28.俺がラティアに迫られて、リヴィルが静かに溜息を吐く。
ここから2章が始まります。
いつもよりちょっとだけ短いですが、まあ始まりですのでこんなもんかと。
また、ストーリー的にもう少し進ませたいので頑張って夜にもう一話上げようかと思ってます。
もしダメならダメで、登場人物の簡易的な纏めを上げられれば、いいなぁ……。
どちらもダメそうなら、流石に活動報告にて周知します。
では、一先ずはお話をどうぞ。
「……嫌だ、起きたくない」
怠さMaxオリッ○ス。
マジで。
なんで朝なんて来るの?
太陽たまには休めよ。
今日くらい休んだって誰も怒らないって。
「――ご主人様、おはようございます。ラティアです」
ドアの向こうから、控えめに呼びかけてくるラティアの声が。
クッ、ラティアめ!
太陽にも負けない、何て頑張り屋さんだ!!
朝早く起きて、俺たちの朝食まで作って。
おまけに夏休み明けの登校が嫌で起きるのを渋る主人を、優しく起こそうとしているとは。
「……すまんラティア。俺も起きたいのは山々だが、布団がどうしても俺を離したくないと言ってな」
だが屈さぬ!
朝は強い方だが、何かここで起きてしまったら何かに負けてしまった気がする。
俺は、徹底抗戦の構えを取った。
……いや、でもクッソ暑いな。
早速決意が揺らぎかける。
俺の意思軽っ。
「フフッ……いけませんよ? ご主人様。起きてください」
そんな中、「失礼します」と声をかけて、ラティアが部屋に入ってくる気配が。
むむっ、実力行使のつもりか。
「ささっ、ご主人様、起きましょう」
優しく、そっと、鈴を転がしたような可愛らしい声で。
ラティアは布団を被った俺に囁く。
そしてゆさゆさと布団の上から俺を揺らすのだ。
クッ!
き、効かん!
効かんぞ!!
ちょっと布団から顔を出しかけたが、甘い!!
「あぁぁ……俺今日から布団と結婚するわ、布団に愛されて悠久の時を過ごすわ」
クソ暑くてもう出ようかなとかちょびっと思ったりもしたが。
だがラティアの甘く蕩ける様な声が、逆に俺を眠気へと誘っている。
フフッ、ラティアよ、策士策に溺れるとはこのことよ。
俺を起こしたくば、もっと計画を練ってくることだ。
「クスッ……それはご主人様の物とはいえ、布団に嫉妬してしまいますね」
なんだかとても余裕溢れる言葉と共に。
ラティアは実力行使へと動く。
「さっ……ご主人様。今日から“学校”ですよね? 起きましょう」
うぐっ!!
その単語を出されると、急に行きたくない感がグッと増す。
もう布団内で汗だくになってるが、ここまで来ると意地だ。
朝から何やってんだと思うかもしれないが、男には、やらねばならない時がある!!
「もう……では、布団、剥がしていきますよ?」
可愛らしく頬を膨らませるラティアの姿が目に浮かぶ。
本当に怒っているというよりは、愛おしそうに目じりを下げて、ちょっと困ってしまいます、という風に。
そんなラティアが、俺の足元から布団を剥がし始める気配を感じ取った。
クッ、上手い!
上半身部分は手による抵抗が激しいと察したか。
手強い、非常に手強い。
このままだとあえなく無血開城をやむなくされる。
なんとかラティアを諦めさせる方法――
――これだ、これしかない!!
そんな、肉を切らせて骨を断つ的方法を実行に移すのと。
「――あっ……」
――ラティアが、下半身部分が露わになるまで布団を引き剥がしたのは、ほぼ同時だった。
「――ラティアがえっちぃことしてくれたら、起きるよ」
――俺はそれを、愚息が朝のボーナスタイムに入っている部分を目撃されながら、口にしてしまった。
こう言えば、ラティアから穢れた物を見る眼差しを向けられることになるが。
ラティアは恥ずかしがったり、諦めたりしてくれるかと思ったのだ。
……いや、ほんと、朝だから。
全然ね、頭回ってないんだよ。
もうこれだとただの立場を利用したセクハラ・パワハラクソ野郎じゃねえか。
ああ、これはラティアに嫌われた可能性ある。
もう本当に布団から出たくなくなった。
「………」
ほらっ、ラティア黙っちゃったじゃん。
もうダメだ、お仕舞いだ。
――シュルッ、シュルシュルッ
ねっ、服を脱ぐ衣擦れの音も――
……音、も?
「…………失礼、します」
呆けて布団を掴む力を緩めた隙に。
ラティアはスッと中に入り込んできた。
その際、床に白いエプロンと、サキュバス用衣装のトップ部分が落ちているのが、目に入った。
「ちょ、お、おい――」
滑り込むようにして布団の中に潜って来たラティアは、直ぐに俺と体を密着させた。
それでようやく、胸を隠していた腕を、外す。
俺はその肌色が目に入らぬよう、せめてギュッと目をつぶった。
「……何だか、とても、ドキドキします」
花のような甘い、ふんわりとした良い匂いが、呼吸の度に鼻孔をくすぐる。
ま、マズイ、こ、これは――
――全集中、唯の呼吸! 一の型 『鼻吸』!!
