278.えっ、そんなにダメだった!?
お待たせしました。
ではどうぞ。
「――良し、ロトワ、今だっ!」
「はい! ――やぁぁぁ!!」
気合いの籠った声が上がる。
ブスリと刃が通った音と共に、コボルトの動きが止まる。
「ギシッ!!」
更にそれを見て、ゴッさんが追い打ちに出る。
正面を受け持っていたゴッさんは素早くナイフで切った。
「フャィ……」
悲鳴を上げる間もなく、毛の生えた首筋を切り裂かれ。
モンスターは倒れて行った。
「っし! ロトワも、ゴッさんもナイスだ! ……で、ゴーさんは、っと――」
ダンジョン内部、俺達がいる所から更に先に進んだ場所。
ゴーさんは一人、進撃のゴーレム劇場を繰り広げていた。
「フィッ!? フィゲッ!!」
「フィイィ!! フィォィィ!!」
ゴーさんの半分もない背丈のコボルト達。
集まり、何とかゴーさんの進行を阻もうとするも、その歩みを止められないでいた。
扱う武器はゴッさんと同じく短剣・ナイフ。
だがそれでゴーさんの硬い体を傷つけることすら出来ず。
「――Gigigi!!」
リヴィルに鍛えられたその鋭い突きの一撃が、コボルトのお腹を捉える。
子供が生身で、大きな建物を壊す際の鉄球を受けるようなもんだ。
コボルトは跳ね飛ばされ。
地面に落ちた後も、またしばらく転がり続けてようやく静止した。
完全にオーバーキルだ。
「あっちは……全然心配なさそうだな」
「……ですね。――ワっさん、シーさん! ロトワと一緒に、しばらくここを見張りましょう!」
「クニュウゥゥ!!」
「ニュゥ、ニュニュゥ!!」
ロトワの掛け声に、2匹の子竜が反応する。
俺達はこうして、手に負えないと判断し逃げ出したコボルトの処理を担当していた。
が、先の戦闘を見ると。
ロトワもゴッさんと連携をとれば十分戦える。
それに子竜2匹もそれぞれがブレスを使えるのだ。
……ちなみに“シーさん”とは“シー・ドラゴン”の名である。
いや、その方が覚えやすいし、呼びやすいんだよ。
本人も喜んでたし、うん……。
「今日は俺の出番はなさそうだな……」
ゴッさんやゴーさんの様子、それにロトワの戦いぶりを改めて確認する意味でダンジョンに来たが……。
思っていた以上に高いレベルで戦えていた。
しばらくは手出しせず、後ろで見守ることにする。
「ゴッさん、頼めるか?」
多くを言わずとも、これだけで大体のことは通じる。
「ギギッ! ギシャァァ!!」
嬉しそうに笑みを深め、ゴッさんは頷いた。
ロトワと子竜達を連れ歩き、ゴーさんとの距離を測る。
あまり近づきすぎると、一気に標的がこちらへと向くからだろう。
うん、そうじゃないとゴーさんが一人で突進してる意味がないからな。
それで正しい。
「――ギシッ」
おっ。
また一匹がゴーさんの恐怖に耐えきれず逃げてきた。
ゴッさんが“どうする、御嬢?”みたいな視線をロトワに向ける。
「ゴッさん、ロトワがやってみるです!!」
一人で倒してみる、ということか。
ゴッさんは一瞬、チラッとこちらへ視線を投げてきた。
が、俺は特に反応せず。
ゴッさんはそれを“任せる”という意味に、ちゃんと受け取ってくれたらしい。
「ギシィィ……」
一歩下がってロトワの言う通りにした。
「お館様が見てらっしゃる手前、無様は晒せませんです!! ――ギンギンっ、キンキンっ!!」
気迫あふれる声に呼応したのは、2体の狐達だった。
今まではロトワの耳や尻尾を見えないようにするために、能力を使っていたところ、それを解除。
ボフンッと煙を出して姿を見せた。
それに伴い、ロトワの姿も普通の獣人の姿に。
「ファァァ!!」
コボルトが突っ込んでくる。
がむしゃらだった。
「キュゥゥ!!」
銀色の狐がロトワの前に出る。
コボルトが近づくと同時に宙へ跳ねた。
一回転すると、いつものように能力を発動する。
ボフンッと煙を上げると、一瞬にして大きな銀色の丸盾へと変化していた。
「フィィ!? ファァァァ!?」
コボルトのナイフは盾に阻まれた。
接触による大きな金属音を上げ、簡単に刃の根元から折れてしまう。
コボルトはその反動で手を痺れさせている。
