33.逆井育成計画、始動!!――但し、殆ど重要な役割はリヴィルが担う模様。
ふぅぅぅ。
ちょっと疲れが取れなかったのでゆっくりしてたらこの時間になりました。
申し訳ないです……。
では、どうぞ。
「リヴィル!!」
「リヴィルちゃん!!」
俺がリヴィルを伴って戻っていくと。
ラティアと逆井が、ゴミ箱の裏から駆け出して来るのが見えた。
共にリヴィルのことを強く心配したようで、直ぐに彼女に近寄っていく。
「ん、大丈夫。あいつらはちゃんと倒し――」
「――もう!!」
「――バカッ!!」
二人は、何かを言い終わる前にリヴィルを抱きしめた。
その際、ボフッボフッという音がする。
フカフカの布団にダイブを繰り返したみたいな、そんな音だった。
あるいはバイーンバイーンッでも可。
……うん、深い意味はないよ?
「リヴィル、心配しました! 強いとはわかってましたが、いきなりあれはナシです!」
「そうだよ! リヴィルちゃん、自分が美女・美少女だって、わかってる!? “ゴブリンオークに突っ込む”は心臓悪いって! マジで!」
リヴィルの頭をそれぞれの双丘に押し付けながらも、ラティアと逆井は次々に心配の言葉を捲し立てる。
「う、うん……ゴメン、わかった、わかったから、その、苦し――」
そんな二人に心配してもらえて、リヴィルの表情が少し変わったように見えた。
こんな自分を、心配してくれているなんて――みたいな感じで、気恥ずかしさを覚えながらも目を見開いている。
ともすると、自分には価値はあるのか、生きていていいのか。
そんな感じに考えてそうだからな、リヴィルは。
……いい機会だ、リヴィルも、心配してくれる人がいるってことを知っておいた方がいいだろう。
俺は割って入ることはせず、温かく見守ることにした。
……決して別意があったわけではない。
主人公っぽく柔らかな脂肪の膨らみに包まれて窒息してまえ、なんて思ってない。
うん。
「――いやぁぁぁ。びっくりしたな」
本当ならこの中で一番足が速いであろう赤星が、俺の元へとゆっくり歩み寄って来た。
言葉の通り驚いたような表情でリヴィルを視界に入れながらも、どこか恥ずかしそうに頭をかいている。
「私、“倒さなきゃ”みたいなこと言っといて、かなりビビっちゃってたから。リヴィルちゃんには助けてもらったね」
「……そう思うんなら、リヴィル本人に言ってやってくれ」
「うん、後で言うよ。今は二人に揉みくちゃにされてるからね。――ね、“マスター”さん?」
何を考えてるか分からないような笑みを浮かべながら。
赤星は、未だお小言と共に怪我の心配をされているリヴィルを見る。
何が言いたい、という視線を送ると、赤星は少し慌てて手を胸の前で振る。
「ああ、ごめんごめん! 揶揄ったりバカにするつもりはないんだよ? ええっと――」
そして赤星は、旅行用にしては小さめのリュックを漁り、何かを取り出した。
「――これ。見覚えない?」
赤星が掌に載せて見せたのは、おそらくこの地球で、俺が一番よく見たことのある物だった。
「私、一回リアと一緒にかなり危ない目に遭遇したことがあってね。で、その時、多分助けてくれた人がいて――」
赤星はしゃべり続ける。
その掌にある“薬草”を、俺に見せながら。
「リアがね、くれたんだ。その場にいた人全員に、複数枚。……どうやってリアはこれを集めたんだろうね?」
「何の話を、してるんだ?」
俺はかろうじて、そう答える。
「ハハッ、本当にね。私は独り言が多いから、気にしないで」
笑った赤星は何かを確信しているように、そう独り言を続けたのだった。
「……あの時助けてくれた人のおかげで、私はまた少ないながらも、陸上を楽しめる時間をもらえた。感謝してるんだ」
「…………」
「色々と言えないこと、あるんだろうけれど、協力するから。……私も、リアもね」
俺はそれに、どう返事すればいいか迷ったが、それを見越したのか――
「――はい、独り言、終わり!!」
赤星はパンッと音を鳴らすようにして手を叩いて見せる。
「じゃ、そういうことだから――おーい、まだやってるの?」
一人で勝手に言って、一人でリヴィル達の元に行ってしまう。
「……はぁぁ」
最近の女の子、皆勘が鋭すぎやしませんか……。
俺は溜息を吐きながら、彼女達の所へと遅れて近づいていったのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「え゛、逆井、付いて来る気なの?」
「え゛、むしろアタシを置いていく気だったの!?」
あの後。
これからどうするかの話し合いになった。
ダンジョン自体は放置できないという結論で一致し。
ただ赤星は今日、旅行で来ていたので探索士としての準備を一切してきておらず。
