303.お勉強……ってことになるかな?
お待たせしました。
今回は主人公視点です。
ではどうぞ。
「ふぅぅ……つ、疲れた」
セットしていたタイマーが鳴り、長く続いた闘いの終了を告げる。
同時にシャーペンをノートの上に投げ出し、机の上にダラっと倒れ込んだ。
『フフッ、お疲れ様。今日の所はこのくらいにしましょうか』
PC画面の向こう、楽し気に笑う志木にそう言われる。
定期的に勉強を見てもらっている身とは言え、勉強を口実に一方的にいじめられている気がしないでもない。
「うっす、お疲れ。……その、さ。問題解いてる時とかは別に画面消して違うことしてても良いんだぞ? そんな監視みたいなことしないでもきちんとやるし」
せめてもの抵抗としてそう提案してみる。
ってか俺が一人、机に向かって集中してるだけの映像なんて、見てて面白くもなんともないだろう。
志木もその時間くらいはゆっくり出来るだろうし、何か他のことにでも貴重な時間を当てて欲しい。
だが志木はまるでとんでもない発言を耳にしたと言わんばかりに、キッパリと否定してきた。
『そ、そんな! それはダメです! え、えーっと……そ、そう! 貴方が集中している様子を観察――監視することも含めて、勉強を見ると請け負った私の責任ですから!』
途中、少し言葉・表現を変えながらも、強くそう主張する。
……やはり、責任感の強い奴だな、志木は。
「そうか……まあそこまで言うんなら、これからもよろしく頼むよ。ああ勿論、無理しない程度にな?」
『ええ。フフッ、私がマンツーマンでつくんですから。予備校の夏期講習なんてなくても、必ず合格させてみせます』
志木にそう言ってもらえると、本当に頼もしい。
だが受け取るばかりで、申し訳ない気分になる。
そう思って直球で、礼として何か欲しい物とかして欲しいことはないかを尋ねてみた。
しかし、志木にしては珍しく曖昧な回答が返ってくる。
『え、えーっと……日々私も得をしているというか、普通じゃ得られない時間を持つことが出来ているので、気にしないで……下さいな』
ん?
……誰かに教えることがリフレッシュになってるってこと?
まあそう言うことならいいけど……。
『あっ! そ、そうね……もし気にするようであれば、今度お邪魔した時に直接勉強を見させてください! 貴方のお部屋で、私が勉強を見ます。これでどうかしら?』
えっ、“どうかしら?”って言われても……。
別に俺に不都合は……あっ、いや、あるかも。
これをそのまま、ラティア達に伝えてみろ。
絶対変な邪推するからな……。
“カオリ様と二人っきりで!? お勉強、ですか!? ――ご主人様、ちょっと3時間ほど出かけてきます。いいですね、3時間は帰ってきませんから!”
……うん、そんなことを言われる気がしてならない。
「まあ受験生だからな。時間とか都合が合えば頼むわ」
返事を聞いて、志木は嬉しそうに微笑んでみせる。
……何で教える側がそんなに楽しそうなんだか。
言っても、やることは勉強っすよ?
勉強が楽しいとか、志木もやっぱ勉強ばっかする御嬢様学院の生徒なんだな……。
『はい、こちらこそ、よろしくお願いします。――それで……この後なんだけど、時間は大丈夫かしら?』
これで今日の分の勉強は終わりのはずだが、志木がこの後の都合を聞いてくる。
「まあな……特にやることがある訳じゃないけど」
もう夜だし、これから出ることがあっても、それはダンジョン関連位だろうな。
『そう……決して強制するわけではないので、オススメ程度に聞いてください。この後、動画投稿サイトで――』
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『――さぁ、始まりました! 私達“シーク・ラヴ”メンバーが不定期でお送りする、“しーく・らう゛ちゃんねる”!』
それ用に作られた簡易のスタジオで、白瀬が元気一杯に開始を告げる。
『第5回のMCは私、逸見六花と、飛鳥ちゃんでお送りします』
逸見さんも隣で椅子に座り、進行を担う。
「なるほど……志木が言っていたのはこれで合ってるな」
動画投稿サイトでいつの間にかチャンネルを開設していたらしい。
それに志木も含め、空いているメンバーが代わる代わる出て、別の角度から広報活動をしているとのこと。
