27.夏の終わりを告げる音――いや、チュパチュパとした卑猥な音じゃなく!!
もうちょっと簡潔に終わらせるつもりだったんですが、興が乗って長めになりました。
後、最初はあんまり真剣にならずに頭空っぽで読んだ方がいいかもしれません。
まあとにかく、1章最後のお話となります、お楽しみください。
「――あむっ……んっ……れるっ……」
何かを舐める音が、室内に響く。
水気を含んだ甲高いもので、それ以外のものは聞こえてこない。
「――っぱ……ちゃぷっ……んっぱ」
もう一人の少女も、それを舐めることに集中している。
ただ、初めてだったのか、時にぎこちなく息継ぎする様が見て取れた。
「――んっ……初めて、だからちょっと警戒してたけど、凄く、美味しいね」
リヴィルは微かに眉を上げ、その驚きを表す。
「んっ……です、ね……固くて、でもそれを舐めると舌に美味しい味が広がって――」
対するラティアも、それにうっとりとした視線を送り、一時その蠱惑的な口と舌を休ませる。
「でも……ちょっと油断してたら、白くてベトッとして……髪に着いちゃった」
「う~ん……ネチャっとしてますが、それも舐めると美味しいですよ?」
リヴィルのサラッと流れるような長い髪に付着した白い液体を、ラティアは舐めとる。
……うん、女の子同士だし、大丈夫なはず。
だが、そこまでしなくても……。
「あの、ラティア、ティッシュか布巾あるから、それで拭けば……」
「いえ!! ご主人様からいただいたものですし、大切に頂きませんと」
そう言って、ラティアはそのプリッとした桜色の唇から、淫靡な生き物の如く這うようにして出て来た舌を動かした。
「うん、私も、マスターが折角出してくれたものだし、無駄にしたくない」
リヴィルはそれに舐めとられるままにしている。
だが少しだけくすぐったそうに体を揺らした。
「ん――」
そうして思わず漏れ出たといった声が、何だか色っぽくて……。
それら一連のやり取りが終わった後、二人はまた舌を、口を、その固い棒へと動かし始めた。
「二人とも……そんなに良かったのか――」
俺は、恍惚とした表情を浮かべるラティアと。
寡黙ながら未知のものと出会えた興奮を微かに表すリヴィルに。
若干うんざりした様子で尋ねた。
「――その“棒アイス”」
「はい!! 甘くて、冷たくて、こんなに美味しい物があるなんて、驚きです!!」
「うん……甘いのもそうだけど、少し酸味というか酸っぱさがあるのも、いいアクセントになってるんじゃないかな?」
「……そうか」
いい笑顔で答える二人を見て、俺はそっとソファーから立ち上がり、二階の自分の部屋へと向かう。
もう事の顛末をお分かりだろう。
――ただ二人がカ○ピス味の棒アイスを食べていただけである!!
俺がスッキリするなんてことはなかった!!
エロい事なんて一つもなかったのだ!!
むしろ夕食やラティア達の恰好のせいか、ムラムラ感が余計に増してしまっているまである。
普通に俺が自分用に買ったアイスを冷凍庫から出して、それを上げただけなのに。
なぜかラティアが咥えるだけで、関与するだけで、卑猥な衣を纏った行為に感じてしまうから不思議だ。
しかも無意識的にラティアに感化されてか、リヴィルまでなんかいけないことをしているように感じる。
――ラティアは、あの子は危険だ。
あの子は周りにムラムラ感を漂わせる、伝播させる天賦の才を有している。
なんてことだ、エロウィルスを体内に宿してやがるんだ。
テロリストならぬエロリストとは。
「くっ!! 身内が最大の脅威だとは!!」
……うん、何言ってんのか自分でも全然意味が分からん。
それだけ冷静さを失わされたということか。
俺は鋼の意思で、何とか自我を保つ。
今夜、大丈夫だろうか……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ふぅぅ……皇さんや逆井の顔を見ると、何だか安心するよ。ホッとするっていうか、心から落ち着けるっていうか」
自室でテレビチャットを繋ぎ。
俺は画面上で、今夜予定されていた会話相手に、そう思ったことを告げる。
『は、はぁぁ!? な、何言ってんの!! バカじゃないの!? 新海バカじゃないの!?』
『…………――し、椎名ッ!!』
……何で逆井はそんなに真っ赤になって怒ってんの。
皇さんに至っては一瞬フリーズして、再起動後に目を回して椎名さんの元に駆けていくし。
『い、意味わかんないし!? ベ、別に長年連れ添った夫婦っぽい安心感があるとか言われても何も嬉しくないし!!』
いや、そこまでは全く言っていないのだが。
『はぁぁぁ……新海様、困ります。もう少しそのアホ、何とかしてもらえますか?』
えっ、椎名さんいつにも増して辛辣!?
