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326.えぇ~“熱い”か? それ……。

お待たせしました。


ではどうぞ。


「織部ッ、おい織部ッ!!」



 焦って名を呼ぶと、織部は何事かと振り返る。

 それはまるで、生放送の開始に気づいてなかったテレビ番組の出演者かのような反応で――



『えっ? ……あっ、もう繋いで――っ!!』 



 ようやくDD――ダンジョンディスプレイが繋がっていることを理解し、更に一瞬にして赤星の存在を認識した。

 そして次の瞬間には勇者としての恵まれたチート性能を遺憾(いかん)なく発揮し、贈り物が画面の視界に入らぬよう体を間に滑り込ませる。

 


『あれっ、今の……織部さん、何か、渡してた?』


『……渡してたっぽいね。まあアタシらは知らなくても良い物だと思うけど』



 どうやら赤星に見られることだけは避けられたらしい。

 ……逆井は何となく察してるっぽいけどね。



 ……いや、ってかちょっと待て。

 何で俺の方がこんなにハラハラしないといけないんだ。


 普通逆じゃね?

 

 男の俺がやましい物を隠し持ってて、それが異性にバレないよう織部が協力してくれる、みたいなのが通常だろう。

 

 本当、そこは別に既成概念に挑戦しなくてもいいと思うんだが……。



『あ、あはは! まあ友好の証を渡してたんですよ、ええ。さてさて、では話を進めましょうか――』


『…………』

 

 流石に動揺したのか、織部は分かり易く声を上ずらせる。

 ネジュリは面白そうだと感じたのか、特に言及はせずニヤニヤしているだけだった。

 

 ……まあ面白がってかき回される方が面倒だから、その方が助かるけど。



 受け取ったエロ本類は、画面の死角となる奥へと持って行かれた。

 織部もそれを確認して、ホッと息を吐く。

  

 それで、改めて簡単な話し合いが再開された。  




『……ねぇ、新海君。今のって、さ――』 


 

 だが一方で、PC画面に映る赤星の表情は硬い。

 赤星にとっては話し合い自体よりも、ついさっきのやり取りの方が気がかりなんだろう。


 

「えーっと……なんて言うか、まあ織部自身も言ってたが、協力してくれることへの(わず)かながらの気持ちみたいなもんじゃね?」


  

 仕方なく、嘘にならない範囲で織部を擁護する。



 ……ってか、あれ?


 俺は何が贈られたのかを知っている、というか異世界(あっち)に送った張本人である。 


 今気づいたが、“織部が何を贈ったかバレる=俺がをそれを調達した”ということも芋づる式に出てくる可能性があるのだ。



 つまり――



“新海君、清楚で(けが)れを知らない織部さんになんて物を送ってるの? ……最低だね”



 ――違うんだ赤星! 織部が元凶で、俺はただのパシリに過ぎないんだって!!


 そんな悪い想像が頭の中を駆け巡った時、何とも言い辛そうな赤星の呟きが漏れ聞こえた。



『そっか……――やっぱり賄賂(わいろ)みたいな物も、必要な時ってあるのかな』


『えっ?』


「えっ?」

 

「えっ?」



 逆井と俺と、そしてルオの声が重なる。

 


「?」


  

 一方ロトワは何故俺達がこんなリアクションになったのか分からず、可愛らしく首を傾げていた。

 ……ロトワはこのまま純粋に育ってください。

 


『えっと……ハヤちゃん、マジで言ってる?』


『こんなこと、冗談じゃ言わないよ! ……織部さんがあれだけ私達には知られたくないって表情をしてたんだよ? そう考えないと辻褄(つじつま)が合わないじゃないか!』


 

 辻褄合うんだよな……。

“エロ本”を賄賂(わいろ)とは言わないだろうし……うん。

 

 あれは普通に織部の布教活動の一種だと思う。 



「……ご主人。カンナお姉さんが関わると、皆がどこか、ちょっとずつおかしくなるよね」


 

 おお、ルオよ。

 若くして世界の真理に到達したか。

 

 俺達も知らず知らずのうちに影響を受けている可能性があるからな、お互い気を付けようぜ。



『あのさ、ハヤちゃん、柑奈ってもっとこう、おおらかと言うか、ハッチャケてるって言うか……』


 

 逆井が何とかして、織部と赤星両方の顔を立てるような言い方で気付かせようとしている。

 しかし、赤星の反応は鈍い。



『? ……うん、分かってるよ。だからこそ、裏のやり取りとかで織部さんの表情が曇ってたんだよね。……私達はそれをわかってあげて、その上で受け入れて上げないと』


 

 いや全然分かってないぞ!!

