閑話.少女らのそれぞれの一幕。
本当は今日の投稿はお休みしようかと思ったんですが、丁度感想で、登場人物の名前がごちゃごちゃで分からなくなってきたという趣旨の物を頂いたので、少し閑話を書いてみることにしました。
なので主人公たちはでてきません。
視点は第三者視点です。
閑話で、しかも3人分ですので短いです。
まあ読まなくてもお話には支障はありません。
興味があればお読みください。
□◆□◆Another View ◆□◆□
「――今日は、ありがとうございました。“会長”」
少女――志木花織は、壮年の男性に改まった様子で頭を下げる。
普段、申し訳ないが学院の教師相手にも、これほど神妙な態度にはならないだろう。
それだけ目の前の男――志木グループの会長と話すのは彼女にとっては緊張するのだ。
だが一方の相手は、花織の余所余所しい仕草、話し方を止めさせた。
「――もう“あちら”との会合は終わったんだ、“会長”としての役割は終わった。だから“御爺様”と呼んでくれていいんだぞ?」
「ですが――」
なおも言い募ろうとする花織。
孫と祖父という間柄だからこそ、親しき中にも礼儀あり。
しっかりとしておきたいと思う。
しかし、それを隣にいた老齢?(妙齢は結婚適齢期くらい)の女性が遮る。
彼女は花織と、同じ髪色をしていた。
「良いのよ。折角花織が頼ってくれたんだもの、この人いつになく張り切っちゃって」
容姿から外国人だと分かるこの女性は、しかし流暢に日本語を話して見せた。
「“御婆様”……――では、はい。ありがとうございました、御爺様、御婆様」
花織は素直に従っておくことにする。
自分も世渡りは上手くこなしてきたつもりだが、この二人の前では自分はつくづく半人前で、敵わないと悟るからだ。
花織の祖父――志木グループの会長が何をしていたかといえば、とある相手と、密かに会合の場を持ったのだ。
それは主に花織から頼まれたのだが、流石に孫とはいえ、それだけで会長が動くということはない。
では何故かというと、現皇家の当主――つまり皇律氷の父からも同じ趣旨のことを要請されたからだ。
そしてその彼も、その会合には同席していた。
二家には以前より固い絆で結ばれている事情があるため話を受けること自体は吝かではない。
相手――現防衛大臣と現経済産業大臣へのパイプもあった。
だが一番花織の祖父が驚いたのは、花織が持ってきたという“カード”だった。
「――だが、まさか花織が“2つ目のダンジョン攻略”に関わっているとはな」
未だ公表されていない、世界で2番目のダンジョン攻略。
花織や律氷が通っている学院の敷地付近にできたダンジョンだ。
それが、既に攻略されている。
それを、花織は自らが推し進めたいと考える事のために、“カード”として出してきたのだ。
「……黙っていて、申し訳ありませんでした」
花織は神妙に謝って見せる。
それは勿論黙っていたことへの後ろめたさもあるが、一番にはこの“カード”を提供してくれた青年に対してのものから。
お互いに対等な取引だとは思っているが、それでもあのお人好しそうな彼を思うと、流石に申し訳なさが生まれてしまう。
「ああ、いや、別に責めているわけじゃないさ。彼らも食いついてきたからな」
具体的な情報は秘匿しつつ、でも、嘘ではないと分かる範囲で。
また後日、話す機会が設けられたが、概ね好感触だった。
拒否されることはないだろう。
会長は少し勘違いしてか、花織にそう話して聞かせた。
「――さっ、もう、この話はおしまいにしましょう?」
花織と共に祖父の戻りを待っていた祖母が、頃合いを見て話を打ち切る。
そして笑顔を浮かべて、花織を見た。
「――そういえば花織、今度探索士アイドルの方で、ライブがあるんですって?」
「? ……ええ、それが、どうかされましたか?」
「私もチケットは頂いたけど、誰か花織はお誘いしたの? ――素敵な殿方とか」
そこで、祖母の優し気な視線が鋭くなった、気がした。
「……いえ、お父様からいただいているお見合いのお話は全てお断りさせてもらっているので」
祖母の意図を何となく汲み取った花織はすぐさま無難な回答をした。
「……そう」
祖母も、それ以上は追及しては来なかったものの、油断はできない。
長い間志木グループを引っ張って来た御爺様が唯一敵わなかったのが、この人だ。
それにとても勘が鋭い。
――上手く誤魔化さないと。
そこで、はたと花織は気づく。
――あれ、私なんで“誤魔化す”ということを、考える必要があるの?
別に自分はその点については隠していることなんてないのに。
あの朴念仁は、律氷が誘ったと言っていた。
なら何も問題はないはず。
「……フフッ」
「……何ですか、御婆様」
「いいえ、何でも?」
――何でもないという顔をされてないんですけど!?
