32.リヴィル無双――リヴィルが異世界来て、なんやかんやありながらも結局は奴隷無双目指します!!
最近夜に書いてるからか、誤字が結構多いらしいです。
ご指摘、本当にありがとうございます。
どうしても見逃してしまう部分が出てくるので、助かります。
「まあダンジョン同士の水面下での縄張り争いとか、ダンジョン内のモンスターが相手のダンジョンに侵入したりとか――」
リヴィルは“ダンジョン間抗争”がどういう場合に起こるかを挙げていった。
「色々あるけど……で、どうする?」
そして、目の前のオークとゴブリンらを顎で指す。
恐る恐るコンクリートの地面を踏んで確かめ、一歩を踏み出したところだった。
「一度でも捕食の味を占めたダンジョンは、どんどん他のダンジョンを食べようと動くよ?」
「え? それって……」
リヴィルの言葉を聞き、逆井がまさか、という顔をして俺を見た。
俺はそれを視界の端でとらえながらも、目の前を注視し続ける。
「……あの“アーマーアント”の氾濫の件と変わらん。飼ってるモンスターが、外に積極的に出てくるってことだ」
一度聞いていたリヴィルの説明を、俺なりにかみ砕き、特に逆井と赤星に聞かせる。
「あいつらの主観からしたら、ダンジョンを求めて外に出てるんだろうが……」
コンクリートを踏みしめ、感触を確かめたオークが、今度は拳を作った。
「……出歩かれる俺たち人間側からしたら、溢れたのか、それともダンジョンを求めて外に出てきたのか――」
――オークは、それを、軽く地面へと叩きつける。
「――その違いなんて、意味は無いだろう」
ガリッ、と鈍い音がこちらまで届いてきた。
オークの手首が地面の下にまで隠れている。
……離れてる俺たちから見ていても分かるくらい、オークの振り下ろした拳は地中へとめり込んでいたのだ。
「――倒すしか、ないかな」
それは、赤星から出た声だった。
「“どうするか”って答え――倒すしか、ないんじゃない?」
そう言葉にするものの、当の赤星自身は体を震わせていた。
「だって放っといたら、またあの時みたいな混乱が起きるかもしれないんでしょう?」
そうか……赤星も、逆井や志木、皇さんと同じで、あのアーマーアントの氾濫の現場にいたのか。
「それは……そうだけど」
逆井も何とかしなければということは分かっていながらも。
それでもその先の言葉が出てこない。
今目の前で自らの脅威を示して見せたオークが、ゴブリンが。
その先の言葉を言わせないのだ。
アーマーアントでさえ、全然歯が立たなかった。
あのオーク達はなおさら、自分ではどうすることもできない。
そんなことを、逆井は思っているんだろう。
「…………」
俺もどう言葉を掛けるべきか、迷う。
俺自身、あれに脅威を抱いているが、決して立ち向かう意思を抱けないという程ではない。
じゃあすぐさまあれをどうにかできるほど強いかと言われれば、流石にそこまで自惚れては無いが。
なのでこの先、主に逆井達がどうすべきかについて頭を回していると――
「――あいつらがどれくらいの強さなのかが、分かればいいんだよね?」
――何の前触れもなく、リヴィルがスッと立ち上がってそう言った。
皆一瞬、時間が止まったように、硬直する。
「え? ――おっ、おいリヴィル!!」
一番早くに立ち直った俺が何とかそれだけ言葉にするも――
「大丈夫。直ぐ終わるから、マスターたちは見てて――」
気負うでもなく、あっさりとそう言ってのけたのだ。
何の障害もこの先にはないというように、颯爽と歩いていく。
「ビ!? ビッ、ビフィィ!!」
「ギィ! ギィ!」
オークとゴブリンが、リヴィルの存在に気づく。
突然目の前に現れ、近づいてくるリヴィルに対し、一瞬警戒するも。
そのリヴィルの、女性として普通とは隔絶した容姿を見て。
途端に興奮し出した。
この離れた位置からでも、性的な視線をリヴィルに向けていることが、その呼吸の荒さから分かった。
「……あんましマスターたちを待たせたくないから。来るならさっさと来なよ」
その声は、あまりにも普通で、無機質で、感情が無くて。
自分がモンスターに。
しかも特に繁殖力の強そうなオークやゴブリンに性的な獲物と見られているということに、あまりに無頓着だった。
あまりに無関心だった。
俺はそんな態度や、あまりに頼もしそうなリヴィルの背中に一瞬呆然としながらも。
ハッとして、念のためにその止まっていた足を動かし、リヴィルの加勢に向かうことにした。
「オラッ! この変態どもっ! そのポジションは俺のもんだっ、腰に布くらい巻きやがれ!!」
意味なんて考えず。
兎に角あいつらの注意をこちらに引きつけることを目的で声を上げた。
だが――
「ブッ――ブッビヒィィ!!」
一瞬俺を向いたオークは、しかし。
あのコンクリートを容易く砕いた拳を振り上げ、リヴィルへと振り下ろす動作に入ってしまった。
チッ!!
