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312.えっ、あれっ!?

お待たせしました。


ではどうぞ。


「悪い子はいねぇぇがぁぁぁぁ!!」



 水着に着替えて、俺達は早速プールの中を泳いでいた。



「きゃぁっ! ははっ、来た来たぁ!!」


「うわぁぁ、捕まるでありますぅぅぅ!」



 俺の接近を知り、逃げるルオとロトワ。

 他のお客さんも多いが、迷惑にならないよう自分達のスペース内で楽しむ。

 

 水中で簡単な追いかけっこをするだけで、こうもはしゃいでくれるとは。

 午前は二人に付きっ切りになって、遊んでやる約束になっていた。

 

 

「お兄さん達元気ですねぇ……お姉さん達みたいにのんびりすればいいのに」


 

 傍にいる空木がダラけきった声で言ってくる。

 マットの上で寝そべってプカプカ浮いており、休暇を満喫していた。



「まああっちは年長組で、楽しくやってるんだろう」 



 一旦クロールを制止し息を整え、ビーチサイドの近くで遊んでいるラティア達に目をやる。

 

 リヴィルやレイネ、そして光原妹と4人で、ビーチボールを使った遊びをしていた。 



「それっ」


「んっ! レイネ、行ったよ」


「っし、任せな! ――っと! リオン、アタックだ!」


 

 水中から体を出し、3人がトスやレシーブをして、フワフワとボールを宙に浮かせる。

 ……その拍子にプルンと跳ねるそれぞれの胸に、思わず視線が固定されそうになった。



 ラティアのそれが話題に上がることが多いが、リヴィルやレイネのも十分に暴力的だな。

 水着な分肌の露出もあり、意識的に目を逸らさないとずっと見てしまいそうになる。



「――必殺!! “魔黒砲(ダーク・キリング・バスター)”……ふべっ!?」 



 タイミングが合わず、光原妹はモロ顔面にボールが当たってしまう。

 変装のためにと付けているサングラスがズレて、可愛らしい悲鳴と共に顔が露わになりそうになる。



「……大丈夫なのか、あれは」


「大丈夫なんじゃないですか? ……むしろ一瞬で分かったお兄さんの方が凄いんですよ」



 空木は自分も含め、そう簡単に一般人にはバレないと告げる。

 


「昨日に飛鳥ちゃん達が来てるんです。次の日にまさか他のメンバーがお忍びで来るなんて、誰も想像しませんよ」


「……まあ俺にバレたのは、ほぼ光原妹(アレ)の自滅だけどな」



 確かに空木の言う通り、“このどこか同じ空間内に、シーク・ラヴのメンバーがいる”と意識してでないと、疑うという行為すら思い浮かばないだろう。


 そう考えると空木が仕事の次の日、つまり今日を狙って光原妹と共に訪れたのは合理的だと言える。



「――……ご主人。大丈夫? 疲れちゃった?」


「であれば、少し上がりますか?」


 

 空木と少し話し込んでいたら、ルオとロトワがこちらに近づいてきた。

 追って来ない俺を見て、心配になったらしい。


 

 ほぅ……。


 

「――フフッ、かかったな。自ら俺のテリトリーに入ってくるとは! 飛んで火にいる夏の虫とは正にこのことよ!!」



 芝居がかった口調でいきなり泳ぎを再開。

 二人が驚いて逃げに反転しようとするも、時既に遅し。



「はいタッチィィ! ルオもロトワもアウトな」


 

 相手の方が勝手にこちらに寄ってくる、新海ゾーンで捕獲に成功。

 だが捕まって楽し気にはしゃぎながらも、ルオは不満を言ってくる。



「もう~! ご主人ズルいよ!!」



 社会における勝負の厳しさを教えてやるのも、保護者たる俺の役割なのだ。



「うぅぅ~、捕まってしまったであります。……仕方ないであります、ルオちゃん、鬼、頑張りましょう!」



 ほれっ、ロトワはもう既に敗北の苦みを飲み込んで、前を向こうとしているぞ?

 


「うん、分かった……――よーし! じゃ、ご主人、先に逃げてて。ちょっと助っ人頼めないか、ラティアお姉ちゃん達に聞いてくるから」



 うわっ、ちょ!?

