320.悪いことばかりではないのかもしれない……。
お待たせしました。
前回の後書きでちょっと混乱があったようです。
“痴女イン力(フリ:ちじょいんりょく)”で、“痴女インカ(フリ:ちじょいんか)”ではないです!!
どうでも良いと思いますが、一応!
後、閑話④ってのは感想でもお答えいただいた方がいらっしゃったんですが、310話と311話の間、“部分”で言うと318部分のやつですね!
ではどうぞ!
「いや、うん! 俺自身も全く知らないな。本当に。多分、何か別のことと混同してるんじゃないか?」
そう言ってレイネに視線を送ると、今まで見たこと無いくらい必死になって首を縦に往復させていた。
……本当、何と勘違いしたんだよ。
「本当に? ……貴方って、大変な事は何も告げずに、自分だけで片付けようとするから。ほらっ、握手会の時もそうだったし」
疑わしそうな目と共に、そんな言葉が飛んでくる。
えっ、俺に対する認識ってそんなドMっぽい感じなの!?
皇さんも控えめながら頷いていることから、どうやらそれが共通理解らしい。
……そんな、俺はむしろ空木と同じく、楽がしたくてしたくてしょうがない怠け者タイプなのに。
“――新海君、ようこそ! 同類の世界へ!!”
――やめろっ!
いきなり脳内ジャックして来たどこかの勇者を振り払う。
クソッ、誰か同類か!
俺をそっち側へ誘おうとするな!!
「とっ、とにかく!! 今のはただのレイネの勘違い! はいっ、この話は終了、お祭りなんだ、他の楽しい話題にしよう!!」
強制的に質問を打ち切る。
未だ疑問が解消しきってない志木も、俺の頑なな態度に渋々諦めてくれた。
ふぅぅ……。
この場は何とかなったな。
ったく、レイネめ……。
そうして微妙な空気になり出した時、救世主が訪れた。
「――あらっ? ……見つけた。こんな所にいたのね花織ちゃん」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはとても綺麗な女性が立っていた。
スラッとしていて思わず見惚れる程の美人だが、知っている人物とは違い少し派手で、髪も眩しいくらいに明るい色をしている。
「えっ? あぁぁ……もうそんな時間ですか」
志木が相手を見てそれが誰であるかには言及せず、全てを察したと言う様に立ち上がる。
それでこの女性の正体に思い当たった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――あっ、もしかして……“逸見”さん?」
思わず口をついて出た名前に、しかし自分自身で戸惑う。
えっ、でも逸見さんってもっと落ち着いた感じの雰囲気だったような……。
こんなにチャラチャラというか、ギャルっぽい見た目はしてなかったように思うんだけど。
「っっ~~!!――もうっ、一目で気付かれちゃうなんて。お姉さん、もっと新海君から目が離せなくなっちゃいそう」
感極まった様に一瞬だけ体を震わせ、嬉しそうに柔らかく微笑む。
その仕草は確かに逸見さんっぽさが出ていて、間違いなくその人であると確信が持てた。
あぁぁ……要するに変装してたって事ね。
そりゃこれからあるトークイベントのゲストらしいからな。
……あっ、そっか、逆井の仕業か。
ギャルっぽい感じだと逸見さんのイメージとはかけ離れてるからな、そりゃ中々誰も気づけないわ。
「……へぇぇ。私も最初は一瞬分からなかったのに、六花さんだって一目で気付いちゃうのね。流石だわ」
……あの、志木さん?
何でさっきより笑顔なのに威圧感増してるの?
ちょびっと黒かおりん、出かけてるよ!!
ホワイトスマイル、プリーズ!!
「……むむぅ、六花さん、手強いです。これも伏兵認定した方が良いのでしょうか?」
「御嬢様、是非しましょう!! 六花は何気なさを装ってしれーっといつの間にか目的を達成するタイプです! これは完全に伏兵ですよ!!」
いや、椎名さん必死か!?
