29.逆井がヒロイン力を上げている……だと!?
何とか今日中にまとめることができました。
では、どうぞ。
「――うっわ、マジか。俺も聞いたその噂!! 町で偶に見かけるんだろ?」
「ああ、俺も兄貴から聞いたんだが、何でも女優らしいぜ?」
「俺も一目でいいから見てみたいぜ、物凄い美人なんだろ?」
「あれ? 俺はアイドルって聞いたけど。スタイル抜群で顔も満点のグラビアアイドルだって」
「うっそ、私は童貞殺しを売りにしてる魔王的にエロいサキュバスだって耳にしたけど」
「「「「いや後藤、それは無いだろ!!」」」」
俺が教室に入ると。
夏休みに会えなかったその時間を埋めるようにして。
既に登校してきていた男子たちが集まってバカ騒ぎをしていた。
……後、一人女子が混じって総ツッコミを入れられている。
「…………」
何を話してるのかは知らんが、まあ俺には関係ないだろう。
ダンジョンを攻略しても。
可愛くて美人な奴隷の少女が、2人も家にいてくれても。
俺の日常は特に変わらない。
こうして学校では。
“お前、休みの間何してたんだよ?”的な談笑を楽しむ友人もいない、唯のボッチ野郎である。
俺は自分の席に着き、静かに腕で作った枕に、頭を持たせかける。
「――って、あれ、逆井じゃね?」
「うっわ……休みの間にまたエロくなったな、アイツ」
「探索士って命がけなんだろ? そういう環境が子孫残すために体をエロ方面に適応化させたんじゃ……」
「あながち噂の女性って逆井のことなんじゃね?」
「いや、でも話では童貞を殺す時だけエッチ方向にバフがかかるサキュバスだって――」
「「「「いやだから、後藤。それは無いって!!」」」」
何やらまた騒がしさが増した。
「ああ! 美智っちじゃん、うん、おひさぁ!! いや、乳っぽくっていいじゃん美智っちってあだ名!! はは、また後でねぇ!」
何だそりゃ。
乳っぽいって。
何でそんなアホな会話が生まれるのか不思議だ。
「おお、ウっす! 茂三どん!! 休みの間また鍛えたねぇ~」
あれっ、うちのクラスに薩摩藩出身っていたっけ?
いやクラスのメンバーと全く人間関係ないから知らないけど。
それでもそんな特徴ある感じだったら記憶の片隅には残ってそうだが。
「……ゴメン、僕“しげぞう”じゃなくて“しげみ”なんだけど」
「――えっ? そう読むの、この漢字!? でもいいじゃんいいじゃん!! 茂三の方が男の子っぽくって強そうくない?」
この声の主は何でこんなアホな思考回路で人間関係を円滑に進めることができるんだ。
強そうかそうでないかで決めるって、お前ある意味脳筋かよ。
「うん、じゃまた――ちょっ新海!? 何で来て直ぐ寝てるし!!」
ほらっ、新海君。
声の主が呼んでるぞ。
可哀想に。
またこの“新海君”も、良く分からない理由で変なあだ名としてそう呼ばれているんだろう。
「友達と休みに何してたのか、とか話さないの!? うわっ、ってか無視するなし! 新海っ!!」
ほらっ、そろそろ意味不明なあだ名の語源解説があるんだろ?
“新海”か……。
これは“熱海”君を“新海君”と間違えてるパターンだと踏んだ!!
