閑話③ 彼女たちの日常の一部~チャット風~
お待たせしました。
今回は閑話です。
ロトワが増え、5人になったのでいつかタイミングの良い時に書いてあげたかったのと。
後もう1点は……まあ分かりますかね。
なので、本編を進めるのではなく1話、閑話を挟むことにしました。
彼女たちの日常を、彼女たちが使っているグループチャットアプリを介して見る、という形になります。
初めての試みですが、色んな角度からこの作品を見ていただけたらなと思い、やってみました。
ではどうぞ。
~奴隷少女達の何でもない、ありふれた日常の一部~
【グループ名:“サーバント※メンバー増の可能性大”】
〔天使:ねえ、ラティア、リヴィル。……隊長さんさ、今何してんの?〕
可愛らしい天使が、チラチラ様子を窺うスタンプが押された後、直ぐに反応があった。
〔淫魔:ご主人様ですか? お部屋で勉強なさってると思いますけど……〕
〔人造導士:そっちで何かあったの? マスターじゃないとダメ系?〕
一気にチャット内での雰囲気が張り詰める。
メラメラと燃える炎を手に宿した少女が、深刻な顔をしたスタンプが押された。
彼女らが使うスタンプの多くは、この人造導士がデザインしている。
人造導士は大体のことにセンスがあったのだ。
〔天使:ああいや、悪ぃ。そんな大したことじゃないんだ〕
〔天使:チハヤとか妹達が「先輩って今頃何してるんでしょう?」とか「お兄ちゃんは?」とか聞いてきてさ……隊長さん、来られないかな?〕
〔淫魔:ああ~……なるほど。ご主人様はどこでも大人気ですからね~〕
スタンプが押される。
とても過激な恰好をした少女が、得意気な顔で頷くものだ。
〔影小人:あっ! レイネお姉ちゃんが主張するならボクも!! ご主人、こっちにも来て欲しい!!〕
〔人造導士:えっ? ルオって今、リツヒの家だよね?〕
〔影小人:? うん、そうだよ! リツヒとシイナお姉さんと一緒にいるよ! だからご主人も来てくれたらもっと楽しいかなって!!〕
背の低い、しかし活発そうな少女。
それが目を期待一杯にキラキラさせた絵が出てくる。
〔人造導士:……一応それとなく聞いてみても良いけど、どうだろうね。ハヤテもリアも来ていて、でも自室にいるからさ〕
〔淫魔:お勉強、今日のはもしかしたら……カオリ様とマンツーマンの日じゃなかったですか? なら厳しいかもです……〕
〔人造導士:そう言えばそうかも。ハヤテもそれっぽいこと言ってる。……リアは「かおりんめ、テレビチャットで勉強の体で独占とかあざとい……」って愚痴ってる〕
表情の薄い少女が両の掌を上げて“やれやれ……”と呆れている絵だ。
この流れを見て、外泊中の二人も納得する。
〔天使:ああ~ならしゃあないわな。丁度今から晩飯だから。上手いこと関心も逸れるだろ!〕
〔影小人:うぅぅ……しょんぼり。リツヒも残念そう。でも仕方ないよね!〕
〔影小人:ところで……ロトワはどうしたの? ボクが出るまではロトワも家にいたと思うけど……〕
背の低い少女が腰をかがめて探し物をするようにしている。
そしてその絵に「お~い!」と呼びかける吹き出しが付いていた。
〔淫魔:ロトワならさっき、ミオ様と一緒にお隣の家に。だから晩御飯もお二人で食べると〕
〔人造導士:家で一緒に食べればよかったのにね。リアもそう言ってるし〕
〔淫魔:そもそもロトワはまだ文字打ち、慣れてませんからね。気づいてたとしても、まともな内容が返ってくるかどうか……〕
露出の多い格好をした少女が難しい顔をする。
それを表すように「ムムムッ……」との言葉付きだ。
そこに、今まで無言だった最後のメンバーの一人が反応を示した。
〔狐巫女:ロトワ、生きてえいまあす。ミオちゃゃんがお芋よさ、教えくれましたデス! もうお腹いぱーいデス!!〕
狐耳を生やし、巫女装束を着た少女。
彼女がお腹をポンポン叩いて、起き上がれないスタンプだった。
「ギブアップ!!」と告げられている。
〔淫魔:…………〕
〔人造導士:…………〕
〔影小人:…………〕
〔天使:あるある。あたしも最初は通った道だったな~〕
チャット内に微妙な空気が流れる。
そこは違う場所にいても、何となく感じ取れたのだった。
〔人造導士:ロトワ、ゴメン、ちょっと何言ってるか分かんない〕
