283.流石、レイネは“天使”だからな……。
お待たせしました。
執筆中、マジで焦りました。
物をぶつけてPCが、まるで昔のバグったゲーム画面みたいに。
本当に心臓が止まったかと思いました……。
あれですね、なろうでログインできず、“存在しません”的な文字が出た時位焦りました。
こまめにデータも保存してて良かった……。
ではどうぞ。
『ウフフ、皆さん、今日は集まって下さり、本当にありがとうございます。楽しんで行って下さいね?』
マイクを通した逸見さんの声に、あちこちから歓声が沸く。
タイトなミニスカートを履いた女教師のコスプレ姿に、男性ファンは特に熱狂していた。
「ふおぉぉぉ! スカートから覗くおみ足も美しいぃぃぃ!!」
「叱って下さいぃぃ! 逸見さんに夢中になって他が手に付かないダメな俺を叱ってぇぇぇ!!」
「個人レッスンをーーー! 俺と六花さんとの夜の補習授業をお願いしますぅぅぅぅ!!」
皆さん欲望がダダ漏れになってますよ。
特に男性陣はもうちょっと自重しろし。
「うーん……ロッカ様とご主人様のマンツーマン指導。夜は生徒と教師の役割が逆転、なんてのもアリですね」
「なっ!? お、おいラティア! 何言ってんだ! そ、そんな“夜の授業は赤点だな。ロッカ、追試決定だぜ? 俺とのレッスンを長引かせたいからワザと間違えてないかい? グヘヘ……”なんて隊長さんが言うわけないだろ!」
……いや、そう思ってんなら妙に具体的なそのセリフ、どっから出てきた。
レイネさん、もしかしてムッツリ妄想劇でそんなシチュを一度やったことあるんですかね……。
『はぁぁ……こんなに暑いのに沢山集まって、良くやるわ……まあ、楽しんで行ったら?』
ちゃんとあの後戻った白瀬は、別のコスプレ――エルフの姿に着替えていた。
緑と白を基調とした衣装で、金髪のウィッグ・尖った耳もしっかりとつけている。
「えっ、マジで!? 地球にエルフ舞い降りてんだけど!? 白瀬ちゃん、エルフどころかエロフなんだけど!?」
「素っ気なくツンとした感じがまた俺達の理想のエルフっぽい!! いや勿論エルフっパイも素敵だけど!!」
「うわぁぁ、ダンジョンが出たおかげでエルフの夢まで見られるなんて!!俺、これだけで明日からもエルフがいるかもって信じ続けられるわ!!」
まあうん……実際に“サラ”を見ている身としてはそこまで驚きは無かったけどね。
とはいえ、確かに白瀬のコスプレ姿は創作の世界などで描かれるエルフを見事に具体化して表現できていた。
今回は胸の装備もいつも通り、キッチリと詰め込んでいる。
観客の夢をその身全体にキッチリと詰め込んだのだろう。
……誰が上手いこと言えと。
『ハ~イ! 皆サン!! シャルロットもいますヨー! 今日も頑張りマスネー!!』
3人目は探索士ではなく、研究生のシャルロットが出演することになった。
彼女が着ているのは開拓時代を連想させる、カウガールのコスプレだ。
本人のスタイルがアメリカンレベルだからか、衣装のサイズがかなりピチピチとなっている。
レッグカバーや帽子、ジャケットはまだ大丈夫だが……。
1枚で胸を支えるトップス、そしてショートパンツは肉付きの良さを前面に表すものとなっている。
「これが、これがアメリカンサイズというものか!? 揺れてる! 動くたびに巨峰がブルンブルンと震えておる!?」
「黒船が来航した時の衝撃を、俺達は今正に味わっている……! ド級の迫力、もう目が離せない!!」
「クッ、飯野さん推しの俺が、まさか気圧されるなんて!! あんたたち3人に慈悲はないのか!? 大きさの暴力で丸ごと推しメンを乗り変えさせる気だろう!」
何言ってんだか……。
だからもっと自重しろし。
『フフ~ン! シャルロットに乗りこなせない馬はいまセーン! どんな暴れ馬だろうと手懐けて見せますネ!』
指で銃を模して、バキュンッと撃つ仕草をする。
会場中の男性陣の多くはそれでハートを射抜かれたようだ。
一方ウチの女性陣の一人が――
「……ご主人様、これは宣戦布告と取ってよろしいのでは?」
真顔でそんなことを聞いてきたのだった。
「いや、ダメでしょ。よろしくないでしょうよ」
何言っちゃってんのラティアさん……。
「ムムゥ……ご主人様でしたら逆に手懐けて頂けると思いましたのに。あの女がご主人様の前で、メスの顔をしてヒィヒィ言うのが目に浮かびますよ?」
純粋無垢な顔をしてもダメです。
後、その表情で“メス”とか“ヒィヒィ言う”とか、そういうギャップあること言わない。
俺にそんな能力もやる気もないからね?
