306.コイツ、何のつもりだ!?
お待たせしました。
久しぶりにスヤーと爆睡しちゃってました、すいません。
ではどうぞ。
「お疲れ様でした。簡単ですが摘まめる物を用意しましたので、よろしければどうぞ」
「シャワーも、さっさと浴びてきな」
ラティアやレイネが出迎えてくれた。
家に戻り、まず赤星と皇さんの分断を狙う。
その存在を知らせるのは赤星だ、皇さんにはルオやレイネ達とゆっくりしてもらうことにする。
……正直皇さんも、信頼できる相手だとは思う。
だが、織部の存在はそれだけで刺激が強い。
ある意味R18だと言ってもいいだろう。
だから今回は、皇さんの健康的な成長を考慮して見送りにした。
「あんがと~。アタシは着替えだけで良いから、ハヤちゃん達が、借りちゃいなよ」
協力者も上手く、二人を分断するように誘導する。
「すいません、いつもありがとうございます。――颯様、以前先を譲っていただいたので、今回は颯様が。私はルオさんと後で頂きますね」
「えっ、良いの? ……そっか、じゃあお言葉に甘えてお先に……新海君、ラティアちゃん、じゃぁ、借りるね。――ロトワちゃん、行こっか」
「はいです!!」
皇さんとのやり取りもあり、ロトワと一緒に赤星が、先にシャワーを浴びに行く。
対する皇さんは、ルオと軽食をお腹に入れるため椅子に座った。
フフッ、想定通りだ。
……いや、何かこれだと、赤星がシャワーを浴びている間にエロいことを企むみたいに聞こえるな。
まあ企みはあるが、エロいこととは全く関係がない。
今日は至って真剣な内容なのだ。
……だ、だよな?
「……俺は先に部屋に戻って片付けするわ」
「了解。――あっ、リア。着替えるんなら部屋使う?」
「わぁぁ、ありがとうリヴィルちゃん! じゃあちょっとだけお邪魔しようかな~」
別々の用事を済ませる体で、3人揃って2階へ。
ラティアとアイコンタクトを済ませ、皇さんやルオ、レイネの相手を任せる。
今日織部・勇者という存在を知らせたくない3人。
それをラティアだけに任せるのは少々申し訳ないが……まあロトワもいる。
あまり事情を頭に入れてない分、上手い具合に意識を逸らす行動があるかもしれない。
そこは二人を信じよう。
「――よし、追手はいないな、リヴィル?」
「うん。……いや、まあそりゃいないでしょう」
軽くツッコミが入り、肩に入った力をゆっくりとほぐす。
自室に戻り、改めてこれからのことを確認する。
逆井は本当に着替えてから来てくれてもよかったのだが、そのまま俺の部屋に入って来た。
「別に新海の部屋でも着替えは出来るっしょ? ……な、何なら新海、そのまま見てても良いよ? ニシシ」
そう言って少々強引に笑って茶化すが、俺が本当に見るって言ったらどうするつもりなんだコイツ……。
……まあそんな度胸もやる気もないけどね!
「……じゃあ話を進めるぞ? ――対象は赤星。赤星がシャワーを浴びている間に最終確認を済ませる」
「うん。ハヤテに“カンナ”のことを教えるんだよね?」
「ああ」
リヴィルの言葉に頷いて返す。
今日でなくとも良いのだが、一番タイミングが良かったので今日決行することにした。
織部自身にも、赤星に伝えることはOKを貰っている。
っていうか、半分は織部のためでもあるんだがな。
「赤星がどういう反応をするか、正直予想はつかん。……そこん所、どうなんだ逆井?」
「えっ、ハヤちゃんの反応? うーん……」
答えに悩みながらも、逆井は本当にこの部屋で着替え始める。
素知らぬ振りをして視線を逸らすが、衣擦れの音がダイレクトに聞こえてきてしょうがない。
逆井め、俺がここで着替えをガン見したらどうすんだよ。
……まあそんな度胸もやる気も全然ないけどな!
最近、アルギニンとかシトルリンとか、ムラっとくる系のサプリが食事に合わせて提供されるから、余計こういうのは辛い。
クッ、ラティアめ、プレゼントされた物をしっかりと活用しおって……!
「どうだろうね。ハヤちゃんも柑奈も元々は知らない同士だったんだから、怒るとか泣くとかは無いと思う。あって困惑とかじゃない?」
……まあそのあたりが妥当か。
「分かった。とにかく、これから正念場を迎える。二人とも、頼むぞ?」
「ん、分かった」
「オッケー!」
リヴィルと逆井の協力を確認し、後は赤星を待つのみとなったのだった。
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「ふぅぅ……ありがとう新海君、シャワー浴びて、スッキリしたよ」
着替えも済ませた赤星が、呼びに行ったリヴィルと共に部屋へとやって来た。
「はぁぁ、涼しい……落ち着くねぇ」
リラックスして気分も緩んでるのか、シャツをパタパタとさせて空気を送る。
その分肌が見え隠れし、赤星の油断具合が伝わって来た。
「ハヤちゃん……そういう気を許してますよアピールが、律氷ちゃんに“伏兵”認定される所以なのに……」
傍にいる逆井が、俺にだけ聞こえるようにそう呟く。
いや、これは単に暑かったからだけじゃねえの?
