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314.何でこうなったんだろう……。

お待たせしました。


ではどうぞ。




「っし。じゃあ今度は俺は指示出さないから。4人でやってみ」


「ギシッ!!」 



 リーダーを務めるゴッさんが機嫌良く返事する。

 自宅の庭に出来た、ダンジョンの2階層目。


 最初は俺やラティア、それにロトワがサポートしていたが、大丈夫そうだと判断して任せてみることに。



「Giggg,gigi,gigigi」 



 一方、そう指示されてもゴーさんはクールだ。

 高揚するでも、はしゃぐでもなく、サッと前へ出る。


 師であるリヴィルに影響されたのか、淡々と自分の役割を理解して動くのだ。

 うーむ、渋いぜゴーさん。  



「そうです、二人とも、しっかり頑張ってください」


「ニュッ? ニュゥゥ!!」


「クニュッ!! クゥゥ……!」 


 

 ラティアに確認を取り、盛り上がっているのは水と風の子竜達だ。

 幼い故にか、自分が活躍できる場を与えられ純粋にはしゃいでいる。


 

「じゃ、頼むぞ?」


「シャッ!! ――シシッ、ギシィ!!」  



 ゴッさんの合図とともに、ゴーさん達も進みだした。

 先頭はゴッさんが務める。


 斥候(せっこう)、そして隊のリーダー役だ。


 その後ろを歩くのがゴーさん。


 後ろに控える大砲役の竜達、それを守る壁。

 そして自身も、ゴーレムとしてのワンパン力を持つ戦闘の要だった。




 俺達も適度な距離を保ち、後から付いていく。

 今回はゴッさん達主体で攻略を目指してもらう。


 5分程進むと、前列が止まった。 

  


「……あっ、接敵しましたね」


「です! ……うーん、やっぱり2階層目はアンデッド系でありますね」

 


 ちょっぴりゴーさんの体で見え辛いものの、俺達も先程戦った包帯ゾンビと、それを操るような魔術師ゾンビだ。


 包帯ゾンビは意外に力も強く、ちょっとやそっとじゃ戦闘不能にならないところがかなり厄介である。

 数が多いと相当に苦戦するだろうが、今の所は魔術師の方も含め最大2体しか一度に現れない。

 


「だな。まあ最悪は俺達もいるし、やられることはないと思うけど……」 



 後ろでそう分析しながら戦いの行方を見守る。

 戦闘が始まった。



「ヴォォォォォ……」


「ギシッ――」




 ゴッさんが包帯ゾンビの脇を抜ける。

 一気に駆け、奥で粗末な杖を掲げる魔術師を狙った。

 


「そうだ、それでいい……」


 

 今までも俺は見本を示すように、後衛を優先して狙うよう指示を出していた。


 自分が行ける時は自分が。

 それが無理でもレイネやリヴィルに“奥の奴を狙え! 魔法を使わせるな!!”と言ってきた。


 本人たちが例えそれを自覚していても、口を酸っぱくして言い続けた。



 そう言う姿勢が、指揮を執るゴッさんにも生かされていたのだ。



「Gigーー!!」


 

 包帯ゾンビの足止めも兼ね、ゴーさんがその巨腕を振りかぶる。

 緩慢な動きを見せる前衛のゾンビに、その右ストレートがクリーンヒットした。

    


「……やっぱり重そうだな」


「ですね。ゴーさんの一撃でも、思った以上に飛びません」



 包帯ゾンビは吹き飛ぶことなく、大きく後退るにとどまる。


 俺達が参戦していた時でも大体はこうだった。

 戦闘不能に中々なってくれないし、そもそもがタフなのだ。 


 頭がおかしな方向に曲がろうと、腕や足がもげようと。

 よっぽど大きなダメージを与えない限り、動き続ける。



「やはり、後ろの魔術師の方を倒した方が早いでありますね……」


「ああ」



 ロトワの言う様に、その動力源となっている魔術師を潰した方が効率がいい。


 ゴッさんもそれを頭に入れて、全体像を組んでいるはずだ。



「――ギシッ!」



 ゴッさんの声が飛ぶ。 

 リーチの短いナイフで、器用に杖と渡り合っていたゴッさんの合図だった。

 


「クニュッ――」



 そのタイミングで、ワっさんが短い詠唱を終えた。

 ワイバーンとしての風のブレスではなく、普通の風魔法。


 詠唱のための魔法陣が、そのまま完成した魔法を構成する陣へと移行。



 地面をスライドするように動いて、ワっさんの真下から包帯ゾンビへと場所を移し、強く光った。



「……【ウィンド・バーン】ですね」


 

 ラティアの呟くのと同時に、間欠泉(かんけつせん)が噴き出すように、陣から風が吹き上がる。


 あのゴーさんのパンチでも飛ばなかったゾンビが、大きく空中へと押し上げられた。


 そして――



「――ニュィィ!!」



 シーさんが吠える。

 ワっさんの魔法で、一直線に道が出来た。

 

