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279.“綺麗な人”、ねぇ……。

お待たせしました。


ではどうぞ。



『――次のニュースです。本日、ダンジョン内から持ち出された素材が、初めて企業へと売却されました』


 

 念入りに風呂で体を洗い。

 サッパリした気分でリビングに入る。



「へぇぇ……ニュース見てんのか? 別に気にせずバラエティーとかでもいいんだぞ?」



 空木やルオ、ロトワに向けて告げる。

 3人はもっとスペースがあるのに、あえてギュウギュウに並んで座っていた。 



「いや、一応見ておこうかなって。これ、美洋(みひろ)さんなんですよ」


「――あっ、ご主人、ミオお姉さん! ミヒロお姉さんが映ってるよ!」



 ルオの声で、再びテレビに注目する。

 アナウンサーが、ニュース内容を更に詳しく読み上げた。

 


『今までは探索士が持ち出しに成功した素材は、主に政府が買い上げる形でしたが、これにより今後のダンジョン関連業への企業進出が更に加速しそうです』



 画面には、飯野さんと後3人程の知らない女性が映っていた。

 4人で窮屈そうにしながらも一つのお盆を持ち、それを企業担当者に手渡している。


 その瞬間にフラッシュが焚かれ、全員がカメラに視線を向けていた。



「おうふっ……美洋さんの爆乳がお盆の上に乗りそう……カメラマン、狙って撮ってるな?」


 

 いや空木、お前もどこに目を付けてんだよ……。 



「“魔石”だね。んーっと……10個くらいかな?」


 

 直ぐに画面がニューススタジオに切り替わってしまう。

 だがそれでもルオは、さっきの一瞬でお盆の上に乗っていた物や数を見切ったようだ。



「流石ルオちゃんです!! ロトワも精進せねば! ムムムッ……」



 可愛らしく目を凝らすロトワ。

 空木はそれを楽しそうに見つめながら、独り言ちる。



「まあ“何を”・“どの位の数”の部分はこの場合、あんまり重要じゃないでしょうね……」


『熱中症で搬送される数が過去最多を更新しました。気象庁は――』



 流れていくニュースを耳にしながらも、空木の言ったことを頭の中で考えてみる。

 

 手渡す場面がメディアに公開されていたってことからして、おそらく空木の言う通り。

 儀礼的な意味合いが強いのだろう。


 

 社会、世間にこのことを宣伝して、認識を深めてもらう。

 そして買取を行う・行おうと検討している企業側にも改めて周知する。



 そんなところだろうな……。



「空木達が頑張ったダンジョン攻略の動画、再生数も凄い伸びてんだろ?」


 

 多くなればなる程、探索士と補助者の役割分担を具体的に広められることにも繋がる。

 

 だが空木はあんまり関心がなさそうだった。 

        


「さぁ? 広告収入ウチには入ってこないらしいんで、そっち方面は気にしたこと無いです。花織ちゃんか知刃矢ちゃん辺りが詳しいと思いますよ?」


 

 ブレないな……空木は。


 まあとにかく。

 今後も俺のやることは変わらない。


 後で志木が来るようだし、今日仕入れた素材なんかは直接志木に渡せばいいだろう。



「……? ミオちゃん、何してるんですか?」


 

 ロトワが興味深そうに空木の手元を覗き込んだ。

 他のニュースに移ってからは、関心を無くしたようにスマホを弄り始めていたが……。



「ん? これ? SNSで今のニュースのこと呟いてるの。折角見たんだから、ちゃんと美洋さんにも“見たよー”って分かるようにね」


 

 空木がそれを示すように、スマホの画面をこちらに向けた。

 ロトワ越しに、俺もチラッと拝見。



『美洋さんニュース出てた!! これで更にダンジョン関連業界が活発化するはず。ただそれは良いんだけど……美洋さん、パイオツカイデー』


 おい。

  


『企業の担当の方々、ダンジョン関連素材の買取も良いけど、真剣に美洋さんのパイ拓とかおっぱいマウスパッドの開発を検討してみては?』


「お前は何を呟いてんだよ……」

  

「えへへ……」


 

 ただこうしてユーモアを交えての呟きは、ファンのみならず一般人にも興味を持たれ易いらしい。

 直ぐに反応が沢山あり、元々のニュース自体に関心を持ってもらうことにも成功していた。



 空木は何だかんだとぼけてるが、そこらへんのことも考えてんだろうな……。



「――あっ、美洋さんに怒られた」


『もう! 美桜ちゃん!! そんなこと呟かないでよ! 本当に企業さんからお話来たらどうするの!?』



 飯野さんから直接、反応があったらしい。

 そりゃそうなるわ……。



「男性は喜んで買うと思うけどな……お兄さん、商品化されたらプレゼントしましょうか? 美洋さんもそれなら喜んでくれるかも」


 

 いや…………うん、やめておこう。

 流石に飯野さんも嫌だろうしな。 



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「うにゅぅぅぅ……んっ、ミオちゃんとまだ、起きてるです」


「フフッ、ほらロトワ、ルオももう寝たんです。お布団引いてあげましたから、寝た方がいいですよ?」



 舟をこぎ始めたロトワを見て、ラティアが優しく諭す。

 空木は夜型なのか、まだまだ眠くなさそうだ。


 だが――



「……お兄さん、ロトワちゃん寝るまで、ウチ、まだいても大丈夫ですか?」

 

 

 立ち上がって、ロトワの傍に近寄りながら確認してきた。

 


「おお、それは良いけど……」


「どうも――さっ、ロトワちゃん、傍にいてあげるから。お布団行こっ?」

 


 静かにロトワの手を取り、部屋へとゆっくり向かう。



「うん……ありがとう、です……」


 

 ロトワも空木が傍にいてくれると安心したのか、一切抵抗せずそのまま歩いて行った。



「本当……ミオ様と仲良しですね」


「ああ、そうだな……」



 ラティアと、遠ざかって行く二人の後ろ姿を眺めながら。

 そんな何でもない言葉を交わすのだった。


 

「……今のマスターとラティアのやり取りも、何か熟年の夫婦っぽかったけどね」



 ……これ、リヴィルさんや。

 最近君は何かとそう言うことを言ってくるね。



「そうですか!? フフッ!――」


 

 ラティアへのゴマ擦り……とすると流石にあからさまな気はする。

 ……まあ深くはツッコまないけどね。  



「さてと――」



 空木が戻ってくるか、それか志木が来るまでの時間潰しでもしようか。

 そう考えた時、丁度スマホにメールが届いた。


 志木か?

