316.タネ・仕掛けを暴け!!
お待たせしました。
ではどうぞ。
「もしかしたら……今のは古代魔法の“時術”――今でいう“時間魔法”かもしれません」
ラティアの言葉を聞いて、一番驚いたのはリヴィルだった。
「本当に!? ……でも、“古代魔法”ってただでさえ使い手がいなくて絶滅したって聞いてたけど」
「絶滅か……ただ、もしそうならさ。あのネジュリさんの自信も分かるよね。誰も知らないレベルの、相当強い魔法を使えるってことでしょ? そりゃタネも仕掛けも分からないよ」
赤星の率直な感想は、思わず納得してしまうものだった。
それが事実ならもうお手上げだ。
あっちが完全に優位に立って、条件をのむ以外には協力を取り付ける方法は無いことになってしまう。
「……ラティア、詳しく聴いてもいいか?」
何かヒントか突破口を得ようと更に深く尋ねてみる。
ラティアは一瞬だけ俯いて迷ったものの、直ぐに顔を上げて話してくれた。
「……もう随分と前――それこそ私が幼い頃です。当時、母が魔王様と親しいお付き合いをさせていただいてました」
「…………」
「……そ、そうか」
前段階の話だろうが、いきなり“魔王”なんていう単語が出てきて内心かなり驚く。
ロトワも幼いながらに思う所があったのか、無言でラティアを見つめ続けていた。
だが反対に、ラティアは話すと決めたからか、後は躊躇う素振りも見せずにどんどん言葉を継いでいく。
「その関係である時、魔王様の元でお話を聞かせて頂いたことがあります。そこで“失われた古代魔法”の話題が出たんです」
「なるほど……それが今回のことと繋がるんだね?」
リヴィルの言葉に、ラティアは無言で頷く。
DD――ダンジョンディスプレイの画面の先では、織部達とネジュリとの交渉が再開されていた。
『まっ、ネジュリちゃんも鬼じゃないからね~! タルラちゃんもいるし、おまけにおまけで、お金だけで解決してあげる! ……って手もあるけど? えーっと……これ位かな~』
『……えっ、嘘っ、そんな額を――』
話の内容からすると、かなりの金額を要求されたらしい。
シルレやタルラ達もそうだが、織部はそもそも金がないわけではない。
あっちで言うSランク冒険者だし、何より勇者だ。
その織部が“用意できます”と即答できない辺り、やはり条件付きでは上手く交渉が進みそうにない。
「――“古代魔法の時術を使う人族がいた。それで私を止めてみせたんだ。面白かったから軍を引いてやったよ”。そうお聞きした記憶があります」
「……じゃあ、もしかしたらその“人族”というのが?」
ラティアの言葉を受けて、ロトワの視線はDDの画面へと向く。
魔王を止めてみせたその相手が、織部達の交渉相手その人であれば……。
「――えっと、さ。“勇者”の織部さんをも止める力を持っているっていうのは分かったけど。でも諦めるには……まだ早くないかな?」
そんな重い雰囲気でも感じ取ったのか、赤星が率先して発言してくれる。
「要は織部さん達を止めた“タネ・仕掛け”を言い当てればいいんだよね? ならこのラティアちゃんの話を織部さんに教えて当ててもらうじゃダメ、なのかな?」
そう……だよな。
……ああ、でもダメか。
「確かにハヤテの言うことはその通りだと思う。ただ、あの五剣姫の言い方だと……“魔法の属性”を言い当てるとか、“その魔法の出自が古代か今か”を指摘する……とはニュアンスが違う気がする」
「ロトワもそれ、思いましたであります!! “軍師さん”なんですよね? 知っているかどうかの知識勝負というよりは、もう少し捻ったクイズを出すように感じましたが……」
二人の言葉で、より俺自身の問題意識もハッキリしてきた。
そう、だからラティアの教えてくれた“あれが古代魔法の時間を操る類のものである”だけではおそらく50点なのだ。
もう一歩、踏み込んだ解答が求められているはず。
でも、ただ状況を見守り、ネジュリの凄さに圧倒されるだけの状態から――
「カンナ様達は……ネジュリ様との交渉を引き延ばすので一杯一杯ですかね?」
「うん。でも丁度いいと思う。カンナ達が頑張ってくれている間に、私達が考えよう。折角DDで繋いでサポート出来るんだし」
「はいです!! むむむっ……!」
赤星の発言を機に、俺達で何か答えを見つけ出そうと積極的に行動に移すことが出来た。
「……? どうかした、新海君? 何か分かったことでも?」
「……いや、まだ、そう言うわけじゃないが……」
赤星には自覚は無いらしい。
いきなり手の届かない異世界側の問題にぶつかり、どう対応すればいいかもわからない中。
とにかく自分達の対処できる簡単な問題へと置き換え、それを言葉にして俺達を前向きにさせた。
……やるな、赤星。
流石は志木に認められて、裏のリーダーを務めるだけのことはある。