 おまっ、それはズルだって!!


 ただでさえ1対2のハンデを受け入れてるのに!

 イジメ、ズル、良くない!

      


 そうして午前一杯はルオやロトワと中心に遊び、体力をガンガン削ったのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「ぇぇぁぁぁぁぁぁ……疲れたぁぁぁ」


「……地獄の底にいる亡者みたいな声出してますよ、お兄さん」



 食事も出来る休憩スペースで椅子に座り、ダラっとテーブルに突っ伏す。


 お昼になってようやく長い休息が取れる。 

 体をこれでもかと動かしたもんだから、流石にお腹も減った。



「フフッ、マスターお疲れ様。ラティア達、もう直ぐ帰ってくると思うから、少しだけ我慢してね」



 ラティアとレイネ、そしてロトワが今、昼食の買い出しに向かっている。

 俺が頑張って遊びに付き合ったことを気遣ってくれたんだろう。


 率先して名乗り出てくれた。



「でも楽しかったね、リヴィルお姉ちゃん! 追いかけっこ、最後の方は凄い白熱してたし」


「レイネなんてタッチする時、ちゃっかりマスターに抱き着いてたからね」



 ……やられた方は逃げるのに必死で、意外にその感触を覚えてなかったりする。

 いや、そりゃ他のお客さんもいる中だしね、自分達が遊ぶスペース内で逃げるとなると、結構キツいんだよこれが。  



「あ~あの皆でお兄さん包囲網を作ってた時の。あれってラティアお姉さんの差し金なんでしょ?」



 空木は一人のほほんと波のプールに揺られて、そうして寛いでただけだが。

 それはそれで楽しんでこちらを見ていたらしい。



「フフッ、だからそれをレイネも知ってて。それで借りに思って買い出しも付いて行ったんだと思うよ?」


「リヴィルお姉ちゃん曰くレイネお姉ちゃんは“ムッツリツンデレ”さん、だもんね!」



 そんなこと言ってんのかリヴィルは……。 

 いや、妥当な評価だとは思うけどね。


 ってか多分、名付け親は俺だし。



「――うにゅっ……えと、あの……」



 リヴィルやルオ達の会話を聞き役に回って眺めていると、光原妹が一人、モジモジしているのが目に入る。

 唯一の知り合いたる空木もこちらの会話の加わっているため、何とか話に入ろうとタイミングを窺っているらしい。



 光原妹は、警戒心が強い性格かと思っていたが、ラティア達とはすんなりと打ち解け、楽しんで遊んでくれていた。

 ラティア達があまり有名人に興味がない所がかえって良かったのかもしれない。


 

 そうして午前の遊びでかなり距離も縮まったと思ったが、やはり純粋な会話となると少しまだ勇気がいるのかな……。


 ……じゃあ、きっかけくらいは作ってやるか。



「……ところで“同志”。同志は今日の休暇はどうだ? リフレッシュ出来てるか?」



 そんな何気ない話を振ってみることにする。

 呼び方はやはり身バレに配慮した。


 ……ちなみに、空木も似たような感じで呼んでやろうと思ったが、今日は下の名呼びを徹底させられている。

 まあ本人がそれでいいなら、別に良いけど。



「!? ど、同志って……――り、凛音(りおん)の!? 凛音のこと!?」



 いや、そうだけど。


 ……ってかあれ? 

 中二言語は?


“我のことか!?”って言わないの?

 

 

「……フフッ。お兄さんが、凛音ちゃんの話を聴きたいって」



 そこで何故か空木が、優しく光原妹に頷いた。

 いや、別に通訳いらなかったんだけど、今通じてたじゃん。


 

「っっ~~!! ――あっ、あのね、あのね! 凛音、今日凄く楽しくて! お兄ちゃん、さっき凛音がばっちり変装してたのに、直ぐ凛音だって気付いてくれて! それで、えっと、えっと!!」


「あぁぁ、ちょっ、分かった、分かったからちょっとストップ!」



 あの中二感溢れる雰囲気は鳴りを潜め、今は普通の女の子が興奮した様子で早口に捲し立てていた。


 その変わりっぷりに驚き、慌てて話を止める。



「おぉぉ~! 流石はお兄さん。顔を合わせてまだ半日くらいなのに、いきなりもう一人の凛音ちゃんを表に出させるとは」


 

“もう一人の凛音ちゃん”って何だよ。

“もう一人の僕”みたいに言うな。


 この子は闇の決闘(デュエル)とかが出てくるカードゲームでもしてんの?