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『えっ!? ってことは、ワタシ、今度からもっとダンジョン攻略に連れてってもらえマスか!? モンスター、倒せるようになりマスか!?』
『フフッ。花織ちゃんや梨愛ちゃんとか、それこそ飛鳥ちゃんもそう。探索士の言うことをしっかり聞いて、努力すれば大丈夫じゃないかしら?』
コスプレに関する話題は盛り上がり、話は次へと移っていた。
記念ライブが今度行われるという告知の後、ダンジョン関連のフリートークに。
『まあ六花さんも言ったように、シャルは日本に来てからもずっと頑張ってる。それは私達も見てきたから。上の人が“いいんじゃない?”って判断したんだと思うわ』
『Oh~!! アスカ~! アリガトゴザイマース!!』
たとえ友好国から来た留学生であっても。
彼女はかなり警戒を持って迎えられていた。
だが今までの頑張りが評価され、この場で発表がなされたのだ。
彼女を正式なシーク・ラヴの研究生として迎え入れると言うこと。
そして、この場にはいない九条と共に、最低1年は正規メンバーの付き人をしながら学べるようになったと言うことを。
「?」
それがどういう事なのか分からず、ロトワは首を傾げている。
レイネがそれを見て、簡単に解説してくれた。
「ま、あんまし分かんなくても大丈夫だけどな。要は他の研究生より相当融通してやるから、その分1年間はしっかりグループのために頑張れってことだ」
仮設ステージの裏に備え付けられた大型スクリーン。
フリートークの題材に合わせて、事前に提出されていた写真が映し出される。
シャルロットが今まで足を運んだ現場や、その場にいたメンバーたちとの写真だ。
「今までもそうだったようだけど、これからはもっとプライベートな時間は無くなって、グループの時間に注ぎ込んでもらう。ダンジョン攻略随行の許可は、そのあたりの見返りなんだろうぜ」
「ふ~ん……そうなんですか」
ロトワの顔を見るに、レイネの説明でもまだ分かり切ってない様子。
ただレイネが最初に言ったように、ロトワが理解していなくても大丈夫な事柄だ。
「……対外的にも対内的にも言い訳が立つようにしてますね。“1年間”という最低限の期限が、落としどころだったんでしょう」
ラティアの言うように、実際にどうかはともかく。
国外・国内の両方に説得的となるような扱いとなっている。
「だな。“ダンジョン攻略できる人材に育ててやるから、1年間は派手なことはすんな”って感じか」
シャルロットのスパイ的な行動を抑えてもらうためという意味でも、1年間彼女の自由な時間を無くす。
それも“ダンジョン攻略・モンスター退治を出来るようになる修行だ”みたいな言い分で押し通すのだろう。
「隊長さんの言う通りだろうぜ? ……ああ、そうか、だからこそ今なのか」
レイネが辺りを見回し、そして特に探索士の制服コスプレをしている人々に視線を固定して呟いた。
つまり、探索士や補助者の概念が、社会に上手い具合に広がり根付いてきた。
日本としてはずっと一つのカード・ネタで引っ張り続ける事は出来ない。
だから、1年という区切りを付けて、その間にまた更に他国よりも優位になれるように動く。
そういう政治的判断だったんだろう。
志木や皇さんからそれについて、何か不満の声を聞いてはいない。
だからやはり、そこらへんで手を打つのが妥当だということか。
『――そうなんデース! ソウゴ、とても優しくしてくれマスッ! フフッ、ファンの皆さんの前で言うのも恥ずかしいデスが、ソウゴ、とてもカッコいいデスネ!』
話はドンドン進み、もっとプライベートな方向へと変わっていた。
“ソウゴ”というのは、まあ“総悟”、つまり立石のことだ。
立石め、ちゃっかりハーレムルート目指してんじゃねえか。
……ただこの話を聞くに、織部はしっかりと正妻の座を空けて待たれているっぽい。
……織部、ドンマイ。
「ブーブー! シャルロットちゃん、催眠の薄い本的展開になってる!! お願いだから目を覚ましてー!」
「そうだそうだー! 熱愛報道なんて出たら3日3晩、毎日3食しか食べられなくなるぞー!」
「総悟君は冬夜君との生徒×教師カップリング以外認めないぞー! シャルロットちゃんは聖ちゃんとの同期カプからはみ出さないでー!!」
……何か抗議の声の中に変なの混じってたような気がする。
まあそれは良いとして。
抗議と言っても観客も本気で非難しているとかではなく。
トーク内での言葉の綾的なものだろう。
観客の方もそのことを分かっている。
だからこそ茶化すような、場を盛り上げるような囃し立てをしているのだ。
……もっとも、立石の方がどういう意図かは更に要検討だろうがな。
「……“催眠”? “薄い本”? お館様、さっき聞こえたこの言葉、どういう意味なんでしょう?」
おーっと!
