273.うわぁぁ、何でぇぇぇ!?
お待たせしました。
更新時間が夜中になったり、昼になったりですいません。
ではどうぞ。
「うわっ、コイツ、ヌルっとしてやがるっ……」
「ニュィィィ!!」
シー・ドラゴンの子供は俺のリアクションを喜ぶように鳴く。
その度にヌメっとした体液が分泌されるようで、正直触っていて気持ちいいもんじゃない。
「マスター、ワっさんの時もそうだったよね……」
「魔物の子供だろ? 隊長さんのヘイトにあてられると純粋な好奇心が刺激されんじゃねえの?」
リヴィルやレイネは他人事のように見ている。
自分はコイツを触らないでいられるから吞気なんだろう。
クッ、お前ら、今の俺の手で触んぞ?
新海菌、移すぞ、ああん?
「フフッ、フフフ……」
そんな水面下での俺達のバトルを感じ取ってか。
湖から上がって、初めて赤星が笑顔を見せた。
ラティア達との合流に向かう間ムスッとしていただけに、ホッとする。
「――っ!」
が、視線が合うとプイと逸らされてしまうのだ。
……むぅぅ。
「ニュニュニュー!」
シー・ドラゴンはそんなことなど知らないというように、腕に絡みついてくる。
中二病を拗らせた奴の包帯みたいにこう、グルグルと。
元々はお前を連れてくるためにこうなったんだけどな……。
「――? ご主人、ハヤテお姉さん、どうかした?」
合流を果たしてしばらく歩いたところで、ルオが唐突に尋ねてきた。
いや、君、もうちょっとその、ねぇ……。
「えーっとだな……」
どう答えたものかと悩み、赤星の表情を盗み見る。
「…………」
そんな俺の気配を察してか、また慌てたように顔を逸らされてしまった。
……おうふ。
ラティアや皇さん達にも心配そうな表情をさせてしまう。
うぅぅ……。
「はぁぁ……えっとね、さっきこの“シー・ドラゴン”を探す時に――」
――あっ、おい! リヴィル何で言っちゃうの!?
しかも何かチクるみたいな言い方!!
……うわっ、皆悲しそうにこっち見んじゃん!!
「……ご主人様。ご主人様が体を張らざるを得ない場合もあるということは重々承知しております。それでも、そういうことは……」
ラティア……。
「そうですよ先輩っ! 現実でも“ここは俺に任せて先に行け!”なんて流行りませんって! そりゃ、花織先輩に怒られてる時とかは先輩に任せて先に行きますけども……」
桜田……。
……っていやいや!
志木に怒られる時に俺を生贄にする気じゃん!
俺の屍を乗り越えて強く生きる気満々じゃん!
はぁぁ……。
「で、ですが勿論! 陽翔様が皆様のために、とお思いになったのも、颯様は分かってらっしゃると思います!」
ただ単にこの場を湿っぽくなるだけにさせないようにと、皇さんがフォローを入れてくれる。
それに合わせるようにして、下二人が言葉を重ねて行った。
「お、お二人がぎくしゃくしているの、ロトワ、とても辛いです! 仲直り、して欲しいです!」
「うんうん! ――あっ、今日ロッカお姉さんが話してたんだけど、仲直りってハグするのが良いんだって!!」
んんん!?
ルオさん、君は何を言ってんの!?
……いや、この場合は逸見さんか!!
「あぁぁ……私も、この前椎名に聞いたことがあります! 六花さんが“椎名ちゃ~ん、ゴメンね~?”って抱き着いて来るって。で、ギュッと抱き合っていたら“怒っていたことも、なんだか馬鹿らしくなる”と!!」
皇さん、椎名さん視点からの補足どうもありがとう!!
でもそれは親友、それも女性同士の場合じゃないかな!?
「……ほらっ、マスター、さっさと仲直りしちゃってよ」
いきなりグィっと後ろから力が加わる。
リヴィルが背後に回っていたのだ。
「うわっ、ちょっ、っとと!?」
「え? ――ぁっわ!?」
押される形で赤星へと急接近。
ちょ、赤星も避けてくれよ!
何故迎え入れるように手を伸ばす!?
