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2.ダンジョン攻略へ向け修行……修行!? 今修行って言った!? こっちは本気でダンジョン攻略考えてんの!! ……いやマジで。 

 俺は今、冷蔵庫から一枚の葉っぱを取り出す。

 今の季節、山や公園に行けば、どこかに落ちていそうな葉緑素たっぷりのギザギザ葉っぱだ。


 それを特に調理するでもなく、味をつけるでもなく、口へと放り込む。

 そしてヤギの如くむしゃむしゃと噛み締める。



「あむ……むにゃ……うぇぇ、まじぃ」



 出てくるのは苦み100%の激マズエキス。

 だがこの不味さ・苦みはこの世界のどこを探しても味わえない独特のもの。

 

 全てを噛み砕いて飲み干したにもかかわらず、舌の上には苦みが後を引く。

 そして喉はこれ以上の激マズエキスの摂取を拒み、えずいた。


 

「マジで苦行だ……」


 この苦しさが強くなるための修練としても中々耐え難いものがある。 

 俺は定期連絡にて貰ったアドバイス通りのことを、既に3日続けていた。





 

『ダンジョン攻略のカギは、どれだけ体を異世界のものに慣らせるか、です』


 通信機能を使って織部との定期連絡。

 その画面の向こうで織部はそう俺にアドバイスした。

 

『モンスターを倒して経験値を得たり、あるいはそもそも異世界産のものを食べる、とかか』


 画面での織部はラグが生じることなく俺の言葉にうなずいた。

 DD――ダンジョンディスプレイの右上は『DP:52127』となっている。

 そしてまた一秒ごとに右端の数字が一つ減る。


 この連絡自体も、DPを消費する。

 メールの方が消耗が小さく、海外電話で一秒ごとに通話料がかかってるんじゃないかと焦るのと同じだ。


 

『体に、異世界エネルギーを沢山蓄えてください。絶やさず、常に。細胞が異世界産のものに適応するように』


 そういって、織部は自分の変身を例に出した。

 勇者として魔法少女に変身するのも、一時的にエネルギーを蓄える方法だと。


 


 俺はその通信の後、即座に『薬草』と『ポーションⅠ』を大量購入。

 そして、1時間ごとに薬草を1枚。

 ポーションは8時間につき1本空けている。


 時計を見ると、丁度お薬の時間と被る。

 俺は冷蔵庫から丸底フラスコを取り出す。

 中には赤い液体が貯まっている。



「うぎゅ……感想が出ない程のマズさだな、これも」



 確かに酷い味だが、体の疲れは自然と取れている実感がある。

 

 後はこれを4日、継続する。


 そして――



「ダンジョンに挑戦、してみるか」     



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 


 ――ビビッ


「……んんッ」


 自分の目覚ましが発するものとは違う。

 何もないはずの空間から、音がしたのだ。



 既に夏休みに入って1週間がたつ。

 親も仕事が忙しく、家にいる方が少ない。

 ってか海外出張ばっかだ。

 

 誰に憚ることなく眠っていたが、その音を耳にすると、自然と目が覚めた。


「――織部か」


 手元に来い、と念じると、何もない空間から20cm前後の幅で、縦の長さが30cmぐらいのディスプレイが現れた。

 この起動にも慣れたもので、直ぐに画面を呼び出すと、一件の通知が届いていた。



『近い内に、転送して欲しい物をお伝えするかもしれません』



 短く簡素な内容だったが、メール機能の場合はこんなものだ。

 織部は俺が今保有するDPができるだけ減らないようにいつも気を使っている。

 

 元を辿れば5万ポイント近いDPを稼いだのは織部自身なのだが。



「ふむ……」


 内容を確認しても、返信は送らない。

 それ自体にもDPがかかるから、と織部が以前に言い添えていた。


 よっぽど緊急だったり定期連絡の時だったり、そういう時はキチンと通話機能を使ってくる。

 だから俺も必要以上には連絡をしたりしない。




「……起きるか」


 DDを再び何もない空間へと戻し、ベッドから起き上がる。

 

 もう魔法や不思議現象が存在する、ということについては完全に信じていた。

 ダンジョンが出現してから、というよりは、織部の変身シーンを見た時からだな。

 

 制服が一瞬で弾け飛び、瞬く間に痴女も驚く肌面積の衣装にチェンジする織部。



 