俺も負けないように、ちょっと気合いを入れ直すか……。
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「織部が反応したはずなのに、いつの間にか組み伏せられていた。あの一瞬の間に、具体的に何があったかを指摘するんだと思う」
自分の中で今回のことを噛み砕き、頭で描いたことが伝わるよう表現する。
「つまり……“古代魔法が何なのか・どういうものなのか”ってことに尽きると思うんだが」
俺が思ったことを口にすると、ラティアとロトワが考え込む。
そして二人して答えが出なかったのか、リヴィルの方を向いた。
「え? うぅーん……私も実際に見たことは無くて、知識として知ってるだけだけどさ――」
そう前置きして断ってからリヴィルは例を挙げ始めた。
「物凄い強力な魔法で。国を亡ぼしたり、人を何万人も一度に殺したり、あるいは死者を甦らせたり……まあ色々あるけど、要は途方もない威力ってこと」
「そんな凄い魔法を使って……でもただ自分の力を自慢したい、なんてことはないよね?」
赤星の呟きを拾い、リヴィルも頷いて返す。
「だろうね……――あっ、そうか」
リヴィルが何かに気付いたように言葉を漏らした。
「古代魔法ってさ、確かに凄い魔法ってイメージだけど、万能なわけじゃなくて。それ相応の制約ってあるはずなんだよね」
「……?」
その話を聴いて、俺は咄嗟にロトワのことを見た。
ロトワも未来の自分を連れてくることが出来る、“時間”に関する能力を持っている。
だがいつ何時でも自由に、というわけではなく。
魔力をチャージして、それを消費して初めて可能となる。
別に古代魔法に限らず、だ。
それこそよく創作などでは強力な能力として位置付けられ、描かれることの多い“時間”に関する能力。
全くフリーで、自分の思いのままに扱えるなんてことはないだろう。
「私達が普段使う魔法なんか目じゃないくらい、長文の詠唱があったり……精霊の補助を受けないと発動出来なかったり……条件は人によりけりだろうけどね」
「なるほど……ですが、先程は全く詠唱などありませんでしたし……えっと、ご主人様?」
ラティアが問うてくる。
つまり“精霊の有無”について聞いてるんだろう。
「俺が見た限りじゃ……精霊はいないな」
念のためDDの画面をもう一度見るが、あそこに精霊はいない。
つまりは精霊の補助を受けている、というわけでもなさそうだ。
「でも方向性はあってるはずだよね。多分この条件を見抜け、ってことでしょ?」
うん、だと思う。
魔法に打ち勝って見せろ、ではなくて、クイズの解答を示せ、だからな。
「ああ、赤星の言う通り、そうだろうな……なら――」
もう一回で良いから、見てみたい。
だがそこには一つだけ、問題がある。
「……仮にそれに応じてもらえるとして……“俺達も食らってる”可能性があるよな?」
「……うん。カンナだけじゃなくて、私達も。その“時間魔法”にかかって、カンナが何かされた間ずっと固まってたかもしれない」
世界を股にかけて影響するなんてそんなバカなと、否定することもできない。
それだけ古代魔法と言うのがとんでもない威力だと、事前に聞かされているからだ。
「むしろDDが媒介して、私達にまでかかってる可能性もありますからね……」
ああ、なるほど。
じゃあDDを仕舞って――ってそれじゃ、意味ないか。
仮に魔法がDDを介して俺達に影響を及ぼしているとして、それなら確かに魔法にはかからなくて済む。
だがそれだと、そもそももう一度魔法を発動される瞬間に立ち会えず、確認そのものが出来なくなってしまう。
だからDDの通信は繋ぐことが前提にしないといけない。
「……ダメ元でも何でも、やってみるだけやってみないと、な」
「うん。やってみるだけなら、もしかしたらタダかもしれないしね」
方針が決まり、俺は立てかけるようにして置いていたDDを手に取る。
そして通信機能はそのままに、織部へとメッセージを送った。
もう一度……挑戦だ。
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『えぇぇ~もう一回? 別に良いけどさ~無理だと思うよ~? それよりもネジュリちゃんの喜びそうな物を献上した方が早いと思うけどな~!』
織部からもう一度チャンスが欲しいと告げられ。
ネジュリは相手を煽るように首を振って、やれやれとポーズを取る。
『不覚を取っておいて何ですが……ネジュリさん、やはりウザいですわね』
『……オリヴェア、タダの煽りです、気にしちゃ負けですよ』
イラっとしたオリヴェアを、カズサさんが冷静に宥めている。
……いや、カズサさんの額にも青筋浮いてるわ。
あれも軍師としての腹の探り合いの一環なのだろうか?
