295.どうやったらこうなるんだ……。
お待たせしました。
ではどうぞ。
「ロトワちゃんを芋信者――っとと。お芋好きに勧誘してから、ウチ、結構“あれ? 何か運良いな~”ってこと、多くなったんだよね~」
おい、しれっとお芋教にロトワを入れるんじゃねえ。
それでロトワが偶に意味不明なこと呟くんだから。
俺のジトっとした目の他、九条からも懐疑的な視線が飛ぶ。
そう言うのは多くが主観的で、自意識過剰なこともあるからだろう。
「むむっ! 皆信じてない? 本当に凄いのに……」
不満げな空木はロトワをギュッと抱きしめながらも。
片手を広げて指折り具体例を挙げ始めた。
「最近、花織ちゃんや椎名さんに怒られる頻度が減ったでしょう? それにソシャゲのリセマラ平均時間も明らかに少なくなったし……」
「ツギミー、そもそも普段からそんなに二人に怒られてるんだ……」
逆井の呆れたような呟きに反して、空木は何故か得意気だ。
ってか挙げる例がしょうもないのばっかだな……。
「あっ、後もう一つ! ――グヘヘ、ロトワちゃんと一緒にいる時、乙女の内緒話を耳にする機会が増えましたな~」
殊更に悪そうな顔を作る。
だがロトワはそこはスルーして、その中身に同意するように声を上げた。
「そう言えばそうです! 確か……リア殿がハヤテ殿に“今度、さ……二人で誘ってみない?”とコソコソされていたのを――」
「――っと! ロトワちゃん!? お芋! お芋のお菓子あるよ! さぁ食べようか!!」
明らかに動揺した逆井がポリポリとかじるタイプのお菓子を差し出す。
ロトワは話を逸らされたことに気付かず、嬉しそうにそれらを口に含めた。
「……むにゅぅ、ぅにゅぅぅ……」
流石に今のは許容量を超える音だったらしい。
ルオが反応し、ムニャムニャ呟きながら寝返りを打つ。
「……ツギミー、アタシは信じる、けど。それだけじゃないよね……何が望みだし?」
ルオの様子を窺いつつ、逆井は声を抑えて空木に尋ねた。
「……今度ウチが花織ちゃんか椎名さんに捕まった時、気を逸らす役一回」
何だそりゃ……。
「……仕方ない、手を打つ、か……」
打つんかーい。
「……えっと、ロトワは、その、ロトワが幸運を引き寄せる、なんて自覚は無いのですが」
未だ半信半疑から抜け出せない九条を見て、ロトワがおずおずと口を開く。
「あのテレビでの転倒……衝撃でした。ロトワなんかでお力になれるのでしたら、是非、お力添えしたいです!」
「…………」
ロトワ……。
――ちなみに、“ロトワ自身”に、他者の運を引き上げるという能力は厳密にはない。
なら空木の言葉が嘘なのかというと、そうとも言い切れないのだ。
今はロトワの見た目、獣の耳や尻尾を偽るために消えている2体の狐。
キンキンとギンギンのおかげだった。
【幸運の巫女】というパッシブスキルがそれぞれについているのだ。
要するに、2体を使役する“女性”に限ってだが、その幸運値を上昇してくれるというスキルだった。
[Ⅱ能力]
Lv.28
体力:188/188
力:62
魔力:111
タフ:132
敏捷:66
以前、灰グラスで自分の能力を確認した時も、幸運のステータスの表記は無かった。
つまり、守護者だけが持つ特殊なスキルで、隠しステータスのようなものを引き上げているということだ。
2体を使役している分、運が上がっているだろうロトワ。
その傍にいることが多い空木が、恩恵のおこぼれを実感していてもおかしくはないということになる。
……まあ俺はあんまり実感ないけどな。
「……どう、聖ちゃん? ロトワちゃんもこう言ってくれてるけど」
「……うん、でも……」
あまり信じてない、というよりは。
九条的には自身の身に降りかかる不運のために、ロトワが巻き込まれないかと心配してくれているようだった。
それだけ今まで自分が体験してきた不幸が、冗談や軽い話として脇におけるものじゃないということだろう。
「ただロトワちゃんと仲良くしたらってだけだからさ、ひじりん、あんまし難しく考える必要はないんじゃない?」
逆井もフォローしてくれる。
そうそう、変に考えすぎるとよくない方向にばかり思考が行ってしまうからな。
「そうだって。――グヘヘ、これで聖ちゃんの不幸が吹っ飛んだら、ロトワちゃんには正式に“お芋教”の教祖の座に付いてもらおうかな」
「クスッ……何それ……ロトワちゃんの幸運、そんなことよりもっと他のことに使いないよ」
九条はおかしそうに笑い。
空木も“そんなこととはなんだ!”と怒りながらも、同じように笑っていた。
……空木め。
普段は飄々としてるくせに、周りのために道化を装って、気遣いの出来る奴だ、ったく。
「――じゃあロトワちゃん、改めて、私とお友達に、なってくれますか?」
正座になり、笑顔で九条はそう聞いた。