やっぱり相手の格が上がったからか!?
一瞬だけでは【敵意喚起】でヘイトを集めきれない!!
オークが今、その拳を、リヴィルに叩きつける――
「――へぇ。一瞬よそ見するなんて、余裕あるんだね」
――バシィィィッ。
まるで剛速球をミットで綺麗に受け止めたような、そんな音が響いた。
「ビッ、ビヒィ――」
「――まあ関係ないけど」
――グシャッ
握り、潰した。
何を?
――リヴィルが受け止めた、オークの手を。
明らかに大きさが釣り合っていないにもかかわらず、だ。
よくよく目を凝らすと、リヴィルの手に、薄っすらと靄のようなものが纏われていた。
一瞬またあの“呪い”か、何て勘繰ったが、そうではなく。
その靄は半透明ながらも色を帯びている。
そしてその色は瞬く間にあらゆる色へと変色していき、定まった色を持たなかった。
――あれが、“導力”なのか。
「ビヒィィ――」
手を握りつぶされた痛みに、堪らずオークが悲鳴を上げようとする。
しかし、その声が全て形成されることなかった。
「――もう沈んでもいいよ」
また両の足先にあの何色にもなる半透明の靄を纏ったリヴィルが。
軽く、跳ねた。
そして、無防備なオークのこめかみ辺りに、斜め上から純粋な蹴りを入れる。
オークは、顔面から真っすぐに地面へと引っ張られるようにして叩きつけられた。
まるで顔にだけ強力な磁石でも張られていたかのように。
その蹴りを入れられた部分はリヴィルの足型に凹み、また地面に叩きつけられた部分もその衝撃でグシャグシャになった。
「ギッ、ギィ――」
その様を、一番間近で見ていたゴブリンは、固まる。
この一瞬で、一体何が起こったのか、なぜこれほどまで体格の差があって、オークがやられているのか。
それらの情報が一度に洪水の如く流れ込んできて、処理しきれず、フリーズしたのだ。
「私を性的に見ていいのは、マスターだけだから――」
その隙を、リヴィルが逃すはずがなかった。
というか、隙など無くても、あのゴブリンがリヴィルから逃れられはしなかったのだ。
リヴィルはスラッとしたその長い脚を、片方、体操選手かと思う程綺麗に真上へと上げる。
そしてその踵に、“導力”を纏わせた。
後は、ただ、振り下ろすのみ。
恰もゴブリンの首を刈る、ギロチンのように。
「ん――」
何の力みもなく、放たれたリヴィルの踵落としは、見事にゴブリンの首を、頭を、一撃で跳ねた。
まるで首の部分だけが最初からなかったかのように、頭部と胴体は綺麗に別れることとなる。
「…………」
あまりの一方的な展開に、頭がしばらくついてこなかった。
“導士”って……リヴィルって。
――えっ、こんなに強いの!?
戦闘が始まる前、お前らあれほど強者感出してたじゃん!
俺『……今までとは一線を画す相手だな、こりゃ』とか深刻そうな面して言っちゃったよ!?
ダサッ!
俺ダサッ!!
何で俺はこう三下臭するセリフしか言えないんだ!
あ、いや、でもまだリヴィルが単に強すぎただけって線もある!
もし俺が戦闘してたら、オークやゴブリンに苦戦してたかも――
「――マスター」
って、そんなことを考えていると、ポケットに手を入れて戻ってきたリヴィルが目の前にいた。
ぐぬぬ……。
何が悔しいって、普通にその姿がカッコ良くて様になっているのだ。
これ……もう俺いらなくない?
もし俺を主人公としたラノベ物語が書かれるんなら。
もうここで主人公交代だぜ?