「キンキンっ――」
「――キュィ!」
今度は金色の狐がロトワの呼びかけに答えた。
先ず、動きを鈍らせたコボルトの懐に潜り込み、下から蹴り上げる。
「フォィ――」
それだけで天上に叩きつけられる程の威力。
だがそれで終わらず――
「キュゥゥ!!」
ギンギンと同じ様に、能力でその姿を変える。
金色に光り輝く小太刀だ。
刀を握る手とは逆の手で、ロトワはキンキンを握る。
……銀と金の役割が逆じゃなくて良かった。
“ギンギン”を握る、はちょっと字面的にアレだろうしね。
「――せぃぁぁぁぁっ!!」
落下してくるコボルトに向かって、ロトワは簡易の二刀流で一気に片を付ける。
幼いとはいえ、ロトワは獣人だ。
狐人も、俺達みたいな普通の人間に比べたら遥かに力があった。
器用に二本の武器を扱っている。
落下の勢いに乗せるように、刀で背中を叩き切り。
「やぁぁぁ!!」
地面でバウンドした所へ、金の小太刀で更に切りつけた。
ロトワ一人でも、狐達がついていれば全然戦えるな……。
切られたコボルトは既に戦闘不能となっており。
「Gi,gigigiーーーー!!」
先で戦っていたゴーさんも、勝ちを告げるように雄たけびを上げた。
まだ攻略まで階層は残ってるけど、まあいいだろう。
ゴッさんも良く頑張ってくれてる。
このダンジョンはともかく。
今度攻略するダンジョンは、ゴッさん達のダンジョン強化のためにダンジョン間戦争、仕掛けてみてもいいかもしれない。
「――うしっ! 今日はこのくらいにするか!」
「はい、お館様っ!!」
「ギシッ!」
皆の返事を受けながら、帰る準備を始めるのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ふぃぃ……ただいま~」
「ただいまです!」
ロトワと二人で家に辿り着く。
帰って来てもまだまだ元気なロトワに癒され、ほっこりする。
子供は元気だな……。
「――あっ、お兄さん、ロトワちゃん、お帰りなさい」
リビングから一番に出迎えてくれたのは空木だった。
一瞬虚を突かれたようになり、固まる。
が、良く見ると玄関には空木のだろうサンダルがあった。
空木は隣の借家で多くの日を暮らしている。
だから遊びに来ることも少なくない。
「おっす、来てたのか」
「わぁぁ! ミオちゃん!!」
空木の登場で更にロトワは元気になる。
凄いな……天井知らずか。
「ほれっ、空木と遊んでも良いけど、先に手だけでも洗ってきな」
「あっ……はい! ――ミオちゃん、待っててください!」
「はいはい~行ってら~」
空木も軽いな~。
「……お兄さん、後で花織ちゃんも来るって」
「え゛っ」
“花織ちゃん”って、あの花織ちゃん!?
驚く俺を他所に、空木は何でもないようにスマホを弄っていた。
SNSかメールでそういう連絡が来たらしい。
「ぐぬぬっ……!」
「いや、何で複雑そうな顔してるんですか。お兄さん……花織ちゃんが来ると何か不都合でも?」
嬉しそうに聞いて来やがる。
「ん? 別に、そんなことはないけどな」
「ふ~ん……」
弱みを握らせまいと強気で首を横に振るも、内心穏やかではない。
ただでさえ未だに“るおりんスク水「お、おしっこ……」事件”が俺の中で影を落としているというのに。
こんな状況で本人とご対面など、まともに対応できる気がしないぞ……。
「――でね、でね? お館様の凛々しいお声で! ロトワがこう、グワっと掴むんです!! キンキンを!!」
「“キンキン”!? えーっと……あ、うん、金の狐ちゃんのことね」
ロトワが、楽しそうに今日の出来事を報告する。
空木は相槌を打ちながらも、所々引っ掛かりそうになっては何とか自身で納得を付けスルーしていく。
分かる分かる。
勝手に勘ぐってしまいそうになるよな、別の意味に……。
「その、ロトワ、本当にいいのか? 今日のご褒美がこんなんで」
自分の膝上に座っているロトワに向けて確認する。
元々は空木に負けないように、甘いお揚げを沢山食べさせるつもりだったんだが……。
「? はい! そ、その……ロトワ、お館様に包まれてるようで、至福の時間です!」