視界を閉じている分、余計にラティアから漂ってくる蠱惑的な香りが、匂いが、脳をガンガン刺激してくる。
クッ、このままじゃ……息子が……。
「ご主人様……」
ラティアの呼吸が、直に聞き取れる。
その息使いが、感じ取れる。
そんな距離なのに、更にゆっくりと近づいてくるのが分かった時――
「――何してんの、二人とも」
まだ残暑厳しい中、真冬の吹雪を連想させる凍えるような声が、入口からかけられた。
上半身ほぼ裸のラティア越しに見たそこには、感情一切を窺わせない目でこちらを見下ろすリヴィルの姿が。
彼女は何も言わず淡々とベッドに歩み寄ってきて、布団を一気に引っぺがした。
そこには――
汗だくの俺。
ラティアというエナジーを注がれてパワー充填に成功した愚息。
そしてただでさえ際どいサキュバス衣装に、トップ部分を脱衣済みのラティア。
……わーい、別の意味で学校行かなくていいかもしれないぞ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「はぁぁ……」
リヴィルの深い溜息が、食卓を囲むリビングに響く。
うぅぅ……すんませんした。
あの後、同じようなリヴィルの呆れた吐息を耳にし、俺はやむなく起床を余儀なくされる。
ラティアは我に返ったかのように急いで脱いだものを身に着け、そそくさと下の階へ。
リヴィルはと言うと――
『まぁ、マスターとラティアがいいならいいけど。……私のことも、偶には思い出してくれたら、嬉しい』
とだけ言い残してラティアに続いて行った。
「…………」
そして今。
ラティアが用意してくれていた朝食を無言で口へと運ぶ。
耳に入ってくるのは箸と食器、そして咀嚼の音だけ。
むぅぅ、気まずい。
ラティアはラティアで、頬を赤らめて先ほどから目を合わせようとしてくれないし。
ならばとリヴィルに目をやると――
「…………」
心なしかキツイ目つきをしているように見えたが。
多分それは俺の後ろめたさみたいなものから来るんだと思う。
いつも、リヴィルは無表情なことが多い。
だが、今のように、ふとした時とても寂しそうというか、儚げに見えることがある。
声を掛けないと、偶に触れてみないと、俺の幻想なんじゃないか、そう思ってしまう。
それくらい、リヴィルは作り物めいた美しさというか、消えてしまう前の輝きみたいなものがあった。
俺は気まずさはあるものの、堪らず呼びかけた。
「リヴィル」
「……なに、マスター?」
「えっとな、その、どうだ、最近。上手くやれてるか?」
何だそれ。
自分で自分の会話センスの無さに辟易する。
偶にしか帰れず、子供との話題に困る仕事ばかりの父親かよ。
「? うん、ラティアが良くしてくれるし、大丈夫。慣れてきたよ」
最初は不思議そうに首を傾げるものの、普通に答えてくれる。
「そうか……」
「うん」
会話終了。
ヤバい、切実にコミュニケーションスキルが欲しい。
「テ、テレビ!! テレビつけましょう!! 何かニュースがやっているかもしれません!!」
どんよりとした空気の重さに、事態を見ていたラティアがすかさずリモコンを取った。
……『ニュースがやってるかも』って、そりゃ朝だし、やってるでしょ。
だが露骨な転換だとしても、全員それを受け入れる。
流石にこのままだと気まず過ぎるしな。
『――続いては短い時間で最新のニュースをチェック。“ニュースワンタイム”です』
ああ、丁度いい。
直近で起こった事で、注目度が高いニュースを選別して次々に読み上げてくれるものだ。
当たり障りないものだが、何か会話の切っ掛けにはなるだろう。
『――第○○回、臨時国会が召集され、ダンジョン関連法改正案について、与野党の攻防が行われました』
「へ~……」
「ふーん……」
「そうなんですか……」
『探索士アイドルのお披露目ライブが、10月の21日に行われるとの発表がありました。チケットも先行販売の他、当日分も売り出されるようです』
「あ~、逆井とかが出るのな」
「確か志木様や皇様もお出になるのですよね?」
「……マスターって、女性の知り合い多いの?」
『――変わって。また、行方不明者が出たとのことです。××県警が、情報提供を求めています。月終わりの今日までで、既に113人となります』
「……最近多いな。二人とも、外を出歩いてもいいけど気を付けてな」
「大丈夫。ラティアは私が守るから」
「フフッ、よろしくお願いしますね、リヴィル?」
「――じゃあ、行ってくる」
俺が学校へと向かうまでには、何とか気まずい雰囲気も無くなり。
二人して玄関まで見送りに来てくれた。
「はい。お気をつけて」
ラティアは微笑んで。
「……ふーん、その、制服、いいんじゃない?」
リヴィルは素っ気ないながらも。
それぞれが一言くれたおかげで、朝起きる頃の憂鬱さはなくなっていた。
「ああ。ありがとう。――じゃ」
俺は二人に頷き返して、家を出た。
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