336.あれはダメっ、マズい奴!!
お待たせしました。
更新時間がバラバラですいません。
ではどうぞ。
「あっ、新海帰って来た! うぃっす~!!」
織部のメッセージを見た後、複雑な気持ちを抱えて帰還する。
お隣のシェアハウスの玄関を潜ると、既に逆井が到着していた。
「あぁぁ……うっす。来てくれたのか、助かる」
ちゃんと感謝は述べつつも、気のない感じになってしまう。
それを不審に思ったのか、逆井だけでなく白瀬達までもが表情を険しくした。
「えっ、どしたん新海、何か元気ないけど……」
お前の親友が、とはこの場では口が裂けても言えない……よな。
「……ねぇ、もしかして、ハー君。ダンジョン、特定できなかった、とか?」
っと。
やべっ、勘違いさせてしまったか。
「ああ、いや。確かに見つけたわけじゃないが、そっちはほぼ大丈夫だ。多分皆で行けば1時間とかからず見つかると思う」
そう告げると、多くがホッと胸を撫で下ろす。
……いや、別に白瀬の胸部が上下したことをディスったわけじゃないから。
俺は別に、白瀬の胸には偽りの希望が詰まってること以外知らないから、うん……。
「……えと、では陽翔様は何を心配なさってるんですか? とても険しいお顔をなさってますが……」
「……お兄さん、知刃矢ちゃんのこと?」
えーっと……。
確かに、桜田のこと、ではあるんだが。
でも、織部関連で心配している、って、言えないよな……。
何とか通じないだろうかと、来たばかりの逆井にアイコンタクトを送る。
「へっ? ……あっ――えっと、皆! 新海は多分さ、私達のこと、凄い心配してくれてるんじゃない?」
逆井が何かに気付いたと言う様に、焦り混じりにフォローし始める。
おっ、ナイスだ逆井!
織部関連、とは気づいてないっぽいが話を変えるのには十分だった。
「前まではラティアちゃん達、皆揃ってたじゃん? でも今回はチーちゃんのために新海ん家で待機っしょ? だから――」
「……私達が足手まといにならないか心配、ってこと?」
逆井の言葉を遮るように、白瀬がそんな極論みたいな要約をしてしまう。
――いや、俺、全くそんなこと思ってないから!
白瀬、お前何でそんな極端な話にすんの!?
「……まあ、私達が新海君達より力が無いのは、事実、よね」
逸見さんも、まるで俺がそのように考えていたという前提で白瀬の言葉を継いだ。
珍しく悔しそうな表情まで覗かせて、だ。
いや、だから!!
「……それでも、私達は頑張って付いて行きます! 陽翔様や梓様達の邪魔にはなりません!」
ウンディーネの装備で魔法を使える皇さんまでもが、この流れに乗ってしまう。
……あぁ、もう!
何で織部の影響力を心配していたら、こんな話になるのか。
もうここまで話が進むと、俺が゛そんなこと全く思ってませんでした”と言っても信じてもらえるかどうか……。
「ああ、えと、あの……」
一方で、ナイスフォローをしたと思っていた逆井は、何故こんなことに、とオロオロしていた。
そして泣きそうな目で俺を見てくる。
……いや、うん、逆井、お前は悪くない。
多分、ここにいる誰も悪くないのだ。
強いて言えば、この状況を作ってしまった俺と織部が悪いんだろう。
「その……足手まとい、とかは思ってないけど。今までのダンジョンとは毛色が違うから。そこは気を付けて」
「勿論!」
「ええ!」
「はい、頑張ります!」
白瀬を始め、気合いの籠った返事がなされる。
逆井のフォローを無駄にせぬよう、その話を前提に。
その上で、俺がそこまで過激な事を考えているわけではないとの更なるフォローまで入れることになった。
……織部め、全く手を下さずに、間接的な関与でここまで影響力を行使するとは。
無駄に疲れたが、気を取り直して俺達は出発するのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――おっ、ここだここ」
「……本当だ。案外早く見つかったね」
逆井の驚きの声に、心の中で同意する。
土の精霊が一番大きな反応を示したダンジョンに移動して約30分。
おそらくこれだろうという目的のダンジョンを見つけた。
それはまた赤星の時と同じくダンジョン内にあり。
しかし、ダンジョン間戦争を仕掛けてはいなかった。
「結局お兄さんの力に頼っちゃってますね……もうお兄さん一人でいいんでは?」
「いや、ダンジョンを見つけただけだから。戦闘だとヘイト集めするだけのサンドバッグだから」
空木の呆れたような視線と言葉を受け、流石にそこは言い返しておく。
転移して真っ先に始めたのは、精霊達への指揮だ。
特に土の精霊は関連属性のダンジョンだからか、発見を大いに手伝ってくれた。
梓達も手分けして近くを捜索してくれて、ありそうな場所の範囲を狭め。
そうしてここ、4階層ある内の2階層目、階段脇に目的のダンジョンを発見したのである。
……つまり、俺は特に言われる程働いていないのだ。
「……ハー君はまたそう言う事を言って」
「フフッ。ねっ、新海君ったら、酷い人」
白瀬と逸見さんが二人で通じ合ったようなことを言っている。
……いや、サンドバッグ役は紛れもない事実なんですけど。
それともあれか、俺はボッチの方がお似合いねっていう皮肉か。
……はいはい分かりましたよ。
これからはじゃあ“新海陽翔、ボッチが友達!”ってキャッチフレーズで行きますよ。
……ぐすん。
「あっ……。これは、ご主人勘違いモードだ」
「あぁぁ、これが、でありますか。“お館様あるあるパート5”でありますね!」
えっ、何それ。
そんなのあるの?