さぁ、どうだ――
「もう、バ、バカッ……よ、呼ぶぞ!! 本当に呼んじゃうからね!?――は、は、陽翔……」
蚊の鳴くような声で、何かを耳元で囁かれた。
あれっ、と思い、ゆっくりと寝起きを装って伸びをしつつ、横を見る。
「……あれ、逆井かどうした」
顔を真っ赤にして、俺を睨んでいる逆井が、机の傍にいた。
「…………新海のバカッ」
それだけ言うと、逆井は俺を立ち上がらせた。
「お、おい……」
「いいから!! 着いてきて――」
逆井に手を取られ、教室を出る。
後ろからざわめく声が聞こえた。
グングン進んでいく逆井に、時折足を取られそうになる。
使われていない準備室の前まで来てようやく止まった。
「おい、何が何だか、説明を――」
「――これ!!」
俺の言葉を遮るようにして、逆井は自分のスマホを取り出した。
良く分からないが、これを見ろということらしい。
渋々視線をそれに落とす。
そこには――
「――これ“ラティアちゃん”でしょ?」
スマホのメール画面で、丁度相手から送られてきたようで。
『メッサ美人の二人連れを見かけた!! この世の物とは思えん!! 外見格差はここまで広がっているのか……』
件名がそう書いてある。
そして――
『流石に正面パシャリはマナー的にダメだと思って――』
とメールの主“ハヤちゃん”が本文を打っていた。
内容からするに、本当に内輪だけで、自分の見た衝撃を共有したいというレベルでメールを送ったことが窺えた。
“美人”と伝えておいて、『顔は映らないように撮った!!』と何故か自慢げに書いている。
『“背中部分だけとらせてください!! 先っちょだけ、ほんの先っちょだけだから!!”って誠意をもってお願いしたらOKもらえた!!』
……流石にコメントに困る。
逆井が少し操作すると、添付ファイルから写真が表示された。
「…………多分な」
その撮られた写真は、知っている人が見ないと絶対ラティアだとは分からないような後ろ姿だけが映っていた。
そして――
「……で、ラティアちゃんと一緒にいるってことは、この隣の子も、新海の知り合い?」
何故か、逆井のそれを尋ねる声のトーンが下がっていた。
“ハヤちゃん”さんの本文にはまだ、続きがあって。
『隣の子もダメだ。どっちも嫉妬することさえ烏滸がましくなるレベルの美人。何かの女優? アイドル? あれに迫られて落ちない男はいないと、私は思うのです。志木さんも律氷ちゃんもエグイし。経済だけでなく、容姿の格差社会……広がってます』
――これも、知っている人が見ないと分からないだろうが。
ラティアと談笑しながら何かを――まあ写メが終わるのを待つようにして立ち止まっているリヴィルの後ろ姿までが、そこに映っていた。
まあ、それはいい。
2人も了承したということだし、この“ハヤちゃん”さんも、最低限守るべき部分は守っているようだ。
外に出れば監視カメラとかで顔が映ることの方がむしろ多い。
それに本当に逆井相手に衝撃を伝えたいだけのようだ。
“志木”と“皇さん”の名前が出るってことは、ダンジョン関連だろう。
俺が指摘せずとも、本当に内輪で話を完結させるつもりだということが、はっきりとわかる。
問題は――
「で、この子も、新海の、知り合い、なの?」
――何で逆井さん、そんな怒ってんすかねぇ?
「……まあ、知っているといえば知ってるよ。ラティアと親しい仲なんだ、この子」
嘘は言っていない。
リヴィルはラティアにかなり心を許している節がある。
……もしかしたら俺よりラティアの方が仲がいいかもしれないまであるからな。
「へ~ふ~ん、なんだ、そうなんだ」
俺の説明を聞いた逆井が納得気にそう呟いた。
……お前、これで引き下がるの?
「“知り合い”、フフッ、良かった……アタシはもうメルアド知ってるし、“知り合い”より上だし」
何かブツブツいっては微笑んでんだけど。
……俺が言っといてなんだが、お前大丈夫か?
――キーンコーンカーンコーン
「あっ、ヤバッ、チャイム」
「ほらっ、戻るぞ」
丁度いい。
コイツ、これで人気者だからな。
登校早々二人で教室を出ていく姿を見られている。
変に勘繰られれて、探られる時間が無い方がコイツもいいだろう。
俺たちは急かされるようにして、それぞれの教室へと戻る。
そして、俺は夏休み明け早々行われた抜き打ち小テストで、早速帰りたくなったのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『新海!! ちょっと緊急!!』
休み明けでも容赦なく行われた授業にうんざりしつつ。
掃除を一人黙々とこなし終えた俺に、そんな一通のメールが。
俺のメールアドレスを知っていて。
なおかつ俺のことを“新海”と呼ぶのは――
「何だ、“逆井”にしては珍しいな……」
いつもならこの件名の前後に訳の分からない絵文字が沢山散りばめられているのに。
このメールには、そうしたものが一切見当たらなかった。
『今どこ!? もしかして帰ってない!? マジの案件なんだけど』
本文を開いてみると、同じくおふざけ一切なしの内容が記載されている。
「ふむ……」
流石に何かあったっぽいのが察せられたので、こちらもマジの対応をすることにした。
校内での電話は教師に見られると色々厄介だが、構わず掛けることに。
移動はするが、見つかったら何とか誤魔化そう。
――prrrrrr……prrrrrr……pi
「もしもし」
『――あっ!! 新海!? 今どこ!?』
「いや、普通に視聴覚室にいるが」
『なんで!?』
「掃除」
『え!? 今はそんな嘘聞いてる場合じゃないし!! もう掃除の時間なんてとっくに終わってるっしょ!?』
……何、俺のことディスるために連絡とろうとしてたの?