このスーツ姿の、若いができるキャリアウーマンっぽい人。
いつも俺に対して毒吐いてくんだけど。
「いや、あなたの主人――皇さんが突然混乱し出したんじゃ……」
『チッ……何コイツ、鈍感系主人公でも気取ってんの?』
「おい従者、悪口言うなら聞こえないように呟け」
この人、あえて聞こえるように呟いてやがる。
何なの、俺に恨みでもあんの?
『おや、失礼しました。そこは“えっ、何だって?”と返してくださるとばかり』
「…………」
こんの……。
『――も、もう椎名!! 何か陽翔様に失礼なこと言ってない!?』
あっ、皇さんが混乱から戻って来た。
「……いや、まあ大丈夫。ちょっとした世間話してただけだから」
別にチクっても良かったのだが。
それだと皇さんに怒られた椎名さんが、次回以降も更に毒を強めてくる可能性がある。
俺はそう打算的に考えて、無難に答えておくことにした。
『!!……そういう所を、もっとお嬢様に見せれば、私も何も言わないのに』
『え? 椎名、何ですって?』
「フフッ――」
この場面で皇さんが、難聴系主人公みたいな言葉を発したことに、思わず笑ってしまった。
『……いえ、何でもございません――』
――キッ!!
うっわ、やべぇ、メッチャ睨まれた。
やっぱり主人に対しては何にも言わないのね、この人。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「……つまり今後は。俺が仲間と一緒に攻略したダンジョンで拾ったものを、買い取ってくれると?」
未だ宿題が終わっておらず泣きついてきた逆井に。
明日以降手伝うと約束し、レッスンスタジオから帰るのを見届けた後。
『――はい、そうですね。“花織”御姉様と私のポケットマネーから資金をプールしました』
今日はいない志木の代わりに、皇さんと椎名さんがその説明を行ってくれていた。
以前から志木に聞かされていた、ダンジョン関連の話だ。
「ちなみに……ポケットマネーっていうのは?」
俺がそう尋ねると、皇さんはそのお人形みたいな可愛らしい顔をキョトンとさせる。
『? えーっと、御姉様はご自身で幾つか会社の経営やコンサルタントをなされているので。私は株を少々』
「え゛ッ」
思わず変な声が漏れる。
この子……そんなことをさも当然のように。
『なるほどー。お嬢様とご結婚される殿方は、玉の輿が狙えるわけですねー。これは逃す手はないなー』
……。
椎名さんがクソ大根芝居で皇さんをヨイショしてんだけど。
何これ。
『えっと……椎名、大丈夫ですか? 疲れているなら無理せず有給、消化してくれても』
「フフッ……」
思わずまた笑ってしまった。
何これ、主従漫才でもみせてくれてるのだろうか。
『……いえ、何でもありません』
「――志木はこれをギルドの前身か、悪くても実験みたいな扱いにしたいのか」
俺が2人からの説明を受け、そう纏める。
『はい。御姉様は他にも国の制度について御実家に献策もされているようですが』
『先ずは新海様が拾ってくる成果物を、お嬢様と花織様の資金で買い取る、という形を試されるようですね』
「ふむ……じゃあ後で送ってくれるっていうスマホにかければ、全部言い値で買い取ってくれる、と?」
『勿論、私達が出せる範囲で、ですが。良識的なお値段でお譲りいただけると助かります』
皇さんが頷いてそう述べた。
その窓口としては、基本的に椎名さんが担ってくれる。
そして、俺が誰か他の協力者がいると察してか、専用のスマホについては複数送ってくれるという。
指定の場所にその素材を置いておけば、後日これまた作ってもらった口座に振り込む、と。