初耳なんだけど……。
ルオもロトワも、“俺のあるある”言いたいんなら言ってもいいよ!
ちなみに“ラティアのあるある”は“夕食の時、精力の付く食べ物とサキュバスエプロンでムラムラさせに来る~!”だ。
……あれは本当、夜眠れなくなるから何とかして欲しい。
「見つかったんだからさ、良いじゃん! さっ、いよいよ突入、行っちゃおう!」
「ですね。モンスターも手強いかもしれません、気を引き締めませんと……」
皇さんが、逆井の言葉に同意して穴の先を見つめる。
俺達も気を取り直して自分達の準備を始めた。
「……ん?」
全員の準備が済み次第、目的のダンジョンに入ろうかと言う時。
またまたDD――ダンジョンディスプレイにメッセージが届く。
……逆井達ではないだろう。
ってか逆井が持っているんなら、直接話せば良いだけだし。
『うぅぅ……泥を噴射するアリがうじゃうじゃで、ノームのダンジョン、早くも気が滅入りそうです』
……やはり織部からだった。
皆がそれぞれ自分の装備・防具の手入れをしている隙に、サッとDDの画面を見る。
あまりコソコソし過ぎるとかえって不自然だろう。
なので壁に背を預け、事務連絡でも確認する風を装って織部のメッセージに目を通した。
『大精霊が司る直属のダンジョンだけあって、1階層目からかなり手強いです。苦戦、というわけではないんですが……』
もう既に織部達も目的のダンジョンに到着し、ダンジョン攻略へと乗り出しているのか。
そしてメッセージはただ単に愚痴や弱音を吐くだけ、というわけではないらしい。
『……すいません、もしかしたら物資の転送をお願いするかもしれません。食料とか、回復アイテム類など。余分には持ってきているんですが、念のため、先にお伝えしておきますね』
……なるほどな。
いくら勇者の織部とは言え、そう簡単に突破できないのは流石“大精霊のダンジョン”というわけか。
さっきはメッセージだけでこちらを引っ掻き回したために、織部を軽く恨みもしたが。
やはり織部も織部で、苦労はしてるんだ。
それもこれも、異世界救済、ひいては地球のため。
改めて織部の頑張りに尊敬の念を抱き、全面的に協力する旨の文章を記して送った。
「――新海っ、皆準備OKだって!」
逆井がもしかしたら察してか、声を張って俺に伝えてくれる。
他の皆もそれぞれ、探索士の制服に着替えたり、あるいは専用の武器を構えていたり。
既に臨戦態勢を整えて穴の前に集合し、俺へと視線を向けていた。
「おう、分かった!」
不自然にならない程度にDDを仕舞い、俺もそちらへと向かう。
「……っし。じゃあ話した通り。隊列は一応組むけど、臨機応変に頼む」
最終の確認を行い、伝達忘れを防ぐ。
皆が頷いたのを見て、とうとう出発することに。
「じゃあ行こうか――」
桜田、それにラティアやリヴィル、レイネがいない、大精霊直轄のダンジョン攻略がスタートした。
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「ギチッ!!」
「っ!! ――泥だ!! 尻尾の部分から泥が出てくる、食らうと面倒だぞっ!!」
ダンジョンに入って、早速モンスターと出くわした。
しかもタイムリーで、相手は土気色をしたアント。
織部のメッセージを読んでいてピンときた俺は直ぐに叫ぶ。
「うわっ、マジじゃん! ってかキモッ、ヤバッ!! 何か色が――」
「ちょっ、逆井さん! それ以上は言っちゃダメ!!」
同じく前衛を務める逆井、白瀬も驚きながら対応する。
アリの腹部から更に後ろ、お尻の部分から吐き出された黄土色の泥。
俺の忠告を受けたからか、はたまた見た目で避けないとと咄嗟に判断したからなのか。
臭いはただの泥だが、見た目が完全に、その、アレなのだ。
アイドルはしないという俗説、あるだろ?
