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268.そうか、ラティアだったか……。

お待たせしました。


ではどうぞ。



(はやて)様がかく乱して下さってます! 無理せず引いてください!!』


『はっ、はい!』



 二人で纏まっていた補助者に、皇さんが指示を飛ばす。

 20代後半の女性と、そして10代半ばくらいの少女は逆らわずにモンスターから距離を取る。


 

 大柄の蛇は一瞬追おうかどうか迷うも、目の前での赤星の素早い動きに気を取られて、直ぐに諦める。

 



『――椎名っ、知刃矢(ちはや)様っ! 今ですっ!!』


『はいっ!! ――ギュィィィン!!』


『ちょっ、椎名さん謎の効果音出さないでください! もう……やぁぁぁあ!!』 



 3班とは違い、赤星が主にかく乱の役目を担い。

 1班はルオを含めた3人の補助者を、攻撃要因として組み込んでいた。


 勿論ルオを除いてダメージは全く期待できないものの。

 将来を見越しての育成だという思惑が、しっかりと読み取れる配置だった。



「おおぉぉ……ルオちゃん、モップステッキでよくダメージ与えられるね!」


「チハヤのハンマーの方が明らかに物理力を備えてそうなのにね……」



 ロトワの盛り上がりに反して、リヴィルが苦い表情をしているのも分かる。


 実際の決定打はルオが担っているという理不尽さだからな。

 だが、ルオがいるからこそ、こうして3班とは違う方針を取れるわけでもあって……。



「ハヤテがいつもの隊長さんみたく、全部攻撃のヘイトを引き受けてるからな……こういう余裕がある時に初心者や若手を育てるってのはアリだろう」



 戦場での実践経験が一番豊富だろうレイネのお墨付きだ。


 この絵を描いた皇さんは未だ中学生ながらも、やはり凄い子で。

 そしてちゃんと志木と、その考えを共有しているんだと再認識した。



『――ふぅぅ……チハ、助かったよ。やっぱりチハみたいなアタッカーがいてくれたら随分と楽だな』


『あはっ! 颯先輩にそう言ってもらえると素直に嬉しいですね! よ~し、チハちゃん、どんどん頑張っちゃいますよ~!』



 適度に補助者に攻撃を当てさせ、頃合いを見て桜田やルオの強烈な一撃で倒させる。


 赤星自身は殆ど攻撃には参加しないので、上手いことその実力を隠すことに成功していた。



「これで、ハヤテ様にはまだ“奥の手”があるんですから、安定感・安心感がありますね」


「だな……」



 赤星が休憩時間に隙を見て連絡をとって来た理由の一つ。

 つまり、今ラティアが言ったように、何かあった場合の“変身”がある。


 いざという時、DD――ダンジョンディスプレイを通して、俺の口から赤星の“変身”を告げれば。

 ルオと合わせて、とても頼もしい戦力となるのだ。



「フフッ、でもハヤテちゃんはその分、エッチな変身シーンを動画に残しちゃうから、諸刃の剣だろうけどねぇ~! ねぇお館様、今言っちゃわない? ハヤテちゃんの“変身”!」



 ロトワさん、あんた楽しそうっすね……言わねえよ。

 何か、赤星にエロい目に遭って欲しそうな言い様だよな。



 まあでもロトワも。

 今回は冗談でもないと、赤星が変身するような危険に遭遇することはないと思ってるってことでもある。


 

 やっぱり赤星達の班は一番安心して見てられるな……。



「リツヒも……凄いね。指示も的確だし、何よりルオとの連携が上手いよ」


「だな……それが客観的に見て“椎名さんとの阿吽(あうん)の呼吸”だと思えること自体が、皇さんの思惑通りなんだろうぜ」



 それには“ルオ”の“アイドルとしての椎名さん”の再現度の高さも大きく貢献していた。


 誰も彼女を“椎名さんとは別人だ”とは思わないだろう。

 思ったとしても“椎名さんが演じているアイドルとしてのナツキ・シイナ”止まりだ。


 

 