残って他の誰かが立ち入らないよう規制などできないか、動いてくれることに。
一方、俺とラティア、リヴィルは勿論3人でダンジョン攻略に向かうつもりだった。
そこで、冒頭の話に移るのだが。
「いや、お前も見たろう。今回のダンジョン、難易度が他のより高いんだぞ?」
ただでさえ、地球の人間ではランクGのダンジョンですらほぼ手が出ないのに。
今回のダンジョンは、ラティアの分類でいうとランクE。
つまり、複数階層が確実で、モンスターの質も上がる。
そして何より、Fランクダンジョンとの一番の変化は――
「それに……“ボス”がいることも、あり得る」
最奥部を守る、ダンジョンの守護者。
当然その強さは跳ね上がるだろう。
逆に言うと、先ほどのオークやゴブリンですら、唯のモンスター止まりなのだ。
そのことを説明すると――
「……それは、わかってる。いや、ゴメン、ちょっと嘘言った。実感としてはあんまし分かってないと思う」
逆井は、それでも、食い下がって自分の気持ちを訴えた。
「でもさ! 今回、私が新海に頼んで、来てもらって! それで、ラティアちゃんとリヴィルちゃんも来てくれて!!」
「…………」
「なのに、私だけ安全なところに残って、待ってるなんてさ、都合良い時だけ新海たちを頼ってるみたいで、何か嫌だ!」
何となく、言いたいことは分かった。
その気持ちも、嬉しいし、わからなくはない。
ただそれで逆井を危険に晒して守れなかったじゃ意味ないわけで……。
「……どう、かな?」
赤星も逆井を連れていってあげて欲しいという気持ちはありながらも。
俺が考えているように。
それで俺やラティア、リヴィルが危険な目にあったらそれもダメだと分かっているようで、控えめな表現にとどまっている。
「……二人は、どう思う?」
主に戦闘面で活躍してくれるのはラティアとリヴィルだろうということで。
俺は二人に意見を聞いてみた。
「えーっと……私はどちらかというと、前衛面を担うご主人様と、リヴィルが宜しいのであれば、問題ないかと」
つまり、ラティア的には逆井が増えて負担が重くなるのは恐らく前衛陣だと。
視線をリヴィルに向ける。
リヴィルは何でもないように頷いて見せた。
「うん、私は問題ないよ。多分このレベルのダンジョンで苦戦することはないと思う。だから後はマスター次第かな」
おおう……。
何と頼もしいセリフ。
「お、おおお……リヴィルちゃん、普通の男より男前だね。女の子が惚れちゃう感じの」
「……だな」
逆井の言葉に同意する。
しかもリヴィルの何が凄いって、クールに言ってのけるのに、それが嫌みに聞こえないことだ。
リヴィルがそれを言うと、なんかそれをスッと受け入れられる。
……本当に、何か主人公っぽいオーラというか、貫禄があるよな。
「で、どう? 新海……やっぱ、ダメ? 本当にダメなら、潔く諦めるから、それは遠慮なく言って」
「……ラティア、リヴィル、一つ確認したい」
俺は逆井に答える前に、二人へと一つ質問した。
「はい、何でしょう。ご主人様のご要望なら全てお応えします!!」
「うん、私にできることなら、何でも言って」
「…………」
ちょっと二人のやる気が凄いんだけど。
君らね、“全て”とか“何でも”なんて軽々しく言わないの。
そういうの聞くと、童貞ボッチは色々想像しちゃうんだから。
俺は悶々とする気持ちを抑えつつ、あることを尋ねた。
「――“モンスターを倒して強くなる”ってどういうことだろうか?」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「グルッ――」
目の前には、既に俺から攻撃を受けてダメージを負ったゴブリンが1体。
そしてそのシュッとしてて動きにキレもあるゴブリンに――
「――うわっ、えちょ、キモッ! ってかマジでないし!! 何で何も履いてないの!?」
――逆井が、乱打を決めていた。
そしてその逆井の攻撃は、見事にゴブリンにダメージを与えているのだ。
逆井は俺とは違って装備などはしていない。
単にあの探索士の制服を着て、それで殴る蹴るを、ただ、繰り返すだけ。
「ってか殴られてるのに鼻息荒過ぎ! キモッ!! マジこの制服のエロ方面、誰に機能してんだし!! ――このっ、やぁ!! せぇぃ!! せぇぁぁ!!」
ここまで来るまでに、相手のモンスターは例外なく逆井の外見全てに発情していた。
まあその怒りをせいぜいぶつけてくれ。
そして、それがしばらく続くと――
「うわぁぁ!! やった、やったよ!!」
ゴブリンが、崩れ落ちる。
逆井が倒したのだ。
「おめでとうございます、リア様」
「……良かったね」
「本当に、ありがとう!! いやマジでアタシがモンスター倒せるなんて思わなかった!」