 ……いや、逆井だったか。



『おっつ~。言ってた柑奈の写真送るね~! おまけでアタシの写真も送るけど、夜だからってオカズにしないでよ? ニシシ!』



 カバがダンベルで投球練習しているという、いつも通り謎の絵文字付きで送られてきたのだった。


 確かに添付ファイルがあって、おそらくこれが織部や逆井の写真なんだろう。



「……何で水着限定なんだよ」



 ファイルを開くと、今よりも少し幼い二人の写真が展開される。

 おそらく中学生の頃の物だろうそれらの写真は、しかし。


 全て、織部・逆井共に水着姿だったのだ。

 


「――? お兄さん、何見てるんですか?」


「おっ、空木か……」

  


 後ろから声がかかる。

 空木が戻ってきていた。



「ロトワ寝かしつけてくれたんだな。ありがとう――写真だ、逆井が送って来た」


 

 空木が隣に腰かける。

 大したことじゃないと首を振りながら、俺の手元を覗き込む。



「へぇぇ……梨愛ちゃんが。どんなですか?」



 ……まあ、見せても問題ないだろう。

 過去の織部や逆井の写真だしな。


 送られてきた写真を空木に見せてやる。



「どうも――ほうほう……卒アルか何かのかな? ……って、水着ばっか。しかもスク水しかない」



 俺もそれは思った。

 逆井の奴め、“るおりんスク水「お、おしっこ……」事件”は俺達の胸の中だけに、と約束したはずなのに。


 無意識の内に引っ張られてるな。



「あっ、この人――綺麗な人、ですね」


「お、おう……そうか」



 空木がそう評したのは、中学生時代の織部の写真だ。

 スク水姿で体操座りしている。


 背景からして、水泳大会の時の様子を撮ったものらしい。

   


「……“織部”って、これ、もしかして梨愛ちゃんの親友だったって人ですか?」



 空木は逆井の写真を見るのは早々に終え。

 織部の写真ばかりを、繰り返しスライドして見ながら聞いてきた。



「まあ、な」


「ふぅぅん……この人が」

 


 それ以上は、特に深く追及されることもなかった。

 そこまで織部のことが気になったのか……。



 ――これ、織部対策に取り寄せた物、なんだけどな……。



 織部を鎮圧するために、この前は立石スペシャルを送り付けた。

 効果はてきめんだったようだが、勿論これは俺にとっても無傷でいられるものではなく。



「…………」


「……? 何、マスター」


「いや、何でもない」



 端で読書しているリヴィルの様子を視界に入れる。

 リヴィルに動画編集を頼んだが、これは見方を変えれば諸刃の剣だったのだ。



 だってそうだろう?

 織部対策とは言え、同性である“立石しか映ってない動画を作ってくれ”と、俺はリヴィルに頼むことになったのだ。



 そのせいでリヴィルには――


“……え? それは良いけど。――マスター、もしラティアがこのこと知ったら、マスターは女性より男性の動画に興味がある、なんて勘違いしちゃうかもね?” 



 ……と軽く脅されているのだ。



「――あ、お兄さん、ごめんなさい。ありがとうございました、スマホ返しますね」


「おう……」


 

 スマホを受け取りながらも、俺は送られてきた写真を改めて見る。

 ……これはつまり、立石スペシャルの代替案として使えないか、と集めたのだ。


 織部にも、こんなに無垢でピュアだった時代があったんだぞ――そういう写真を送り付けることが抑制力にならないかと思ったんだが……。



「……織部さん、って、凄い綺麗な人だったんですね」


「えーっと、まあそうだったのかもな」


 

 空木が興味を示すとは、意外だったな。

 しかも織部を“凄い綺麗な人”と評するか……。



 新鮮な意見に驚いていると――



「――あっ、花織ちゃん、着いたって」


 

 空木が自分のスマホを見てそう告げた。

 


「そうか、分かった――」



 意識を切り替え緊張しながらも、俺は玄関へと向かったのだった。



次話でこの回は終わるはず!


ふぅぅ……。

織部さんが絡まないと、お話がスムーズに進んでくれて楽ですね。


志木さんとの対面もるおりん事件後初ですが、何事もなく終わるでしょう!

頑張ろうっと!(信じて疑わない眼差し)

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄い綺麗な人 凄い綺麗な人 凄い綺麗な人 凄く大切な事なので三回書きました。 。。。くっ リアルは世知辛い
[一言] > 美洋さん、パイオツカイデー  パイオツカイデー……笑顔が素敵ですねの意味である(大嘘) > おっぱいマウスパッド  おっぱいマウスパッドと聞いて真っ先に織部が浮かんだ件……ん? イラス…
[良い点] お○ぱいマウスパッドかぁ…そっちが来たかぁ…てっきり写真集かと… [一言] 今、主要キャラの初登場を調べるために読み返してるけどラティアとリヴィルの態度が進化してることがよく分かるわ。 …
2020/09/08 18:11 え~シィー
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