これ、普通に俺がフェードアウトしてもリヴィル主人公で全然いけちゃう。
それでラティアと二人三脚で頑張ってこの世界で生きていく――うん、俺いらないな。
ボッチでコミュ力もメンタルも雑魚仕様な根暗男子が主人公よりも。
むしろリヴィルみたいにカッコいいクールな美少女が主人公の方が、昨今の出版業界ではウケが――
「――マスター? 聞いてる?」
うぉっと!!
「お、おう。聞いてる聞いてる」
主人公交代説が俺の中で効き過ぎて、1週間へこむくらいには効いてる。
「で、どうだった?」
そう尋ねて来たリヴィルは。
戦闘前と特段変わった様子は無いように見えたが。
「……」
真っすぐ俺を見上げてくるその顔は、何かを期待しているようにも、見えて……。
「――ああ、最初は一人で向かってくからビックリしたけど、普通に凄かったぞ」
純粋に思ったことを、口にした。
ほんと、普通に強かったし。
だってあれ、なんか必殺技を使ったわけでも、特別な戦闘技術を用いたわけでもなく。
“導力”を使った単純な物理攻撃だけだろう?
多分リヴィルだったら、俺が今まで倒してきたモンスターなんて、一捻りだろう。
「……そう」
小さくリヴィルは呟き、そして。
「マスターの役に、少しでも立てたのなら、良かった」
そう続けて俺に言った。
…………。
本当、最初こそ何をしでかすんだろうと驚かされたが。
この子は、純粋に。
口数が少なくて、他人に自分の気持ちを上手く伝えられなくて、不器用なんだろう。
それを理解して改めて思い出す。
リヴィルは、まだ生まれて2年しか経っていないんだ。
体こそ、俺たち同年代とそれほど変わらないが。
でも、多分、精神的な面ではまだまだ成長途中。
そりゃそうだ。
成長していけるような環境に、いなかったんだから。
「――そっか、お疲れさん」
俺は、リヴィルを労わるように、頭を撫でた。
「ん……くすぐったい」
「何を~!? グヘヘ、もっとくすぐったくしてやろうか!!」
「いや、マスター、そのキャラ意味わかんないから」
「うっわ……辛辣。ツッコミがクールすぎる。――ラティアァァ、リヴィルに虐められた……」
そうして何でもないような会話をし、俺はリヴィルを伴って逆井達の元へと戻っていった。
前々から言っていた、簡単な登場人物の纏めです。
本当に簡単なものですので、予めご了承ください。
別に1話分として設けるには、字数が圧倒的に少ないので、後書きに置くことにしました。
※ここに書く目安としては、一応①フルネームが既に出ていて②個人としてセリフがあった
キャラを対象としています。
【学生関連】
新海陽翔:主人公。高2のボッチ。座右の銘は“人気者には理由があるが、ボッチになるには理由はいらない”。背はやや高め。
織部柑奈:異世界に勇者として召喚される。主人公とは協力関係にある。しばしば自己の恥ずかしい場面を主人公に目撃されており、最近悩み中。
逆井梨愛:織部柑奈と親友関係。未だ見つからない彼女の無事を信じて日常を送る。ただ探索士になったり、アイドルになることが決まったりと目まぐるしい日々を送っており、思い悩む暇も中々ない。
志木花織:月園女学院の高等課程2年。北欧系の祖母を持つクォーターで生徒会長も務めており絶大な人気を誇る。ただ主人公には腹黒い一面も既に知られている。逆井や皇と同じくダンジョン探索士且つアイドル。
皇律氷:志木の後輩にあたる中等課程2年。志木のことを“御姉様”と呼び慕っている。主人公に助けられて、その際の行動を見て、初めて抱く想いが芽生えた。
赤星颯:私立高校の2年。幾つかのスポーツ推薦も来ていた程、短距離走の選手として注目されている。ただ、ダンジョン関連で忙しくなるので、この夏で引退した。かなりサバサバした性格をしている。
【奴隷関連】
ラティア:主人公の初めての奴隷でサキュバス。当初こそ過去のことがあって痩せ細っていたが、今では体力を戻し、女性として非常に魅力的な容姿に育っている。家事全般を最近はこなす。中でも洗濯は譲れない模様。主人公の衣類は必ずラティアが一緒に洗濯をする。
リヴィル:二人目の奴隷。異世界のある国で、過去の英傑の遺物の欠片を元に作り出されたホムンクルス。ラティアとは別ベクトルの美しさ・魅力に溢れている。“勇者”と対比される“導士”というジョブを保有。感情表現に乏しいが、根は優しく思いやりある少女。