 そうじゃなくて、ああもう!!

 

 微妙に(こす)ってるんだけどなぁ、でも絶妙に話が擦れ違ってるって言うか……。


   

 ってかそもそも赤星は織部を神聖化して見過ぎなんだよ。

 もっと奴の汚れな部分も知った方が、俺達も楽なんだが……。



 DDの向こう、異世界側で簡単な話し合いが進んでいる間。

 赤星の織部を気遣うコメントが増え、俺達の間には微妙な空気が流れたのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「……で? 結局話し合いは無事に済んだのか?」


『何か新海君のあたりが心なしかキツいんですけど……』



 いや、気のせいだから。

 方向違いのことを思ってる赤星にはあたれないからって、心なしか織部へのあたりが10%厳しくなってるとかないから。


 

『……ま、まあそんな感じも新鮮で良いんですけど』



 よっし普通に話そう。 

 織部へキツい感じで接するのは、普通にご褒美だった。




 ――【急募】織部へとお(きゅう)を据えるやり方! 

 誰でもいいので教えてくださいマジでお願いします!




『――あは、あははっ! やっぱり見てると面白いね~君達。本当、ネジュリちゃん協力することに決めて大正解だったな~!』


「……こっちは全然面白くするつもりは無いんだけどな」

       


 割って入って来たネジュリに思わずそう返してしまう。


 それは話を中断されたことへの恨み……などでは勿論なく。

 織部とセットで扱われた感があったので、それへの抗議のつもりで言ったのだった。



『あはは! まあいいじゃない、別に減る物じゃないしさ』


  

 俺のメンタル的な物がゴリゴリすり減って行くんだが。

 


 ただそれ以上食い下がることはしない。


 ネジュリが入って来たのも、話し合った中身を教えてくれるためだろう。

 それが分かったので、彼女が進行してくれるのに任せた。


 ネジュリも俺の意図を察し、一つ頷く間を挟んで話し始める。



『……うん。じゃあ手短に話しますか。――五剣姫が5人揃って一つの方向に向くことが出来たので、王国そのものの方針として、“カンナ・オリベ”をサポートすることになりました』



 それを聞いた瞬間、室内やPC画面の向こうが俄かに盛り上がる。



「おぉぉ……」

  

「やったねご主人!」


「おめでとうございますお館様!!」


 

 祝ってくれるのは有難いが、別に俺が凄いわけではないのだが……まあ今はいいか。



『やったぁやったぁ!! これで柑奈が戻って来るのにまた一歩前進ってことだよね!?』


『うん、うん!』



 逆井や赤星も、織部が着実に前へと進んでいることを実感して純粋に喜んでいた。  

  


『……あ、あはは、喜んでくれているところちょーっと申し訳ないけど、一応続きがあるんだよね~』



 ネジュリにしては少し言い辛そうに告げて俺達の関心を戻す。


 一瞬嫌な予感がした。

 しかし、あちらにいるサラや織部が普通にしている様子からして、そこまで悪い話ではないらしい。




『ん~っとね。王国自体がそこまで一枚岩ってわけじゃなくて。大まかに言うとネジュリちゃん達、五剣姫を主戦力とした“軍閥派”。それと多くの貴族を勢力とする“貴族派”の2つに分かれてるんだよね~』


 

 その話を継いで補足してくれるのは、意外にも政争には疎そうだと思っていたオリヴェアだった。



『王の信任が厚いのは勿論、(わたくし)達ですわ。ただ、今まで私達が1つに纏まるということが無かったので、結果的に公爵を筆頭とする相手側の派閥の力も無視できなかったのです』



