322.これが……?
お待たせしました。
設定の確認でちょっと手間取りました、すいません。
ではどうぞ。
「あぁ、そっかそっか! 二人とも、やっぱり“現在”はこの姿なんだよね~うんうん、懐かしいなぁ~!」
「ギシッ?」
「Gigi,gigigi……」
DD――ダンジョンディスプレイのテレポートにて、ゴッさん達を生み出したダンジョンまでやって来た。
ただ俺達二人だけで、ではなく。
「……まあ、ご主人様がそうお考えになったのであれば、“守護者化”について否はありません」
「うぅぅ……ロトワも着替えたんだから、あたしも着替えさせて欲しかった……」
ラティアとレイネにも付いて来てもらった。
なので、本格的に昼食作りをするのは帰ってからになる。
ただ、そう言った時のための下ごしらえだったので、ある意味では丁度よかったが。
「う~ん……お姉さん、ゴッさんは別にこっちもキュートだと思うけどな~。でも、ゴッさんはもっと可愛くなりたい感じ?」
「ギシッ、ギシィ!!」
ゴッさんとゴーさんに会って、ロトワは初めて地球に呼び出された時みたいなリアクションをする。
“現在はこの姿”というこの表現の仕方。
これはつまり、ゴッさん達がこれから先、その見た目・姿に違いが生じる可能性を示唆していた。
「えーっと……ゴッさんもゴーさんも。頻繁に会うわけじゃないだろうけど、一応これも“ロトワ”だから」
念のため、二人にもそう紹介しておく。
ただゴッさんもゴーさんも、殆ど警戒心を持っていない。
“現在のロトワ”と“目の前のロトワ”が同一人物だと、感覚的には分かっているのかもしれない。
……流石だな。
特にゴーさんはリヴィルに鍛えられているだけあって、相手の放つ雰囲気・呼吸などを察するのが上手い。
「……うーん、単にお館様が毎回見知らぬ女の子を連れてくるから、慣れちゃってるだけ、とかだったりして?」
おい、こら、思考の盗撮はやめろ!
それとな、いつまでも難聴系スキル持ちだと思ってたら大間違いだぞ!
「あっ、あははぁ……――よしっ、じゃあゴッさん! 早速“守護者化”してみようか!!」
チッ、逃げやがった。
「ギシィ!」
「うんうん! 結構結構! 元気があるに越したことはないよ!」
はぁぁ……楽しそうにしやがって……。
……まあ、大目にみてやるか。
滞在時間が短い分、はしゃいで少しでも今の時間を楽しみたいってのもあるだろうし。
ただ、“現在”のロトワの忠犬可愛さが、10年経ったらこうなる可能性があるのかと思うと、本当何が起こるか分からないもんだ。
「……フフッ、たとえ“守護者化”しようがゴブリンはゴブリン。私に魅力で敵うなんて幻想は抱かないことですね」
「ギシィ、ギシィィ!!」
……その大きな要員となってるラティアさんは、ゴッさんと口喧嘩の真っ最中ですがね。
何でこの二人はこんな仲が悪いのか……。
「良きかな良きかな。互いに切磋琢磨して、女を磨くがいいよ! ドンドン“お館様を篭絡同盟”の力を付けて欲しいな! うん、未来は明るいよ!!」
……何だその不吉な同盟は。
ただロトワが言ってるだけかもしれないが……。
ロトワが嬉しそうにハミングしているのに反し、俺は未来に漠然とした不安を覚えたのだった。
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〈当該モンスターを守護者化します。宜しいですか?〉
ロトワの2体の狐モンスターの時と同様、ダンジョン機能を操作して進める。
先ずはゴッさんの守護者化を行う様に選択していくと、500DPが必要だということだった。
「ゴッさん1体で25DPだったからな……」
つまり20体分のDPを使って、1体のモンスターとしての格を上げるということだ。
一騎当千・少数精鋭ってのは勿論心躍る要素なので大歓迎だが……。
「ただ……今回は他の“同個体”は不要みたいですね」
「そうらしいな……」
ラティアが呟いた様に、今回の守護者化はゴッさん1体で可能なようだ。
あのキンキン・ギンギンは他に同じような狐モンスターが合計4体必要だった。
そこから2体が1対として、融合するようにして最終的に2体になったのだ。
「まあお館様やアズサちゃんの指導の賜物じゃないかな? ゴッさんは優秀な子だからさ」
「ギシッ! ギシィィィ」
褒められたことが分かり、ゴッさんはとても嬉しそうに歯をかち合せて笑う。
「Gi.Ggigigi--」
「いや、ゴーさんも凄い頑張ってるって。大丈夫、リヴィルの奴が見てんだから、ゴーさんも十分その素質はあるよ」
その一方で、何故かレイネが沈むゴーさんを慰めていた。
今はゴッさんを先にするからこそゴッさんの話題を出していただけで、別にゴーさんを無視していたわけじゃないのに……。