そのアレにソックリなのである。
……下痢の時の感じ、と言えば分かり易いだろうか。
「お兄さんっ!! 仮にもウチらトップアイドルですよ!? そのモンスター達、ウチらと相性悪すぎますって!!」
珍しく焦った声を出しながら、後衛から空木がどんどん矢を放つ。
その多くが命中して、ダメージこそ多くはないが、アリ達の前進を押しとどめる。
いや、全くだ。
ただの泥の噴出攻撃ならまだしも。
それを受けた後は完全に放送禁止の見た目となってしまう。
「ああ、もう!! あんなの、食らうくらいなら! 衣類の繊維だけ溶かす消化液! 頭から被った方が、百倍も、マシ!!」
ちょっ、白瀬、気持ちは分かるが、そう言う事は思っても口にするなって!!
お前、言霊って知ってる!?
そう言うの引き寄せちゃうんだから、現実化すんぞ!!
「んのっ、らぁっ、せぁ!!」
仕方なしに拳で殴りつけながらも、5体の蟻のヘイトを全て、自分へと集める。
流石に女性陣にあれを被らせるのはマズい。
そうしてアント自身、更にその尻の部分が俺だけを向いた隙に――
「はぁっ!!」
「たぁぁっ!!」
ロトワとルオが横を駆ける。
……正確には、ロトワ、そして竜人の少女を再現したルオだ。
友人で、魔王でもある少女へと姿を変えたルオは、その小柄さに似合わない圧倒的な火力でアリの横っ腹を殴りつける。
「はっ、せぁっ!!」
グシャリと、紙が潰れるような音がする。
「せぃっ、やぁ!!」
ロトワも負けていない。
金色――つまりキンキンを刀へと変化させ、アリの頭部だけを狙う。
そして見事に切り落としていった。
「っし! ナイスだ! ――って梓、お前は蹴るなよ!? 良いか、これはフリじゃねえからな!! 絶対だぞ!!」
「? ……うん、わかった。大人しくしておく」
梓の攻撃手段、強力なブーツを履いての蹴り。
これであの泥が溜まった腹部を蹴ってみろ、瞬く間に破裂するだろう。
それが梓に飛び散ったり、あるいは前衛陣にかかったり……。
そうしたことを恐れて、この戦闘に限ってはよっぽどのピンチにでもならない限りは梓を動かさないことにしていた。
ヘイトは完全に俺へと向いている。
だが一方でルオとロトワが、自分達の生存を今にも脅かそうとしている。
その板挟みにあって、アリ達はどう行動すればいいか分からずフリーズ状態に。
「――今ッ!!」
そこに、逸見さんの鞭が飛ぶ。
残ったアントの一体に絡みつき、更に行動を制限する。
「ありがとう六花さん!! ――しらすん!!」
「えぇ!! ――はぁぁっ!!」
動き回っていた逆井と白瀬が動いた。
完全に動きを止めたアリを、槍で串刺す。
そして合わせる様に駆動音を響かせ、防御の薄い首をチェーンソーで切り裂いた。
「ラストッ――」
後1体。
ルオとロトワがとどめを刺す前に、皇さんの詠唱が完成していた。
「――【アクア・ブレス】!!」
それは、俺達が仲間にしたシードラゴン――シーさんと同じ技だった。
皇さんの杖の先、宝石の部分が青く光る。
そこに水が次々と生まれては集まって行く。
そして一つの大きな水塊となり、発射された。
水は轟音を響かせ、目にも止まらぬ速さで最後のアントへと直撃。
「ギチッ――」
瞬間、爆発。
耳が痛くなる程の音を鳴らし、アリを後方へと吹き飛ばしながら、その全身をバラバラにしたのだった。
「ふぅぅ……」
戦闘が終わって、ダメージはないはずなのにまた変な気疲れがあるのを感じる。
今回は逆に織部のメッセージのおかげで最悪の事態を免れた。
それでも何だか振り回されているような気がしないでもない。
……まあ、今回は完全にこのアリ達が、メンタル疲労の原因なんだけどな。
まだダンジョンに入ったばかり。
だがこの先も同じモンスターとの遭遇がありうるわけで……。
早くもダンジョン攻略に対して疲労感を覚え始めたのだった。
少しずつペースも戻って来たので、感想返しも今日からまた始めようと思います。
前回程は溜め込んでないと思いますので、そう時間はかからないはず!
もう直ぐですので、今しばらくお待ちください!