祝福してくれるラティアとリヴィルを、逆井は嬉しそうに抱きしめた。
今俺たちは、ダンジョンの3階層目にまで来ていた。
そのメンバーには、逆井も入っている。
要するにパーティーメンバーは4名になったわけだ。
そして――
「やっぱり……レベリングで逆井もモンスターをちゃんと倒せるようになってんだな」
「うん!! これで、アタシも単なるお荷物にならずに済む!」
逆井が指しているのは、多分主にこれから挑むことになる4階層目のボス戦のことだろう。
だが、それだけにとどまらない効果が後々、戻ってからもあるのだが。
まあ今はいいだろう。
俺がラティアやリヴィルに質問したのは、モンスターを倒して強くなるって、結局どういうことを意味するのか、ということ。
それに対する回答は『モンスター達が有する魔力を、倒すことにより自らへと取り込むこと』。
勿論危険を乗り越えたことによる人間的成長みたいな話もあるが、本質はやはり“魔力”に行きつく。
魔力を取り込むことで、自己の体内の魔力の質・量を上げていく。
これはつまり、俺が本当に最初期にやった、薬草バク食いとも通じるところがある。
「でも凄いね。倒せるようになって改めて分かったけど、リヴィルちゃんと新海って、普通にモンスターと戦えてるし、ラティアちゃんは魔法使えるし……」
逆井に言われ、俺も改めて考えてみる。
この階層に来るまでに、戦闘の回数は10を超えた。
そして1回につき3体以上のゴブリンやオークが俺たちの道を阻んできたが。
「まあ、今回殆どやったのはリヴィルだけどな」
「ん、マスターが引きつけてくれてたから。不意を突いて一撃で仕留めるのはそんなに難しく無かったよ?」
リヴィルが言うように、基本戦術は俺が何とかしてモンスター達のヘイトをかき集め。
その隙を、リヴィルが一撃食らわしてどんどん数を減らしていく。
それで倒しきれなければ、ラティアが魔法で最後のお掃除だ。
そうすると、逆井の出番はなかったようにも思えるが――
「それでも、アタシがモンスター倒せるようになってるんだから、やっぱ効果はあったんだね!」
残り1体になったり、あるいは雑魚ばかりだった場合。
逆井にそのモンスター達に触れさせたり、もしくは弱くてもいいので攻撃させた。
そしてモンスターを倒したその近くに逆井がいたということで。
倒された後の魔力の取り込みに、逆井も与れたというわけだ。
それをこの3階層目に来るまで続けた結果、ようやく逆井も単独でもモンスターと戦闘することが可能となった。
急ごしらえではあるが、ボス戦に、4人で挑めることになったのだ。
今見た限りだとバックアッパーを主に担ってもらうことになるが、それでもいないよりは全然マシだ。
「――じゃあ、話した通り、無理はすんなよ? 基本は今まで通りだから」
4階層目へと続く下階段の前。
ここまでで合計1時間とちょっとで来れた。
それだけ今までの戦闘がリヴィルによる一方的な蹂躙となったことを意味する。
俺たちは十分に休憩をとって、最後の確認を済ませる。
「うん、アタシはラティアちゃんの詠唱のサポートをしながら、場合によってはアイテムを新海やリヴィルちゃんに届ける」
「はい、よろしくお願いしますね、リア様」
後衛の二人が互いに頷きあう。
「で、俺はタンカーと、場合によってはオールラウンダーへ移行すればいいんだな」
「そうだね。マスターに注目が集まった間に、私が数を減らすから。状況に応じて後ろに下がってくれてもいいよ」
大雑把に分けて前衛となる俺とリヴィルで、連携を確認する。
「――よし!! じゃあ、ボス戦と行きますか!!」
俺たちは程よい緊張感を保ちながら、4階層へと続く階段を下って行った。
次話、ボス戦になります。
一応申し上げておくと、逆井さんは臨時のパーティーメンバーです。
ゲームとかでもいる、常駐してくれるわけではない、偶にやってきて、そして抜けていくような感じですね。
登場人物の纏めは、あれ毎回貼るのもしんどいので5話か、7話に1回更新したのを貼りつけるということで良いでしょうか?
1話だけでは直ぐに登場人物が一気に増えるってこともないでしょうし。
それくらいの頻度が丁度いいかなと思うのですが……。
それはさておき。
ご評価いただいた方が知らぬ間に700名を超えました!
おおお……。
ブックマークも6600件を超えております。
堅実な歩みで進んでいるようで、作者としても嬉しい限りです。
継続的にご声援・ご愛読を頂き、ありがとうございます!
最近は合わせて誤字の指摘も頂けるので、書くことだけで力を使い切る私には大変ありがたいです。
今後も是非ご愛読、ご声援いただけたら幸いです!




