328.好きな物でいいぞ?
お待たせしました。
ではどうぞ。
「……本当に良いの?」
「おう、あんまり盛大にはしないってんなら、その分晩飯をちょっと奮発しても良いだろう」
テーブルの上、俺達の目の前には沢山のチラシが置かれていた。
出前寿司、宅配ピザ、丼物などなど……。
今日は、リヴィルとの出会いから約1年をこじんまりと祝う日。
どうせならリヴィルが好きな物でも頼んで、皆でゆっくりしようという気遣いからだった。
「……お昼食べたばっかだけどさ、私、沢山食べちゃうかもよ? 多分、夕食の方が気分が乗ってバクバク食べちゃう」
リヴィルもそれを察したんだろう、お金がかかり過ぎることは避けようとして逃げ道を作ってくれる。
この前のスイーツバイキングでも、この細身のどこにそれだけの量が入るんだってくらい食べてたからな。
……が、1食分くらい一気に増えようが問題ない。
「おう、そこまで言うんなら食って食って食いまくれ。ブクブク太ってみろ。俺がビックリするくらいの巨乳にでもなったら、何でも言う事一つ聞いてやろう」
これは流石に勝算があったので、とても強気でリヴィルを煽る。
ある意味リヴィルの太らないモデル体型を信頼していたのもあった。
だがやはり、こういうことは苦労や心配なく受け取って欲しかったのだ。
「……むっ、マスター、言ったね? ――よしっ、じゃあこの特盛お寿司セット。後ピザも頼むから。それと……」
……えっ、お寿司とピザで終わりじゃないの?
ちゃんと6人前のを頼んでくれてる所悪いけどさ、それ×3になったらもう18人前だよ?
ルオもロトワも食べ盛りだけどさ、一人で4人前も5人前も食わねえぞ。
ラティアとレイネに至っては普通に1人前とかで終わるかもしれないし……。
「……今からでも、ミヒロ位の巨乳になって、マスターに有言実行してもらう。絶対」
……飯野さんレベルはハードル上げすぎじゃね?
だが……ふふっ。
「むむぅ……やっぱりカロリーかな。でも胸なんだから、乳製品も大事だろうし……じゃあデザートを多くした方が……」
リヴィルは夢中になってチラシとにらめっこしていた。
何かに配慮したり気を遣ったりせず、こうして自分の食べたい物を選んでくれている。
何気ないことかもしれない。
けれどもこうした小さなことが、異世界出身のリヴィル達には改めて大事なんじゃないかと実感する。
「……ふふっ」
「……何? マスター、凄い顔してるけど」
チラシから顔を上げ、リヴィルが怪訝な表情で言ってくる。
……酷い。
幸せを噛み締めてるボッチ野郎の表情は、クール美少女から見たら“凄い顔”と表現されるらしい。
「……悪かったな、ただボーっと見てただけだ」
「ああいや、別にマスターを責めてるとかじゃなくて。……それに、別にもっと見ててもらっても良いけど」
相手としても長く見ていたいほどに“凄い顔”は滑稽ということだったようだ。
クッ、心の中でちょーっとイケメンっぽいことを呟くと直ぐこれだ。
陽翔、反省。
「もう……だからそうじゃなくて。――あんまし、他の女の子の前ではしない方がいい顔、って言うか。凄く、その……グッと来る顔って言うか」
は?
どういうこと?
“グッとくる”って何だよ。
顔がアホすぎてツッコみたくなるのをグッと抑えるってこと?
「はぁぁ……もう分からないなら、それはそれでいいよ」
溜息を吐かれてしまった。
でも、そんなこと言ったってしょうがないじゃないか!
リヴィルもリヴィルで、こっちを見ずにプイって顔逸らしてる癖に。
相手の目を見て言わないと説得力無いんだぞ、リヴィル。
「はぁぁ……――まあ、ラティアやレイネが丁度2階に行ってて良かったかもね。2人が見てたら今頃は大騒ぎになってたかも」
……どういうことだってばよ?
