30.現場へ急行――なお、移動代は俺が立て替える模様!!
また日を跨いでしまい、申し訳ありません。
可能な限り早めに始めてはいるんですが、それでも夜遅くに執筆を始めることが多くて……。
それはまあ今はいいですか、ではどうぞ。
「……これ、続きは?」
俺は何とか停止していた頭を働かせ、逆井にメールの先を促す。
「う、うん! えっと――」
逆井も俺と同じように驚いたのだろう。
疑問を呈するメールを相手に送っていた。
『え!? “ダンジョン”が“ダンジョン”を食べる!? ゴメン、意味わかんない!』
『一つの穴が消えたと思ったらさ……もう一つのダンジョンの穴に、吸い込まれていったんだ……』
『吸い込まれて行った……どんな風に? こう、ふにゃ~んって感じ?』
…………。
「見せてくれるのは助かるが、お前のこの、感覚的な言葉、何とかなんないのか?」
「しょ、しょうがないじゃん! アタシだって、動揺してたの! 訳わかんなくて、それで――」
「ああ、分かった分かった。その点は後にしよう」
このままだと話が逸れると思って、即座に軌道修正する。
「……むぅぅ。わかった」
逆井はどこか不満げだが、続きのメールを開いていく。
『えーっと……“ふにゃ~ん”かどうかは分からないけど……一つの穴が、もう一つの穴にバクっと、本当に食べられたような感じなんだ』
……やっぱりこのメール相手も逆井の感覚は良く分かっていないらしい。
それはともかく――
「……一先ず、お前の言いたいことは分かった」
確かに“ダンジョンがダンジョンを食べた”という事象は捨て置けない。
「うん……ハヤちゃんも、今も旅行を取りやめて事態を見守っているって――」
『穴がさっきより大きくなってる気がする。これは放ってはおけないかな……ちょっと監視してみるよ。残念ながら旅行は中止だね』
逆井は、そのメールを見せてから言い辛そうに切り出す。
「ねぇ……その、さ。この後、新海、何か、ある?」
……この場面だ、流石に俺も間違えない。
「……分かった。行くんだろ? ――で、正確な場所は分かってんのか?」
俺は逆井の意図を汲み取って、そう先に告げる。
対する逆井はというと――
「あ……うん、その、ごめん、ね? ちょっと卑怯だった、かな?」
……はぁぁ。
そんな申し訳なさそうにされてもこっちが困る。
「そうだな。女子トイレに男子を連れ込んで期待させといて。蓋を開けたらエロも何もなく一緒に働いてくれと来た、男心を弄ぶ卑劣な所業だ」
大袈裟なまでに、非常に残念そうな表情で。
俺は芝居がかったように、そう告げる。
そんな俺の言葉を聞いて、逆井は一気に顔を真っ赤にした。
「はっ、はぁぁぁぁ!? バッ、バカ!! 何でアタシが、その、に、新海とその、トイレで、エロい事なんて――」
「――ほれっ。エロはまた次回の埋め合せの時に期待するとして、さっさと行くぞ」
俺は、未だ果たせていない、以前逆井と約束したことを引き合いに出した。
「あ――う、うん……そう、だね」
「おう」
…………これで、多少は引け目を感じずに済む、かな。
――でも俺はトイレでエロいことをしてみたかった変態のレッテル一歩手前だがな!!
