329.まあ、似合ってる、んじゃないか?
お待たせしました。
前話でご指摘いただいたんですが、連打の話で“16”って勝手に書いたつもりで、でも1が抜けて“6”になってたようです。
修正しておきました。
……ちゃうねん、多分サイコロの6に引っ張られててん。
ではどうぞ。
「す、凄いことになってるな……」
「……だね。ご主人、これ、テーブルに乗りきらないよ」
宅配で届いた出前の数々を早速並べようとしたが、その圧倒的な量に威圧感すら感じていた。
6人前60貫を越すお寿司の桶。
4種類の味を1枚で楽しめるピザはMサイズながら3枚もある。
そしてデザートにチーズケーキ、フルーツタルト、ショートケーキがそれぞれ1ホールずつだ。
「……きょ、今日食べきれなくても、ラップして明日また食べれば良いですからね」
流石にラティアも現物が揃った所を目の当たりにして、若干引いていた。
「えっ? ――ああ、うん、そうだね」
一方で、リヴィルは一瞬何を言われたか分からないと言った反応を見せ、一拍遅れてその意味を理解し同意する。
嘘、だろ……これら全てを平らげるのも可能、だとでもいうのか?
……すげぇ。
リヴィルのトップモデル以上に優れた容姿と相まって、何だか歴戦のフードファイターに見えてきた。
「……これで全部だよな? うん、頼んだもんが揃ったんなら、とっとと食べようぜ?」
「……レイネちゃん、どうしたでありますか? ……何かぎこちなくないですか?」
ロトワに指摘されて、レイネは分かり易くギクリとする。
……多分罰ゲームのことだろう。
「はっ、はぁぁ!? べっ、別にぃ~。全然、これっぽっちも、ぎこちなくなんかないし~?」
夕食の時間帯になったので話題がそちらに移り、レイネは九死に一生を得ていた。
しかし、少しでも誰かがそれを思いだしてふと口にすると、途端に“メイド・レイネ”が執行されることになる。
だから、レイネ的には何とかして食事だけに集中して欲しいんだろう。
「……まあそうだな、出来立ての方が良いだろう。特にピザは熱々の方が美味いし。食べようか」
助け船というわけではないが、罰ゲームを先にして時間がかかると、言ったように食事が冷めてしまう。
リヴィルもラティアも異論は無いようで、席に着いた。
「ふぅぅ……。――そ、その、隊長さん、ありがと」
「ん? ……何のことだ? さっさと食おうぜ。この量だ、6人でも食いきれるかな……」
知らないフリをしてあげるのも、時には必要なことだと思う。
……だから椎名さん、今後俺に“ケッ、鈍感系主人公かっ”とかツッコむのは止めて下さいね。
「フフッ、良かったね、レイネ」
「……おう」
リヴィルとレイネが二人で何か通じ合ってる。
何だかんだ、レイネとリヴィルって仲良いよな……。
こうして、リヴィルを祝う小さな食事会がスタートした。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「うぅぅ……うぷっ――やべぇ、食い過ぎた」
食べ始めて30分くらい過ぎただろうか。
好きなネタの寿司を選び、皆があまり食べない脂っこい味のピザを食べ。
そうこうしていると、デザートを待たずして満腹感を覚えてしまった。
ぐぐっ……胸焼けまでしやがるぜ。
ちょっと口直しに薬草でも噛んでようか。
「うぅぅ、ボクももうお腹パンパンだよ~」
「ロトワもでありますぅぅ……」
二人は可愛らしくお腹をさすって、休憩タイムに突入だ。
ルオはチーズがたんまり乗ったピザを沢山食べていたので、体調的には俺と似たような感じだろう。
一方ロトワは桶の中に入っていたいなり寿司を殆ど一人で食べていた。
本当、いなり寿司好きだね……。
「大丈夫ですか、ご主人様? 胃薬、出しましょうか?」
「いや、大丈夫。薬草でもムシャっとくから。……でもちょっと太ったかもな。後で軽く運動しないと……」
気遣ってくれたラティアに礼を言いつつ、立ち上がって少しストレッチする。
そんな俺を見て、何故かラティアは赤く染まる頬に手を当てて……。
「……まぁ。ご主人様ったら。――今は皆見てますから、後で夜中にでも、お部屋にお伺いしましょうか?」
「いや普通の“運動”の話だから」
このタイミングで何を言ってんだラティアは……。
ラティアも冗談だと言う様に笑い、イカに箸を伸ばす。
自分のペースでアワビ、いくら、数の子など海の幸を好んで食べていた。
……うん、それ以外にネタのチョイスに意味は無いはずだ。
「フフッ、楽しんでくれてるみたいで、何か嬉しい」
上機嫌なラティアを見て、リヴィルは目を細める。
ラティアはいつもいつも家のことばかりで、自分のことは後回しのことが多い。