小さい子特有の“何で? どうして? これは何? あれは?”の無限疑問が発動している!!
「んー……俺はちょっと良く分かんないな。――おっ、そんなことよりロトワ、帰りは何が食べたい? 好きなアイス買ってやるぞ」
「え? 良いのですか!?」
話題転換に成功。
ふぅぅ。
ロトワはまだ知らなくて良いんだぞ……いや。
“まだ”じゃなくて、“ずっと”か。
「……そわそわ」
「……ドキドキ」
……おーい、ラティアさん、レイネさん。
何“聞いてくれたら教えてあげるんだけどな~”的な感じで待ってんの?
チラチラ期待した目でロトワを見ない!
そもそも君らの年でも知ってるのはおかしいんだよ、分かってんの!?
クッ……。
“未来のロトワ”があんなエロに寛容になってしまうのは、ウチの他のメンバー達の影響だと確信した。
未来のロトワがお淑やかで、清楚な狐美女となるためにも、俺が教育面を頑張らねば……!
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――じゃあ、当選者の方は、それぞれのメンバーの前に並んでください! 整理券の番号の若い順でお願いしますね~!」
「写真は1人2枚まででお願いします! 後、勿論お触りはご遠慮お願いしますよ~!」
説明するスタッフのジョークに、他の当選者の人達と共に軽く笑い。
俺達はそれぞれ別れて列に並んだ。
まさかメンバーとの記念写真に当選するとは……。
周りを見ると、計3つの列に3人ずつが並んでいる。
ラティアだけが外れてしまったが、ロトワは逸見さん、レイネはシャルロットの所に並ぶことに。
そして俺は――
「わぁぁ!! ありがとうございます!! 飛鳥ちゃん、エルフのコスプレ凄く似合っててチョー可愛いです!!」
「そ、そう? ありがとう! ……フフッ、さっ、次の人。写真、撮りましょう」
最初の人がはけると、俺の前の女性が白瀬に寄って行く。
チラッと俺を視界に入れたが、知らないフリをして白瀬は準備をした。
「――あの、すいません。この子の保護者さんですか?」
うぉっと!
いきなりスタッフの人に話しかけられてビクッとする。
声のする方へと振り向くと、ロトワと逸見さんが俺を見ていた。
何となくだが事情を察し、落ち着いて頷く。
「ああ、はい。そうですそうです」
「お兄さんか何かですかね? えっと、逸見さんが“一緒にどうですか?”って」
スタッフさんの説明を受け、完全に状況を理解する。
逸見さんを見ると、何かを企んでいる時のラティアのように“ウフフッ……”という目をしていた。
……貴方ね。
大人しくロトワと2人で、逸見さんとの写真撮影を行うことにする。
逸見さんと俺がロトワを挟むようにして立った。
「はいでは撮りまーす! はい、チーズ!」
パシャっとシャッターが押され。
眩しさに目を細める。
直ぐに現像されたようで、その写真をロトワとはまた別に受け取った。
「フフッ……なんだか女教師と生徒の保護者さんみたいね」
そっと逸見さんに耳打ちされる。
それを踏まえて写真を見ると、確かに……。
……うわっ、これ。
何か妻を亡くして、男手一つでロトワを育てる苦労人っぽさ出てる。
で、独身の女性教師、逸見さんと出会って……みたいな妄想が捗ってしょうがない!!
クッ、逸見さん、何たる策士!!
