297.ハイレベルな遊びしてんな……。
お待たせしました。
ではどうぞ。
『――アズサ! それにニイミさん達も! お疲れ様です』
「あっ、姉様……カンナじゃない?」
梓が首を傾げたように、画面に映ったのは織部ではなくカズサさんだった。
同じように不思議がっていると、カズサさんが説明してくれる。
『“王都”に着きました。私は別行動です。あ、後タルラとシルレもですけどね』
「おぉぉ~遂に王都かぁ~!」
「ですね……カンナ様達も、遠い所まで行かれたんですね……」
確かに。
最初の時から考えると、大分進んだんだな……。
レイネとラティアも織部の旅を見守って来たからか、とても感慨深そうに喜んでいた。
「……でもそれじゃあカズサさんが単独ってことは、そのDD――ダンジョンディスプレイは?」
『カンナさんに、今は私が持っているように、と。――まあこの後タルラ達の様子を見た後、直ぐに合流するんですが』
何だ、それなら安心だ。
織部が無くしたままはぐれたとかなら、一時的にせよ、織部と連絡の付けようがなくなるからな。
今自身で言った様に、カズサさんはDDを持って素早く移動する。
その際、視点が物凄いスピードで動くので、こっちの方が目が回りそうになった。
そして特徴的だったのが、何度も地面や壁の中に沈み込むような移動があったことだ。
まるで、その地面や建物の中に、カズサさんだけが通れる空間があると言ったように……。
「……何か、あたしの“闇の力”に似てるな」
レイネがカズサさんの移動方法を見て、そう呟く。
……今のは別に、レイネが中二病に罹ってるという話ではない。
要するに、“闇の精霊”と仲良くなったために使える、天使特有の能力を指すのだろう。
レイネと闇の精霊の位置を、瞬時に交換できるあの技だ。
「……姉様が貸し与えられた、魔剣の能力」
カズサさんが移動に忙しいからか、梓が代わりに解説してくれる。
「地面だろうと壁面だろうと。その剣と魔力、そして呼吸が持つ限り。その中がまるで水中であるかのように潜ることができる」
「……へぇぇ」
俺の“灰グラス”も暗殺とか隠密に向いたアイテムだけど。
カズサさんの持つ剣の能力も隠れるのにはピッタリだな。
『――ふぅぅ……着きました』
その証拠に、カズサさんは今まで誰一人として市民に見つからなかった。
王都だけあって人は沢山いたのに、だ。
カズサさんのそもそもの運動スペック自体も凄いが、異世界の不思議能力というものの凄さ自体も改めて感じた。
カズサさんは人気のない通りの角から、大通りを覗き込むようにしてDDを構えてくれた。
おかげで大通りでの賑わいが直接、俺達の視界にも入ってくる。
「――あっ! シルレ様とタルラ様です」
ラティアが真っ先に気付いて声を上げる。
俺達がほぼ同時にそちらに視線を向けると、確かに二人がいた。
しかもそれは、単なる一通行人としてではなく。
『――五剣姫様ぁぁぁ!!』
『キャァァ!! シルレ様よ! こっち向いてぇぇぇ!!』
『タルラ様、ちっこいのに強そうぅぅ!! 俺の息子の嫁に来てくれぇぇ!!』
凄い歓声だった。
大通りは左右を埋め尽くすのではというくらいに人が集まっている。
そして二人はその見物の間――真ん中を堂々と通る、歓声の対象だったのだ。
「凄い人気だな……」
「まあ、なぁ……“五剣姫”って言ったら、他国でも知れ渡ってるくらいの強者だからな。市民達にとっては誇りなんだろうぜ?」
異世界の事情にも通じたレイネの解説を聞き、納得する。
それで、ようやくカズサさんがあまりらしくない、コソコソした動きをしていた理由もピンときたのだった。
「ああ……だから“別行動”ってことですか」
カズサさんの苦笑する声が聞こえる。
『フフッ、二人はジャンケンに負けたので。私やオリヴェアが動きやすいよう目だってもらってます』
なるほど……。
改めて観衆の声に耳を傾ける。
カズサさんに近い人達の声を、DDが拾う。
『――五剣姫様の内、2人も揃うなんてな!』
『ああ! だが、噂じゃ“あのオリヴェア様”もいらっしゃるかもしれないらしいぜ?』
『マジかよ!? 美女揃いの“女人の町”の中でも、一番の美女なんだろ!? うわぁぁ、一度でいいから死ぬまでにそのお顔を拝みてぇぇ!!』
他にカズサさんの話も聞いて取れた。
やはり五剣姫そのものが市民の中ではとても人気者らしい。
……ただオリヴェア様が、ミステリアスでとびきりの美少女だと噂されまくってる件。
「……まあ、うん、知らない人はそういう想像なんだろうな……」
『あ、あはは……まあ、彼女、ちゃんと見た目は絶世の美女ですからね』
カズサさん、それフォローのつもりっすか。