 そこに、水のブレスが放たれる。



「Gii――」



 的になりかねないゴーさんが端に避ける。

 そのすぐ後に水の弾丸がスッと過ぎ去っていった。


 そして切り結んでいたゴッさんも、ナイフで強く相手を押して後ろに飛び、その場に伏せる。


 アクアブレスが直後に着弾。

 魔術師ゾンビの腕もろとも、貧相な杖を破壊した。



「ヴォァァァァァ……」

  

 

 包帯ゾンビが枯れるように倒れ込む。

 次第に動かなくなり、完全にその活動を停止した。



「……ふぅぅ。勝負アリ、だな」



 後は残った無力の魔術師ゾンビをしとめるだけ。

 俺はそこで改めて、4体でも安心して戦えることを確認したのだった。 




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「この後のゴタゴタが片付いたら、ゴッさんとゴーさん、守護者化を早めてもいいと思う」


「そうですか……ご主人様がお決めになられたのであれば良いと思います」


 

 含みがある言い方だな……。

 何でそんなにゴッさんとの仲が険悪なのか……。



 俺達抜きでも2階層が攻略出来る目途が立ち、今日も早目に切り上げる。

 この後の織部の件、それが終わった先のことを相談すると、そんな反応が返って来た。



「えと、うん……まあ、その、ゴッさんもただ戦うだけじゃなくて、リーダーとして上手く指示も出してたと思うし。周りもちゃんとそれに合わせられていたというか、はい」



 何だか都合の悪いことが妻にバレて言い訳する夫みたいになってしまう。 ……いや、だから“妻”と“夫”って何だ。


 違うから、うん。

 そう言う事じゃないから。



「ルオちゃんとレイネちゃん、今日はお泊りでありますよね?」


「ええ。ですから、今日は4人で……ああ、もしかしたらハヤテ様も入れて5人で食事になるかもしれませんね」



 ラティアも俺の脳内戦に気付いた様子はなく、ロトワと楽し気に会話していた。

 ……まあラティアと言えど、そう頻繁(ひんぱん)に俺の考えを見抜くわけでもないからな。


 逆に俺が心理戦の上を行って、ラティアに土を付けたこともちゃんとある。


 

 ……あまり気にしすぎも良くないな、うん。






「……おっ、メール来てた」



 外に出て、焼き付けて来るような日差しを浴びる。

 暑い……溶けそう。



 スマホを確認すると、幾つかメールがあった。



 ……そう言えばと、ふと思いにふける。


 一年前はこんな状況、想像もしなかったな……。

 誰かからメールや連絡が来てないか、定期的に確認する癖がついたなんて。

 

 ……逆に、恐ろしい人からの連絡が来てないと、心底ホッとする癖も付いたけどね。




『同志よ! 我と、そして我と血を分けし半身の神々しい姿を見よ! 魂の共鳴せし同志だからこそ、その目に焼き付けることを許可するのだぞ! 勘違いをしては神罰が下る、(ゆめ)々忘れること無きようにな!』



 先ずは光原妹からだった。

 添付ファイルには写真が一枚。


 光原妹と姉が、二人揃ってアイドル衣装で撮った写真だった。  



 なるほど……良く分からん。


 ……いや、メールの文面の意味は何となく分かる。


 翻訳:“ねぇねぇ! 私とお姉ちゃんの写真見て! えっとね、えっとね、凄い可愛いでしょ!? お兄ちゃんだからこそ見せてあげるんだからね、そこんとこ、勘違いしたらダメッ、だよ?”



 ……的な所だろう。


 だがそうじゃなく、何故に今そんなものを、しかも俺に送ってくるのか。

 プールの時にメアドを教えたのも、もっと事務的な、ダンジョン関連のやり取りを想定していたんだが。



「他は……ネット通販のお知らせ、ゲームアプリの宣伝……あっ、空木のメールも――ああいや、ラティアもロトワも。待たなくて良いから、暑いから先家に入っちゃって良いから」



 顔を上げると、二人が俺を待つように玄関に立っていたので、チェックの手を止めてそう促す。

 俺自身も入らないと遠慮するかと考え、とりあえず中に入ってからメールを開くことにした。



「……あっ、もうハヤテ様、いらしてますね」


 

 一緒に玄関に入ると、既に見慣れた赤星のスニーカーがあった。

 ……この後待ち受ける、織部の件で来てくれたんだろう。


 今日は生憎と逆井が来られないので、事情を知る赤星に来てもらったのだ。



 ただ、何か複雑だな……。

 気分を変える意味でも、改めて空木から来たメールを確認する。



『お兄さん、凛音(りおん)ちゃんが和奏(わかな)ちゃんとの可愛らしい自撮り写真送ってません? そこはチャンスですよ! 褒めてあげましょう!! 今好感度60くらいです、後一押しで凛音ちゃん、コロッとイキますから。その後でじっくり姉も食べて――』



