閑話⑥.探索士でアイドルな少女達の一日……。 その2
お待たせしました。
連続で更新することが出来たので、やっぱり閑話を続けることにしました。
ではどうぞ。
~アイドル探索士達の何でもないありふれた日常の一部 パート2~
【グループ名:かおりんと素敵な仲間たち※椎名さんもいるよ!!】
〔白き妖精?律氷:はぁぁ……ショックです〕
元々小柄な律氷が更にミニサイズになって、溜息を吐くスタンプが押される。
普段静かながら笑顔でいることが多い彼女にしては珍しく、こんな姿を見せるのだ。
その落ち込み様は深いらしい。
〔貴方だけの花織:律氷、どうかしたの? ――今日、確か彼の家に行くって聞いてたけど……彼と、何かあった?〕
最初の呟きから殆ど時を置かずして、志木の呟きがなされた。
これまた可愛らしいスタンプもセットでだ。
小さな志木が掌を上下させて、“いたいのいたいのとんでけー!”と口にしている。
この“かおりん癒しスタンプ”は多くの利用者を得て、幸い第3弾の企画が進行中だ。
〔白き妖精?律氷:あっ、御姉様! いえ、違うんです。陽翔様は悪くなくて。……出た数に沿ってマス目に書かれた人生を歩んでいくボードゲームをしていたんですが……〕
律氷が言うには、青年も合わせて6人でゲームをしていたらしい。
①皇律氷
②青年
③ルオ
④空木美桜
⑤白瀬飛鳥
⑥夏生椎名
以上が参加者だった。
ゲームの話になり、律氷の口が重くなる。
志木は画面奥、現実でお茶会をしていたが辛抱強く待った。
そこに――
〔お芋教教祖!美桜:まああれは酷かったね~。お兄さんの運も酷いけど、何より椎名さんが酷かった〕
芋版を持った空木のスタンプが押される。
そのスタンプ絵のミニ空木自身も、“お芋を食べれば全てが救われる”と書かれたお芋スタンプを押していた。
……ちなみに実売の方もかなり好評で、空木は入ってくるお金の大半を親孝行ならぬ祖母孝行に使っている。
〔貴方だけの花織:……ゲームの中身がそんなに酷かったの?〕
〔お芋教教祖!美桜:うん……先ず律氷ちゃん、飛鳥ちゃん、それにルオちゃんの3人が必死にお兄さんとの結婚を狙ってたんだけど……〕
今度は芋を両手に持って“やれやれ……”としているスタンプだ。
……空木は無料・有料どちらのスタンプにも殆ど芋と一緒に映っていた。
お芋教教祖の名は伊達ではない。
〔白き妖精?律氷:い、いえ!! 私は、別に陽翔様との結婚なんて、狙ってたわけじゃないですよ? ただどうせ疑似的にせよ体験するなら異性である陽翔様になるかな、と〕
〔貴方だけの花織:…………〕
〔お芋教教祖!美桜:…………〕
二人してジトーっとしたジト目スタンプが押された。
だが話が進まないと空木が続きを書いていく。
〔お芋教教祖!美桜:まあそれは良いとして……で、お兄さんもお兄さんで。飛鳥ちゃんが必死にツンデレってアピールしてたのに、普通に“独身コース”に行っちゃったんだよねー……〕
〔貴方だけの花織:“独身コース”? ……ああ、分かった、今ラティアさんに聞きました。要は彼、普通に一人で突っ走って行ったってこと?〕
志木は今、ラティアと逸見六花と3人でお茶会に興じていた。
とても忙しい志木を労うという意味で、逸見がラティアを誘って空き時間に3人で女子会にとなったのだ。
なので、家で同じボードゲームを遊んだ経験のあるラティアに状況を話し、簡単な説明を受けたのである。
ゲームは途中で“結婚コース”と“独身コース”に分かれる。
プレイヤー同士で結婚し、協力し合ってリスクを減らせる手堅い“結婚コース”。
一方、ギャンブルや株式投資、それに最近の流行も踏まえたダンジョン探索などで一攫千金を狙えるハイリスクハイリターンな“独身コース”。
青年はゲームの盛り上げをも考慮してそちらを選んだのだが……恋する乙女たちがいる時に限っては“結婚コース”を選んだ方が良かったようだ。
〔お芋教教祖!美桜:うん……そう言うのはウチが銀行役と一緒にやるのに〕
空木も空木で“独身コース”を進んで破滅と栄光を交互に味わった。
プレイヤー達が青年との結婚の可能性が絶望的になった後、それで大いにゲームの盛り上げ役となったのだ。
〔白き妖精?律氷:……更にショックなのが、椎名です。あれはもう言葉が出ませんでした。あまりにあまりで……うぅぅ〕
律氷が膝を抱えて落ち込むキュートな絵が現れる。
だが使っている本人は結構ショックらしいので、そこに触れる者はいない。
〔貴方だけの花織:……何、椎名さんが何かやらかしたの?〕
〔お芋教教祖!美桜:うん。……椎名さんは“結婚コース”行って律氷ちゃんと結婚したんだけど、踏んじゃったんだよね。“裏切り不倫マス”〕
――“裏切り不倫マス”!!
結婚しているプレイヤーが相方を裏切り、他の独身プレイヤーと強制的に結婚してしまう。
製作陣の大人の悪意を感じる酷いマスとなっているのである!!