は、はは。
いいんだ。
この際“灰グラス”をエッチいことに使っちゃおうかな。
と、そんなアホな思考は置いておいて。
話がまとまり。
流石に女子トイレにいることの気まずさを思い出し、俺はさっさと外へと出た。
「…………バカ。ありがと」
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急いで向かいたいところだが、準備も必要だということで一時別れ。
直ぐに俺は走って家へと帰った。
途中、一件メールが届き。
逆井からか、とも思ったが、そもそも別のスマホだった。
『件名:シイナです。初回持ち込み、確認しました。振込済みです。ご確認を』
とあったので、後は見ずに、戻ることに集中した。
玄関のドアノブへと手をかけると、どうやら鍵はかかっていない。
乱暴に開け放ち、迷わず声を上げた。
「――ラティア! リヴィル!」
中に入ると同時に、俺は視線を下に移す。
二人の靴はある。
どうやら家にはいてくれているようだ。
「――……ご主人様?」
二階から、声が返って来た。
ラティアのものだ。
「二人とも! 居るならスマンが、降りてきてくれるか!?」
二階に届くように、声を張る。
すると、10秒もしないうちに、慌ただしい足音が聞こえて来た。
「――マスター、どうしたの?」
先に階段から顔を出したのは、リヴィルだった。
続いてラティアも降りてきてくれる。
「悪い。ちょっと急用ができた。実はな――」
「――ふーん……」
「“ダンジョン”が、“ダンジョン”を、ですか……」
先ほど逆井から知らされたばかりのことを、俺は二人に伝えた。
というのも、二人の協力が得られるかもしれないからだ。
急だし、最悪家にいなかった場合も考えていた。
まあだから、着いて来てくれなくてもいい。
ただその場合でも、何か知っている情報があるのなら教えて欲しい。
そういった趣旨を伝えると――
「申し訳ございません……私はその現象については、お役に立てないかと」
ラティアは力になれないと悔しがるように俯く。
そうか、ラティアは分からないか。
結構博識な面もあるラティアが知らないとなると、情報は期待できないか。
「――それ、私、分かるよ?」
――意外なところから声が上がったのは、そんな時だった。
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「……新海。私、聞きたいこと、あるんだけど」
「……奇遇だな、逆井。俺もある」
集合場所へとやって来て。
ダンジョン探索士の制服に着替えていた逆井と合流するや否や。
俺たちは互いに、相手へと疑念の籠った視線を送る。
最初にそれが爆発したのは、逆井だった。
「――ラティアちゃんは分かる! でも、何でもう一人いるし!? ってかこの子、あれだよね!!」
ラティアの隣で佇むリヴィルを指さし。
そして逆井は器用にスマホを操作して、写真を開く。
「これっ! ハヤちゃんが送ってきた写真の子、この子でしょ!!」
「――あっ、これ朝のですね」
「ほんとだ。へ~。私の後ろ姿って、こんななんだ」
逆井が見せた写メを、ラティアとリヴィルは感心したようにして眺めていた。
……それがほぼ、逆井の疑問の回答となっているのだが――
「この子はリヴィル。ラティアと同じく俺に仕えてくれてる――で、逆井」
俺は手早くリヴィルの件の話を打ち切り。
今度は自分の番だと、人差し指を、逆井の後ろに突きつけた。
「――お前なんでタクシーで来てんの!? 隣の県だろ!? そこまでタクシー一本で行くつもりかよ!!」
一般の高校生には馴染みがない乗り物の代表格で、逆井はこの集合場所までやってきたのだ。
そして、未だにこの黒い車体のタクシーを待たせていることからして、コイツはどうやらこれで向かうつもりらしい。
「え!? えっと……そうだけど、何かマズかった?」
逆井は首を傾げて、また先ほどのようにメールを操作し始める。
そして該当のメールを見つけたのか、それをこちらへと見せた。
時間からして、俺と別れた後のものか。
『ハヤちゃん、今からアタシもそっち行くね!! それまで危ないことしちゃダメだよ?』
『来てくれるんだ! 助かるよ、ならタクシー使ったら? 探索士の調査の一環だってなれば、ちゃんと後でお金返ってくるから。領収書か、それにあたる物?はちゃんと貰っといてね』
「…………」
ハヤちゃんぇぇぇ。
いや、まあそれは分かった。
「……でも、戻ってくるの、“後”なんだろ?」
「ん? そうだと思うよ?」
それが何か? と言わんばかりの逆井。
コイツ……そういう制度とか、決まり事を積極的に破る奴じゃないが。
細かいことにまでは頭が回らない奴だった。
俺は、ラティアやリヴィルから聞いた、外出していた理由に意識を向ける。
そして、ここに来るまでに渡された、通帳を取り出す。
そこには『75000』という数字が、記入されていた。
「…………運転手さんに、先に最寄の郵便局、寄ってもらうぞ」
俺は未だ事態を理解していない逆井を促して、タクシーに乗り込んだ。