〔狐巫女:なんと!? お館様お館様お館様お館様お館様お館様お館様お館様お館様お館様お館様お館様〕
〔影小人:いや怖いよ! えっ、どうしたの驚いて打ちすぎちゃった!?〕
だがそこで反応が途切れる。
しばらく待って、ようやく狐巫女が新たな言葉を打ったのだった。
〔狐巫女:ミオちゃんに教わりました。助けてくれるそうで、救われました。もう大丈夫です〕
文字のおかしな打ち間違いもなく、一同ホッと息を吐く。
だが油断したところに、狐巫女が追い打ちをかけに行った。
〔狐巫女:お芋教の凄さ、ロトワ、学びましたです! この文字打ちも、お館様との運命の出会いも、世界の安定も。全てお芋様のおかげだったのですね! お芋奉行様、ありがとうございますです!〕
〔人造導士:ロトワッ、別の意味で“救済”されてる!!〕
〔影小人:騙されてるよロトワ! ミオお姉さんの話術に嵌っちゃってるよ!!〕
〔天使:ってか“お芋様”と“お芋奉行”ってなんだ!? 別の存在なのか!?〕
その後しばらく、チャット内は騒然となったのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
〔淫魔:ふぅぅ~……ミオ様には後で私から少し言っておきます〕
〔狐巫女:うぅぅ、あんまりミオちゃんを怒らないで下さい……ところで、皆は今何してますか?〕
露骨な話題転換である。
出来るだけ空木に、責が及ばないようにと必死に考えた末のことであった。
〔淫魔:……はぁぁ。――今はハヤテ様とリア様と。お泊り会を楽しんでますよ? 雑談したり、テレビを見たり、ゲームをしたり、ですかね……あっ、勿論リヴィルもいますよ?〕
淫魔も人造導士も、しょうがないと言うようにそれに乗ってあげる。
何だかんだ二人とも末娘のことを大事に思っているのだ。
……というより、この小騒動の原因は空木だし、と切り替えたのだった。
〔人造導士:さっきマスターがお茶だけ飲みに降りてきたけど。ハヤテもリアも露骨に嬉しそうにしてたよね〕
〔淫魔:「いや、うん、邪魔者は直ぐ上に退散するから。そんな見ないで」って……フフッ、ご主人様、また勘違いなさって、それでお二人がかえって落ち込まれて〕
〔天使:ああ~〕
〔影小人:あるある、“ご主人あるある”だよね~〕
背の低い少女が頷きを繰り返す絵が押される。
「分かりみ深いよね~」と告げる吹き出し付きだ。
〔人造導士:今も、またマスターが降りてこないかなって感じで。ハヤテもリアもそわそわして上の方チラチラ見てるよ〕
〔淫魔:「気になるのでしたら、直接訪ねてみては?」と勧めてみたんですが「それは悪いよ……特に理由もないのに邪魔しちゃったらさ」と断られてしまいました〕
〔天使:ん? そんなん適当に理由つければいいんじゃねえの? ラティアなんて毎回そうしてんだろ〕
天使の一言で、チャット内は一気に盛り上がる。
〔狐巫女:ああ~“ラティアちゃんあるある”!〕
〔影小人:この前のは凄かったよね! 「ちょっとご主人様に余ったお菓子の差し入れをお渡しして来ます……」って!〕
〔天使:あれはエグいよな~! んなこと言っといて隊長さんに渡す用のお菓子、自分の小遣いでストックしてんだもん!〕
ヒートアップしていく3人に対し、当の本人たる淫魔ともう一人はとても静かだった。
淫魔は勿論、スマホ画面の前で静かに黒い笑顔を浮かべている。
もう一人は、傍でヒシヒシとそのボルテージが上がっているのを感じていた。
賢い人造導士は触らぬ神に祟りなしと、口にチャックをしていたのである。
〔天使:――ところでルオはそっちで何してんだ? もうメシは食ったんだろ? あたしはチハヤの姉妹と総出でゲーム大会〕
話が変わったのを見て、人造導士は隅でホッと息を吐く。
限界を超えるまで、淫魔を怒らせはしなかったようだ。
……爆発しなかった怒りが、次回へキャリーオーバーにならなければいいが。
〔影小人:ボク? リツヒとお勉強! シイナお姉さんが講師になって、傾向と対策を学んでます!!〕
〔淫魔:それは……“ご主人様のこと”を、と言うことですか?〕
〔影小人:うん! 最近のご主人の好みとか、好きなゲームとか。どういうタイプの女性により視線を向けるか、とかかな?〕
普通に戻った淫魔を確認し、人造導士も安心して呟きを再開する。
