270.湖の中か……。
お待たせしました。
すいません、ちょっと仮眠するだけのつもりが爆睡してしまいました……。
ではどうぞ。
「隊長さん、チハヤ来たぞ!」
「あっ、先輩、どうも!」
ロトワが目を覚ますまで待つ間に、桜田が遅れてやってくる。
赤星達がリヴィルに電話で誘導してもらったように、桜田はレイネに外まで迎えに行ってもらった。
「おっす、お疲れさん……って元気だな」
まだまだ元気で足取りも軽い。
ついさっきまで、ダンジョンを一つ攻略していたとは思えないな……。
3班、18人でローテーションを組んでいたとはいえ、複数階層だっただろうに。
「ハハッ、チハはいつも元気だからね。私もそれで元気をもらってるよ」
「うわっ、颯先輩、何か酷くないですかそれ!? 私が何か体力バカ要員みたいな言い方に聞こえます! 普通そう言うのは運動部だった颯先輩の方なのに……!」
赤星とのやり取りでもその明るさが絶えない。
本当に元気な奴だな……。
「――ご主人様! ロトワが起きました!」
そうして雑談で軽く時間を潰していると、ラティアがロトワの目覚めを教えてくれた。
未来のロトワが去ってからまだそこまで時間は経ってない。
「良し……じゃあこれでメンバーは一応全員だな」
ロトワは調子の良し悪しを見てどうするか判断しよう。
「でも先輩……美桜ちゃんとか六花さんとか、そのあたりは良かったんですか?」
「まあ呼んでも良かったんだが、攻略した直後だろ? 桜田達と違ってまだあんまり慣れてないだろうしな」
桜田はあまりピンと来てないようだが、その疲労を感じさせないところが正に呼ぶ呼ばないの重要な判断要素になっているのだ。
「フフッ、チハ、また今度あったら呼んであげれば良いよ――さっ、律氷ちゃんも待ってる。行こっか」
赤星に促され、桜田もそれ以上は何も言わずに歩きだした。
……次、ねぇ。
もしこれが、以前の赤星の場合と同様、精霊絡みのダンジョンだとしたら。
これで終わりではなく、次もまたあるだろうな……。
前回は赤星で、今回は皇さん、次は……と。
そんな確信を抱きながらも、皇さんやルオたちが待つ先へと向かった。
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「“湖”……だよね……」
「未来のロトワが“水着”に拘った理由、やっぱりこれなんだろうね」
ダンジョン入り口より2分と歩かない内に、開けた場所に出る。
そこにいたルオとリヴィルが、目の前に広がる光景を見て話し合っていた。
澄んだ水が辺り一帯に広がっている、とても穏やかな場所。
一方で、高い外壁がこのエリアを区切るように囲んでいる。
どこかに別荘があっても不思議ではないくらい綺麗な所だった。
「ご主人! お疲れ様!!」
「おう、ルオもお疲れさん」
俺に気付いて駆けてきたルオへ、今日一日の頑張りを労う。
既に椎名さんから自身の姿へと戻っていたルオは笑顔で返し、直ぐに本題へと入った。
「ご主人、どうしよっか……多分湖を渡ったら近道だろうけど、モンスターがいるよ?」
ルオが指差す先、確かに砂浜の辺りに一際大きなカニっぽいのが見えた。
湖を渡ろうとしたら立ちふさがり、戦闘になるかもしれない。
「うーん……かといってグルっと回っても、モンスターがいない保証はないしね」
赤星の言う通り、湖を一直線に縦断するのではなく。
陸地となっているその外周を辿るようにして進んでも、見えていないだけでモンスターがいる可能性はあった。
「えと、陽翔様、颯様……こういうダンジョンは私、初めてでして……どういう攻略法が正攻法なのでしょうか?」
皇さんに尋ねられ、赤星と顔を合わせて同時に唸る。
正攻法って言うか……。
「えっと……以前に似たダンジョンがあったんだけど、それを攻略した時は抜け道みたいなものを使った、かな?」
「抜け道? えと、正攻法、ではなく?」
ロトワの体の調子を確かめるための良い時間、かな。
話しておくか……。
「そうそう……えっとね――」
あのアルラウネのダンジョンを攻略した時のことを、皇さんに簡潔に伝えることにした。
……勿論、織部へとDD――ダンジョンディスプレイを使って相談したことは伏せてだが。
織部の存在は色んな意味で皇さんの教育上よろしくない。
出来れば今回の件も“ブレイブ”なるものとは結びつけたくないくらいだ。
「なるほど……つまり、近道のための鍵がどこかにある、もしくはいるかもしれない、と?」
「ああ。ワイバーンの子供を見つけられなかったら、もしかしたら10階層丸々を一個一個進んでいかないといけなかったかもしれないんだ」
椎名さんも心配するだろうから、長々と時間をかけるわけにもいくまい。
その話を聞いて、皆して湖を見る。
そしてそこで、さっきルオやリヴィルが話していたことに戻るわけだ。
未来のロトワがあれだけ“水着”に拘っていたワケ。
何も未来のロトワ本人が皆の水着姿を見たかったなんて俗っぽい理由だけじゃなくて。
やはり、湖を見越してたんじゃないだろうか……。
「――今までの話を総合すると、やっぱり一番怪しいのは湖の中、ということになるかな」
手で庇を作るようにして、赤星は湖の中心付近に目をやる。
ここからでも分かる透明さにもかかわらず、その水面から底が見えることはない。
……水深が結構あるのかな。
「じゃあ水の中に潜るのと、あのモンスター達を相手にするのと。分けた方が良いですね」
「おっ、じゃあ潜る方はあたしが行くぜ?」
桜田の言葉に一早く反応したのはレイネだった。
また、そのレイネに呼応するようにして1体の精霊がフワフワと浮き漂う。
『プルプル。精霊、こき使わない? 実はブラックだったり、しない?』
ついこの前出会い、そして仲良くなったばかりの水の精霊だった。
お前、俺かよ……。
分かりみが深い疑心暗鬼な所はあるものの。
今回は精霊自身に頼るわけではないので、大丈夫だとレイネは請け負う。
「――あっ、その、レイネお姉ちゃんと違って、ボク、ちょっと水の中はダメ、かな……泳ぐの上手くなくて」
ルオから意外な申し出があり、皆がルオに注目する。
それで更に一層申し訳なさそうにモジモジと縮こまってしまう。
他の人――志木とかになってもダメなのかな……?