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「……何で新海が前乗ってんの?」
高速道路に入ったくらいのところで、逆井が口を開いた。
流石にダンジョン関連の細かい話をするのは憚られたので、そういう当たり障りのない話題を選んだのだろう。
「いや、女子3人で後ろの方がいいだろ」
席順はどうあれ、俺が後ろに行くと非常に居心地が悪い。
逆井とラティアは面識あるし、まだこの席配置はましだろうと思う。
「むぅぅ……え~っと、リヴィルちゃん、で、いいんだよね?」
逆井は話の矛先を、二つ右隣にいるリヴィルに向けた。
「……うん」
……リヴィル、それだけかよ。
「ああ……えっと――」
コミュ障気味の俺とすら積極的に話しかけてくる、あの逆井が、あたふたしていた。
だよな……。
リヴィルとの話って、そうなるよな……。
何故か妙な共感を覚えつつ、後ろの会話に耳を傾ける。
……流石に10分20分で着くとは思ってないからな。
「…………」
リヴィルはリヴィルで、逆井を無視しているというわけではなく。
未だにどこか人を避けるような気質が、癖が、抜けていないだけだと思う。
それはむしろ、できるだけ相手を、そして自分を、傷つけないために――
そうして生きて来たリヴィルなりの、気遣いなんだろう。
「――リヴィルは、寡黙ではありますが、芯が通ってて、内には熱いモノを秘めている、とっても良い子なんです」
一瞬沈黙が下りた車内の会話に、助け船を出す形でラティアがそう述べた。
「もう、ラティア――」
そこまで言われて、流石に恥ずかしかったのか。
リヴィルは左隣のラティアに声を掛けようとしたが、そこで言葉が止まる。
「――へぇぇぇ……意外」
ミラー越しに見る、後部座席で。
ラティアから乗り出すようにして、逆井はリヴィルに体を寄せていた。
「アタシ、そういうの、凄くカッコいいと思う。リヴィルちゃん、美人でカッコいいとか、反則じゃない?」
「…………」
逆井の真っ直ぐな言葉を受け、リヴィルは殆ど気づかないような程だが、目を見開いていた。
「……リヴィルちゃんって、新海んとこにお世話になってるんでしょ?」
リヴィルはチラッと、ミラー越しに俺を見る。
俺は特に首を振るでもなく、リヴィルに任せた。
「……そう。マスターのとこに、住んでる」
慣れない身内以外との会話で、リヴィルは苦労しながらも絞り出すようにして、そう答えた。
それを聞いた逆井が一瞬、ジト目で俺を見て来た。
……なに、何か用?
俺はドライバーさんの巧みな運転技術に感心するので忙しいんだけど。
ん?
“知り合い”とか何とか言ってなかったかって?
……記憶にございません。
よし、これで俺も政治家としての大事なスキルを身に着けたな。
はっ!? その前に誰も俺に票入れてくれないから当選できない!!
迂闊!!
圧倒的迂闊!!
そんなアホな思考を一人で繰り広げていると――
「はぁぁぁ……」
こうして、逆井に盛大な溜息を吐かれた。
その後、やれやれと首を振って、リヴィルに微笑みかけた。
「フフッ。――リヴィルちゃん、カッコいい所は良いけど、こういう部分は、似たらダメだからね?」
……どういうこと?
アホな考えに思考を割いていたせいで、ちょっと意味が良く分からなかった。
「クスッ……」
だが、ラティアは理解できたようで。
その会話を楽しむように笑っていた。
「……マスターと似てるんなら、そこは、嬉しい、かも」
リヴィルも大体の意味を察したらしい。
クッ!!
やっぱり女子3人だけで盛り上がってやがるじゃねえか!!
ふん、いいもん!!
俺は運転手さんと男の渋いおじさん談義して時間潰すから!!
その後、車内では気まずい雰囲気が流れることもなく。
ラティアと逆井が主に話して、時々リヴィルが相槌を打ち。
俺は運転手さんに、娘が最近トイレや洗濯、果ては風呂を別にしてくれと言われて悲しいとの話を延々と聞き。
それぞれ時間を潰していた。
『今も監視中。穴はまるで咀嚼するみたいにグワングワン動くけど、大きな変化は今のところなし、かな』
時折逆井が相手からメールを受信して、状況を確認した。
一度パーキングエリアを利用したが、平日ということもあってスムーズに進み。
俺たちは、まだ空がギリギリ赤い内に、目的地に到着することができた。
とうとう総PVが100万を超えました!
他のランキング上位の優れた作品とは違って絶対的なPVが中々伸びない中で。
こうして100万という一つの大台を超えることができたのは、素直に嬉しいです。
評価していただいた方も、669名となり、文章・ストーリー共に3000ポイントを超えました。
ブックマークも順調に伸びており、6255件です。
先日も意味を完全に取り違えている誤字をやらかして、ご指摘いただいたばかりです。
偶にポカもやります。
それでも、今こうして続けていられるのは、やはり皆さんにご声援・ご愛読していただいているという事実があるからです。
本当にありがとうございます!
今後も、至らない点もありますが、どうぞご愛読・ご声援いただきますよう、よろしくお願いします!