 その後も、皇さんが上手く状況を見定めて、補助者に経験を積ませながらモンスターを倒して行った。


 そして2班への交代と合わせて、2階層目へと到達する。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 



『はぁぁぁ……嫌だなぁ、九条(くじょう)ちゃんにボディーガードされるの』


『えっ!? その、えっと、美桜(みお)ちゃん、私のこと、嫌い……だった?』



 2班に交代して、空木の代わりに皇さんがあちらのDDを持ってくれている。

 画面に飛んできたのは、その空木が面倒臭そうにダラーっとしている様子だった。



『ん? いや、嫌いとかそう言うことじゃなくて……だって、九条ちゃんにケガなんかあったら、ウチ、花織ちゃんにも九条ちゃんのファンにもボコられるでしょ?』



 空木の奴……。

 まあアイツは何だかんだ言いつつ、九条の身を心配してるだけなんだがな……。

 

 本当、根は優しい癖に捻くれてる奴だよ。



「…………」


「…………」


「…………」


「…………」



 こ~ら、君たち。

 何も言ってないのに、皆して俺を見るのは何でかな~?

 怒らないから、言ってごらん。

 

 そんな“人のこと言えないのにな~”的な視線をされても、俺心当たり無いんだけどな~。



 ……クッ、4人で結託しおって!



『そ、そんなことないよ! わ、私元々ドジでケガとか一杯するし! それに、ダンジョン攻略だって、自分の意思で参加してるんだから! ファンの人だからって、美桜ちゃんにそんなことはさせないよ!』


 

 おぉぉ……九条の芯の強さが垣間見えた瞬間だな。

 でもね、九条――

 


『あっ、花織ちゃんからは守ってくれないんだ……やっぱりウチ、花織ちゃんにボコられるから九条ちゃんはちょっと……――飛鳥(あすか)ちゃん、ゴメン、やっぱり補助者のペア変えて欲しい――』

 

『はわっ!? いや、違っ、そうじゃなくて! ちゃんと花織さんからも、その守るって言うか、あっ、いや、そもそも花織さんがそんな暴力的な人ってことが違ってて――あぅぅぅ……何を言ってもドツボに(はま)る』



 そんな二人のやり取りに、2班だけでなく参加メンバー全体に笑いが起きる。


 九条もそれで恥ずかし気に縮こまっているものの、緊張の抜けた表情になっていた。


 それを見て、空木は一人気付かれぬように小さく頷いている。


 …………。 

 


「ミオちゃんは地頭も良くて、周りを見られる良い子だよね……うん、お姉さん、やっぱりミオちゃん大好きだな!」



 ロトワも掛け値なしに、空木の気配りを評価していた。


 10歳のロトワが、一番最初に仲良くなった相手が空木だからな。

 そこから10年経っても、空木への親愛の情は変わらないのだろう。



 ロトワが良い子に育ってくれて、良かった良かった……。




「ん? どうしたのお館様――あっ、もしかしてお姉さんに見惚れてたのかな~? もう~お館様なら言ってくれればいつだってOKだよ! フフッ、カラオケボックスでイケないこと、始めちゃおっか?」


 

 良い子……に育った?

 うぅぅ……これ絶対ラティアから強い影響受けてるだろ。



「? どうかされましたかご主人様――あっ、もしかして1対1じゃなくて複数でをお望みでしたか? ご主人様がお望みでしたら皆いつだってOKでしょうに。ウフフッ……私達も激しい戦闘、始めますか?」



 なるほど、未来のロトワの生みの親はラティアだったか……。



「ある意味マスターとの共同作業の産物な気がしないでもないけどね……」



 こ~ら、リヴィル、そういうことをボソッと言わないの。

 ……ほらっ、ラティアが何か頬赤めて「ご主人様との、共同作業……」とか独り言ボソボソ言っちゃってんじゃん。


 

 そう言うとこだぞ、リヴィル!




「……いや今回のは絶対隊長さんだろ」


 

 ……ムッツリツンデレのレイネに言われた。

 ぐすん。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「おっ、良いねぇミオ。バシバシと撃ってるな!」


 

 レイネの言う様に、空木が右へ左へと移動しながらも、間断なく矢を放ち続けている。


 

『Siiiii!! Si,sii!!』


 