ぶつかったと思った瞬間、とても柔らかな感触が前後に広がる。
それと同時に、鼻一杯に女の子の良い匂いが……。
「……う、ううぅぅ」
「ほらっ、マスターが逃げないんだから、ハヤテも逃げない」
「う、うん……」
いや、リヴィルさん!?
君も後ろから赤星と一緒に俺を挟み込まなくていいから!!
ってかおまっ、自分の格好忘れてないだろうな!?
紐みたいな水着姿で、その、くっ、くっ付くな!!
「――新海君、その、ゴメンね。折角……新海君が、その、機転を利かせてくれただけなのに。一人で勝手に、怒ったりして」
「ああ、いや、俺も時間がなかったとはいえ、ちょっと配慮が足りなかったな、うん!」
よし、これでこの話は終わり!
さぁ解散!!
「…………!」
リヴィルゥゥゥ!?
離れて!?
だが何故か逆にリヴィルの背後からの拘束は強まってしまう。
間の俺を飛ばし、奥の赤星の腰まで腕を伸ばしてグッと掴み、押し付ける。
そのせいでリヴィルと赤星の前後のサンドイッチは圧力を増す。
ちょっ、リヴィルさん、これはハグとは言いませんぜ!?
柔らかいい匂い匂い柔らか柔らかががが……!
「ちょ、おい!? リヴィル! そろそろ隊長さんから離れても、その、いいんじゃねえか!?」
「…………ちょっとレイネが言っている意味、分かんない」
リヴィルさん!!
さっきのレイネとの密着は不可抗力だって!!
その証拠に殆ど覚えてないから!!
そ、その……背中に当たるフニュっとした柔らかな感触なんて――
「…………」
――ぎゃぁぁぁ!! 圧力更に強まったぁぁぁ!!
背中と胸に、強烈な柔らかさがががが!!
「その、うん。フフッ……新海君、これからも。改めてよろしくね?」
この体勢でいう言葉じゃないけどよろしくぅぅぅぅ!!
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「うぅぅ……陽翔様と颯様のためを、と思ってのことが返って敵に塩を送る形に……やっぱり颯様は伏兵です。上級伏兵です。伏兵の中の伏兵です」
「“上級伏兵”って何!? 私昇級しちゃったの!? いや、律氷ちゃん、その、違うんだ。私は別に……」
何とか気まずい雰囲気も解消し、ハグ擬きからも解放され。
ようやく1階層の最奥へと辿り着いた。
モンスターとの戦闘が大幅に回避できたのは幸いだったが……はあぁ。
「おい、だから違うって言ってんだろ!? あれは隊長さんを早く上に連れてくために仕方なく――」
「はいはい、レイネは良かったですね~ご主人様に水着姿で後ろから抱き着けて。……役得だと思ってるのは果たしてどちらでしょう?」
「だ、だからラティア、違うって!! そ、それを言うならさっきのリヴィルだって……」
騒々しい雰囲気が戻って来たことを背後に感じながら。
俺は下の層へと降りる階段を眺める。
腕にシー・ドラゴンを抱え、直行便のためのワープポイントを開こうとしていた。
「……やっぱりコイツがワっさんと同じく、鍵だったんだな」
「ニュィ?」
「ほれっ、行ってくれ」
シー・ドラゴンを地面に降ろし、階段へと向かわせる。
すると、階段は既視感ある光を放ちだした。
障壁が階段を囲い、出来た透明な足場にドラゴンは大きくはしゃぐ。
「よし……じゃあ行くか――戦闘は無いとは思うけど、準備は大丈夫か?」
全員に話しかけるようにしてそう確認する。
皆は意識を切り替え、自身の準備が整っているかどうか、最終点検を行う。
「先輩、こっちは大丈夫です!」
「ボクも! ロトワ、大丈夫? 何か手伝おっか?」
「いえ! ――お館様、ロトワもOKです!!」
次々と返事が返ってくる。
俺はそれを確認し、頷いた。
そして道を示すように、ワープへの最初の一歩を踏み出す。
「――ふぅぅ、無事、転移は出来たってことだよな?」
浮遊感が収まり、目を開ける。
目の前には先程とは全く違う光景が広がっていた。
