300.猛者だな!!
お待たせしました。
とうとう300話到達です!
ではどうぞ。
「2名でご予約の“新海様”ですね。どうぞこちらへ――」
可愛らしいエプロンと制服を身に着けた店員さんが、席へと案内してくれる。
心なしかチラチラと俺達を見ている気がするが……まあリヴィルの容姿が気になるんだろう。
ウチの奴隷少女たちは、異性・同性関係なく目を惹く子達ばかりだからな……。
特にリヴィルとレイネは更に、女性にも好意を持たれることが多いと聞いている。
「どうも……」
礼を言いながら、そんなリヴィルの様子を盗み見る。
「……フフッ」
ここに入るまではそこまで変化が無かったが、店員さんに呼ばれて、明らかに柔らかな表情になった。
……そんなにスイーツバイキングが楽しみだったのか。
そう思うと、誘ってもらった時、一も二もなく承諾してよかった。
「“バイキング形式”でご予約ですね……お時間が開始より60分となっております。タッチパネルでの注文方式となっておりますので、お気を付けください。残り10分となりましたらお声がけさせていただきますね」
「はい、お願いします」
丁寧に説明してくれる店員さんに受け答えしつつ、早速リヴィルにタッチパネルを手渡す。
店員さんが去っていくのを見てから、注文を任せた。
「マスター、飲み物アイスコーヒーでいいんだよね?」
「ん。スイーツの方も、任せる」
「フフッ、了解……」
そうして直ぐ、飲み物がやって来た。
グラスに氷がたっぷり入ったコーヒーを口にする。
「ふぅぅ……あぁ、美味い。――中、思ったほどはキャピキャピしてないんだな」
喉を潤し、店内をそれとなく見回しながら呟く。
リヴィルもアイスティーを口に含んでから、それに返してくれた。
「キャピキャピ? ……店内の装飾ってこと? まあそうだね。メインターゲットは間違いなく女性層だろうけど。あんまり派手過ぎるのもダメってことじゃないの?」
ポップなクリーム色の壁紙や床下。
必要以上に可愛さをアピールすることはなく、シンプルな内装になっていた。
注文したケーキやプリンが来るまで、しばしスマホを弄る。
この店を運営する会社を検索し、ホームページで簡単に調べてみた。
「へぇぇ……元はこの店作った人、牧場経営してたらしい。あぁ……だからスイーツ類を安定的に安く作れるのか」
最初は小さな喫茶店のような店から始まったという。
自社製のミルクを使ったバターやクリーム等で、味も安っぽさを出さず評判が良かったらしい。
それで、人気が出てチェーン展開し、近年急激に業績も拡大していると書いてある。
「そうなんだ……――あっ、来たんじゃない?」
リヴィルの言葉で、一旦話を中断。
店員さんが、注文した品の幾つかを持ってきてくれた。
「じゃ、食べよっか」
「おう……あむっ……んっ! お、美味いなこれ」
小さな円筒形の器に入った、プリンを口に運ぶ。
一掬いではカラメルまで届かなかったが、甘さと卵の濃厚さが上手く混ざり合って舌の上で溶ける。
「んっ……――へぇぇ、こっちのショートケーキも、ほんのりミルクの濃さを感じて、良いよ」
リヴィルも上機嫌でフォークを動かす。
良かった良かった……。
ここに来る前にダンジョンで運動をこなしたからか、一つ目をあっさりと平らげる。
リヴィルも意外に早くケーキを食べ終え、次へと手を付けた。
「おいおい、リヴィル、そんなに急がなくても良いんだぞ? そんなほっそいのに、食べすぎると後でしんどい思いをするのは自分だからな」
チーズケーキを切り分けるフォークを止め、リヴィルにそう声をかける。
半分心配、半分挑発するような調子でだ。
そんな俺の言葉に対し、リヴィルは余裕の表情を崩さず笑って受ける。
「フフッ、マスターこそ。もうコーヒーかなり飲んでるじゃん。無意識に甘い物をコーヒーで流し込んでない? 大丈夫? 無理ならゆっくりしてていいんだよ」
ほう……。
「……良いだろう。その安い挑発、乗ってやろうじゃないか。時間内により多く食べた方が勝ちだ。負けた方は……」
「何でも相手の言うことを一つ聞く。どう?」
フッ、小娘め、後で泣いても知らんぞい……。
ゴーさん達と体を動かしまくった成果、ここで見せてくれるわ!!