その呟きの後、少し間が空いた。
志木がラティアに話している時間のようで、直ぐに志木は戻って来る。
〔貴方だけの花織:それは……カオスな状況ね。椎名さんが律氷を置いて、“独身ルート”に行ったはずの彼と結婚って〕
〔お芋教教祖!美桜:しかも状況をより混沌としてるのは、律氷ちゃんは“女性”プレイヤーとして始めて。お兄さんと椎名さんは“男性プレイヤー”としてスタート〕
その補足で全てを察した志木は、現実で頭を軽く抑えた。
〔貴方だけの花織:……それ、律氷と椎名さんがカップルの時はまあゲーム内ではあまり問題ないけど。椎名さんと彼、えっ、“男性プレイヤー同士”で裏切り不倫って何?〕
最近は性に寛容な社会なので別にそれでもおかしくはないが、頭が混乱する大きな要素ではあった。
ゲームでは男性同士、でも現実では女性と男性……しかも元は男女プレイヤー間で問題なく収まっていたのに、不倫裏切りに発展……。
……とりあえず残ったのは、律氷が二重の意味で傷つけられたことである。
ゲーム内とは言え結婚にまで至った信頼する従者に裏切られ。
しかもその相手が、自分が結婚を狙っていた青年と不倫。
律氷は酷く傷つけられたのであった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
〔貴方だけの花織:……で、大丈夫なの? 律氷は〕
〔お芋教教祖!美桜:一応は。飛鳥ちゃんとルオちゃんが必死に慰めてる。椎名さんに至っては土下座して“御嬢様!! 違います、私はただ、御嬢様を幸せにしようとゲームを戦っていただけで……”って必死に謝ってる〕
だからこそ、一度現実から逃れるために会話アプリ内へと逃れてきたのだった。
〔お芋教教祖!美桜:……花織ちゃん、花織ちゃんも何か、嫌なこと忘れられるようなお話してあげてよ。律氷ちゃんの御姉様なんでしょ?〕
“御姉様”とは御嬢様学院の中で、下級生が憧れの上級生を呼ぶときによく使われる敬称であった。
それを知った上で、空木は志木に、要は“面白い話してあげてよ。慕ってくれてる後輩、ダメージデカいよ?”と言っているのである。
〔貴方だけの花織:……えっと、今、ラティアさんと六花さんといるんだけど、その……“彼を呼ぶ時、どう呼んでるか”って話になってる〕
志木が少し言い難そうに呟く。
空木はセンサーが反応し、そこに面白要素を感じ取った。
〔お芋教教祖!美桜:へぇぇ……なるほど。ウチは“お兄さん”って呼んでるね。律氷ちゃんは……〕
あえてそこで呟きを止め、スマホを弄る律氷が参加しやすいように配慮する。
何か他のことを考えたり話してる方が、気が紛れるだろうとの気遣いからだった。
〔白き妖精?律氷:えっと、私は“陽翔様”とお呼びしてます〕
〔貴方だけの花織:……そうね。で、ラティアさんは“ご主人様”。六花さんは“新海君”って。……で、そこで私に話が向けられて〕
そこまで呟かれて、ふと空木と律氷は考え込んだ。
普段、志木が青年を呼ぶとき、一体どう呼んでいたか……と。
〔お芋教教祖!美桜:そう言えば……花織ちゃん、お兄さんを呼ぶとき“ねぇ”とか“ちょっと”とか多いよね〕
〔白き妖精?律氷:……私は御姉様が陽翔様を“貴方”と言っていることを良く耳にします〕
……ちなみにここで志木のユーザーネームに付く“貴方だけの”は特に深い意味は無く付けられていた。
元々の発端は逆井の一言“……何かその方がかおりんのアイドルイメージっぽくない?”だった。
……逆井の思い付きで、“かおりん、かおりん、かおりんりん!”などの言葉も生まれたりしている辺り、意外に逆井の直感はバカに出来ないのかもしれない。
それは良いとして……。
要するに、他人行儀な呼び方をしているともとれるので、青年がそれで距離を感じているかも、との話題だった。
〔貴方だけの花織:……ええ。その、だから、主に六花さんに追い詰められてて。ちゃんと“陽翔さんって呼んだらどう?”って〕
そこでスタンプが押される。
これは非売品。
志木達が自作して仲間内だけで使っているものだった。
ミニサイズの志木が顔を真っ赤にして、更に縮こまっている。
プルプル震えていて、とても恥ずかしいと感じていることが伝わってくる絵だった。
〔お芋教教祖!美桜:……“貴方”ってのも、何か妻が夫を呼ぶ感あったけど、お兄さんを名前で、しかも“さん”付けは……それはもう颯ちゃんだよ〕
“それは=赤星だ”とは?
……つまり“伏兵”だと言いたいらしい。
〔白き妖精?律氷:うぅぅ……御姉様まで、伏兵をなさるのですか? ……颯様に椎名に、それに御姉様まで。――私が気付いていないだけで、他にも沢山伏兵がいたりするかもしれません〕
〔貴方だけの花織:ちょっと!! 律氷、何を言って!? べっ、別に彼の呼び方をどうするかってだけじゃない!! ――ちょっと、律氷、律氷、聞きなさい!!〕
律氷は再び、硬い硬い殻の中に閉じこもることになった。
……このままでは可哀そうだ。
“地球では”意外にそこまで多くはないかもしれない、とだけは教えてあげてもいいかもしれない。
これで今回の閑話は終わりですね。
次からは夏休み明けの話をスタートってことになります。
感想の返しも、明後日までには何とか全部終わりそうです!
ふぅぅ……ようやく目途が立ちましたね(遠い目)