「っっ!! ――あ、貴方、元々はこっちでしょう? さっ、早く撮ってしまいましょう!」
白瀬に呼ばれ、我に返る。
もう既に前2人は終え、俺の番になっていたようだ。
腕を引っ張られ、逸見さんから距離をとるように撮影場所へと連れてこられた。
クッ、この肘に当たる柔らかさは偽なんだっ――
「……お願いします」
白瀬はムスッとしながらも、ギュッと腕を絡めてきた。
肘に密着する柔らかさは増すが、俺はそれで理性を乱すようなことはない。
「フフッ……飛鳥ちゃんったら」
ロトワで3人目だった逸見さんが、こちらの撮影の様子を見に来た。
白瀬と俺を見て、また意味深な笑みを浮かべる。
――クッ、この人は絶対ラティアと二人きりにしてはいけない!
撮影の間、理由は分からないがずっと俺の本能がそう叫んでいたのだった。
「はい、どうぞ~あっ、SNS等でアップしても構いませんが――」
スタッフさんの注意を聞き流しながら、貰った写真を見る。
だって、ボッチだし、SNSなんてやってないし……。
写真はとても鮮明で、少し態度のツンツンしたエルフ美少女と、ツーショットを撮っているように見える。
相手は白瀬で、しかも本物のエルフである“サラ”を知っているはずなのに、なんだか新鮮な気分だった。
そうして貰った写真を眺めていると――
「――Beautiful……パーフェクトなAngelデス……アンビリバボー……」
シャルロットのそんな呟くような声が聞こえてきた。
「え? あっ、えっと……何?」
信じられない物でも見たというように固まるシャルロット。
そして彼女と写真撮影する最後の一人、レイネは何が何だかわからず固まっていた。
ボーっとしてカチコチになっていたシャルロットは、ようやく現実に戻って来たように顔をブンブン振り。
そして顔を真っ赤にしてレイネに告げた。
「あ、あ、あの!! えっと、ワタシ、シャルロットと言いマス!!」
「いや、知ってるけど……」
そりゃそうだ。
さっきステージでさんざん自己紹介してたじゃねえか。
テンパってるのか、シャルロットはアワアワしながらも、レイネの関心を引き留めようと必死だった。
「えと! あの……とてもお綺麗デスネ! フェイス、ボディー、allパーフェクト!! その、一緒に写真、取ってくれまセンか!?」
そもそもレイネは当選してアイドルと一緒に写真を撮ることに、メリットや喜びを感じていなかった。
俺やロトワの付き添いみたいな形で舞台袖まで付いてきたのだ。
「……これ、そういう企画なの? あたしが頼まれる側?」
レイネの困った様子を見て、シャルロットは更にカーっと顔を赤くして俯いてしまった。
それはまるで、一目惚れした初恋の相手を前に、上手く会話が出来ない一人の乙女のようで。
さっきまで自信満々に舞台上で話していた“シャルロット”はいなかった。
変装して地味目にしてるっていうのに、そのレイネを見てこうなってしまうんだから、レイネも罪な女よのぅ……。
「……俺は先に帰ろっかな~?」
「えっ? あっ、ちょ、隊長さん!?」
「……それが嫌なら、早いとこ写真、撮ったら?」
俺の言葉の意図を察し、レイネは一瞬黙り込む。
しかし結局は長い溜息の後、シャルロットに向き直った。
「……じゃあ、1枚、お願いしようかな?」
その一言で、シャルロットは顔を上げ。
そして表情を喜び一杯にさせた。
「ハ、ハイ!!」
ようやく撮影が行われ。
本来なら当選したファンの方が喜ぶ企画だったところ――
「フ、フフ……大事にしマス……my treasure――宝物デスネ……」
幼い子供がプレゼントに欲しかったヌイグルミを貰ったように。
シャルロットはたった一枚の写真を大切に大切に抱きしめた。
「…………」
それを見てレイネも、しょうがないなといった風に笑みを浮かべたのだった。
「……なるほど、裏でそんなことが」
帰り際。
疲れて寝てしまったロトワをおんぶしながらも。
さっきあった出来事をラティアに話して聞かせた。
レイネも頭を悩ませる側に立って、俺の気持ちも少しは分かってくれたのではないだろうか。
「……隊長さんと一緒にはされたくないな」
なぬっ!?
「……申し訳ありませんご主人様。やはりレイネとご主人様とでは、質というか次元が違うと言いますか……」
次元っ!?
そこまで言わなくても。
酷い……ぐすん。
そうして他愛無い話をしながら、家へと帰ったのだった。
レイネも何だかんだ言って、同性までもが見惚れる美少女で天使ですからね……。
これでレイネも今後、新海さんのことを弄れないな!
……え? そんなこと無い?
ラティアの言う通り、質・次元が違う?
……新海さん、一回爆発した方が良いようですぜ(白目)