これなら俺じゃなく、ラティアやリヴィルでも稼げる方法が開けたわけだ。
「それは助かるよ」
『こちらは独占的に、どこにも出回っていないとても貴重な物をお譲りいただくわけですから』
皇さん達についても、特に俺の隠していることについてはツッコんでこない。
志木からその点については徹底されているか、それか皇さん達にも考えるところがあるか、だろうな。
『ああ、勿論。定期的に売っていただく必要はありません。好きな時に利用してくださる、それだけで』
「……うん、わかった」
そこで、話は途切れ。
皇さんは今までのハキハキとした説明がまるで嘘のようにモジモジしだした。
それを、椎名さんが後ろから応援している。
『さっ、お嬢様。今日、お誘いするんでしょう?』
『は、はい……ですが、ちょっと、まだ心の準備が――』
……何だろう。
「えっと……もう、今日は切ろうか?」
『あ、あ!! ま、待ってください!!』
良く分からなかったので気を利かせて通信を終了しようとすると、こんな大きい声が出るのかというくらいに叫んだ皇さんに止められる。
『あの、えっと、その……』
『頑張ってください、お嬢様!!』
何か、まだ用事があるらしい。
椎名さんも“切るなよ、絶対切るなよ?”というマジな目を俺に向けてくる。
「…………」
俺も辛抱強く待つことにした。
何度か深呼吸して、キュッと目を瞑って、皇さんは――
『――あ、あの!! こ、今度私達、お披露目ライブすることになりました!! チケットをお送りするので、是非見に来てくださいませんか!?』
「……うん、分かった。皇さんの晴れ姿。楽しみにしてるよ」
『ふぁぁぁ!! ――はい!!』
俺の返答を聞いた皇さんは、それはもうフニャッと崩れるような笑顔で大層喜んだ。
対する椎名さんはというと――
『――グッ!!』
何故かこの時だけは素直に親指を立てて見せ、口パクで“よくやった!!”と口にしていた。
…………何だか分からんが、まあ良かった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
次の日の夜。
寝てスッキリした(変な意味でなく)頭で、逆井からひったくって来たアイツの夏の課題をザッと片付け。
「――マスターって、本当に不思議な人だね」
DD――ダンジョンディスプレイでダンジョンテレポーターを使用し。
俺はラティアとリヴィルを連れて、あの始まりの場所――“廃神社跡”付近に来ていた。
リヴィルは変化に乏しいその表情を最大限動かして、今のテレポートに感想を述べ、俺を見上げる。
「……そうか、ミステリアスでカッコいいか。これはこれからモテモテ間違いなしだな」
「ゴメン、ちょっとマスターが何言ってるか分かんないや」
ヒドい……。
ちょっとボケただけなのに。
リヴィルに凄いクールに流された。
「フフッ……ご主人様は、今でも十分素敵でカッコいいですよ?」
「え、あ、いや……どうも」
ヒドい。
ボケなのに。
ラティアにマジの返しをされた。
――いや、待て。これはラティアの建前かもしれん。
“こうしてフォローしておかないと、後で拗ねられても困ります。これしきでメンタルをやられるご主人様ですからね……――お可愛いこと”
――ヤバい、黒ラティアが虫けらを見る目で俺を嘲る姿を想像してしまった。
しかも一瞬“それもいいかも”なんて思ってしまって。
アホが極まってしまっている。
本格的に俺、ヤバいかもしれないな……。
「――で、私達を連れ出した理由って何? これからダンジョン攻略でもするの?」
「いやいや、こんな暗くなった中、それは流石に無いって」
リヴィルから投げかけられた疑問に、直ぐ様否定を入れる。