 古代エジプトが関係してくるアイテムでも持ってんのかよ。



「っっ!! 今のはちっ、違っ――わっ、我は別に普段と何も変わらぬ! た、ただお兄ちゃんが我の同志足りうるか、試したまでよ!」



 空木の指摘を受け何か恥ずかしかったのか、光原妹は慌てたように口調を戻して可愛らしく威張ってみせる。



「……マスター、“お兄ちゃん”呼びってツッコんで良い所かな?」



 ……ダメなんじゃね?

 隣から体を伸ばして耳打ちして来るリヴィルに、首を小さく横に振るだけでそう答える。


 

「――えっと……リオンちゃん! リオンちゃんと一緒に遊べて、ボクらも楽しいよ!」


 

 話を戻すようにルオが純粋な笑みを浮かべてそう口にした。

 それで光原妹も嬉しそうに口元を緩める。



「そ、そうか? ――う、うむ! ほっ、本当は白く小さき妖精も我らと、神から与えられし祈りの日を共にするはずだったんだが、でも、これもまた一興よな!!」



 ん? 



「あぁぁ~今日、律氷ちゃんも誘ったんですけど、流石に仕事で日程が合わなくて来れなかったんですよ」



 空木がプチ解説してくれたおかげで、直ぐに理解できた。



「そう言うことか……」



 でも、まあ俺達と一緒に過ごせたのは嬉しいって言ってくれてるんだろう。

 


「へぇぇ~リツヒともっと仲良しになりたいんだ!」


「おぉっ!! そなた、白く小さき妖精と前世からの付き合いか!? 是非、奴のか弱き泣き所を告白するがいいぞ!」



 俺流の翻訳:“えっ、君、律氷ちゃんと仲良いの!? 是非教えて! 律氷ちゃんの好きな事とか!”



 ……そうして特にルオとは、何故か相性が良かったらしい。

 こうしてきっかけさえあれば、勝手に仲良くなっていく。

 


「……凛音ちゃん、誤解されることも多いんですけど。でも、お兄さん達と偶然会って。そうして一緒に過ごせて、正解だったみたいですね」



 空木が独り言のようにして感想を呟いていると、丁度ラティア達が戻って来るのが見えた。


 ロトワもレイネも自分の好きな食べ物を選べて、ホクホク顔だ。

 折角フードコートまで買いに出てくれたんだ、それくらいのうま味があっても良いだろう。



「……えっと、で、お昼一緒に貰って、本当に良いんですか? 後で払えって言われても、ウチ、今体以外に資本ありませんよ?」


「……日本円での返却も求めないし、“グヘヘ、なら体で払ってもらおうか!”とか言わないから」




 ……空木達には入場料の分もあるし、昼飯代は俺が出すから。

 

 

 こうして皆で盛り上がりつつ、昼食を食べ始めるのだった。



水着の男女の追いかけっこ……。

男性が追いかける側の方が下心的な感じで盛り上がるイメージがあるんですが。


ラティアやレイネが参戦すると、むしろ女性陣が追いかける側の方が盛り上がるようですね(白目)


そして中二っぽい言葉って、考えるの結構大変なんですね……ちゅらい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中二っぽい言葉って、考えるの結構大変なんですね そんなあなたにノムリッシュ翻訳をオススメするよ(目そらしつつ)
[一言] 熊本弁は、考えるのも解読するのも大変ですよね。
[一言]  ……その拍子にプルンと跳ねるそれぞれの胸に、思わず視線が固定されそうになった。 > ラティアのそれが話題に上がることが多いが、リヴィルやレイネのも十分に暴力的だな。 > 水着な分肌の露…
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