「……うん、色んな意味で凄かった」












『ただ今、開所式・入所式が始まります。第1期生となるダンジョン探索士候補生たちは、この後、防衛大臣からの言葉の後、各自の部屋に入って――』



「ふ~ん……」


 点けたテレビでは、ニュースをやっていた。 

 ダンジョン探索士候補生たちが今日、講習・訓練施設に入所するらしい。



 4枚切り食パンをかじりながら、500mlの牛乳を直接注ぎ口から飲み干す。

 そして最後にお口直しで葉っぱを一枚。



「うっぇ、マジい……」


 全てを台無しにするこの不味さ。

 だが、この不味さが、最近癖になってきた。

 お口直しにこれを噛まないとどうも口の中に違和感がある。



「――あ、確か5組の」



 体育館のようなところに並べられたパイプ椅子に腰を下ろしていた候補生。

 そこを映し出した映像に、チラッと知っている人物が。



「あれって、確か織部の親友じゃなかったっけ」


 

 織部が失踪する前――つまり召喚される前まで。

 二人は学校での人気を二分するほどだったと聞く。

 

 今は織部がいなくなり、この少女には影の差したような雰囲気がでて、却ってその人気を押し上げた。

 本人は望まないだろうが、織部人気全てがこの少女に向けられたような形になっている。



「……受かってたのか」



 まあ俺にはあんまり関係ないだろう。

 俺はリモコンの電源ボタンを押す。


 そして冷蔵庫を開け、いつもの一本をグビッと呷る。

 


「ぷっはぁ!! マズい、もう一本!!」



 口の端から零れる赤い液体を手の甲で拭う。


 そして気合を入れ直す。






「――さて、行きますか」


   


□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 



「ふぃぃぃ、あっちぃ……」


 今度は額から流れる汗を、手の甲で拭った。

 何もしなくても垂れてくる。


 この暑さ、気を付けた方がいいな。

 

 今、またあの秘密の場所――裏山に来ている。

 だが前回と違うのは、石段を上った先に、今回の目的地があることだ。




「――ふぅ。着いた」 

 


 

 背負っていたリュックを下ろしてタオルを出す。

 汗を拭いながら、木陰に移動。

 そして確かここら辺に……と。


「よし、捨てられてなかったか」


 見るからにちゃっちい『ひのきの棒』。

 そして金属バットの一撃で吹っ飛ぶ『鍋の蓋』を拾う。



 一応武器と防具だ。

 これを昼間っから引っ提げてここに来るのは抵抗があったので事前に隠しておいた。


 そして、ここは、神社の境内にもなっている。

 もう管理する人がいなくて大昔から廃れているらしいが。

 

 そのボロボロになった社へ続く木の階段。

 その下に、穴があった。




「――休憩したら、いよいよダンジョンに、とちゅにゅうだ!!」



 気合入れるための声だしだったのに……噛んだ。

 死にたい。









「うっわ、ダンジョン滅茶苦茶ダンジョン……」



 自分でも興奮してるのか、感想が意味わからないことになってた。

 穴を潜ると、絶対そんなスペースそこにはなかったはずなのに。


 そこは幅5,6m。高さ3mくらいの洞窟になっていた。

 そして何故か明かりも無いのに視界も確保されている。

 

 随分親切なものだ。


 

 

 ダンジョンは日本で確認されているだけで1000を超える。

 潜在的なものも含めるとその5倍はあると言われており、一つの県で100はある計算だ。


 更にまだまだ増え続けるために、実質見つけても立ち入りの禁止を徹底できていない。


「だから、こうして俺や織部みたいに入れる奴が出てくるってわけだが……」 


 ここは普通に外から見たら神社の真下――つまり地面の中に当たるのに、息苦しくも感じない。




「マジでダンジョン攻略できない理由……ダンジョンそのものというより、中にいるモンスターなんじゃ……うぉ!?」




 





「――プッキィ!!」



「――ポッキィ!!」




 で、でたっ!?


 30m程歩いたところで、とうとうモンスターがその姿を現した。

 しかも2体。



 一体はドングリみたいな図体。

 もう一方は枝がそのまま手足を生やしたみたいな生き物だ。


 どちらも50cmくらいで、明らかに普通の生物とは一線を画する存在感を放っていた。

 ゴブリンとかスライムみたいなど定番が出てくると思っていたが、どうやらそういう感じではないらしい。


 ただ――





「――だ、大丈夫……今まで織部のアドバイス通り修行を続けてきた。あの苦行を、俺は乗り越えたんだ!!」



 枚数にして170枚の薬草!!