「おぉ!? 良かった、先輩いましたよ……って滝です!! はぁぁ、マイナスイオン感半端ないですね……すぅ、はぁ……」
「んぁ? おぉ、本当だ。ここが最終階層か……」
桜田やレイネなど、物怖じしないタイプからドンドン俺の後に続いてきた。
「あれは……」
滝の水が落ちる先。
大きな大きな水溜まりがある。
その岩縁に、1人の女性が腰かけていた。
おそらく――
「――あ、あの! 貴方が、私を、呼んだんですか?」
到着した直後、皇さんが思わずと言った感じで叫ぶ。
女性が振り向いた。
水色をした長い髪が飛沫を上げて揺れる。
とても穏やかな顔をしていた。
が、特徴的なのはもっと別の、胸や下半身にあって。
……いや、別に男目線でエロいことを言っているわけではなく。
「――フフフ。ヨウコソ。私ガ管理スル庭へ」
「……凄く綺麗な声。人魚さん、だね」
ルオが言うように、聴く者全てをうっとりとさせる程の声を出した彼女は。
胸の周囲が鱗のようなもので覆われており。
そして下半身が魚の尻尾のようになっていた。
即ち、人魚だったのだ。
「ソノ子ヲ連レテ来タ、トイウコトハ。ツマリ、私ノ負ケ、トイウコトデスネ」
〈Congratulations!!――ダンジョンLv.33を攻略しました!!〉
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
人魚の敗北宣言と同時に、いつもの機械的な音声が響き渡った。
彼女は慈しむ様にシー・ドラゴンを、そして皇さんを見る。
「先ノ質問ニ、オ答エスルナラ。貴方ヲ呼ンダノハ、私、デハアリマセン」
〈Congratulations!!――特殊ミッション“ウンディーネの挑戦状 ①”を達成しました!! 特典として“ウンディーネの贈り物”を贈呈します〉
ダンジョン間戦争の攻防戦じゃなくても、特殊ミッション達成にはなるのか……。
空間が歪み、アルラウネのダンジョンの時と同様、いつの間にか箱が出現していた。
「フフフ。ウンディーネ様ニ、気ニ入ラレタノデショウ」
「気に入られた? 私、が?」
皇さんは実感が伴わず良く分からないといった風に返す。
そんな皇さんの理解などお構いなしに、箱は開き。
眩い水色の光を溢れ出させる。
皇さんがゆっくりと覗きだしたのをきっかけに、皆が箱の周囲に集まりだす。
「へぇぇ……やっぱり入ってる物は私の時とは違うんだ」
「えーっと……水色のアームカバーにソックス。ブーツと下の肌着。後は大きな宝石のついたロッドと指輪……これを律氷ちゃんが、着るんですか?」
「……私が言えた立場じゃないけど、傍目には防御力皆無みたいな装備だね……――ってあれ? トップスが無くない!?」
赤星や桜田が検分するように、下はギリギリ水着のような履き物がある。
が、どう見ても贈り物の中にはブラジャーやシャツ等に対応する上の衣類が無かった。
「いや、流石に上が裸はないと思うぞ? えっと……ルオ、そっちはどうだ?」
少し慌てたようにしてレイネとルオが検分隊に加わる。
「うーん……それらしい服とか肌着はないけど……ベルト、は違うよね」
ルオが手に取ったのは水色をした革製、に見えるベルト。
これは違うだろうと早々と見切りをつけ、箱の中に戻したが……うん。
――多分それちゃう?
何だか妙な確信が胸の中に広がり、悟ったような心境になったのだった。
この中で一番にそうだとあたりを付けられたのも、どこかの勇者のせいだと確信する。
「……あっ、もしかして、さ。そのベルト……こうやって使うんじゃない?」
赤星がベルトを手に取り、皇さんの胸囲をメジャーで測るようにしてぐるっと巻いた。
あぁぁ……。
やっぱり赤星も、織部の影響を受けてるから、気づいちゃった……。
「おぉぉ、本当です! 凄いです、颯先輩! 多分こうですよ!!」
「で、ですね!! 颯様、良くお気づきに!!」
「あ、あはは。何か良く分からないけど、着替えた皇さんの全体像を想像したら、多分こうかなって」
違う、違うんだよ赤星!
