311.あれ? へぇぇ、偶然……。
お待たせしました。
本編で、プールに行く回です。
ではどうぞ。
「……う~し。皆、出発するけど、忘れ物ないな? 特に水着類は無いと最悪レンタルだぞ~」
欠伸を噛み殺しながらも、最終の確認をする。
心臓に悪い目覚まし時計のおかげでちゃんと目覚めはしたが、流石に眠い。
……特に志木の“かおりんりん!”は椎名さんからのメール並みにビビる。
“うわっ、志木からの敵襲か!?”みたいに慌てて飛び起きたぞ。
やっぱり寝覚めが良いのは皇さん辺りだろうな……。
「うん! さっきも確認したし、バッチリだよ!」
ルオは興奮からか、もう既に目がぱっちりと開いていて準備万端の様子。
凄いなぁ、俺なんかもう帰りのこと気にして行きたくないんだけど。
「フフッ、まあ最悪マスターが【影重】用のを沢山持ってるし、それで何とかなるよ」
「昨日の内にお渡ししておいたので、大丈夫と思いますが……」
リヴィルやラティアにに言われ、念のために俺もマジックバッグを確認する。
……まあ、大丈夫か。
ルオがどんな体格の人になっても問題無いよう、あらゆるサイズの衣類が入っている。
そして今回に限ってはコスプレの物も含めた水着も準備していた。
ラティア達が最悪忘れても、一応は大丈夫ということか。
「うっし! じゃあ行こうぜ――」
「――あっ……その前に一つ、良いですか?」
歩き出そうとしたレイネに、ラティアがストップをかけた。
俺に許可を求めるように視線を向けてくる。
長くはかからないと思い、頷いて返す。
「ありがとうございます――今日は折角、皆揃って行ける機会ですから楽しみなのは分かります。ただ、羽目を外し過ぎてご主人様に迷惑をかけない様、気を付けましょうね?」
ラティアの確認の意味を理解し、皆それぞれ、しっかりと返事をする。
なるほどなぁ~、あるある、こういうの。
遠足前とか、修学旅行の時とか。
“現地の人に迷惑かけない様、しっかりと自覚ある行動を取りましょう!”的なね、うん。
流石はラティアだ。
ちゃんと自分達でブレーキを利かせて、その上で楽しもうということだな。
「良いですね? ――では3か条。1、迷子にはならないこと。2、ご主人様以外のナンパには付いていかないこと。3、ご主人様以外の人工呼吸が必要な事態は起こさないこと。ルールを守って、楽しい思い出にしましょうね」
「分かったであります!」
「ん、了解」
「うん!」
「はいよ」
……えーっと。
今の3か条、“1”以外にツッコミどころあったんだけど……。
だが皆は普通に返事をするので、俺も深くは考えないことにする。
あんまし堅苦しくなり過ぎないよう、ラティアもジョークを交えて言ったんだろう。
……だよね?
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「あ゛ぁぁぁ……ようやく着いた」
「……マスター大丈夫? ゾンビみたいな声出してるけど」
「ははっ、まだ電車を乗り継いで、現地に着いただけなのにな」
うっせぇ。
リヴィルもレイネも、昨日俺より遅く寝た癖に。
何でそんな元気なんだよ……。
……ちぇっ、そんなに楽しそうな顔しやがって。
「うわぁぁ! 人が! 人が一杯であります!!」
「……ロトワァ、そう言う時は“人がゴミのようだ!”って言うんだぞ~」
「……ご主人、やる気が無さ過ぎて凄い適当なこと言ってる」
ルオにジト目でツッコまれた。
いや、本当にここの混み具合、凄いじゃん。
この夏真っ盛りに、こんなに人が訪れるとか、むしろプールはヤベェって。
水の波に溺れる前に人の波に飲み込まれて、蒸し風呂になって死ぬって。
俺もう既に帰りたいんだけど……。
「……なるほど。昨日、アスカ様やロッカ様達がここに訪れていたようですね」
「へ? 白瀬達が来てた?」
その呟きに反応すると、ラティアはスマホに視線を落としていた。
操作して見ていた画面をこちらに向けてくれる。
『シーク・ラヴがやって来た!! 大人気の探索士アイドル達が、水着姿で夏を盛り上げる!!』
短いネット記事だが、要するに……。
白瀬や逸見さん、そして飯野さんが昨日このプール施設に来ていたと。
それでミニイベントを開催し、今度やる記念ライブの広報も兼ねて遊んで行ったらしい。
「あ~この人混みはそう言うことだったんだね」
「翌日にこれだもん。宣伝効果、凄いよ。マスターじゃないけどちょっと酔っちゃいそう」
ルオとリヴィルも、改めて入り口を含め、プール施設を眺める。
屋内の大型プール施設を基本とし、他にも様々な国の温泉が楽しめるゾーンを併設。
そして去年から早くに工事に取り組んでいた新しい施設――ダンジョンをモチーフにした“水の迷路”も今年春に完成していた。