その後、花織は良く分からないモヤモヤと、しばらく戦う羽目になるのだった。
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『ウェーイ、明日からまたがっこで会えるね!』
枕を抱きしめながら、スタンプを押して簡潔にメッセージを送る。
貝殻が団扇に噛みついているスタンプだ。
直ぐに返事が来た。
『えぇぇ? がっこ、マジやだ。夏休み後3年続け!!』
相手はそのメッセージの後、焼きそばパンがカンフーをしているスタンプを押している。
「うーん……『アタシは楽しみだけどなぁぁ……』」
『えぇぇ……何、梨愛なんか変わった? やっぱ探索士なったし? それとも……一夏の思い出が!?』
「……ははっ。それがあったら、良かったんだけどね……」
少々自嘲気味にそう笑って、またメッセージを送る。
その際、勿論胸に感じたチクリとした痛みは覆い隠したままで。
少女――逆井梨愛はそれから、クラスの女子数名で作ったグループで、1時間程メッセージのやり取りを行った。
「はぁぁぁ……結構時間使っちゃった。そろそろ寝よっかな」
時計を見ると、既に11時。
乙女にとって寝不足は天敵。
だがそこで、更にまた別の通知が届く。
今度は、先ほどまでとは異なり、SNSアプリを介したものではなかった。
「およ? 誰だろう……ああ“ハヤちゃん”!!」
彼女が最近ようやくアドレスを入手した青年と同じく。
現代を生きる若者にしては珍しくショートメッセージアプリを入れていない稀有な少女だ。
表示には“ハヤちゃん”とあるが、彼女が新聞で以前見かけた記事にはきちんと『赤星颯』との本名が載っていた。
『リア、うぃッス!! ようやく遠征から帰って来た!!』
メールには、かなり遅い時間の帰宅を知らせる内容が書いてあった。
「ああ、そういえば県外に何日か部活の合宿行ってたんだっけ」
いつも4人で探索士アイドルの曲を練習しているが、その多くで颯はいなかった。
花織と律氷がお嬢様グループだとしたら、梨愛と颯は庶民グループ。
別にそれでギクシャクすることもなく、お互い仲も良いが、それでも庶民グループ一人なのはいつも寂しい。
『これから忙しくなるし、最後の部活動、楽しんできたよ!!』
「……ハヤちゃん、短距離で結構凄いって言われてたっぽいし、引きずってると思ってたけど」
これからダンジョン探索士、そしてアイドルとしてもやっていかなければならない。
なので、部活はこの夏で辞めることになったと梨愛に対して言っていた。
でも、メールを見る限り、落ち込んでいる様子は見られない。
『ところで、明日暇? 折角だしどっか遊びに行かない?』
続きを読むと、お誘いの言葉が。
「あ~『ゴメン、こっちは明日からがっこ、始まるんだ』」
送ると、これまた直ぐに返信が来た。
『そっかそっか~、じゃあ残念。――でも、そっちは残念じゃないでしょ? 愛しの“彼”と会えるから』
「な、ななななな!?」
それを目にした時、梨愛の顔から火が出た。
「は、はぁぁ!?『意味わかんないんですけど!? ってか新海は別に彼氏とかそういうんじゃないし!!』」
梨愛は、気づかない。
その内容が、かなり墓穴を掘ったものであることを。
この後、時計の長針と短針が真上に来る時間まで、そのことでいじられ続けたのだった。
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「…………」
「あ、あの……カンナ様?」
「大丈夫、大丈夫ですよサラ。私、全然怒ってませんから」
エルフで神官のジョブを持つ少女――サラは、目の前で言葉に反し、全く怒りを隠しきれていない主人を宥める。
対する主人――織部柑奈は、つい先ほど協力者の青年から送られてきたものの中に、明らかに喧嘩を売っている物があり、静かな怒りを煮滾らせているのだ。
二人は宿の部屋でくつろいでいた。
先ほど青年との通信を終えて、一息入れていたのだ。
自分達が助けようと動いたものの、助けられなかった少女。
その少女を、青年が何とかしたという報告があった。
驚いたし、感謝もした。
柑奈に至っては、今まで貰ってばかりで何も返せていない。
どうすれば彼の行為に報いることができるかと悩んですらいた。
そんな折だ、青年からDD――ダンジョンディスプレイで転送されてきたのは。
二人の前には、前々より頼んでいたサラの肌着一式が。
それはいい。
わざわざ解放されることを選ばず、自分に着いてきて支えてくれると、この少女は言ってくれたのだ。
身の回りのことで不自由はさせないと柑奈は青年に購入・転送を頼んだ。
だが看過できないものが、その中に紛れていた。
「…………“パッド”。用途は何でしょうね?」
「…………」
その不要物を掴み、サラへと尋ねてみる。
しかし、サラは気まずそうな表情をしただけで、それに答えることはない。
――おかしいですね、サラは物知りだし、これもどんなものか分かりそうなものなのですが。
「あ!!……あらっ!? カンナ様、これは何でしょう!?」
サラは何か逃げ道は無いかと周囲を見た。
すると、未だ手に取って確認していなかった青年からの転送物が。
これ幸いとサラはそれを拾い上げる。
どうやら紙、のようだ。
それを開いてみる。
柑奈も、一つ息を吐き、同じように覗き込んだ。
――ピシリッ
二人が、空気が、固まる音がした。
『俺は悪くねぇ!! 店員が悪いんだ!!』
記されていたその一文。
どういう意味かサラには分からなかったが、主人が固まるのに十分な内容が書いてあるということだけは分かった。
柑奈はそれをサラから奪い取った。
そしてクシャリと、一握り。
「――新海君の、バカァァァァァァ!!」
□◆□◆Another View End◆□◆□
さて、とうとうご評価いただいた方が600名を超えました!
ブックマークも5828件と、もう直ぐで6000件です!
ありがとうございます、ありがとうございます!
1章終わって読者の方にも燃え尽き症候群的な方がいらっしゃらないか心配でしたが、未だ読んでいただけている方が増えていて大変嬉しい思いです!
明日か、明後日以降から2章を始めようかと思っております。
是非今後もご声援ご愛読を、よろしくお願いします!!
後、登場人物をまとめたものは、本当に簡単なものでいいのであれば明後日か、その次の日くらいにでも書いてあげることができると思います。
どうしようかはまだ未定ですので、そのことについて何かご意見ございましたらご連絡ください。