「ん? 梨愛、何か言った?」
「いや、何でも……」
「……ハヤテ、鈍感系スキルも身に付けてるね」
……リヴィルさん、聞こえてないのを良いことに変な事言わない。
これから結構大事な話をするんだから。
真面目に、いいね?
「――えっと、赤星、それで、部屋に来てもらったのは大事な話があるからなんだ」
改まって姿勢を正し、そう切り出す。
それで逆井もリヴィルもサッと笑顔を消した。
「……大事な話? ――うん、何かな?」
室内の雰囲気を察し、赤星も真剣な表情になる。
……よし!
「その、な。今まで黙ってたことなんだが――」
一瞬だけ言葉に詰まり、リヴィルや逆井の顔をチラッと確認する。
二人は無言で頷いて返してくれた。
大丈夫だという優しい、でも力強い後押しみたいに感じる。
咳払いして仕切り直し、改めて思い切って打ち明けた。
「赤星には伝えておこうと思う。――“織部”のことなんだが」
「…………」
赤星の反応がない。
珍しくフリーズしたみたいな顔になった。
そしてようやく理解が追い付いたのか、出来た間を恥ずかしがるように頬を赤らめる。
「――あ、ああ、織部さん! うん、織部さんのことね! で、それが、どうかしたのかな!?」
……何でそんな焦った感じになってんの?
赤星にしては本当に珍しいな……。
「……ハヤちゃん、伏兵的勘違いしてたね」
「言葉の意味は分からないけど、何となくリアの言う通りな気がする」
いや二人とも何を言ってんのかサッパリなんだけど。
“伏兵的勘違い”って何だし……。
「いいか? っと……織部――織部柑奈についてだ。織部は実はな……生きてるんだ」
改めて言い直したことで、赤星も気を取り直して話に集中する。
だが、今度は俺の言葉の意味を直ぐに理解したようで――
「――あっ、えっと……うん。そう、だよね、うん。大丈夫、私も信じてるよ、織部さんが生きてるって」
……ん?
予想外の反応に、打ち明けた俺達の方が思わず困惑する。
赤星は特に俺や逆井に向けて、とても優しい目を向けてきた。
「私も……織部さんが戻ってきたら、一杯話を聞きたいな。でも、梨愛や新海君との思い出話ばかりされて、ちょっと嫉妬しちゃうかも。ははっ」
……あっ!
これ……新海ゼミでやったことある!
――腫物に優しく触れるタイプの対応だ!!
学校で“はいグループワークするから、〇人組作って~”の時には散々お世話になりました!!
志木とはまた違ったタイプの、でも王道な対応だろうか。
クッ、“織部が失踪した体”、やっぱ面倒臭いな!
織部本人も相当に面倒臭いのに、綺麗な織部が関わってる場合も大概困ることになる。
「えっと、ハヤちゃん? そ、そうじゃなくて……」
「フフッ、梨愛、良く言ってたもんね。“親友”だって」
赤星は逆井を傷つけまいと想ってのことだろうが、逆に当たり障りのない話題に終始してしまっている。
……むむむ。
これはちょっと雲行きが怪しくなりそうだな。
「――ねえマスター。もうさ、直接会わせた方が早いんじゃない?」
そこに待ったをかけたのが、リヴィルだった。
こうして3人だけだと行き詰まるかもって時に、冷静に一歩引いた位置から見つめ、助言してくれた。
「……そう、だな」
本当は赤星に、織部が生きて異世界にいるって所まで説明してから、ご対面と行きたかった。
……だって相手は織部だぜ?
ぶっつけ本番で何か変なことしてかき乱されても嫌だろう。
だがこうなったら仕方がない。
直に生きている織部に対面させて、赤星に一気に説明してしまおう。
「――今から、赤星にその証拠を見せる。ああ勿論、このことは志木とか、皇さんにもまだ話してないことだ」
「え、えっと……うん」
DD――ダンジョンディスプレイを出し、通信を繋げる準備を始めた。
赤星もそこに来て、話の方向が分からなくなってきたらしい。
俺のやることに口を挟まず、少し不安そうにリヴィルや逆井の顔へ視線を往復させていた。
10秒もせず、画面が切り替わる。
織部も待機してくれていたらしい。
すぐさま通信が繋がり、画面に現れたのは――
『――はじめまして。梨愛や新海君から常々ご活躍は伺っていました。同学年の織部柑奈と言います。赤星颯さん、よろしくお願いしますね?』
久しぶりに見た、ウチの学校の制服姿で。
三つ指ついて挨拶しかねない程に丁寧・清楚な佇まいの織部だった。
いつものハチャメチャ具合は完全に鳴りを潜め。
初見だと、思わず息を飲んで見惚れてしまう程の大和撫子っぷり。
現役の大人気スーパーアイドルである赤星も、ボーっとその織部の姿を見つめる――
――だ、誰だコイツ!?
お、織部めぇぇぇ!!
何でかは知らないが、コイツ――
――“猫”ならぬ“綺麗な織部”を被ってやがる!!
織部さんめ、何を企んでるんだ!
志木さんが相手で白かおりんと黒かおりんを使い分けるみたく、綺麗な織部さんと痴織部さんを使い分けるつもりなのか!?