 逆に詳しそうなカズサさんやシルレが口を挟まないことからすると、今の説明で正しいらしい。


 ……普段からもうちょっとこういう場面を増やせばいいのに。

 オリヴェアも、ちゃんとしている時は本当に完璧美少女って感じなのにな……。



『そうそう。オリヴェアちゃんの言う通り。で、ここから話が戻るんだけど、カンナ・オリベちゃんに力を貸してもらって、王国を完全に一つに纏めるのでも良いけど……それは嫌でしょ?』



 その確認に織部が頷くのを見て、話の流れを何となく理解する。



「うーん、そうだろうね」


「えっと……え? ルオちゃん、お館様、どういうことでしょう?」



 ルオも多分何とか付いてきているが、ロトワは口にしている通り、ギブアップなようだ。

 一方の赤星達は……。



『……うん、その方が良いだろうね。織部さんがそうしたいなら違うけど……』  


『? ハヤちゃん、新海、今の話、分かったの? ……ゴメン、コッソリ教えて』 


 

 ……まあ予想通りって感じか。



「……“志木派”と“白瀬派”ってあっただろ? あれに例えるとだな、要は外からは“シーク・ラヴ”として一つのアイドルグループ・仲良しこよしに見えると」


「はい。……“ミオちゃん”は出てこないですか?」



 ……空木は置いておいてくれ。

 


『うんうん……』


 

 逆井も一応付いてきていることを確認し、手短に例えを続ける。



「あくまで例えだからな? ――でも実際には主導権争いというか、内部で方向性の違いから対立があると。そこに織部がアイドルとして加わって、一気に“志木派”は一大勢力に」


『おぉぉぉ~! 何か想像できる! しらすんとは実際には対立って感じでもなかったけど、柑奈加入は何か熱いね!』


「ですです! 凄い熱い展開であります!!」



 えぇぇ~“熱い”なの?

 むしろ絶望的な展開に思えるのは俺だけか?

 

 志木や皇さん達までもが織部に影響され、痴女い格好を抵抗なく受け入れる未来――うん、ファン以外は絶望ものだな。

 

 皇さんに至ってはウンディーネ装備の件があるから、既にちょっと怪しいし……。

 


「……で、異世界(あっち)で現実に話し合われたのはその後のこと。つまり“織部”っていう新顔の力を使って、一気に組織(グループ)の方向性を一つに纏めるかどうかってこと」 

 

「それは……」


『なるほど……それはちょっと自重した方がいいかも』



 答えに辿り着いたようなので、待ってくれていたネジュリ達に頷く。

 


『ん、ありがとう。――つまり、出来るだけ王国それ自体を纏めるのは元からいる人達でやった方がいいってこと。ネジュリちゃん達も彼女の力を頼りに“相手の派閥を粛正だー!”っていうのは本意じゃないからね~』



 ようやく話が完全に織部の今後とリンクしてきた。

 ネジュリも核心の部分に触れ、それを受けて織部が自身の今後、つまり結論を話す。



『――要するに、王国のゴタゴタ自体には私は関与せず。一致団結した“五剣姫”の皆さんがそれをなさっている間に、私は“大精霊”に会いに行きます。――マンガやアニメで言う修行パート突入、ですね!』

   


織部さんめ、パワーアップしようとするなんて、一体この後何を企んでいるんだ!!(白目)


多分後1話で織部さんの話は何とか出来る……はず。

その後リヴィルの小さなお祝い回をして、夏休みは終わりですね。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「織部ッ、おい織部ッ!!」 > 焦って名を呼ぶと、織部は何事かと振り返る。 > それはまるで、生放送の開始に気づいてなかったテレビ番組の出演者かのような反応で―― 新海「織部! 後ろ、後ろ…
[一言] え、大精霊も感染されるって? っていうか確かにそうじゃん、調達品に関しては一蓮托生だから庇わざるをえんじゃん…更にたちが悪くなってる…
[良い点] >【急募】織部へとお灸きゅうを据えるやり方!  そんなん、呪いの言葉(幼馴染みor勇者)を使うしかないじゃん しかし、呪いの言葉は使うとフォローが大変という諸刃の剣 結局、何をしてもめ…
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