292.来てくれて、ありがとうな!
お待たせしました。
ではどうぞ。
「ふーん……そっか、あれから特に何も起きてないなら、良かった」
「うん、ありがとう……マスターとラティアには迷惑かけたね」
ゴッさん達のあの親子ダンジョン内。
様子を見るという体で、俺とリヴィルはラティアを連れ出した。
今日になって、リヴィルから密かに言い出した作戦だ。
勿論、ダンジョンが気になったのは嘘ではないものの、丁度良い口実になっている。
「いえ、迷惑と言う程では……ああでも、あれは勘弁して欲しかったですね。ほらっ、何でしたっけ……私の母乳を寝取るとか何とか」
「うぅぅ……だから、悪かったって」
以前、空木が用意してくれたはちみつレモンドリンク。
それを飲んで、酔った後の話だった。
あれはもしかしたらリヴィルの生まれた経緯、つまり導士を造ろうとして使われた、過去の英傑の遺物と関係があるのかもしれない。
リヴィルの様子を気遣い、ラティアはあえて笑い話として済ますつもりらしい。
「フフッ、いえ、ああいうリヴィルも新鮮で可愛かったと思いますよ?」
「ああ、ギャップがあっていいんじゃないか、偶にはさ」
「マスターまで……もう」
こうして拗ねたようにそっぽを向く仕草も、普段ならあまり見せないものだろう。
何気ない会話を楽しむこと自体が、ラティアを引き留めることにも繋がる。
そう思って素を見せてくれているに違いない。
「ははっ――おっ、ゴッさん、どうした?」
「ギシッ!!」
ゴッさんはゆっくりした歩みで、ラティアへと近づいていく。
そしてジーっと真正面からラティアを見つめた。
「……何ですか? あっ――フフッ、また強くなったようですね、感心です」
ラティアは上位に立つ者の余裕を崩さず、不敵に笑ってゴッさんの成長を称える。
まあ強くなっててもらわないと困るけど。
やっぱり全能力値が20%も上がるのは大分違うらしい。
ラティアも感覚で、ゴッさんがまた強化されたことを察していた。
……この分なら、守護者化、夏休み中にはしてあげてもいいかもしれないな。
「ギィィッ、ギシシ!」
対するゴッさんは、上から目線で言われたことにいつもみたく噛みつかなかった。
それどころか、生涯の好敵手がライバルらしくいてくれることが嬉しいと言うように、ニヤッと笑ったのだった。
「なっ、何ですか? 何だか調子が狂いますね……」
「……ギシシッ」
“今日の所はこっちが引いてやる”――そう言わんばかりにカッコよく背を向けたゴッさん。
……どうやらゴッさんも、今日がラティアの特別な日だと言うことを肌で理解しているらしい。
ゴッさん……。
「……さっ、そろそろ帰るか」
大分ダンジョンでも時間を潰した。
ルオも加わって、家の方の準備も済んでる頃だし。
「だね」
「えっ、宜しいのですか? “コレ”やゴーさんの守護者化をなさるのかと思ってましたが――」
いや、折角ゴッさんが引いたんだから、わざわざまた火種を作ろうとしないの。
……ゴッさんも、“コレ”扱いでナイフ抜こうとしない。
こういう日くらい、最後まで仲良くしてよ……。
更に煽ろうとするラティアを連れ、急いで廃神社跡へと転移したのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――ラティアお姉ちゃん、いつもありがとう~!」
「ラティア、その、いつも色々とあんがとな!」
「ありがとうラティアちゃん!」
先頭でリビングに入ったラティアを、3人の鳴らすクラッカーが派手に迎え入れる。
ラティアは一瞬、すわ敵襲かみたいな反応を見せたが、直ぐに状況を理解する。
「えっ……え?」
理解すると今度は、こうして礼を言われること自体に心当たりがないらしく、思考停止したように呆然としていた。
「――ラティア、今日、地球に来てくれて丁度1年だろ?」
「あっ……あ、でも――」
俺の言葉は理解したらしいが、直ぐにまた混乱したようにレイネ達を見る。
繋がりが分からないのかも……。
「ご主人だけ“おめでとう!”っていうのも、何かボク達置いてけぼりになるからさ。だから“ラティアお姉ちゃん、いつもありがとう!”も一緒にって!」
ルオの補足で、ようやく全てを察したらしい。
その目に薄っすらと涙が溜まって行くのが見て取れた。
「あっ――わた、しも……本当にご主人様に、お会い、できて。皆と共に、過ごせて、とても、幸せです……ありがとうございます」
泣き笑いのような表情。
声を詰まらせながらも告げられたラティアの言葉からは、その想いが十分感じ取れた。
俺達、皆の気持ちもちゃんと伝わっていると……。
「ああ、ウチに来てくれてありがとう。これからもよろしくな」
「はい……!」
ちょっと俺もウルっと来かけたが、グッと堪える。
ふぅぅ……。
「――さっ! 済んだんならとっととメシにしようぜ!」
レイネが頃合いを見計らい、そう取り仕切ってくれる。
「ご飯の準備、バッチリ出来てますです! ラティアちゃんの分も! お館様のおいなりさんもあるですよ!」
いや、ロトワさん?