そこまで俺ってブラックご主人様に見えているのだろうか。
ふむ……俺がラティアに黒ラティアの幻想を見るのと似たもんか、いや違うか。
「ちょっと待ってろ。もう直ぐのはずだから――」
俺が腕時計と夜空に視線を行ったり来たりさせていると、丁度――
――ヒュルルルル…………ドンッ
腹に響くような爆発音と共に、明るい光が夜空を彩る。
夏の風物詩――花火だ。
今日、毎年の花火大会が近くで催されているのだ。
「――えっ!? ひぃやぁ!!」
「っ!? 何、敵襲!? マスター、ラティア、危ないから私の後ろに――」
「ああ、いやいや!! 違うから!!」
可愛い悲鳴を上げたラティアと、一瞬にして警戒モードに入ったリヴィル。
それを慌てて宥めて、俺は二人に空を見てみるよう促した。
「あれは“花火”って言ってな……夏にこの世界というか、この国で見られるものだ」
次々と打ち上げられる花火が奏でる、その豪快な音の邪魔にならないよう。
俺は合間合間を見て、簡単な解説を加えた。
「火薬を沢山使ってな、ああやって様々な色を、夜空に打ち上げて表現するんだ。それを人々は見て、その景色を、季節を楽しむ」
「うぁぁぁぁ……」
「へぇぇぇぇ……」
俺の言葉に耳を傾けながらも。
二人は夏の夜空を飾る一瞬だけの明かりに、目を奪われていた。
良かった……気に入ってくれたようだ。
――もう夏休みもあと3日で終わる。
始まったときは、一人だった。
失踪したはずの織部と出会いはしたが、その織部も直ぐに異世界へと旅立ってしまう。
その後、ダンジョンを攻略して。
ラティアと出会い。
逆井達を助け出して。
リヴィルの問題を解決して、そうして今に至る。
まさかこんなことになるとは。
あの時は思いもしなかったが、でも。
「……これからもよろしくな、二人とも」
3人で、この場所にこれて、この景色を見られて、良かった。
花火が弾ける音に被さったかもしれないが、それでも良かった。
俺の決意というか、想いというか。
そういうものの再確認をするために呟いただけだったから。
それでも――
「――はい! ご主人様!!」
「――うん、マスター」
それぞれ二人ともが、俺の声を聞き取ってくれた。
そしてちゃんとそれに応えてくれたのだ。
…………逆にこれはこれで、ちょっと恥ずいな。
最後、残りの課題に勤しむ逆井さんがボソッと呟いた「新海誘って花火、見たかったな……」は誰にも聞き取られなかったとか何とか。
はい、これで一応1章は終わりです。
ここまでご覧くださり、本当にありがとうございました。
書き始めた当初はここまで沢山の方に読んでいただけるとは思ってもいませんでした。
今もループ物×サバイバル×奴隷物で何とか面白い設定の物を書けないかと、以前からずっと頭を悩ませているくらいです。
現代・ローファンタジー×ダンジョン物なんて自分が書くとは……何があるか分かりませんね。
そんな私がここまでこの作品を書き続けることができたのは、間違いなくご愛読・ご声援いただいた読者の皆さんのおかげです。
私も勿論努力はしましたが、それだけで何とかなるほどモチベーションが高かったわけでもありませんから。
1章終了段階では……593名もの方にご評価いただき。
そして5673件という数多くのブックマークをしていただいております。
沢山の方に読んでいただけて、ご声援をいただけて、感謝しかありません。
本当に、ありがとうございました!!
……何か打ち切りっぽくなってますが、1章が終わりってだけですからね?
“俺たちのダンジョン探索はまだまだこれからだ!!”ではないですからね!?
これからもご愛読・ご声援、よろしくお願いします!! 本当に!!
 