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「うぷっ……ダメ、もう無理」
「マスター……大丈夫? 死にそうな顔してるけど」
ぐぬぬっ……!
軽く俺の倍は腹に入れてるくせに、なぜそんな涼し気な顔が出来る!
“異性の前では、恥ずかしくて大食いなんて出来ない! きゃぴ☆”を見せるフラグじゃなかったのか!?
それを前提に置いて罰ゲームまで決めたのに……くっ!
「これ以上食べたら多分、この店出禁になるくらい吐く自信がある」
織部のゲロインをバカに出来ない事態になる。
俺は男だからヒーローならぬゲーローか……うむ、単なるゲロだな。
「フフッ、それだけ冗談言えれば大丈夫だよ。……罰ゲーム、どうする? ケーキおかわりってことにする?」
鬼かお前は!?
俺を出禁にするつもりか!!
そんな俺のリアクションを見ながら、リヴィルはクスクス笑って食後のティータイムを楽しむ。
リヴィルめ、意外とSっ気あるんだな……。
それから残り時間も僅かとなり、ドリンクなどの休憩タイムに突入する。
ここから逆転など不可能なので大人しく負けを受け入れ、店内の喧騒に耳を澄ませ胃を休ませた。
「……おっ、またこの曲か」
BGMとして、シーク・ラヴの最新シングルが流される。
他の最近話題のアーティストなども含め、流行を取り入れているらしい。
「……流行りの歌だから、ってのも勿論あるだろうけど。やっぱりシーク・ラヴ要素は意識して取り入れてるんじゃない?」
リヴィルはホットコーヒーを啜りながら、周囲の席に視線をやる。
俺以外に男性客を見つける方が難しいというくらい、周りは女性客が圧倒的に多かった。
やはりスイーツ系統のお店ということが大きく影響しているのだろう。
そのことを踏まえ、リヴィルが推論を口にする。
「今一番ダンジョン攻略で頑張ってるのって、やっぱりシーク・ラヴ――女性のダンジョン探索士でしょ? こことコラボしたってのも、要するに、一般女性にアピールしたいんだよ」
「……ああ、広報って意味か?」
頷くリヴィルを見て、その推察に納得する。
つまり、未来のダンジョン探索士・補助者へ訴えるための宣伝・草の根活動の一環だということか。
逆井や志木達が頑張ってテレビ・ネットに出ていることもあり、ダンジョン探索士・補助者そのものはとても好印象を持たれている。
ただ、やはりモンスターと戦うということもあって、荒事というイメージも付きまとう。
すると、男性に比して女性で、探索士・補助者になってみようかと思う人がどうしても少なくなってくるのだ。
「まっ、コラボ自体はお店の利益にもなるだろうし、両者共に損しない結果なんだろうけど」
リヴィルはそう言いながら、他のテーブルにケーキなどを運ぶ店員さんを見る。
その盆の上には期間限定のコラボ商品が乗せられていた。
逆井達の武器、つまり槍やロッドなどを模したスイーツだ。
運ばれて直ぐ、近くの女子高生グループはスマホで写真を撮っている。
女性にだろうと男性にだろうと、シーク・ラヴはやはり人気者らしい。
新たな発見を得て、リヴィルと共に充実した1時間を過ごしたのだった。
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「――うぅぅ……悩む、悩むぅぅぅ~!!」
「もう……早く決めなよ。他のお客さん来ちゃうって」
砂糖攻めを食らった胃を労りながら、会計を済ませるためレジへと向かう。
そこには先客がいたらしく、大人しそうな外見の女性が一人、店員と話していた。
「分かってる! でも、でも!! “知刃矢ちゃん”以外に何で3つもあるの! 私、後2回も来ないと全部集められないじゃんか!」
「いや、それが期間限定グッズってことじゃん……そんなこと言うなら“ヒヅキ”、誰か連れてくればよかったんだよ。――ってか何一人で週に2回もスイーツバイキング来てんの? 後2回来るつもりなの? 猛者なのあんた」
うぉっ、そりゃ凄い!
えっ、あの大学生くらいのお姉さん、一人でスイーツバイキング来てんの!?
猛者なの!?