それだと意味がちょっと違ってくるから。
“皆の分、ちゃんといなり寿司作りましたよ~”ではなく。
“ラティアの分の俺のおいなりさん、しっかりと確保してますぜ(意味深)”になっちゃうから。
「フッ、フフ……そうですか、ご主人様のおいなりさんもあるんですか、それは楽しみですね」
ラティアも意味を分かっていて、さっきの涙が収まらない中笑って告げる。
……まあ、今日はツッコミはいいか。
目出度い日だ、無礼講でいこう。
誕生日を祝う習慣がないラティア達に、少しでもこうした記念日を作って祝ってあげたい。
そしてこの世界での暮らしを楽しんで、幸せに過ごして欲しい。
「…………」
ルオは一人輪から外れていたが、とても感慨深そうに様子を見守っていた。
……ルオも色々と思い出すことがあるんだろう。
「おい、バカッ、こんな日なんだからそういうえっちぃの、止めろよ」
「フフッ、私はいなり寿司のことを言っただけですよ? レイネ、何か別のことと勘違いしてませんか?」
「レイネ、“えっちぃ”って言う方が煩悩だらけのムッツリスケベ脳してるんだよ、知らなかった?」
楽しそうにバカなことを言い合いながら、騒ぐ皆を見て。
その願いはちゃんと叶っているのだと認識する。
だから今度は今日だけでなく、これから先も、同じ様に。
皆で楽しく過ごせる日々を作り、守って行くのだ。
そう心の中で一人、改めて決意したのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「わぁぁ……凄い、とても嬉しいです! ありがとうございます!!」
テーブル一杯に並べられた豪華な食事も粗方平らげ終え。
代表してリヴィルから渡された贈り物を受け取り、ラティアは先程に勝るハイテンションを見せる。
「フフッ、やっぱりね! ラティアお姉ちゃんなら使える実物の方がいいと思ったんだ!!」
発案者は貴様か、ルオ!!
盛り上がる皆の中一人、俺は恨めしそうにルオを睨みつけた。
「ええ! でもこんなに……沢山ありますから、皆の食事にも使いましょうね、この“精力増強サプリ”の数々!」
クッ、そんな嬉しそうに抱えやがって……!
アルギニンやシトルリン、トンカットアリなど、特に悩める男性に有難いとされる粉末が沢山ラティアにプレゼントされた。
もうお分かりだろう、後々どうなるかを。
……俺もその“皆”には勿論含まれるだろう。
またムラムラ耐久レースの始まりか、畜生っ!
「ラティアちゃん、その“サキュバス”の恰好も“せくしー”でとても似合ってるですよ!」
ロトワが言い慣れない言葉を使いながらも、その感想を精一杯伝える。
ラティアは嬉しそうにはにかんで答えた。
「ええ、フフッ、ありがとうございます。ご主人様にまたこうして“サキュバス”の新しい服を頂けるなんて、私は本当に幸せ者ですね!」
「そうか……いや、気に入ってくれたんなら良かった」
既に渡して着替えてきたラティアは、俺にプレゼントを貰ったと言うこと自体に何だか照れている様子だ。
いや、もっと露出が多くて、凄い恥ずかしい恰好してんだけども。
……まあそっちはもう良いんだな、うん。
「トップスやボトムスの生地もとてもしっかりした物ですし……グローブやソックスまで。大事にしますね?」
「いや、うん……」
ラティアが本当に喜んでくれているのが分かり、曖昧に返してしまう。
おそらく言葉にはしないながらも、とても値段が高くなってしまったのでは、ということを気にしているのだろう。
……まあ確かに安くは無かったが、その分胸もお尻の部分も、そもそもの使う生地が少なかった。
だから値段は比較的マシだったし、むしろ俺的にはその肌の露出具合を何とかして欲しい。
……が。
「ご主人様は水着よりも、こちらの方がお好きなんですよね? フフッ、これで日替わりでドンドン着られます!」
「ハ、ハハっ、そうだね、うん、着られるね」
以前口にした自分の言葉が、今になって自分の首をガンガン絞めてくる。
ムラムラ耐久レースとのダブルコンボだな、これは……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「さて……じゃあこれ――“魔力の筆”も渡しとくな。これで装備としても活用できると思うから」
切り替えるように、一本の筆を取り出す。
持ち手の部分は何の変哲もないただの筆。
だが、色を塗る刷毛の部分の先端、そこがうっすらと虹色に発光していた。
これを任意の装備に塗り、加護を付与する模様を一つ、描くことが出来る。
「えーっと……これが付属してた紙だから……」
DPで購入した際に、筆と一緒に付いてきた大きな紙を取り出す。
様々な模様が描かれていて、その下に加護の内容が記載されていた。
710ポイントかかっただけあって、サービスもしっかりしてる。
「……ではこちらの“魔力強化”の加護を、お願いします――」
……ん?