総床面積も非常に大きく、東京ドーム幾つ分とかで数える程の大型レジャー施設だ。
「時期が丁度で、家族連れも多そうですね……私達みたいに」
「…………」
今のラティアの最後の呟きは、完全に無自覚だろう。
ちょっと反応に困って、耳で拾いはしたが何も言及しなかった。
いや、勿論ラティア達皆を、家族の如く大事に想っていることは確かだ。
だがそこから話を進めると、どうしても“じゃあ父親的なポジションって誰?”とか“母親っぽいのは……まあラティアか……”みたいな所に行ってしまう。
それは深掘りしても、特定の人にしか益を生まないからな、うん。
回避するが吉だ。
「――さっ、行こうぜ。人が多いならなおさら、早いとこ入って、沢山色んな所を回ろう」
「はいです! うぅぅ~! 全部のアトラクション、周り切れるかどうか……!」
ウズウズしていたロトワが待ちきれないと言う様に、高々と手を挙げて同意する。
それに釣られるようにルオも、段々とソワソワし始めた。
……フフッ、分かった分かった。
そうして中へと向かって再び足を動かそうとした時だった。
人混みの中から外れて別方向に向かう小さな塊が。
その二人組はこちらへとドンドン近づいて来る。
「――あれ? やっぱりロトワちゃん? ……ってことは、えっ、お兄さん!?」
そしてその内の一人が、俺達を指差してそう、声を掛けて来たのだった。
何だか胡散臭い見た目をしているが、何だか既視感があるような気も――
「あっ! ……お館様っ、ミオちゃんですミオちゃん!」
真っ先に気が付いたロトワが俺に耳打ちしてくれた。
それで相手が誰か、そしてロトワが叫ばず“耳打ち”を選んだ理由を察する。
ああ……そっか、“空木”か。
「ははっ、そんな分かり辛い変装もするんだな。偶然も合わさって凄い不意打ちだったぞ。“美桜”」
相手の身バレに配慮し、下の名前を呼んで挨拶する。
“空木”という苗字は比較的珍しい故に、まだそっちの方がバレ辛いと思ったからだ。
「っっ!! ――どっ、どっちが“不意打ち”ですか。お兄さんは、全く……!」
だが何故かブツブツと不満を垂れる空木であった。
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「いや、悪いな、おかげで“2人分”入場料が浮いたよ」
「……いえ。ウチらも丁度“2枚”、優待券を余らせてたんで」
これも何かの縁という感じで、一緒に施設へと入場する。
更衣スペースに行く前に、軽く落ち着ける場所で話していた。
空木達もこれまた偶然か、知り合いに“4枚”この施設の優待券を貰っていたらしい。
それで、俺達が枚数が足りずに支払うつもりだった2人分を、都合してくれたのだ。
「えっと、じゃあそっちの人にも一応お礼を言っとくけど――」
「っっ!!」
そう口にすると、空木の連れがビクッと反応する。
こちらも空木に負けず劣らずの変装をしている……。
ただ、何となくだが俺は相手の正体が分かっていた。
ここまで来て相手から名乗り出ないのだから、初対面なんだろう。
一方で、友達付き合いに消極的な空木の連れなのだから、空木が普段から接する機会のある同年代の少女ということ。
――つまり、自然、“シーク・ラヴ”関連に範囲は絞られるのだ。
「……って、感じの推理なんだが。あんまり言及しない方が良い系か?」
今考えたことをもう少し詳しく、かつ分かり易く言葉にして質問しておく。
あまり深入りして欲しくない場合、最初に言っておいてもらえれば、俺達も対応が楽だからな。
が、しかし。
それは空木に対しての確認だったはずなのに。
何故かその件の連れの少女が、真っ先に反応したのだった。
「ななっ!? きっ、貴様っ、実は邪眼を持っているのか!? 闇のヴェールで身を隠す我の存在を、一目で見抜いたというのか!?」
「…………」
Oh……。
まだシーク・ラヴの“誰か”までは分かって無かったのに。
今の反応・言葉遣いだけで誰かが分かってしまったじゃないか。
「あぁぁ……“妹さん”の方?」
今度こそ空木にそう確認する。
要するに、シーク・ラヴのメンバーの一人“光原凛音”で合ってるか、ということだ。
「……です」
空木も何か諦観を感じさせる表情で頷いたのだった。
皆さん、酷い!
織部さんはヒロインなのに……!
織部「ぐすんっ、私、は、正ヒロイン、として、頑張って、来たつもり、なのに……ひぐっ(号泣)」
ほらぁ~!
織部さんも泣いてるじゃないですか!
皆さん、良いですか、織部さんはヒロイン!
“ヒロイン(笑)”とか“ゲロイン”とか“ヒロイン(ネタ)”とか言った人、後でブレイブ教から人送られますよ、私は注意しましたからね!!
プール回、多分、後2回で終わるはず……。
あんまり伸ばしても、それはそれでダレますからね。
頑張ります!