「わっとと!……――はいです! ヒジリちゃん、ロトワとお友達、お願いしますです!」
ロトワも慌てて空木のベッドから降り、向き合うようにして床に膝をつく。
綺麗な所作で頭を下げ、九条の願いを受け入れる。
そして少し年の離れた友人関係がまた一つ出来たのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『――そう……それは良かったわ。聖のこと、よろしくね、ロトワさん』
「あ、わわ! ――えっと、はい! ロトワ、承りましたです!」
PCの画面――志木が映る前で、ロトワが仰々しく敬礼して答える。
それをおかしそうにクスクス笑って、志木は話を戻した。
『一緒に私の密着番組でも見ながら顔合わせしてくれたら、程度に考えてたけれど。想定外に上手くいったようで何よりだわ』
「聖ちゃんのドジっ子属性が直るかどうかは今後のロトワちゃんとの時間に期待だけどね……」
空木が誰かに聞かせるつもりのない呟きを口にする。
今は場所を移して、シェアハウス内での共用スペースにあたるリビングにいた。
だから上で寝ているルオへの配慮ではなく、九条への愛あるイジりだろう。
「あっ、その、花織さん! 番組、凄く良かったです! 最後はあれでしたけど……他は、もう全部! 花織さんの素敵さが丸々見れたみたいで!」
“最後”という部分を耳にし、また志木は小さく笑う。
あの九条の転倒を思い出したのかもしれない。
『そう……それは良かったわ。――あっ、そうだ美桜さん! 貴方ね、そう言えばこの前のミーティング! またサボったって椎名さんに聞きました!』
「うぐっ!! え、えーっと……」
あぁぁ……本当に志木にしょっちゅう怒られてるんだな。
それも椎名さんに告げ口される形かよ……。
だが何と言うか、俺も大概プリプリとお説教食らうことが多いので、空木に親近感が湧く。
……でも助けないけどね。
だって自業自得だし、俺に飛び火しても嫌だし。
『まったく、貴方はやれば出来るのにやろうとしないことが多すぎて……』
「う、うぅぅ……――チラッ、チラチラッ」
「えっ、今!? もう……ツギミー無茶振りだし……」
さっきの良く分からない交換条件で、逆井が志木をとりなす。
その後しばらく志木と逆井の話が続き、空木が建前で平身低頭ペコペコする時間が続いた。
「……うにゅぅぅ……んんっ――」
「あっ、大丈夫? ロトワちゃん、もうおねむ?」
テレビチャットから置いてけぼりになった間に、どうやらロトワの限界が来たらしい。
流石にもうそんな時間か。
風呂に入ってから時間も経ってるし、良い具合に眠気が襲ってきたんだろう。
「――あの、花織さん、すいません、そろそろロトワちゃんが……」
『あら? ごめんなさい。そうね、じゃあこのくらいにしましょうか』
「うしっ……!」
おーい、空木、今は控えておけ。
お説教の延長食らいたくないならな。
『……丁度いいじゃない。聖、貴方が連れて行ってあげたら?』
志木の提案に一瞬、九条が何かを考える間があった。
しかし、直ぐにそれに頷く。
そしてロトワを抱き寄せるためにしゃがみこんだ。
「分かりました――さぁ、ロトワちゃんも、もう寝ようね……」
「悪いな……それじゃあ付いていくから、空木の部屋まで。難しそうだったら遠慮なく言ってくれ」
ルオは急に決まったが、ロトワはそもそも今日、空木の部屋に泊る予定だった。
九条も理解して、小さく振り向いて頷く。
『直ぐ改善なんてないでしょうけど……“運”っていうのもその多くは日々の行動が間接的に関わってると思うの。だから、ロトワさんとの仲を深める過程で、良くなればいいくらいに気楽に構えて、ね?』
志木の言葉を受け、九条は嬉しそうに頷いた。
良いこと言うな……志木は。
俺も正直、ロトワの幸運と九条の不運が組み合わさったら果たしてどうなるかはわからない。
何も起きないかもしれないし、少しは改善するかもしれない。
ただどうなろうとも、ロトワが空木以外にも親しい相手を見つけられることは前進に違いない。
九条も頼りない所があるから、年下のロトワと接する機会を増やすことで、何か気付きみたいなところを得られれば良いと思う。
そこから行動が前向きになって、運が上向く、と言うこともあるかもだし。
俺がやることは、その二人の手助けだ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「うにゅぅ――かたじけない、です……」
「フフッ、良いよ良いよ。さっ、ヨイショっ……あっ――」
力を抜いて寄りかかって来たロトワ。
それを九条は、衝撃を与えないために優しく抱き上げようとした。
――それが、きっかけとなった。
「意外に、重っ――あっ、マズっ」