“見た目は”と限定を付けるあたりが、もうね……。
『――さ、さあ! 気を取り直して、カンナさん達の所に向かいましょう!』
「……姉様、話を逸らした」
「だな……」
梓と一緒にジト目で見る。
しかしカズサさんはそれに気付いていながらも、気づかない鈍感系ヒロインスキルを発揮。
そそくさと先程の剣の能力を使い、その場を離れたのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「おぅふ……」
カズサさんが移動した先――居住区と商業区の間の一画。
そこに、織部はいた。
……いや、正確に言うならば“織部と思しき存在”がいた。
大き目の広場のようなところで、噴水が設けられている。
その前に人だかりができていて……。
『あ~……今すぐ合流は難しそうですね』
「? ……カンナやサラ達は? いるんでしょう?」
梓一人だけ、状況が分からず首を傾げている。
が、ラティアもレイネも。
あの人が密集している中で、どれが織部で、そしてオリヴェアなのかは直ぐにピンと来たのだった。
「――あの“着ぐるみ達”が、カンナ様達、ですよね?」
「……“ウサギ”はカンナなんだよな? ……うわっ、ウサギにしては何か動きがキモい。えっ、着ぐるみ……だよな? 妖精に至っては何か凄い興奮して鼻息荒そうなんだけど」
言うな……レイネ。
確かにそう言うオーラするけども。
妖精に至っては呼吸が苦しい以外の理由で、沢山息を吸っては吐いてしてそうだけども!!
『――ですね。サラさんは裏で準備を手伝っているという風に聞いてますが……』
カズサさんが肯定した通り。
あの人の集まりの中、明らかに目立つ存在が二つだけあった。
“ウサギ”と“妖精”の着ぐるみさんだ。
着ぐるみなので顔は見えないが、もうあれが織部とオリヴェア確定で良いだろう。
「風船配り、ですか……特に子供に大人気に見えますね」
「王都に住むガキんちょでも、風船は異世界じゃ見ないからな……」
そう言えば暇つぶしの用具としてトランプやオセロ等と一緒に、風船も織部に送ったことがあるのを思い出す。
なるほど……ああいう風に有効活用してんのか。
『五剣姫――最後の一人の情報収集だそうです。……確かに、“彼女”が一番、王都へと戻ってくる頻度が高いですからね。王都の住人に聞くというのはアリとは思います』
つまり織部達は着ぐるみを着て風船をあげる優しい存在を演出しつつ、それとなく話を聞いている、ということか。
まあ前にそう言うことをする、とは言ってたが……。
「……王都の最寄りの町――確か東にある、公爵領だったところをそっくりそのまま治めて、王都の防衛の責任者も任されてる」
梓の言葉を受け、カズサさんが肯定する。
「へぇぇ……じゃあやっぱり一筋縄じゃいかない相手なんだろうな」
こうして事前に情報収集して、協力を得られるよう努力してから挑まないといけない程の相手。
そう思うと、織部達の努力に素直に頭が下がる思いだった。
「……あっ――フフッ、カンナ様、興奮してらっしゃいますね」
そんな時、ラティアが興味深いものを見たというように笑ってウサギの着ぐるみを指差す。
そちらに目をやると、織部……ウサギが数人の子供と丁度何かのやり取りをしているところだった。
小さな女の子数人のグループが、どうやらウサギを悪者としてごっこ遊びを始めたようだ。
そしてウサギを懲らしめ、拘束するのにピッタリの紐状の物を自分達の手に見つける。
「……むむっ、風船の紐で拘束とは。趣が――業が深い」
梓、今“趣深い”って言いかけた!?
あれのどこに趣を感じんだよ!!
変態は子供たちにされるがままに、両腕を風船の紐で適当に縛られてしまう。
そして抵抗も出来るだろうに、風船の浮力に抗えない風を装い、腕を次第に頭上へと持って行く。
……心なしか、遠目でもウサギの呼吸が荒い様に感じるのは先入観のせいだろうか。
「カンナ……ハイレベルな遊びやってんだな……」
マジでそれな。
現地の子供、それも女の子相手に何やってんだ……。
レイネの呆れたような呟きを耳にしながら、さっきの頭が下がる思いを全部返せと言いたくなったのだった。
織部さん、一言もしゃべってないのに、もう行動が“織部”ってて……織部さんらしいというかなんと言うか(白目)
オリヴェアさんの幻想は、王都の住民には内緒にしておいてあげましょう。
その方がいい夢見られますからね(遠い目)
体調面、大分マシになりました。
メンタルの落ち込みのピークは過ぎたようです。
お気遣いも頂いたみたいで、ありがとうございます。
感想の返し、体調が楽になって来たのでまた少しずつですが頑張って行きます。