志木の奴なんて何でも出来そうだから、簡単に泳いでみせるように思えるが……。
「……フフッ」
っ!!
ラティアが意味有り気な目でこちらを見ていることで、初めて自分の思考のマズさに気付く。
いや、違うから!
別に志木本人にバレずに志木の水着姿を見たいとか、そんなんじゃないから!!
ってかラティアめ、今の俺の短い沈黙だけでよくそこまで考えたな!
くそっ、その上で揶揄って来て……。
「……その、ご主人? やっぱり“誰かになって”試してみた方が、いい?」
俺とラティアの無言の攻防を他所に、ルオが不安そうに尋ねてくる。
「いや無理しなくていいから! 俺も泳ぐ方に行くから、な? その分ルオは陸で頑張ってくれ」
「う、うん……」
俺も体育以外で泳ぐことなんてないから得意って訳じゃないが……やむを得まい。
その後テキパキとメンバーを振り分けて行き。
俺とリヴィル、レイネ、そして赤星の4人で、湖の中を探索することになったのだった。
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「――えっと、着替え終わったけど……赤星はやっぱりそれで行くのか?」
「その……これ、が水の中でも一番、動きやすいかなって、うん、はい」
お互い気恥ずかしさがあって、上手いことしゃべれているか自信が無い。
赤星もそれを自覚してか、あの“奥の手”の格好を、何とか隠せないかと頑張っている。
右腕で胸元を覆ったり、あるいは何気なさを装いつつも左手を股辺りに添えて……うん。
“左手は添えるだけ”をまさか球技以外の場面で目にすることになるとは。
「ハハッ、ハヤテも凄いけど、リヴィルとそう変わんないって! だからあんまし気にすんなよ?」
「……レイネうるさい。マスター、早く行こ?」
二人も俺がいない間に水着へと着替えていた。
……うわっ、リヴィル凄い恰好だな。
「わぁぁ……リヴィルちゃん、凄い大胆だね。生地が殆どない。こんな紐みたいなビキニ、どこで売ってたの?」
「ちょっ、ハヤテ。意識しないようにって頑張ってたんだからあんまり言わないで」
あまり表情を変えなかったものの、やはりあのリヴィルでも羞恥心を覚える程の格好だったらしい。
そりゃなぁ……流石にこれで公共のプールとかに行ったら、色んな意味で凄いことになるだろう。
「…………」
「ん? どうかしたか隊長さん? ――あっ、その、あたしの水着……どう、かな?」
そしてちゃっかり自分はちょっと大胆ながらも普通の範疇を超えない水着を身に着けている。
胸元がボタン式になっていて、上のボタンをあえて外して肌が見えるように出来る。
が、レイネはそのボタンを全てちゃんと閉じている辺り……。
「レイネは順調にヘタレ要素が付いてきてますね……」
ラティアが勝手に俺の意見を代弁してくれるが、あながち間違いでもないので訂正はしないでおく。
「んだよラティア、自分が水着を付けれないチームに入ったからって嫉妬か?」
「フフッ、面白い冗談ですね……ですが今はそう言うことにしておいてあげます」
やめて!
仲良くして!!
水着なら後で着れるじゃん!
ちゃんと評価もするから!!
「……フフッ、ご主人様、こちらはお任せください。お気を付けて」
……ハッ!?
今の含みのある流し目――クソッ、やられた!!
後で水着の品評会をするためのラティアの芝居だったか……!
「……あぁ! あのカニみたいなモンスター、しっかり倒しておいてくれよ? じゃあ行ってくる!!」
悔しいようなちょっとドキドキと期待するような、何とも言えない気持ちを抱えながらも。
俺はリヴィル達を連れ、湖へと向かったのだった。
後2話以内に、終わるはずです!
今回は織部さんが出る幕もないので、多分この予定通りに行くはず!!