「…………一人だと、広いんだよ」
『…………え』
おい沈黙の後の思わず零れたような声やめろ。
お前が訳を聞いてきたんだろ。
「……それはいい。で、用件は何だ? 急ぎか?」
別にいたたまれない自分を憐れんで、ということではなく。
電話越しからも、逆井の切迫したような感じが声から伝わって来た。
だから、俺は逆井に話の先を手早く促す。
『あ!! うん、そう。本当にマズイの!! ――兎に角、ここでは言い辛いから、今から言う所来て!!』
「……分かった」
逆井は普段は軽そうな奴だが、大事な時には間違えない奴だと思う。
そいつがここまで急かしてくるんだ、本当に緊急の用件なんだろうな。
「――緊急なのはいい。他の奴に見られたくないのも分かる。だが何で“女子トイレ”の個室なんだ」
俺が非難の視線を送ると、呼び出した本人は顔を真っ赤にして言い訳し出した。
「しょ、しょうがないじゃん!! 校内で他に隠れられて密談できるところなんて思い、浮かばなかったんだもん……」
声を抑えているものの、本人も流石にこの場所のチョイスはベストではないと分かっているらしい。
言葉を発するにつれて、どんどんと尻すぼみになっていった。
まあ男子と女子二人で入る場所では決してないからな。
「……はぁ。もう、それはいい。――で、問題ってのは?」
この件を話していても先に進まない。
俺は呆れながらも、用件を尋ねた。
「そ、そう!! これ!! “ハヤちゃん”が――」
また朝の時と同じように、逆井は自らのスマホを取り出す。
そして今度もメールのやり取りの一部分を俺に見せた。
そこには数十件のメールがやり取りされたことを窺わせることが書かれていて。
『ははっ、もう40通分くらい往復させてるのに、全然バレないw』
『リア、ちゃんと授業に集中しなよ? ――って、その相手になってる私が言えることじゃないけどね~』
「……お前、授業中にどんだけやり取りしてんだよ」
「ち、違うって!! これは違くて……ええと――」
見せるメールを間違えたのか、逆井は慌てて画面をスワイプしまくる。
『へ~。隣の県まで日帰り旅行か~。今日がっこ始めじゃなかったら、二人旅だったのに!!』
『気ままに一人旅も乙なもんだよ? ……もっとも、リアは“彼との”二人旅の方に興味がおありかな?』
「――これも違うぅぅぅ!!」
……いや、なんで一人でメール相手に怒ってんだよ。
「はぁ、はぁ……これ、これ」
ようやくお目当てのメールを見つけたらしい。
1時間も経っていない、直近のメールなのだが。
その後もかなりメールのやりとりがあったようで、探すのに手間取ったらしい。
俺はそれを覗いてみる。
そこに、書いてあったのは――
『……ヤバい、“ダンジョン”っぽいの見つけた。しかも半径50m以内に2つはある』
「…………」
……なるほど、ダンジョン関連か。
「で、これの続きがまたハヤちゃんから来たんだけど――」
逆井が、また一つ新しいメールを表示させた。
着信時間が、先のメールの3分後となっている。
……かなりタイムリーなものだな。
そして、それを目にすると――
『――ヤバい、リア。この“ダンジョン”……“ダンジョン”を食べてる』
――思考が一瞬、止まった。
曲がりなりにもダンジョンものですからね。
ダンジョンの話は避けては通れません!!
さて、お昼ごろにも確認はしたんですが、その後は……。
ブックマークは6119件に!
評価していただいた方は655名になりました!
総合ポイントも18000ポイントに遂に到達。
この先まで行くと、私の中での未知の領域に突入です。
まさかこの作品がここまで来るとは、当初は思いもしておりませんでした。
本当にありがとうございます。
偏に、ご愛読、ご声援を下さる皆さんのおかげです。
今後も、是非ご声援・ご愛読いただきますようよろしくお願いします!