 大蛇はたった一人が放つ矢の雨に、堪らず動きを止める。

 そしてその犯人たる空木を睨みつけ、生えている脚をも使って一気に加速。


 空木へと蛇行しながら距離を縮めた。



『ぎゃぁ! こっち来る!! ――助けて、飛鳥ちゃん!!』 


『ちょっ!? そういう時のために補助者付けてんでしょうが! 美桜、こっち来ないでよ!?』


『うぇぇ!? 美桜ちゃん、何で真っ先に私じゃなくて飛鳥さんを頼るの!? やっぱり私のこと嫌いなのぉぉぉ!?』



 助けを求めた白瀬は攻撃の準備で忙しく断られ。


 九条は九条で、空木とペアではあるものの。

 攻撃的サポートの役割なために、襲い掛かる蛇の勢いを一人で止めるだけの力はなかった。



 そこに――



『――大丈夫よ、美桜ちゃん落ち着いて! ――私の方は良いから、美桜ちゃんの方に!!』


『は、はい逸見(いつみ)さん!!』



 全体を統括していた逸見さんの指示で、彼女についていた補助者が空木のフォローに回る。


 この女性は小盾に短剣とオーソドックスな装備で、動きも比較的軽かった。



「おぉぉ! かなり余裕を持って防御できたね! お姉さん感心感心!」


「ミオも半泣きで感謝してる……」


「ヒジリと二人で守れば余裕が出来るだろうな」

 


 これで空木をフォローする補助者が2人になり、空木は随分楽に矢を放つ準備が出来た。


 九条も何だかんだ、ヘルプの女性が殺しきれない勢いを、剣の腹で受けて殺している。



 3班は要するに。

 この逸見さんとペアの補助者の人を、かなり自由に動かすところに特色があるようだった。




 逸見さんが武器である鞭を使って攻撃なり防御なりに積極的に参加する際には、逸見さんの傍に控え。


 一方でこうして主に司令塔として動き回れる時は、状況を見て空木のフォローを2枚にする。



 そしてこの間に――



『――ダリャァァァァ!! 丸太にしてやるぅぅぅ!!』 



 何かの八つ当たりも交えながら大きな稼働音を響かせて、チェーンソーを構えた白瀬が飛び掛かって行った。


 がら空きの背後を捉えた、完全な不意打ち。

 刃が触れた先から嫌な切断音を鳴らし、白瀬の言う通り胴体を丸太の如く切り裂いたのだった。


 

 何だかんだ賑やかではあったものの。

 3班もそこまで労せずモンスターを倒していた。



『流石です! 六花さんも! 美桜様も素晴らしい活躍でした!』

    


 空木が戦闘中な今、あちらのDDを持ってくれている皇さんの興奮している様子が直に伝わってくる。


 その証拠に、画面の視点がブレるように動き――



『――フフッ、私はただ安全な所から指示を出していただけよ?』



 逸見さん、とりわけその豊かな胸部をドドンと抜き取るように映し――



『――んぁ? いや、ウチも大したことしてないから。はぁぁ、もうちょっとゆっくりとサボれないものかな……』

 


 次は、空木の顔、ではなく。

 成長著しいその柔らかそうな胸元へと視点が移り――




『こぉ~ら! 美桜、ちゃんとしなさいよ? 後で私が志木さんに言われるんだからね?』



 最後の締めとして、白瀬の心境を表すように立派に張られた胸をその縁の中に捉えたのだった。



『飛鳥様も御立派でした……最後の一撃は、嘘偽りなく最高の威力だったと思います』



 皇さんは興奮しているのか、熱を帯びたような溜め息を漏らしながら白瀬の体の一点を無自覚に映し続ける。



 ……偶然、なんだろうが――



 ――えっ、皇さん、白瀬の虚乳ディスってる!?



 誰もが認めるだろう素晴らしい巨乳の持ち主たる逸見さん、最近急成長を遂げている空木、そして白瀬の順で映しておいて。


 その上でそのセリフは何かもう、白瀬のパッドを弄ってる風にしか聞こえないんだけど!?




 そんなダークな皇さんの一面なんて幻想だと自分に言い聞かせながらも。

 

 彼女らが遂に、合同でのダンジョン攻略を成し遂げるのを見届けたのだった。



な、何とか“合同のダンジョン攻略自体”は4話以内で終わらせることが出来ましたね……。


ふぅぅ、一先ず落ち着きました。

ただ……勿論これだけならロトワが来た意味がありませんからね。


この後も同じ日が続きます!!


後、ツギミーはボコられるから、かおりんから早く逃げて!!(嘘……とも言い切れない!!)

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― 新着の感想 ―
[一言] > 「これで、ハヤテ様にはまだ“奥の手”があるんですから、安定感・安心感がありますね」  ブレイブ化! >  おぉぉ……九条の芯の強さが垣間見えた瞬間だな。  関係ないけど九条で芯とか言わ…
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