少し照れ、はにかみながらもそう答えてくれる。
尋ねたこっちが恥ずかしくなるくらいだ。
「むむっ――じゃあロトワちゃん、お兄さんがおいなりさん食べさせてくれるか、それか膝上で抱っこしてくれるか、どっちが好き?」
「はうっ!? お、お館様の“おいなりさん”とは、お館様のおいなりさん、ということですか?」
……何を聞いてんだよ。
そしてロトワは何を聞き返してんだ。
ロトワの視線が一瞬だけ、今自分が腰を下ろしている俺の下半身に向けられた気がしたが……気のせいだと思いたい。
「……“いなり寿司”な――ってそうじゃなくて、ロトワに変な質問しない」
俺が注意すると、空木は唇を尖らせる。
そしてそっと立ち上がったかと思うと、ソファーの後ろ側に回り。
「ちぇっ、お兄さんノリ悪いな~――えぃっ!!」
「おっ、おいっ!?」
後ろから腕を回して首にしがみ付いてきた。
俺の頭の上に顎を乗せ、ダラーっともたれ掛かってくる。
「ろ、ロトワちゃん見てたらウチもダラけたくなりました。お兄さんの体、凄くもたれかかるのに丁度良いですね。あ、ああ~楽だな~この体勢」
何かに対して言い訳するような棒読み。
だが、直ぐにそんなことは気にならなくなった。
「おい――」
いや、体重がかかって重いとか、そう言うのは別にいいんだ。
ただ、この、後頭部に当たる柔らかい物は――っっ!!
これはもしや!!
芋の栄養だけで育ったという噂の空木のフカパイか!?
首にしがみ付いて体重を預けてくる分、その柔らかな感触が更に押し当てられる。
グッ、何て柔らかさ!
そしてその質量!!
何てスペックだ……!!
これは、織部と白瀬を同時に相手取っても軽く凌駕するレベルだぞ!?
「っっ!!――」
このままじゃマズいと何とか横目を向く。
リビングにいるラティアとリヴィルに助けを求めたが、一瞬だけこちらに視線をよこしただけ。
何故か息ピッタリにササっと目を逸らされた。
おい!?
「……すんっ、すんすん――はぁぁぁ」
頭上で鼻を鳴らす音が聞こえた。
と思ったら、何かにうっとりしたような溜め息まで。
……えっ、何?
「――はっ!? っと、お、お兄さん!! ちょ、ちょっと汗臭くないですか!?」
我に返ったような慌てた声で、空木に指摘される。
うぐっ、女子から、汗臭いって言われた……。
年頃の青少年にとって、異性からの“臭い”はダメージがデカい。
意気消沈していると、ロトワが振り返る。
対面で抱っこするような体勢だ。
「? すん……? 全然、臭くないですよ? お館様、とても惹き付けられる良い匂いしますです!!」
獣人で、しかも鼻の良い狐人のロトワがそう言ってくれるだけで、少し報われる。
が、こういう場合は俺の気持ちを慮ってフォローしてくれている、と取った方がいいんだろう。
その証拠に、空木はなおも言い募って来た。
「い、いやお兄さん、この匂いは危険です! 特に他の女子と話す前はシャワー浴びたりしないと!! 一瞬クラっと来ましたもん!!」
そこまで体臭酷いの俺!?
うぅぅ……。
織部やオリヴェア達はやっぱり特殊だったんだな……うん。
「……そ、その、ウチはまあお兄さんの匂いとか、全然気にしないから、うん。そのままでいてくれても全く、これっぽっちも気にしないけど……」
空木はやっぱり優しい奴だったんだな。
言い辛いこともあえて指摘してくれたし。
それに他の女子が嫌がるだろう臭いも気にしないって言ってくれるし。
……まあ、ダラけたいだけ、のようにも思えるけどね。
頭後ろに未だ感じる柔らかさ。
俺の体臭を嗅ぐのを甘受してまで、体を預けて楽したいって、どんだけだよ……。
そうして空木やロトワの要望に応え体を貸しながら。
今後はボディーソープやシャンプー変えようかな、と本気で考え始めたのだった。
掲示板回、やっぱり今の位の頻度が丁度いいですね。
普段以上に疲れるんですが、やはりミスがあったみたいで。
数字は一つズレるとその後全部1個ずつズレるので、更に神経使いますね……。
感想の返しは今日の夜、この後、寝る前位にでも時間を取りますのでしばしお待ちを。