「……早いことやっちゃおうか」
珍しくゴーさんが沈む姿を見て、早々にゴッさんの守護者化を進めることにする。
先程聞こえたあの機械音に回答し、500DPを支払った。
すると――
「……始まるよ」
今までのそれとは一変した、真面目な声。
静かにロトワがそう告げた。
それとほぼ同時に、ゴッさんの体が輝き始める。
「ギシッッ、ギシッ!?」
次第に光の強さが増し、ゴッさんの体そのものが眩しさで見えなくなった。
ゴッさん自身も、体に起きた変化に戸惑う様に声を上げる。
「無事か、ゴッさん!?」
思わず大声で安否を確認する。
「――ちち、うえ――」
ゴッさんが放つ光の方から、何か意味を成さない人の声が聞こえた。
そうかと思うと、光は段々と弱まってくる。
そして目を開けられるくらいになると――
「……あっ?」
そこには、細身の幼い少女がいた。
放心している様にペタンと地べたに座り込んでいる。
手入れの行き届いていない緑の長い髪を垂らし、肌は少し浅黒かった。
……しかし、それはもう人としか見えない容姿で――
「ゴッさん……なのか?」
それ以外の可能性をそもそも知らない。
なのでそう呼び掛けてみる。
「………………あぇ? ――っっ!! ちち、うぇっ!!」
緑髪の幼い少女は三拍程遅れて、その呼びかけに応じた。
そして俺の姿を認識し、ぱぁっと花が咲いたような笑顔を浮かべる。
「……うんうん。どうやら守護者化、成功したようだね。おめでとう、お館様」
ロトワも満足気に頷いていることからして――
――やはりあれが、ゴッさんで間違いないらしい。
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「ちち、ぅぇ! ちぃ、ちうえ!」
ゴッさんが俺を見て、嬉しそうにそれだけを繰り返す。
今までみたいに歯をこすり合わせる強弱で音を出し、それを言葉にしていたようなものではなく。
本当に人の様に発音して、コミュニケーションを取ろうとしていた。
ただ……。
「えーっと……?」
「……“父上”、そう言いたいらしいですね」
何を言っているのか今一分かりかねていたところに、ラティアの助けが入る。
……ただラティアさん、何か声に黒さがありません?
椎名さんの“オハナシ”や志木の黒い笑み並に、言い知れぬ怖さが混じってるんだけど!?
「あぁぁ~はいはい、父上ね、父上――って父上ぇ!?」
「いや隊長さん、驚くタイミング遅くないか?」
そこうるさい、ツンデレメイドさんめ!!
後で何でも言いつけるぞコラっ!!
「うーん……お館様がゴッさんをダンジョンから生み出したんだから、一応“造物主”、つまり“お父さん”ってことで、間違ってないんじゃない?」
「そうですね、間違ってはいませんね。……フフッ」
ギャァァァァ!!
間違ってないのに、ラティアの笑顔が何か間違ってるぅぅぅ!!
何っ、何なの!?
「ちぃっちぃ、うぅぇぇ!」
ゴッさん、お前分かっててそれ連呼してないか!?
お前が口にする度に、ラティアの周囲の温度がグングン下がってってんだけど!?
「うーん……まあゴッさんとお館様の認知問題は追々にして……」
“認知問題”言うな!
追々するか!!
くっ、あの頃の真面目なロトワがどうしてこうなった!!
「……ゴッさん、言葉というか、口の動かし方もそうだけどさ。多分体の動きとか、全体的にまだ馴染んでないんじゃないかな?」
突如として真面目な話に方向転換し、全員で未だ座ったままのゴッさんを見る。
ゴッさんは今の話を理解していたらしく、自分が動けることを示すように立ち上がろうとした。
モンスターそのものの姿だった頃を思い出すように、手を付き、地面を押して反動を利用。
だがそれが脚の動作と上手く連動せず、バランスを崩して再び尻もちをついてしまう。
「ふむふむ……やっぱそうか。――じゃっ、今のうちに慣らしちゃおう!」
「おぉぅ!」
ロトワが宣言すると、ゴッさんもそれに倣う様にして手を突き上げる。
……いや、まあそれは良いんだけど。
「……ゴーさん、すまんな。先にゴッさんの方を見てやってもいいか?」
「……Gi,gigigi」
こうなっては仕方ないとばかりに、ゴーさんも同意してくれた。
自分が後回しになって残念がるよりも、今までずっと共に過ごしてきた相棒――ゴッさんの体が心配らしい。
……あまり表には出ないが、しっかりと優しい心根を持っているって部分、ちゃんとリヴィルから学んでるんだな。
そんな思わぬ発見をしつつ、ロトワが率先して提案してくれた訓練の準備を進めるのだった。
【祝!!】ゴッさん、初登場から約240話目にしてようやく人化!!
※ただそのせいで、ラティアとの冷戦が更に激化する恐れあり。
何かの弾みで暴発しなければ良いけど……。




