



 ダンジョン内、レイネと俺で精霊による偵察を行う。

 そこから戻ってくると、ルオによる“ナツキ・シイナ講座”が開かれていた。



「は、はい、分かりました――こう、ですか?」



 ルオがひのきの棒を振ると、それを真似る様に、椎名さんもステッキをスイングする。

 椎名さんの持つ武器は、ルオが普段“ナツキ・シイナ”として振る舞う際に使っている物だ。


 要するに、今回のダンジョン探索の趣旨は、椎名さんの育成にあった。



「うぅぅ……やっぱり、ルオさんに任せっきりだった分、差が顕著(けんちょ)ですね」


「まあ、こればっかりは仕方ないよ。だからこそ、少しでもルオちゃんとの差が出ないよう、頑張るんだからさ」



 皇さんと赤星の会話を聞きながらも、視線は椎名さんに向けたままにする。


 今までは補助者としてダンジョン探索に随行する場合、能力で椎名さんになったルオに頼りっきりだった。 

 ただルオが毎回、絶対に代わってくれる保障はない。


 つまり、絶対参加しないといけないダンジョン探索があった時、もし椎名さん本人が行くことになったら、と俺達は懸念を覚えたのだ。


 周りからは“あれ? いつもはナツキ・シイナさん、もっと活躍してくれるのに、今日は物凄い弱い……”みたいに見られてしまう。

 そうした小さな綻びがきっかけでバレてしまうこともあるだろう。


 だから今の内に椎名さんも戦闘力を付けて、少しでも手を打っておこうというわけだ。



「シイナお姉さん、ダメだよ! 恥ずかしがっちゃ!! ステッキを振る時はもっとこう、“キラッ☆”みたいな感じで!」


「はっ、はい!! うぅぅぅ……――きっ、きらっ……」


 

 直接皇さん、そして志木から頼まれただけあって、ルオの指導も熱が入る。

 一方の椎名さんはやはり照れや恥じらいがかなり残っていた。

 ……まさか自分が“ナツキ・シイナ”に積極的に寄せる機会があるとは思わなかっただろうからな。



「……まあ今日直ぐにはダメージを与えられるレベルにはならないかもな……」 



 戦闘に関してはこの中で一番長けているレイネの評だ。

 やはり少しずつ、頑張って行くしかあるまい。



「いや、それでいい。むしろ今気付けて良かった。もっと後から始めたんじゃ手遅れってこともありえたからな」



 それにこうして教えるのは、俺達のためでもある。

 単純に椎名さんが強くなり、相対的に俺達の負担が減る、というだけでなく。



 俺個人としては、椎名さんの育成に付き合うのはお礼の意味もあった。


 先程の密談、つまりラティア達の歌の投稿の件。


 椎名さんがマネージメントに手を貸してくれる。

 そのお返しとして、俺達は椎名さん育成に手を貸すのだ。


 

「そう! そうだよお姉さん! シイナお姉さんは可愛い綺麗なメイドアイドル! そして華麗な魔法ステッキ使いなんだよ!!」


「わ、私は、可愛い、綺麗な、メイド、アイドル……! そして、華麗な……魔法ステッキ使い!」



 お、お返しとして、俺達は、椎名さんに手を貸して……。 

 ブフッ――

 

 

「…………あ゛ぁん?」


 

 笑ってない、笑ってないっすよ!!

 ちょっと心が息苦しくなって深呼吸しようとしただけです、はい!!



 ――この人“可愛い綺麗なメイドアイドル、華麗な魔法ステッキ使い”だけじゃないって! 

“怖くて恐ろしいガン飛ばし屋”もステータスに追加しよう、マジで!!

 


 

 そんな恐怖心を覚えながらも、椎名さん育成計画が始動したのだった。

うぅぅ……すいません。

感想の返しが、どんどん、どんどん溜まって行く(涙)

ちゃ、ちゃんと全部目は通してますので!

少しずつ、少しずつ返していきますのでもうしばらくお待ちを!!

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― 新着の感想 ―
[一言] この流れ…近いうちに作者は感想返しを諦めるね!
[一言] >「……えっ? 今いる場所、ですか? ……フフッ、大丈夫ですよ御嬢様。店員の方以外、他に人はいません。しっかり新海様と二人きりになれる場所へと来ていますから」  それ伏兵藩邸されるやーつ。 …
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