〔人造導士:フフッ、それを“シイナ”から学んでるんだね?〕
〔影小人:え? うん。シイナお姉さん、凄く頑張って調べてくれてるんだ! リツヒのために、凄いよね!〕
影小人は、人造導士の確認の意味が良く分からずそのまま肯定。
ちなみに、その情報・統計の一部を提供している者がこの5人の中にいるが……。
……命は惜しい。
深入りはよそう。
〔狐巫女:シイナちゃんとお館様、偶に凄く怖い空気になるから、ロトワはちょっとだけ苦手です〕
〔影小人:あぁ~。まあご主人も多分苦手にしてるんじゃないかな? でも凄く良い人だよ!〕
〔影小人:それにシイナお姉さん「新海様のことに関しては、他の有象無象よりも熟知している自信があります。御嬢様も、何なりと私に聞いてください」って! とても頼りになる先生って感じ!〕
淫魔も、人造導士も、そして天使も。
彼女に対する評価は基本的には影小人と同様であった。
なので特に補足することはない。
――しかしその後、異変が起きる。
〔影小人:……あっ、リツヒがご機嫌斜めになった。シイナお姉さんに“伏兵”って言ってる……「颯様に隠れて、椎名もしっかりと伏兵力を上げていたんですね!」って〕
〔人造導士:あぁ……ハヤテパターンね〕
〔天使:“ハヤテパターン”って何だよ……いや、何となくは分かったけど〕
それからの状況の変化を待つように、2分程の空白が生まれる。
そして続報が入った。
〔影小人:シイナお姉さんが必死に「誤解です御嬢様ッ!?」って……〕
〔影小人:――あっ、怒ったリツヒに「ルオさん、今日はもう椎名は無視です。勝手に伏兵になってた椎名なんて知りません!」って連れていかれた〕
〔影小人:ごめんね、シイナお姉さん……〕
連投から、大体どういう状況かを察した一同。
どうやら従者は一人寂しく取り残されたらしい。
そこに、また新たな異変が起きた。
〔淫魔:!?〕
〔狐小人:ラティアちゃん!? ど、どうかしたですか!?〕
〔人造導士:……今、凄い音したよね。マスターの部屋からだと思うけど〕
〔淫魔:ええ……何かを落とした音というか……。2階で何かあったのでしょうか……ハヤテ様やリア様も心配されてますし〕
そこで、しばらく呟きが途切れる。
他の3人が各自、合間を見てスマホを覗き確認。
5分ほどして、ようやく新たな呟きがなされた。
〔人造導士:マスターが降りてきた。悟ったような顔して「ちょっと指詰めに行ってくるわ」って……〕
〔影小人:はぅぅ……えっ、シイナお姉さんかな!? うぅぅ、何か大事になってる?〕
〔天使:“指詰め”!? そんな“コンビニ行ってくるわ”みたいな軽いノリで!? バカッ、止めろよ!!〕
〔天使:えっ? いや……「メイドアイドル椎名さんの怒りを買うから……――先輩のことは忘れません。ご意思を受け継いで、これからも頑張って生きていきます」って〕
〔天使:チハヤ、勝手に隊長さん殺すなよ……〕
その連投後、今度は天使の呟きが途絶える。
心配を深める影小人。
またしばらくして戻って来た天使は呟いた。
〔天使:……チハヤに電話が掛かって来た。多分漏れ聞こえた内容から相手はシイナ。それに出た後、チハヤ、表情が死んでたんだが……〕
〔天使:で「……すいません、レイネさん。指ってどうやって詰めるか、やり方しってますか?」って聞かれた〕
〔影小人:うぅぅぅぅ~!! やっぱりぃぃ!! ちょっとリツヒに仲直りするよう説得してみる!!――〕
〔淫魔:ルオ、急いでくださいっ!! ご主人様は何とか私とハヤテ様が抱き着いて止めていますから!!〕
〔狐巫女:うぅぅ……やっぱり、ロトワはちょっと怖くて苦手ですぅぅ~!!〕
〔人造導士:ラティアもだけど、ハヤテ、またちゃっかり伏兵ってる……〕
その後、何だかんだあったが二者の指詰めは何とか回避されたのだった……。
つい先程発表されました、集英社WEB小説大賞にて奨励賞をいただき、書籍化することになりました!
ここでのお礼のご挨拶は簡潔にさせていただき、詳しくは夜辺りにでも活動報告を書こうかと考えております。
簡単にですが、ここまで読み、あるいは感想やご指摘を下さり支えてくださった全ての読者の皆様。
本当にありがとうございます!
これからもどうぞよろしくお願いします!!
 