 本数にして22本のポーション!!


 これを1週間で胃に収めるのがどれほど辛かったか!!

 俺は、その全てをぶつけるようにして駆けた。







「俺は!! フードファイターじゃねぇぇぇぇ!!」




 ひのきの棒を力いっぱい握りしめ。

 似非ドングリに振り下ろした。







「――プッギィ!?」


 

 

 当たった!!

 そしてダメージも通ってる!!


 それを示すように、似非ドングリは攻撃を食らって仰け反ったようになっている。



「――ポッキィ!!」


 

 仲間をかばうように、枝野郎が襲い掛かってくる。


「お前もポッきり言わしたろかぁぁぁぁ!!」



 返す刀で、ひのきの棒を横薙ぎにする。

 これも命中。

 そして同様に仰け反った。



「プギッギィ!!」



 今度は仰け反りから回復した似非ドングリが俺へと向かってくる。



「お前も蝋人間にしてやろうかぇぇぇ!!」



 またヒット。

 加えて仰け反り。

 

 ――そしてはたと気づく。


「ハメに入った!! うらぁぁぁ!!」


 片方が仰け反ったら、もう一方を攻撃。

 一方が回復したら、もう片方が仰け反っている間に攻撃して仰け反らせる。


 それを繰り返して行うことができた。




「しゃぁぁ! うらぁぁ! 浦島来るまでいじめられてる亀の気分が分かったか!!」   



 この時、純粋に“勝った”と思った。

 織部を除いて初めて、ダンジョンでモンスターを倒した人間になるんだ。



 その喜びが沸々と湧いてきた。












 ――だが、俺はその自分の甘さを後悔することになった。













「――あの、そろそろ、やられて、くれませんか?」









 

 接敵から1時間。







 未だに殴り続けている。


「これは、あれだ、“ダメージ1”しか入ってない奴だ……」


 ダメージが入ってる感覚はあるんだ。

 ただそれが微量なだけ。


 息も絶え絶え。



 ここまで盛大に暴れているのに、他のモンスターが来ることはなかった。

 ということは、このダンジョンはこの2匹で全部。

 奥には行き止まりを示すように、光源もそこで尽きていた。


 だがここで止めることはできない。


 この連鎖を止めると、仰け反りがなくなり、攻撃を受けることになる。


 それに何より、ここまでやったのにぃぃぃ!! という意地。


 

 この二つが、棒のようになる腕に、ひのきの棒を、振るわせた。


 ……ちょっと上手いこと言ったかな。








 ――更に30分。




「はぁ、はぁ、お前ら、やるじゃねぇか……」







 ――また追加で15分。





「こひゅー……こひゅー……」





 ――そして、10分後。






「ポッギィィ――」



 一匹が死んだ!!

 




「残るは、お前、だけじゃぁぁぁ!!」



 残る気力を振り絞り、似非ドングリを殴り続けた。




 ――5分後。




「プッギィィ――」




 倒した、のか……。





 一度もダメージを受けなかったのに、俺はもう疲労困憊だった。

 あっれぇぇぇ……。

 

 異世界産の、薬草170枚と、ポーション20本ちょっと飲み食いして、これ?

 俺、何回ひのきの棒振ったよ?

 

 野球のキャンプじゃねえんだから。

 


 

 もう一度同じことをやれと言われたら、俺はもう嫌なんだけど。




〈Congratulations!!――ダンジョンLv.1を攻略しました!!〉




 

 場違いなほど呑気な機械音が流れた。





〈最奥の間にて、攻略報酬をお渡しします!!〉





 いや、ちょっと、ゴメン、後にして……。



 心臓が痛い。

 怪我など一つもないはずなのに満身創痍。

 これはアカン……。








 ――一緒に戦ってくれる奴隷の女の子、買おう。

フフフッ、どうだ、クルッと掌返すくらいに奴隷少女を欲しかろう……。

貴様は奴隷少女を買う以外、このダンジョンが出現した世界で、活躍できる方法はないんだよ!!


奴隷少女たちに慕われて、お世話されて、骨抜きにされちまいな!!


それが嫌なら、抗うことだな、今日みたいな地獄を繰り返すぜ!!

ヒャッハァ!!



……すいません、テンションおかしくなってました。



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