閲覧者数も万に届いているので、かなり注目されていることが分かる。
「ふーん……ほう、今日はレア回なのか」
コメント欄を見ていると、他の回に比べて出演者数が多いらしい。
平均3~4人でこなすのを、今日は何とMC入れて6人になると。
『――はいはーい! 逆井梨愛で~す! しらすんからお声がかかったので来ました! よろしくね~』
『……うぅぅ。これ、一切ウチにお金入らないから、やる気出ないな。――はい、空木美桜でーす、早く帰りたいでーす』
逆井の元気な登場に反して、空木はやる気の欠片も感じない現れ方だった。
コメント欄もそれで湧いている。
“ツギミー、生気が感じられないw”
“まあ広告収入が入っても、全部ダンジョン探索関連に寄付するらしいからな……”
“「早く帰りたい」と真正面から口にして、誰も咎めない所に、空木ちゃんの周囲からの評価が垣間見えるw”
「空木、もうちょっとやる気出せよ……」
苦笑しながらも動画の成り行きを見守ることに。
この二人は今までにも出演していて、いわば準レギュラー扱い。
今日は更にゲーム企画ということで、人数を揃えるために2人、また人を呼んだと説明される。
『――フッ、フフフ……で、では……フフッ、どうぞ』
逸見さんが既に笑いをこらえ切れていないところを見て、大体誰が出てくるのか察した。
『……私、一応“補助者”で“研究生”なんで、呼ばれた理由があまりわかりませんが――夏生椎名です。どうも』
果たして、一人は椎名さんであった。
ルオは今正に下の階でレイネと遊んでいるはず。
なので、正真正銘、これは本物の椎名さんだ。
『ぷっ、くすくす……よろしくね、椎名ちゃん』
『……六花、私が出るだけで笑うの、やめてくれませんか? 非常に不愉快です』
だがそれでも逸見さんは笑うのをやめず、むしろまたツボを押してしまったみたいに声が大きくなる。
……ルオの時のナツキシイナさんを思い出し笑いして比較しちゃってるんだろうな……。
『――えーっと……もう一人! 今日初登場のこの子です!』
逸見さんがしばらく機能しないと判断したのか、もう一人のMC役の白瀬が最後の一人を紹介する。
白瀬の言葉と共に画面に入って来たのは、何度も見たことはあるけれども話したことはない少女だった。
『……“光原和奏”です。凛音ちゃんじゃない、姉の方です。ど、どうも』
肩まで届かないくらいの髪を気にしながら、ソワソワと落ち着かない様子。
妹とは違い大人しいながらも、歌唱力に定評がある一つ年下の子だった。
ただ、テレビなんかでよく見るが……やはり双子だけあって妹とそっくりな容姿をしている。
まあ妹さんが中二病だから、ファンも見分けるのに苦労することはない。
“和奏ちゃんキタアァァァァァ!!”
“いや、和奏ちゃんが腹痛で出られなくて、凛音ちゃんが人間を演じている入れ替わりの可能性が微レ存w”
“「人間を演じる」w 微妙に凛音ちゃんをイジってる奴、大杉てワロタw”
“歌姫三傑の内、2人も揃ってるぞ! 今日は歌企画か!?(すっとぼけ)”
“おい、歌煽りで椎名さんを絶望の淵に追いやるのは止めろ! 椎名さんは黒歴史椎名さんを頑張りすぎで喉がちょっとアレなんだよw 歌企画で喜ぶのなんて逆井ちゃんや和奏ちゃんくらいだぞ!”
“普通に歌も上手いのに、どんな企画でも喜ばないと思われてるツギミーのニート力よw”
「まだ始まったばっかだってのに。コメント欄もお祭り騒ぎだな……」
ただそれだけファン含め見ている人達が、この動画を楽しんでいるってことだろう。
しゃべるだけの時間だったり、あるいは遊びで時間を潰したり。
“色んなことをしながらも、その中に上手い具合にダンジョンや探索士などの情報も織り交ぜている”と、コメント欄に説明があった。
楽しみながら情報に触れられる……今の所ちゃんとした良い動画として評価されているってことか。
初視聴になるが、期待感を持ちながら彼女たちの動画を見ることにしたのだった。
次回、彼女たちのゲームを通じたダンジョンや探索士などの情報提供回みたいな感じになると思います。
ただどういう書き方にしようかは迷っていて……。
普通に主人公視点で書くかもしれないし、もしかしたら掲示板回みたいにコメント欄を書いて、間接的に表現する形になるかも……。