そんなラティアが、リヴィルの祝いの日と言うことで楽しんでくれている。
リヴィルにはそれが嬉しいんだろう。
そんなリヴィルは、俺達5人合わせても上回るほどの量を食べてなお、純粋な笑顔を浮かべる余裕を見せていた。
「……あたしは、全然楽しくない」
そうした中、拗ねたようなレイネの呟きが漏れる。
そしてそのレイネは、先程までの普段着をしていなかった。
「フッ、フフッ……いいじゃん。やっぱりレイネ、メイド姿も、凄く似合ってるよ?」
「――笑ってんじゃねえか!! クソッ、クソッ!!」
つい先程、ピザ1枚の3/4程食べたレイネに、リヴィルが遂に罰ゲーム執行を告げたのだ。
“丁度良いじゃん。ピザ、切りの良い所まで食べたんでしょ? 着替えたら?”と。
「フフッ、フフッ、いや、だから似合ってるって。普段そう言うの着ないからさ、何か新鮮だなって」
「ふんっ、どうだか……」
レイネは半信半疑のようで、プイッとそっぽを向きながら先にケーキを食べ始めた。
洋菓子とメイドさんのセットということで、かえって似合ってる感が増してしまっている。
……まあ言わない方がいいだろうな。
「…………」
そんな二人の様子を、ラティアが静かに見つめていた。
仲良く、そして今日の主役リヴィルが楽しそうにしているのを、目を細めて見ていたのだ。
……が、一瞬だけ、その瞳に怪しい光が過った。
「――もう、レイネ。むしろ似合い過ぎですよ!」
ラティアが動いた。
作った怒り顔で可愛らしくレイネに抗議する。
「はぁ? ……ふんっ、どうせ揶揄ってんだろ? 分かってるぜ」
拗ねるレイネを見て、ラティアはルオ、そしてロトワと視線を交わした。
3人が一斉に頷き合う。
……何だ、何が始まるんだ。
「今日の主役はリヴィルなのに、そのリヴィルよりも目立っちゃって……――ルオ、ロトワ!」
「うん!」
「はいであります!!」
呼びかけに応じるようにして立ち上がる。
そして事態を飲み込めていないリヴィルに近づき、手を取った。
「えっ、ちょっ、何? ルオも、ロトワも……ど、どうしたの?」
「リヴィルお姉ちゃん、お着替え、しよう?」
「お着替えでありますよ、リヴィルちゃん!」
二人に両手を引かれ、あれよあれよと風呂場の方へ。
お着替えって……えっ、脱衣所で着替えてくんの?
「フフッ。少々お待ちくださいね、ご主人様」
ラティアは悪戯な笑みを浮かべてウィンクしてみせた。
……なるほど、これは事前に打ち合わせ済みらしい。
ならレイネのメイド服も――
「……いや、あたしの格好は普通に予定外だから」
あっ、そうなんだ。
単なるレイネの不運だったらしい。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
戻って来たリヴィルは、しっかりと着替えを済ませていた。
「うぅぅ……何でバニーガール? いや、確かに自分のも持ってるけどさ」
リヴィルにしては珍しく、純粋に恥ずかしがっている。
背中に伸びる燕尾の部分を前へと引っ張り、何とか脚を隠せないかと抵抗を見せていた。
「フフッ。リヴィル、ウサギさん、好きじゃないですか。今日はリヴィルが主役なんです、それらしい恰好をしないと」
分かったような分からないような理屈で、ラティアは抗議の声を封殺する。
そしてリヴィルの手を取って、その姿を隠せないようにした。
「どう、ご主人、バッチリ見える!?」
「リヴィルちゃんのバニーさん、可愛いでありますか?」
お手伝いを済ませたルオとロトワが尋ねてきた。
いや、うん……そりゃバッチリ見えてる。
全体的に黒色で、装飾の耳も片方だけが可愛らしく垂れている。
手首に着けたカフスだけが白で、良いアクセントになっていた。
何より、リヴィルはあれだけ食べていたのにお腹が出ることも無く、抜群のスタイルでバニーガールの衣装を着こなしていたのだ。
「……流石にさ、何もないのに着るのは恥ずかしい」
俺の沈黙に耐えかねるかのように身じろぎして、リヴィルは呟く。
「何を言ってるんですか、おめでたい日なんですから、むしろ着ないでどうするんですか? リヴィルの晴れ姿、きちんとご主人様に見て頂かないと」
ラティアは謎理論でゴリ押しする。
ただリヴィルの姿がレイネに負けず劣らず似合っているというのは、ちゃんと思っているんだろう。
「んっ……ちょっ、ラティア、ダメ、だって……」
「ほらっ、こんなに足も細くって、お尻も引き締まってて……素敵ですよ?」
タイツを履く太ももに手を当て、撫でるようにスーッとお尻の方へと滑らせる。
その手つきがあまりにいやらしくて……うん。
――ラティアさん、デザートにリヴィルを美味しく頂いちゃうかも説!!