本当、リヴィルは俺に分からせる気があるのかないのか……。
まあこういう会話が出来るってのも、リヴィルと出会って、何だかんだあっても今、一緒にいられるからなんだよな。
そうしてルオやロトワがお昼寝から目覚めて降りてくるまで、俺達は他愛無い会話を楽しんだのだった。
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「よしっ! やったっ、これでリヴィルお姉ちゃんを捉えたよ!」
「ぬぬっ! ルオちゃん鋭い一手っ! ロトワもうかうかしていたらトップから引きずり降ろされそうであります!――あっ、次はレイネちゃんであります! 頑張ってください!」
起きてきた二人に合わせるように、レイネやラティアも1階へと降りてきた。
皆揃ったところで、夕飯まで今日はゲーム大会だ。
出前だし、準備する必要もない。
俺も夏休みが終わるから、一緒に遊んでやれる時間も少なくなる。
だから精一杯、今日は皆で遊び尽くすつもりだった。
「しゃぁ任せろ!! こっからだこっから――ってうわっ、えっ、いつの間にそんなカード持ってた!? それ相手ターンなのに使えんの!? リヴィル、おまっ、汚ねぇ!!」
「今日は私のお祝いの日。だから私特権を発動した。さっきルオがくれたけど?」
人気のパーティーゲームで4人プレイ。
いつもなら年下であるルオやロトワを楽しませるため、レイネやリヴィルが気を遣って接待プレイをすることも多い。
だが今日に限っては、3人ともリヴィルに勝って欲しいようにそれぞれが考えて動いていた。
ただ……。
「……フフッ、リヴィルはレイネを4位に落とすこと以外考えてませんね」
「最下位だけが罰ゲームだからな。……また今日も“メイド・レイネ”が誕生するかもしれん」
観戦組なので、俺とラティアは気楽だ。
客観的に見ていられるので、実際にプレイしている4人以上に把握できていた。
レイネは最下位とトップ以外を狙っていたようだが……大分苦戦していた。
「くっ、さっきトイレに行った時かよ……。――なっ、なあルオ? あたしにも何か良いカードくれないか?」
「ダメでーす。今日はリヴィルお姉ちゃん以外には助っ人しないことに決めてまーす!」
両腕をクロスさせてバッテンを作り、レイネに見せつける。
「じゃ、じゃあロトワ、どうだ? ロトワ盤石の1位だろ? なっ、あたし始まってから4位より上、行ったことないんだけど」
「……勝負の世界は時として非情であります。レイネちゃん、ごめんなさいです」
ロトワは半身でも置き去りにするかの様に、プルプル震えながらレイネの頼みを断った。
……いや、ゲームだから。
そこまで決断に苦悩しなくてもいいぞ、ロトワ。
「ぐっ! ――チクショウめっ!! テメエらっ、後で吠え面かいてもしらねえからな!!」
だが、レイネが振ったサイコロの目は1。
そして止まったマスではゲームの進行役NPCとミニゲームをすることになる。
「あっ、これ専用の機械でも使わない限り勝てない奴」
「確か……1秒間に16回くらい連打しないと勝てない計算なんですよね」
ラティアと共に、レイネがフラグを回収する様をしっかりと目に焼き付ける。
「ぬあぁぁぁ!? えっ、これ負けたらどうなんだ!? ――嘘っ、えっ、“ふりだしに戻る”!? 今からまたあたしだけ100マス以上進まないといけないのか!?」
「フフッ、フフフッ……レイネ、これは勝負あり、かな?」
レイネが一人ボコボコにされているのを見て、リヴィルがツボに入ったというくらいに笑顔になる。
勿論S気やイジる感じもあるが、この時間を楽しんでいるという純粋な笑みだった。
「レイネお姉ちゃん、頑張って!! 諦めたらそこで試合終了だよ!!」
「千里の道も一歩から、であります! レイネちゃん、諦めなければ、ゴールは必ずありますよ!」
そんなリヴィルを見て、ルオやロトワもそれに釣られるようにワイワイとはしゃぐ。
「ほらっ、レイネ、頑張ってください。ここから逆転したら、ご主人様がご褒美下さるかもしれませんよ?」
ラティアもその楽し気な雰囲気に乗っかる。
……勿論、俺はそんなことは言ってないけど。
“くださるかも”と断言していないところが味噌だな。
「えっ、隊長さん、本当に?」
……しかし、まあ、いいか。
「おう。勝てれば、な。でもここから1位は厳しいぞ」
「っしゃぁ!! ――絶対勝つ!!」
……ってか、まあ無理だろう。
だってロトワが既に1位の座を固めている。
そしてルオは今回に限っては、リヴィルを勝たせるために動いていた。
さらにそのリヴィルがそれを察し、ロトワが勝てるよう暗躍しているのだ。
レイネはつまり、自分の知らぬ間に3対1を強いられているのだった。
「……よろしいのですか?」
意気込むレイネを横目に、ラティアが確認してきた。
自分で言いだしておいてなんだが、という顔をしている。
「……まあ、今日くらいはな」
レイネに泣いてもらおう。
今日くらい、リヴィルの思う通りにさせてやってくれ。
「そうですか……」
「ああ」
言葉少なく、それだけを交わしてまた観戦に戻る。
そんな皆で楽しむ時間はレイネの敗北が決まった後も、オレンジ色の光が差し込んでくるまで続いたのだった。
ふぅぅ。
多分次でリヴィルのお祝い回は終われるはず。
で、その後は夏休み明けのお話スタートですね。
まあその間に閑話を入れても良いですが、一応進行的にはそんな感じです。




