330.学校へ行こう!!
お待たせしました。
更新時間がバラバラですいません。
ここから7章スタートですね。
ではどうぞ。
「んじゃ、行ってくる」
「はい、ご主人様。行ってらっしゃいませ」
登校日。
久しぶりにまた、制服の袖に腕を通すことになる。
靴を履き、外に出て、あの通い慣れた道を歩くのだ。
“あぁーまた学校が始まるのか……”と感じるこの瞬間がたまらない。
うん――
――たまらなく嫌になるね!!
嫌だ嫌だぁぁ、行きたくないよぉぉぉ!!
「……行ってくる」
「えっと、はい、行ってらっしゃいませ」
ラティアは、玄関まで来て見送りをしてくれていた。
だが中々出て行こうとしない俺を、不思議に思っているようだ。
……クッ、俺も早く行きたいけど、足が地に張り付いて!!
あぁぁぁ……登校日、俺の勘違いで1週間先だったとかないかな?
「…………行って、来るっ!」
「あの、えっと……」
「いや隊長さん、どんだけ学校行くの嫌なんだよ」
レイネが痺れを切らしたかのように、リビングから顔を出す。
ジト目で俺に“さっさと行ったら?”と言う表情をしていた。
うぅぅ、俺みたいなボッチには登校日って辛いんだよ、毎回毎回。
それは最終学年となっても変わらない。
……でも、そうだよな。
レイネやラティアを見て、改めて自分が学校に通えるだけでも恵まれていると感じる。
ラティア達は特に気にせず、インターネットやテレビを駆使して勝手に学習していた。
だが学校で学べることはそれだけじゃないと思う。
……あまりダラダラせず、行くか。
「ふぅぅ……今度こそ行ってくるわ。留守、頼むな」
「おう。隊長さん、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいませ」
改めて送り出され、俺は家を出た。
「さて……帰りは何かデザートでも買って帰るか」
ルオやロトワが起きるのは、俺が学校に着いた頃になるだろう。
夏休みの遊び疲れが残っているのか、リヴィルも珍しく、眠そうに朝食の味噌汁を温めなおしていた。
皆が皆、俺の生活リズムに合わせるのも大変だろう。
その申し訳なさもあるため、既に帰りのことを算段し始めたのだった。
「ま、まあ今日は全校集会とかだけだし。授業はないはずだし。だ、大丈夫…………ん?」
自分で自分にブツブツと言い聞かせていると、メールが来たことに気付く。
こんな朝に、誰だろう。
「……うぇっ! ……何で志木?」
『今日はよろしくね? その、陽翔さんの所に行くから』
……どういう事?
先ず“今日はよろしくね?”って何だ?
俺の所に来る……え、家に来るってこと?
そんな約束してたっけか……。
……ってそこじゃなくて!!
“陽翔さん”!?
えっ、何があったし!?
何度か、極稀にそう呼ばれた記憶がないわけではない。
が、改めて本人に確認することでもないので、俺の幻聴か何かだと勝手に思ってた。
しかし、こうして証拠に残る形で呼ばれるとなると、逆に心配になる。
うーん……。
①異世界転生した奴が志木の魂に割り込んできた説
②志木が白でも黒でもない、第3のかおりんを生み出した説
③実は志木は元々俺のことが好きで、ついうっかり心の中で呼んでいた呼び方が出てしまった説
④……何かの罰ゲーム説
さーて、正解は一体どれでしょう!