「えっ、これ……リヴィルやレイネに描いてもらう……ことを予定してるんだけど」
渡した筆を、また俺に返そうとするラティアに告げ。
首を回して近くにいたレイネを見た。
「一応あたしは異世界にいた時、使ったことあるけど……別に難しくないぜ?」
いや違う、俺の意見の助太刀をしてくれと言う意味だったんだけど!?
「その……折角ですから、ご主人様に加護を、付与して頂きたく……ダメ、でしょうか?」
…………。
はぁぁ。
まあ今日くらいは、仕方ない、か。
「……分かった。これで良いんだな?」
「あっ――はい!! フフッ……」
ラティアが指差した絵柄を再度確認し、筆を受け取る。
嬉しそうに胸を突き出すラティアを見て、改めて自分がこれからすることを脳内で整理した。
防具、と言っても。
ラティアが今身に着けているのは、胸と股間をちょっと覆ってくれているだけの、ビキニタイプの生地のみ。
そしてその生地に、この筆を使って加護を描かなければならない。
「……脱いでから、はダメなんだよな?」
「……そりゃぁ、装備をしている当人だけにかかる加護だからな。装備中に描かないと」
レイネが何当たり前のことを聞いてくんだ、みたいな顔で答える。
一瞬イラっとしなくもないが、冷静に行こう……。
如何に装備強化のためとはいえ、筆で股間部分をサワサワとするのは論外。
つまり、筆で加護を描くのは自然――
「……ゴクリッ」
今にもこぼれんばかりのラティアの胸を、必死に支えているトップス、ブラに当たる部分。
無心だ、無心で、無心を貫くんだ……。
「……んっ、ぁん……ぁっ――」
筆を動かし始め、即ラティアから反応が返ってくる。
くすぐったいのを、何とか声に出さないよう堪えている、という声が漏れてしまっているのだ。
――ほらっ、こうなるじゃん!!
「……もうちょっとだから」
「はい……んっ――」
無心を貫き、筆を動かしていく。
生地の上を滑る度に、魔力によって作られた塗料が形になって行った。
リヴィルも今回は流石に茶化すようなことはせず、俺のサポートをしてくれる。
見やすい位置に加護の模様等が書かれた紙を掲げ続けてくれた。
そして――
「――ふぅぅ、出来た」
「はぁぁ、はぁぁ……あり、がとうございます」
俺もラティアも、互いに荒い息の中。
何とか加護を描き切ることに成功した。
虹色だった模様はやがて、ピンク色に固定化し、何故かスーッと消えて行った。
すると次の瞬間、ラティアのおへそ辺りに変化が生じる。
「あれっ、加護の模様、ラティアのお腹に移動した!?」
さっき出来上がったピンクのハートに似た模様。
それが胸から消え、移動したようにおへそ辺りに浮かび上がったのだ。
「ああ~大丈夫、大丈夫。これは単に装備中だけ、加護がちゃんとついてるよって事を示す証みたいなもんだから。脱げば消えるぜ?」
レイネがそう説明しフォローしてくれるも、問題はそこじゃない。
「……フフッ、魔力が高まっているのを感じます。成功、ですね?」
「ああ……成功、なんだろうな」
ラティアは分かってて言っているのだろう。
大事な、愛おしい物が出来たというようにお腹の模様辺りをさする。
そう、つまり――
「――これは……凄い恰好の上に、凄い見た目になったね」
「え、そうなのですか? ロトワ、とてもカワイくて、キュートだと思いますよ?」
ロトワはそのまま純粋に育って欲しい……が。
悲しいかな、評価に関してはリヴィルの方が適切だった。
過激なサキュバスの格好に加え、おへそ辺りにピンクのハートに似た模様。
――これは男の理性を全力で殺しにかかってる!!
「フフッ、フフフ……ご主人様、皆。今日は本当にありがとうございました。おかげで、忘れられない思い出がまた一つ増えました」
「そうか……それは、うん、良かった」
ラティアの本当に嬉しそうな笑顔を見たら、それは嘘偽りのない言葉なのだと理解できる。
だが俺は純粋な笑顔で応えてやることが出来なかった。
……俺、次の“2周年”まで、無事にいられるかな。
これでラティアお祝い会回は一応終了です。
主人公の周囲に魅力的な女性を集めることも怠らない中、自身のエロ度強化も抜かりないラティア様、マジラティア様(白目)
今日も頑張って書きましたので、明日はもしかしたらお休みするかもしれません。
感想返しも溜まってしまってるので、休みも含めそっちに充てようかな……。