どんだけ志木達の限定グッズ欲しいんだよ……。
「うぅぅ……――しょうがない! “ツギミー”君に決めた!!」
「はいはい……“空木ちゃんコースター”ね……ありがとうございます。あんまり部屋に籠ってばっかいないで、後期からは大学来なよ? ――またのご来店をお待ちしております」
俺達が丁度後ろに並んだ時、前の会計・グッズのプレゼントが終わった。
リヴィルと顔を見合わせ、どちらからともなく頷き合う。
「――お待たせしました! えっと……あっ、はい、“バイキングコース”ですね……」
リヴィルに誘っては貰ったが、お金は普通に俺が出しておく。
今回の罰ゲームはこれで勘弁してくれるらしい。
ラティアか、大穴で織部が絡むかと思ったが……。
リヴィルは飴と鞭をちゃんと分かっているな。
「ただいま期間限定コラボグッズをプレゼントしております。“バイキングコース”は“コースター”ですね。お一人様お一つ、お選びください」
そうして店員さんが、4人がプリントされた絵を提示してくれた。
志木、飯野さん、空木、そして桜田の4人がそれぞれ一人ずつ、1つのコースターに描かれたものだ。
「じゃあ――」
俺達は、迷いなく志木と飯野さんの物を選んだのだった。
「――あのっ!!」
店を出て、意外に早く追いついた女性に声をかける。
驚いたようにビクッと肩を震わせ、その女性――猛者さん(仮)は振り向いた。
「えっ? あの……私? 他の誰かと間違えてないか?」
さっき店員さんに見せていた態度とは全く異なり。
猛者さんはとても静かな、それこそリヴィルのようなクールな表情で応じてきた。
……まあそりゃそうか。
ってかあの店員さん、友達なのかな?
「いえ、えと、突然すいません……あの、さっきのお店で貰える限定グッズのことなんですけど」
そう話しかけると、猛者さんの目が大きく見開かれる。
だが一瞬でそれを自制し、深呼吸して応じてきた。
「そ、そう……それが、どうかしたのか?」
サバサバした口調で、しかし、興味があるのを隠せない声音だった。
俺は店を出る前にリヴィルから受け取ったそれを、自分の分と合わせ取り出す。
そして、彼女へと差し出した。
「これ……もしよかったらいりますか? 俺達、バイキングを楽しめただけで十分だったので……それに、さっきチラッと話聞こえてたんで、どうかな、と」
「え……え? いいの、本当に? ――あっ、いや、今の“いいの”は美洋ちゃんの“飯野”ってことじゃなくて、貰っても大丈夫なのって意味で……」
いや、それくらい分かるわ。
俺が頷くと、まるで神か仏でも崇め奉るかのように両手をこすり合わせてくる。
「――青年ッ!! えっ、君何なの!? 神!? もしかして私の余命でも告げに来た!? そのための等価交換!? ただそれでも貰っとくよ!」
余命宣告だったとしても受け取るんかい!
どんだけシーク・ラヴのこと好きなんだよ、この猛者さん……。
本当に有難そうにコースターを受け取った女性は、代わりに何かのチケットを4枚も取り出す。
「ほんっとーにありがとう! おかげで二十歳越えの行き遅れが、一人で後ろ指刺されながらスイーツバイキングに2回通うのを回避できた! ――これ、あげる!」
「えっ、いや、いらない――」
だが強引にそれを押し付け、女性は気分良さげに去って行ってしまった。
……嵐のような人だったな。
「……最初は凄いクールだったのに。カオリ達の話になるといきなり化けの皮が剥がれたね」
……だね。
手に握らされた“屋内レジャー型プール 入場無料 優待券”をぼんやり眺めながら、ゆっくりリヴィルと歩き出す。
そうして、この後のレイネ・ロトワとの合流地へと向かい始めたのだった。
リヴィル「(あげるのは異論ないけど……これ、“カオリ”や“ミヒロ”に知られたら一波乱あるかも。躊躇いなくあげちゃってるし)」
新海「ん? どうしたリヴィル、何かあるのか?」
リヴィル「ううん、何でもない(あるとしたらこれからかな……)」
歩きながらこんな会話があったはず!
4分で終わるというHIITなる運動を頑張ってみました。
終わった後は今回の新海君みたいにゲロ吐きそうになるほどしんどかったんですが、しばらく休むと不思議と気分は良くなってました。
続けばいいですがね……。