「……③はないな、うん、即消去」
先生のことをお母さんって呼んじゃう奴かよ。
ダンジョンやラティア達の存在がある以上、①を即座に否定することはできない。
ただ可能性としては限りなく低いだろう。
「うーむ……②か④、とすると……②かな?」
志木は最近忙しさに更に拍車がかかってるからな。
多忙からくるストレスのあまり、俺を“ねぇ”とか“ちょっと”とか“貴方”以外で呼んでしまうとは……。
……ちょっと体調が心配だ。
「えっと……“うっす、了解。……ところで、最近どうだ? 色々と忙しそうにしてるようだが。元気にやってるか?”っと」
送信した後に思ったが、何だかこれだと、しばらくやり取りの無かった親子みたいな感じだな。
俺は不器用な父親かよ。
学校に着くまでに、返信が来ることはなかった。
どうやら送った後、普通に仕事があったらしい。
それか、見てないかのどっちかだ。
まあどっちにしても忙しいって事だろう。
決して“陽翔さん”とメールで言われたことに一喜一憂してはならない。
志木にも疲れで自棄になったり、よくわからない行動をしてしまう日もあるだろうしな。
家に来るのかどうかも良く分からなかったものの、今日は来るものと思っていることにした。
そんなことを考えながら足を動かし続け、久しぶりの学校へと辿り着いたのだった。
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「おいっす~! お前焼けたな!!」
「へへん! お前こそ、夏の間に彼女、出来たんだって? このこの!」
「俺はずっと夏期講習だったけど……そこのバイトの女子大生の人、凄い綺麗でさ!!」
教室へと入ると、クラスメイト達が各々いつものグループで集まっていた。
夏の間の成果を誇ったり、旅行のことなど土産話で盛り上がっている。
えっ、俺ですか?
……机に一直線で向かいますが何か?
「っしょっと……」
鞄を置き、耳にイヤホンをねじ込む。
そうして腕と鞄を枕に、机に突っ伏した。
これで完全武装の完了だ。
リア充どもの夏休み満喫自慢を耳に入れなくて済むぜ。
そうしてしばらく、自分の好きな曲だけを詰めたプレイリストを流していた。
……おっ、次はこの曲か。
ランダム再生っていいよな、聴き慣れた曲でもなんか曲順が違うだけで新鮮に感じる。
このバンドの歌、本当に背中押してくれる感が凄すぎるぜ。
こうしてリア充圧力に屈せず、一人道を突き進む俺を、まるで応援してくれているかの様で。
ほう……次はこのゲーソンですか。
いいよね、これ、元ネタはエロゲーの主題歌らしいけど、普通にいい曲。
好きな人を想う乙女の、一途な気持ちが歌詞に詰まってる。
それとマッチしてるこのボーカルの歌声もまた最高だ。
アップテンポで駆け抜ける様に歌い上げていて、聴いた後もハイテンションになれる。
まるでこうして一人、カッコよくクールに寝たフリをする俺に、可愛い美少女が密かに、どうしようもなく暴れ出す程の恋心を歌ったかの様で――
「…………?」
肩を叩かれたような感じを覚える。
おっ、これはラブコメフラグですかな?
何だよ、こっちは眠いのに……感を出しながら起き上がる。
同時にイヤホンを外し、その可愛らしい相手の正体を確認――
「……おう、新海。全校集会、遅れるぞー。それと、その音楽プレイヤー、没収な」
……素敵な素敵な、担任の先生でした。
そして周りには既に、クラスメイトの姿は一つもなく。
……ぼ、孤高は群れない主義だから、うん、仕方ないな、あはは。
「……すみません、誰にも相手にされず、置いて行かれるような可哀そうな生徒なんです。音楽だけしか心を慰めてくれる相手がいなくて……」
「お前……もう最終学年の後期に入るのに。クラスどころか、学校に馴染んでる感0だな」
いじめを疑われたものの、同情を引き出し、音楽プレイヤー没収は避けられました。
集合場所の体育館へとやってきて、全校集会に出席する。
最初は校長先生の有難く長ーいお言葉から始まり。
次に休み中、部活動や課外活動で成果を挙げた生徒の表彰。
それが終わり、連絡事項を告げられ……。
「ああ、なるほど……そういうことだったか」
その後、学校も全面協力の元行われたサプライズイベントで、朝のメールの内容をようやく理解した。
『――みなさーん、おはようございます! ただいま梨愛さんから紹介に与りました、“シーク・ラブ”のメンバー、志木花織です!!』
『皆っ!! 夏休み、かおりん所の夏祭りに行ったからさ、かおりんもウチの学校に来てくれたんだよ! どうだ、凄いでしょう!!』
周りは地響きが起こらんばかりの盛り上がりぶりだった。
志木が、ウチの学校に来たのだった。
誰しもが経験すること、ですよね!
長期休み明けの登校日の絶望感……。
……えっ、ウキウキ気分で学校に通ってたリア充さんなんて、そんなの空想上の生き物ですよね?(純粋な目)




