310.明日に備えよう!
お待たせしました。
ではどうぞ。
「あっ――」
ラティアが“デモンズ・ドール”を見て、思わず声を上げる。
この階層のモンスターを粗方食い終わった闇の塊は、その存在意義を無くしたと言う様に揺らぐ。
そして火が下火になって消えていくかの如く、体を構成する闇を散らし、この現実の世界から姿を消したのだった。
「本当にこの階層、殆ど全部がラティア任せで終わっちゃったね」
「フフッ、“私”というか、召喚した闇の魔力が、ですけどね」
でもそのおかげで、本当に俺達は歩いて探索する以外の労力を払わずに済んだ。
これで明日に疲労が残り、楽しめないなんてことは無くなる。
今日は調査だけだし、これ以降の階層があったとしても、これで切り上げていいだろう。
「さぁ。さっさと奥まで行ってしまって終わらせよう」
「ああ、だな! ――んじゃ、ロトワ、一緒に前行こうぜ!」
「はいです! レイネちゃん、よろしくお願いするでありますよ!」
改めて二人が前を歩き、先導してくれることに。
ロトワは鼻で、そしてレイネはいつも通り精霊と連携して、斥候の役割を果たしてくれる。
まあ、もう殆ど警戒しなくてもいいとは思うが、念には念を入れて、だな。
「――ええーっと……あれ? このダンジョン、これで終わり?」
「……そう、みたいだね」
その後10分もせず、俺達はこのダンジョンの最奥までたどり着いた。
“デモンズ・ドール”のおかげで、この階層のモンスターはやはり倒し尽くしていたらしい。
ただそれ以上に驚いたのは、ここから先に下の階層へと続く階段が無かったからだ。
同じく驚いて、ルオもリヴィルも他に何かないか、辺りに視線を向けている。
「まあ、終わりならそれで良いんだけど……」
「……ああ。ただ、あたしもリヴィルも。入る前はもっと手強い雰囲気を感じたからさ。これで終わりってのはちょっと違和感あるっつうか……」
レイネも納得していない表情で、注意深く辺りを見回した。
攻略したならしたで、いつものアナウンスが聞こえても良さそうなもんだが――
〈Congratulations!!――ダンジョン1階層目を攻略しました!!〉
「おっ、来た来た――って、え? “1階層目”?」
いつも通りの機械音。
だが告げられた内容の一部に、いつもとは違う内容が含まれていた。
「……つまり、まだこのダンジョン全体は攻略できていない、ということでしょうか?」
「……でも不思議な言い方だよな。いつもなら、複数階層あるダンジョンなんだったら、1階層突破しただけじゃ何のアナウンスもないのに」
ラティアと共に、今聞こえたアナウンスの内容を話し合う。
そうして意見を交換していると、続きが聞こえた。
〈――これにより、2階層目への挑戦権を得ました。これより2階層目を生成しますか?〉
「あぁ……そういう感じなのか、このダンジョンは」
この続きのアナウンスを耳にして、ようやくさっき抱いた疑問が氷解する。
つまり、このダンジョン、2階層目以降もありうるが、まだ未生成なのだ。
未生成なのを前提に、このダンジョン全体が構成されている。
「……こういうのは、よくあるもんなのか?」
主に、経験豊富なリヴィルとレイネに尋ねてみる。
「うーん……私は初めてかな。――レイネは?」
「あたしも。こんなダンジョンは初めてだよ」
なるほど。
じゃあここにいる誰も分からないってことか……。
「まあ今日は良いけど。織部達に、今度時間が出来た時にでも相談してみるか」
どうせ今日はこれで上がるつもりなんだし。
2階層以降に潜ったとしても、下限がどこまであるか分かったもんじゃない。
こういうのって、裏ダンジョン的なやつじゃねえの?
……やはり今日明日でどうこう出来るダンジョンじゃないんだろう。
「そうですね。……ではご主人様。今日はこのくらいにしますか?」
「だな。生成も、だから今日は止めておこう。折角夏休みがまだあるんだし、いい機会だ、コイツはじっくり行こうぜ」
俺のその言葉を受け、ダンジョンの方も理解したのか、生成手続を停止する。
そして同時に、俺の言った意味を理解して喜ぶ者も――
「――じゃ、じゃあ!?」
「今日は終わりでありますか!?」
ルオとロトワが期待一杯の目をして、俺やラティアにそう確認してきた。
ラティアもその気持ちは分かったからだろう、少し苦笑気味に頷く。
「ええ、だと思いますよ。――ご主人様、よろしいですか?」
「おう。今日はもう終わり! 家に戻って、明日の準備だな!」
二人が一斉にはしゃぐ様子を見守りながら、俺達は今日の所はこれで調査を切り上げたのだった。
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「ほらっ、ルオもロトワも。楽しみなのは良いですが、早く寝ないと明日、起きられませんよ?」
「はーい。……むぅぅ。でもボク、朝は全然得意な方なのになぁ」
夜。
プールに行く準備も一通り済み、後は明日を迎えるだけになった。
まあルオが朝に強いのは皆知ってるが、ラティアの立ち位置的に言わないといけないのだろう。
……いや、別にラティアが“お母さん”的な役回りをしてるってだけで、深い意味は無いぞ?