「何のメールだよ……」



 要するに、一緒に仕事をしていたらしい。

 他愛無いメールだった。


 全く気分変わってねぇぇ……。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「うっす、赤星。悪い、待たせたか?」

  


 リビングに入り、待たせたことを軽く()びる。

 赤星は笑顔で首を振り、掌でリヴィルを指した。



「ううん、大丈夫。リヴィルちゃんと楽しくおしゃべりしてたから」


「そうか……――リヴィルもありがとうな、留守番、助かったよ」


 

 話を向けると、リヴィルがぎこちない笑みを浮かべて応じる。



「う、うん。お帰り。……ほらっ、ロトワ汗かいてるよ。お風呂、行って来たら?」


「はいです!! ラティアちゃん、一緒に行きましょう!」

 

「はいはい、急がなくても、分かりましたから。――ハヤテ様、ご主人様、では少し失礼します」


 

 二人が脱衣所へと向かうのを見送り、改めてリヴィルを見て少し首を傾げる。

  

 ……?


 リヴィルの態度がぎこちない。

 いや、ラティア達には普通なんだが……。



「えっと……で、何の話してたんだ?」


 

 軽いジャブのつもりで探りを入れる。

 キッチンに向かい、軽く手を洗って麦茶を出す。

 


 喉を潤しながら、様子を窺った。

 さて、どう出るか……。




「それは……」



 

 だが、リヴィルが言い淀んだ。

 その話題こそが、この態度の原因らしい。


 リヴィルがここまで俺に違和感ある表情を見せるなんて……。

 一体どんな話題だったんだ――




「――あっ、えっとね新海君! “織部さん”の話で、私達、盛り上がってたんだ!!」



 

 意外にも、答えは直ぐに出てきた。


 これまた珍しい、純粋な喜びを表しながら、自ら何かを進んで話す赤星。

 それはまるで憧れの、尊敬する人について、話したくて話したくてしょうがない子供のように見えて……。

   

 

「へ、へぇぇ……織部の話か。そりゃそうだよな、今日はそのために来てもらったんだから」


「うん! あのね、織部さんって、本当に凄い人だよね! 綺麗だし可愛いし、何より王道の清楚系美少女って感じがして! もう眩しくて仕方がないって言うかさ!」



 お、おう……。

 ……えっと、それは並行世界の織部さんのことかな?



「…………」



 リヴィルと目が合う。

 赤星から見えていない後ろで、リヴィルは普段は見られないくらいの凄い顔をしていた。


 ……なるほど、そりゃリヴィルが顔を引きつらせる訳だ。

 

 要するに、俺達がいない間、ずっと“綺麗な織部”の話題が続いたのだろう。

“痴織部”を知っているリヴィルからすれば、曖昧な笑みで応じ続けるしかなかった、そんなところか。



 

「そ、そうか? ま、まあ凄いっちゃあ凄い奴だとは思うよ?」


「だよね! 新海君もそう思うよね!? ――あぁぁ、仕方ないとは思うけど、それでも考えちゃうよ。織部さんがいたら、きっとシーク・ラヴはもっと凄いことになってたんじゃないかな、って」



 うん、凄いことになってただろうね!!

 織部(やつ)が公共の電波に映る、マジのアイドルに……考えただけでゾッとする。 

 

 ただそれはあくまでも、織部自身の性癖的な問題であって、俺達が積極的に打ち明ける話ではない。


 赤星よ、早く自分で、織部の本性に気付いてくれ……!




 ――っと、そうだ!



「あっ、もうそろそろ織部と連絡とる頃だな、うん! ――赤星、今日の趣旨って大丈夫か? 分かってるか?」


 

 少しでも話題を逸らす意味で、今日の本題へと触れてみた。

 異世界も絡んだ、本質的な話に入ると理解し、赤星は笑みを消してサッと背筋を正す。


 ……こういう所はやっぱり、赤星らしくちゃんとしてるんだよなぁ。

 何でこうなったんだろう……ぐすん。




「うん、勿論。――あれだよね、織部さんが“五剣姫”、その5人目の人と交渉する日、なんだよね?」



 

熊本弁(偽)はやっぱり難しいですね……。

もうちょっと読解力上げないと。


織部さんは次、ですね。

織部さん、本当に厄介な相手です。


織部さんのことを書く話になると、たまに動悸がします。

SAN値もゴリゴリ削られるような気がして……。


ああ、私も赤星さんみたいに綺麗な織部さんしか知らない、純粋な世界の住人になりたい(白目)



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― 新着の感想 ―
[一言] 熊本は豪華絢爛たる死の舞踏が生まれる土地だけあって方便も難解だなぁ(棒
[良い点] 流石は織部さん 名前が出ただけで作品の空気をガラッと変えてくれるぜ [気になる点] 織部さんの影響が、作品の中にとどまらない今日この頃 いや、かなり前からか
[一言] ちゃんと凛音ちゃんのことは褒めたんだよな!
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