……素だったら相当ウザいな。
『お願いします! 今度こそ……貴方の望む結末をもたらしてみせます!』
『……へぇぇ~“勇者”ちゃん、凄い自信だね。――お友達が、何か掴んだのかな?』
――っっ!?
“面白い・楽しめる相手を見つけた”――そんな視線がDDに向けられた。
俺達を意識して、でも、そこには絶対の自信が溢れていて……。
やはり説明こそ省いていたが、気付かれていたか……。
『――うん、いいよ! やろっか!』
俺達の自己紹介など必要ない、自分のやっていることを当てられるかどうか、それにしか興味がないと言わんばかりの態度。
だがむしろその方が、こちらとしても有難かった。
「っし! 乗って来た! ――誰か一人で良いんだからな、あいつの魔法のタネが分かればいいんだ! 頼むぞ皆!」
全員に声を掛けながらも、レイネやルオがいないことを密かに悔しく思う。
もうこうなったら、一人でも頭数が多いに越したことはないのだ。
そうか、それを言うなら逆井もいてくれたら……クソッ!
「ロトワ、やってやるであります!!」
「フフッ、ロトワ、やると言うよりも“見抜く”のが大事ですからね?」
「ふぅぅ……少し目を解しとこう」
「私も、ちょっと本気で頑張るね、マスター」
鉢巻を頭に巻いて気合いを入れたり、あるいはリラックスしたりでそれぞれが出来る準備をする。
リヴィルに至っては、久しくなかったらしい本気を出すと息巻いていた。
「さて……俺も気合い入れるか」
“時間”の能力と言うことで、役に立つかは分からないがスマホを取り出し、ストップウォッチ機能を準備。
そして特に隠密やボス戦でお世話になる“灰グラス”を取り出して、タイミングを見計らい装着した。
視界が灰色に変化する。
1分の間だけだが、誰からも認識されないでいられる。
ちょっとでも集中力を上げようという悪あがきに似た策だった。
『――じゃ、始めるよ~。……まあちょっとだけ、ほーんのちょっとだけ。期待してあげるからさ。“勇者”ちゃんもお友達も。ネジュリちゃんを楽しませてね?』
――ネジュリがそう告げた瞬間、世界が止まった。
いや、違う――
『……あ~らら~。ざぁ~んねん。やっぱり誰も気づいてくれない、か。……ネジュリちゃん、悲しい。めそめそ』
――ネジュリ以外が、止まっていた。
その手には、独特の意匠が施された短剣が握られている。
ネジュリは動き、織部の顔の前で手を振った。
……しかし、織部は勿論反応しない。
『ま、無理もない、か……“体感時間”がずーっと止まっちゃう、ズルみたいな魔法だもんね。うんうん、仕方ない……仕方ないよ』
ネジュリは誰にも聞かれていないと確信をもって独り言を呟き続ける。
だがそれは止まっている皆をバカにして口にしている、と言うよりは。
……何だか、誰も同じ時間を共有してくれないことを寂しがる、そんな呟きのようにも聞こえて……。
――って、あれ?
……えっ、俺、止まって無くない!?
慌てて周囲を見ると――
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
……反応がない、ただのラティア達のようだ。
――って違くて!!
ラティア達もまるで人形のように固まっていて、ネジュリと同じように目の前で手を振ってみても視線一つ動かず。
――あっ、“灰グラス”さん!?
俺は自分だけが魔法の効果から逃れた原因に思い当たり、縁を撫でるように触る。
認識されないから、そもそも魔法の対象範囲の判定から外れたのか!?
おぉぉ……そうか、なら――
「…………!」
これ幸いと、全く俺に気付いていないネジュリを、一人孤独に観測し続ける。
そう、一人でもいいのだ。
これはその仕掛けを誰か一人でも暴けば勝ちなゲームなのだから。
次話の前半で決着予定です。
なんか久しぶりに真面目な話が続く……。
だ、大丈夫!
次話でちゃんと決着ですから、シリアスだけ続くなんてことはありませんから!
これが終わったら少し落ち着くと思います。
感想の返しも貯まりに貯まりだしましたからね……一気に時間を取って返していきたいと思ってます。
滞ってて申し訳ないですが、今しばらくお待ちを!
ちゃんと読んでニヤニヤしたりしてますので!!