「はわっ、はわわっ! ラティアちゃんとリヴィルちゃん、何かえっちぃ感じであります!!」
「……う、うん」
あぁぁぁぁぁ!
情操教育ぅぅぅぅぅ!!
「らっ、ラティア!! 後で幾らでも相手してやるから、今はそのくらいに、な?」
「へっ……? ――あっ、あぁぁぁ!! そ、そうですね、はい!!」
最初何を言われたか分からないと言った風にフリーズするも、直ぐに俺の言葉の意味に気付いてくれた。
慌ててリヴィルから手を放し、やり過ぎたことを察する。
「え、えーっと……リヴィル、すいません、大丈夫ですか?」
「んっ、ふぅ……ん。だい、じょうぶ」
呼吸を整え、リヴィルはさっきまでのレイネのようにプイッとそっぽを向く。
「……見た?」
そしてそんなことを聞いてきたのだった。
「えっ……」
「……見た?」
俺が聞こえていなかったとでも思ったのか、同じ言葉を繰り返す。
……いや、十分聞こえてたし、それに逸らしたくても、目の前、だったし。
「……そりゃ、見た。その、うん……やっぱりバニーガール、良いんじゃないか? リヴィルに似合ってて。俺は、結構、その、好きだけど」
それだけ言うので精一杯だった。
……さっきの百合ップルでのプレイはスルーだ。
それが懸命な判断だと、俺の第六感が言っている。
「…………そっ。なら、良い」
それだけを告げ、リヴィルは再び席についた。
そしてレイネの前に置いてあるケーキのホールを引き寄せ、食事を再開する。
……ふぅぅ。
どうやらあれでよかったらしい。
「んっ、ぁむ、むぐっ……」
少しの間、沈黙が降り、ケーキを食べる音だけが響いた。
だが――
「あっ……ご主人様、ご主人様」
「ん?――あっ」
ラティアに耳打ちされ、何事かと指差す方を盗み見る。
そこには、リヴィルがケーキをただチビチビと食べている姿があった。
さっきまではお寿司もピザも、大食い選手かと思う程ドンドン食べ進めていたのに。
今ではケーキをフォークの尖った先端で小さく切り、更にその欠片だけを掬って可愛らしく口元に運んでいたのだ。
「……フフッ、凄く嬉しかったんでしょうね。珍しく照れまくってますよ」
……そうなのか?
そうだと良いんだが……。
その後は皆がそのリヴィルの可愛らしい仕草に気付いて、再び温かな雰囲気へと戻った。
リヴィルもしばらくするとバニーガールの格好で食事するのにも慣れたのか、再度フードファイトを始め、見事全て完食を果たす。
こうしてリヴィルのささやかなお祝いは無事に終了した。
そして同時に、俺の高校生最後の夏休みも、今日で終わりを告げたのだった。
その後、何事もなく自室へと戻ろうとするが――
ラティア「あの、ご主人様? 先程“後で幾らでも相手してやるから”的なご発言があった……ように記憶してるんですが?(純粋な目)」
新海「えっと……明日、学校はじめだから、すまん」
ラティア「そう、ですよね……(しゅん)」
新海「あぁぁ……1時間だけ、二人でゆっくりお話、する?」
ラティア「ぁっ! ――はいっ!!」
……多分こんな感じのやり取りもあったはず。