女子同士だからか、遠慮のない言葉が口を突いて出る。
と、言うより。
そこまで余裕がなかったらしい。
力を入れていなかった九条はバランスを崩す。
「おっ、おい! 大丈夫か――」
慌てて支えようと傍に寄るも、タイミングが最悪だった。
背中越しに俺へと当身してきたのかと思う程、力強く倒れてくる。
九条が抱えるロトワごとだ。
意識の外からくるタックルレベルの衝撃。
それを何とか直接床へと当てない様、自分が下敷きになることで守る。
「っごっ、いつっ……」
鈍い音がした。
背中を強く打つ。
痛い……。
「痛そう……ひじりん、新海、大丈夫? ロトワちゃんは二人が守ったから大丈夫っぽいけど……」
「聖ちゃん、本当器用に転ぶね……お兄さんがいなかったら結構危ないことに――って、え?」
瞼の裏に火花が走ったような衝撃が収まり。
逆井や空木の声が聞こえてくる。
が、ロトワと九条の声がしない。
どこか打ったのだろうか、と心配し始めた時――
「――うひゃ!?」
――体に異変が走る。
おかげで、キモイ声が出てしまった。
胸からおへそ辺りに柔らかい感触。
そして、男の大事な部分へ、グリグリと硬い物が押し付けられているような……。
「――え゛っ、どうやったらこうなんの?」
また驚きで、凄い声が出てしまう。
仰向けの俺が首を上げて見た光景は、それだけ衝撃の物だったのだ。
九条が俺のシャツに頭を突っ込む形で、ペタペタ胸やお腹辺りを触っている。
そしてロトワに至っては、九条と被って見辛い部分もあるが……。
――これ、確実に俺の股間に頭押し付けてんだろ、ロトワ……。
「うわっ、本当、どうやったらこうなんだろう……ひじりんのアンラッキーパワー、恐るべし」
「あれ……ウチ、いつの間に貞操観念が逆転した世界に入り込んだんだろう。ここは女子がラッキースケベを起こして、お兄さんが悲鳴を上げる場面で……OK?」
いやOKじゃねえよ。
逆井も逆井で、ボーっと見てないで助けろ。
「むごっ、あっ、その、ハルさん、ごめんなさい! ちょっと暗くて、肌色しか見えなくて私……あっ、でも、これが男の人の体……硬くて、凄い――」
いや、しゃべらなくていいから!
後ペタペタ胸とお腹触らないで!!
「んにゅぅ~? ラティアちゃん、お館様の……おいなりさん、食べてもいい、ですか?」
ダメだって!
状況が状況だけに余計にダメ!
ってかロトワ、起きろ!!
夢の中で甘言をささやく悪魔に負けるな!!
『……幸運と不運な聖の組み合わせ……ちゃんと化学反応が起きることは確かなようね』
志木が発する平坦な声、その一言で、何とか場が冷静さを取り戻す。
逆井や空木の助けを得て、今日一のアクシデントは解決された。
「……はぁぁ、だな。でも言っとくが、これは完全に事故だからな」
俺の言ったことを理解しながらも。
志木は俺以上に深いため息を吐き、微妙な表情をしたのだった。
『はぁぁ……。分かってます。ただ、この何とも言えない感情。――何に対して怒れば……いえ、吐き出せばいいのか難しいものね』
いや、怒ってるやん。
……まあ俺に怒ってるわけではなく。
そして勿論、九条やロトワを非難しているわけでもない。
志木自身も、今抱いている感情を消化するのに苦労しているんだろう。
「えげつなかったですよね……まさか二人揃ったらお兄さんをラッキースケベの被害者にするアクシデントを引き起こすなんて。一瞬本気で並行世界に迷い込んだのかと錯覚しました」
貞操観念の逆転した、女子の方が思春期男子並みに性欲の旺盛な世界のことね。
いやでも、俺の上半身に触ったり、股間に顔突っ込んで、誰が嬉しいんだと思うけど……。
「……とりあえず、ロトワと九条の交流は継続だけども、二人が身体接触する場合は要注意だな」
『……ええ、是非そうしてちょうだい』
志木とのビデオチャットは、そうしてとても気まずい雰囲気のまま終了となったのだった。
新海「……逆井、空木、今日あったことは俺達だけの秘密だ、いいな? 特にラティアには言うな」
逆井「う、うん……」
空木「(お、お兄さんの目がマジだ!!)う、うっす!」
多分、解散する時にこんな会話があったはず……。
すいません、明日はちょっとお休みすると思います。
しんどいとかではなく、体調は問題ないんですが、本当にボーっとして、何か全体的に手に付かないことが多くて……。
今日も書いては手を止め、ポケモ〇の話題のmvを見て、また書いてはmvを見て心を浄化され……の繰り返しでした。
丁度先日300部分書いたし、今日でロトワと九条さん回も終わったし、1日お休みしようという感じです。
ただ、感想の返しはまたコツコツやると思います。
ですので、次は織部さんスタート、になりますかね……(絶望)