何かのマークを分散するためか、それか自分以外の道連れを増やそうとしている様にしか見えないんだが……。
ってか本当に伏兵ってなんだ……。
「……六花さん、嬉しそうですね」
「ウフフッ。そう見える? ――今日は久しぶりの母校だったから、はしゃいじゃってるのかしらね。……それとも何か他の理由でも思い当たるの?」
「……いやありまくりでしょうに」
志木のジト目を物ともせず、変装した逸見さんは上機嫌で会場たる体育館へと離れて行った。
それを溜め息混じりで志木も追いかける。
「――では私達も行きましょうか、御嬢様」
「そうですね……――では陽翔様、ルオさん、レイネさん。私達も準備に行きますので、ここで失礼しますね」
椎名さんに促され、名残惜しそうに皇さんも立ち上がる。
皇さんは志木と同じく、トークイベントに現役生として出演するので、ここでお別れなのだ。
「うん!! リツヒ、後で見に行くからね!」
「そうそう。また来年もあるんだし、今年は十分楽しませてもらったから、気落ちせずに、さ。イベント、頑張って」
ルオに乗っかって、俺も皇さんへと一言声を掛けておく。
まあMCなんてもう何度もやってるだろうし、それにここは完全なホームだ。
俺が応援するまでもないんだろうけど、一応、な。
「来年……っっ!! ――はい!! では、また後程っ!!」
皇さんは今日一番の笑顔になって、嬉しそうにパタパタと駆けて行った。
椎名さんもそれで満足気に俺達へと頷く。
どうやら感謝の一礼らしい。
ふぅぅ……。
さて――
「――……レイネ、言い訳を聞こうか」
「うぐっ!?」
俺達だけとなり、ようやくさっきの話の続きを再開させることが出来た。
俺の追及を受け、レイネはあからさまに動揺する。
「ひゅっ、ひゅ~るるー……た、隊長さん、一体何のことだ?」
誤魔化すの下手くそかよ。
そっちがそう出るのならこっちも考えがある。
「……ルオ。ルオはさっき慌てて止めてたよな。と言うことは……知ってるんだよな?」
「えっ!? えーっと……その……」
肯定こそしないものの、俺とレイネへと視線を行ったり来たりさせて迷ってる辺り、レイネの勘違いの元を知っていることは確定だろう。
どっちに義理立てすればいいか決めかねているな。
なら――
「あ~あぁ、残念。イベントの時、立ち見かもしれないからな~折角ルオは肩車してやろうと思ってたのに、これじゃあ気になって気になって肩車どころじゃないな~」
「あっ! 隊長さんズルいぞそれは!!」
被告人の異議など知らん!!
「っっ!! あのっ、えっと! あれはレイネお姉ちゃんの創作の話でっ――」
利益誘導に屈した証人から、重要証言が引き出せた。
……要するに、レイネの作ってた小説の話とごっちゃにしてしまったってことね。
はぁぁ……。
「うっ、うぅぅ……」
レイネは観念し、申し訳なさそうに縮こまる。
まあ言っちゃった物は仕方ない。
創作をすること自体は別に悪いことじゃないしな。
タイミングが悪かっただけだ。
ただ、混乱を招いた責任はとってもらおう。
……リヴィル流で行くか。
「……1日メイド服姿で生活だな」
「そ、そんな!? うぅぅ……マジかぁぁ」
ルオが俺に証言してしまった時以上に羞恥心一杯の表情をしている。
ただ本人もやってしまった感はあったんだろう。
受け入れはするが、メイド服姿の自分を想像して既に恥ずかし死しそうになってる。
……一応フォローも入れておくか。
「……まあでも家の中だけだし、身内だけしか見ないから。……それに、その、凄く似合ってたしさ、前のも。うん、だから、その、頑張れ」
「隊長さん……――う、うん……その、凄い恥ずいけど、えっと……うん、頑張る」
消え入りそうな声で、しかし精一杯に自分を奮い立たせるようにいう。
それがいつも強気なレイネとのギャップが凄くて――
――いや、既に可愛いかよ。
レイネさんや……。