そこは褒められて照れるんじゃなくて!
いつの間にか思考が侵食されていることに気付いて唖然とするところなんだよ!!
俺の知っている赤星は、もういない。
クッ、正気なのは最早俺だけ……!
皇さんは何としても守らねば!!
〈Congratulations!!――“ウンディーネの挑戦状 ①”を特殊条件を達成してクリアしました!! ウンディーネの好感度が10上がりました!!〉
声が聞こえ、指輪に付いた黒い宝石が輝く。
全体の1/10程度に、水色の光が宿ったのだ。
やはり前回と別物とは考えない方がよさそうだ。
つまり、あの指輪は――
皇さんが指輪を拾い上げ、トテテと俺の下に駆けてくる。
それを差し出され、ゆっくりと受け取った。
俺はその上で、皇さんの肩に両手を置く。
「えっ!? あ、あの、陽翔様!?」
「――皇さん! 無理はしなくていいからね!」
気持ちを伝えようと、肩を握る手にも自然と力が入る。
第2の赤星を生まないためにも。
そして第3、第4の赤星を未然に防ぐためにも、皇さんで食い止めねば!!
「御嬢様で英才教育を受けてきた皇さんからしたら物珍しい様に見えるかもだけど! でも、“皇さん、変身だ”なんて――」
――“これっぽっちも良いこと無いんだよ”。
そう言おうとしたのに……。
それを言い切る前に、起きてしまった。
「えっ――」
目の前にいる皇さんの着ている衣服が弾け飛ぶ。
そして指輪が輝き、皇さんの体全体を映し出すようにしてその光を当て始めたのだ。
な、何でや!?
そんな「ふ“ざける”な!」みたいな文脈でアウトなの!?
「わっ、わわっ!?」
何が起きているか分からず驚き、困惑する皇さんを他所に。
体を包み込んだ光はやがて消え、あちらにあった贈り物へと姿を変える。
そして赤星の予想違わず。
その可愛らしい胸元を覆い隠しているのは、胸に巻かれたベルトで……。
「あ、あ、あわぁ……」
皇さんは感覚的にだけでも、どういう恥ずかしい事態が起きたのかを理解したらしく。
言葉にならないような声を出しながら、ドンドン顔を赤くしていく。
「…………わ、わぁぁー。り、律氷ちゃん、凄く大胆でセクシーな恰好ですねー」
桜田はさっきはあんなにはしゃいでいたのに。
実際にベルト有りの皇さんの格好を目にして、しばらく言葉を失ってしまっていた。
それのフォローのつもりか、とても棒読み感溢れる感想を口にしたのだ。
……トドメの一撃どうもありがとう、桜田。
「――きゃっ、キャァァァァァ!!」
皇さんの聞いたことも無いようなくらいの叫び声が上がる。
もっと隠すべき場所も沢山ありそうな格好をしているのに。
皇さんはいの一番にベルトで巻かれた胸元を両腕で抱くようにして隠したのだった。
“――ブレイブリツヒ、ただいま参上、です! 悪い子は私の魔法で、お・仕・置・き、しちゃいますよ?”
そんな幻想が脳内に流れた後。
あのいつものやつが現れ、また、俺の頭を占領し出した。
“――へ~んしん!! マジカルブレイブ、メタモルフォーゼ!!”
“キュアっとクールに悪と戦う、魔法少女、ブレイブカンナ!! 悪い子は、お仕置きだぞ、ズッキュン!!”
アカン……戦隊モノ構想が遂に現実を帯び始めた。
何とかしないと、何とかしないと、何とかしないと……!
そんな焦燥感だけが駆け巡り、しかし現実的な解決策など思いつかず。
直近ではとにかく、どう椎名さんにオトシマエを付けさせられるか。
その恐怖感だけが頭の中を占めていたのだった。
【(人によっては)朗報!】
【(皇さんにとっては)悲報!】
皇さん、赤星さんに続き変身少女になる!!
やはり微妙に侵食してきますね……出番はないはずなのに(白目)