“じゃあお父さん的な役回りは……”みたいな疑問は抱かない、いいね?
「うぅぅ、ロトワはお布団の魔力に抗えない日が多いので、耳が痛いであります……」
今日は耳を隠してないロトワは、頭の上についている狐耳を垂れさせている。
それが反省を示しているみたいに見えて、何とも可愛らしい。
二人はラティアの言葉に従い、歯磨きなどを始めた。
「私とレイネが今日は洗濯代わるから。ラティアも寝ちゃったら?」
「ああ。どうせ明日も早起きするつもりなんだろ? それくらい代わるぜ?」
二人が申し出ると、一瞬、ラティアは躊躇う様子を見せる。
だが、リヴィルとレイネの厚意に甘えるようだ。
「……ありがとうございます。では、お願いしますね?」
そう言ってラティアも寝る準備を始める。
10分程したら、ルオとロトワは自分の寝室へと戻り。
遅れる事5分ほどで、ラティアも俺達に軽く挨拶だけして2階へと上がって行った。
「……二人とも、何か手伝おうか?」
ノルマの勉強も夕方の内に終わらせてある。
日々、志木に課された分を短時間で、集中して終わらせることが出来ていた。
なので、気を遣ってそう申し出てみる。
「? いや、別に良いけど」
「うん。マスターも休んだら? ……明日、マスターもマスターで大変な一日になると思うよ?」
うっ。
そう言われると、ちょっと明日を迎えたく無くなるんだが……。
「ははっ! かもな。――気ぃ遣ってくれたんだろ? ありがと。でも本当に大丈夫だぜ?」
「いや、だが二人も明日プールで遊ぶのは同じだろ? 二人にも早く寝て欲しいし……」
本心からの配慮だった。
が、しかし――
「……マスターが私達の下着や衣服を直に触れる、それに興味を持ってくれたってこと? ――これは朗報。明日、ラティアも気分全開でプールに行けるだろうね」
「――さーってと、俺も明日に備えて、早く寝る準備しよっと」
掌グルングルンだった。
すんません、洗濯お願いします……。
俺の変わり身の早さに、二人はおかしそうに笑う。
「ははっ。……隊長さん、あたし達も、その、明日水着……だから。えっと、皆で選んだ奴だから、さ」
レイネは急にモジモジするようにして、言葉を途切れさせる。
何となく言いたいことは分かったが、俺がそれに答える前にリヴィルが茶化しに入った。
「今のを翻訳すると……“大胆な水着を選んだから! 隊長さん、それを着るあたしを、あたしだけを見て! そして抱いて!!”ってなるね」
「なっ!? は、はぁ!? な、ならねえよ! このっ、リヴィルこのっ!!」
レイネがポカポカとリヴィルを殴り蹴りしてじゃれていた。
ってか何だかんだこの二人も仲良いよな……。
まあウチは皆、仲良いんだけどね。
「……じゃあ俺も、有難く先に寝させてもらうわ。――明日、折角なんだから楽しもうな」
そう声をかけると、二人のじゃれつきが止まる。
「お、おう! おやすみ!」
「ん、おやすみ、マスター」
戸締りだけ念のため確認して、俺は先に2階へと上がる。
そして明日に備えて、起きることにも念には念を入れることにした。
「……まさかこれらを使う日が来ようとは」
スマホのアラームの他。
俺は目覚まし時計を3つ、セットした。
大分前に会員番号0だからと送られてきた、あのメンバーの声が入った目覚まし時計だ。
「皇さんのだと逆に寝坊してしまいそうだからな……志木、逆井、赤星。力を借りるぞ」
そうして3人分の目覚ましがセットされているのを確認し、俺は布団に入ったのだった。
※以下参考 217話・219話より
皇さん目覚まし
『――フッ、フレー、フレー! お兄様、時間ですよ。……もう、お兄様の、寝坊助さん。……起きてくださらないと、律氷が悪戯、しちゃいます、からね?』
志木さん目覚まし
『――かおりん、かおりん、かおりんりん! こ~らっ、朝、だぞ! 一緒に登校、するんでしょ? 置いて行っちゃうぞ。もう~……ばか』
逆井さん目覚まし
『ほらっ、もう朝! 早く、起きて起きて! あっ……べ、別の所がお目覚めしちゃってるじゃん。全く……アタシの夢見て、そういう風になったの、かな? ああもう、バカッ!』
赤星さん目覚まし
『……おはよう。もう、朝、だね。起きないと……でも、もう少しだけ君の隣で寝てても、良いかな? 君の隣にいても良いのかな? いさせてくれるなら……うん、嬉しいな』
――――
プール回、3回以内には終わらせる予定です。
また、27日、1周年を迎えることになります。
本当なら書籍化関連の情報でもお知らせ出来れば良いんですが、今はまだなくて……。
何かありますかね?
1周年だから、人気投票とかした方がいいんですかね……。
何も思いつかなかったら、普通に更新を頑張る方向で。