自分が天使で、それに見合うエグい容姿を持っていると一度自覚なさった方が宜しいかと。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『――ではまず、本日のスペシャルゲストに登場して頂きます。ではお二人、どうぞ壇上へ!』
お金持ちが通う学校に相応しいとても広い体育館の中、司会を務める志木の声が響く。
マイクとはいえざわつく満員の観客で、それはとても自然に耳に入ってきた。
『――皆ぁ~こんばんはー!』
変装していない、正真正銘いつもの逸見さんが前を歩いて登場する。
その後には――
『――どうも~! ウィーッス』
軽いノリで逆井の奴が現れた。
いや、やる気のない体育会系の挨拶かよ。
「まぁ!! あれは、梨愛様よ!」
「えっ!? 本当!?」
「あれが、花織様とアイドルをされているという!?」
近くにいた、この学校の生徒だろう女子がきゃぁきゃぁと騒ぎ出す。
逸見さんの登場にも声を大きくしていたが、逆井のそれは更に大きかった。
「……リアお姉さん、凄い人気だね」
約束通り肩車したルオが俺の真上で驚いている。
逆井を始め、シーク・ラヴ自体の人気は知っていたが、ここまでとは思ってもいなかった。
さっきまでこれでもかと、この学院の生徒たちが箱入りの御嬢様ばかりだと実感していたから、その驚きが大きいのもなおさらだろう。
「……リアを初めて見たって奴も多そうだけどな」
生徒の中には自己紹介を聞いて、あれが“逆井梨愛”だと初めてその知識と実体が合致したようなリアクションを見せる者も。
「つまり……あれだ。知識としては知っていたが、実物を見るのはこれが初めてって奴だ」
と言うことは、どれだけ狭い箱の中にいたとしても、彼女たちはちゃんと好奇心というか、知りたいという気持ちは持っているのだ。
『――はいっ!? えっ、かおりん、鈴カステラだけしか食べてないの!? お腹減らない!? そんな仕事バッカしてると、かおりん実はロボット説浮上するよ!!』
『な!? も、もう梨愛さん! おかしな冗談言わないの! ――そ、それに、カステラ、とても美味しかったから、凄く満足というか、もう今日は他の物は食べなくても十分と言うか……』
早速フリートークに移った所で、温かい笑いが起こる。
「フフッ、花織様がロボットって、可笑しい!」
「ええ。そんな冗談、私達では思いつきませんし、間違っても言えませんものね」
「花織様も、凄く自然な笑顔をなさって……アイドルと探索士のお仕事、ずっと頑張って下さってるから……」
ダンジョンの出現によって、志木は逆井や俺達、外の人間と関わらざるを得なくなった。
ただその環境の変化を受け入れ、適応し。
志木自身がとても前向きに変わっている。
それをこの学校の生徒も感じて、そして彼女たちも少しずつ変わろうとしている最中なんだろう。
『むぅぅ……鈴カステラ、あの時、御姉様に何が?』
『フフッ……律氷ちゃん、もしかしたら花織ちゃんも伏兵の一員かもしれないわね? ――そこの所、伏兵歴の長い椎名ちゃんの意見はどうかしら?』
『――ちょっ、六花!? 私は裏方って言ったでしょ!?』
本来イベントに参加する予定の無かった椎名さんを壇上へと引きずり出し、フリートークは更に盛り上がりを見せる。
ここの学生の観客だけではなく、保護者達も一緒になって楽しんでいた。
ダンジョンの出現は、悪い影響ばかりではないのかもしれない。
そんなことを思いながら、俺もルオやレイネと一緒に観覧を楽しんだのだった。
これで一応夏祭り回は終わり、と思ってたんですが、次話にどうするかでもしかしたら前半だけ続きをするかもしれません。
次話丸々、あるいは後半からは多分ロトワとゴッさん関係……かな?
まああくまで予定、ですが。
――後……感想返しが中々終わらない!!
ちょっとずつ返したと思ったら、前話でまたかなり頂いて、くっ!!
“痴女イン力”の混乱もありますが、かおりんの人気に嫉妬です!!
この恨みはいずれ辱めることで晴らしてくれよう!
……フフッ、私はまだ、かおりんと新海君との“スク水の誓い”を忘れてはいない(ニチャァァ)




