267.違っ、違うんです!!
すいませんでした、ちょっと書いてて終わる気配がなかったので、今日に持ち越しました。
ちょびちょびと空き時間を見つけて、出来ましたのでこの時間ですが更新です。
ではどうぞ。
『――じゃあ中間地点での休憩を終わります。皆、順調に進んでいますので、改めてよろしくお願いしますね』
DD――ダンジョンディスプレイの向こうでは、白瀬が全体にそう声をかけていた。
残りの17人がそれぞれ返事をし、テキパキと準備していく。
「あの中だと、アスカが代表って感じなんだね」
「ああ。赤星は影のリーダーだろうからな」
Raysよりもダンジョン攻略に関して実績があり。
で、なおかつその中でリーダーシップを取れるって条件だから白瀬が手を上げたんだろう。
志木がいない分、赤星が目立たないようにという配慮もあるんだと思う。
それと――
『――おっし、立石っち! ここから俺達の出番だぜ! 逆井に後でカッコいい所見せるためにも、爆裂かましてやろうや!』
『ははっ、逆井だけかよ……――あぁ。俺も柑奈のために全力を尽くすさ! 木田、遅れるなよ? ――冬夜さん、指示お願いしますね?』
『……ええっと、うん。二人とも、あまり無理・無茶はし過ぎないようにね? 今日は要君もいないから、ちょっと心配だな……』
俺もです……藤さん。
今回、Raysとして参加している中に梓川要――つまり梓はいない。
ルオや奥の手を持つ赤星もいる分、相対的に安全ではあるものの……。
「……うーん、この男の子二人は、“もう少し頑張ろう!”だね!」
未来のロトワからもこの評である。
藤さんがうまいこと手綱を握ってくれればいいんだが。
この探索士9人、補助者9人の合同メンバーは3つの班に分かれてローテーションを組んでいる。
そう、赤星達が俺達と一緒に攻略をした時のことを、上手くフィードバックしているのだ。
「まあルオ――シイナ様もいらっしゃるので、よっぽどのことでもないと私達の出番はないでしょうが」
「だろうな……」
ラティアとレイネがリラックスしきるのも分かる。
ルオや赤星がいるだけで、十分に安全性は担保されているのだから。
赤星、皇さん、桜田の3人とルオを含めた補助者3人の1班。
白瀬、逸見さん、空木が2班で、そこに九条を始めとした補助者3人が加わり2班となる。
3班はRays――立石、木田、藤さんの3人と補助者3人の計6人だ。
そして休憩前までは、連絡をくれた赤星達や白瀬達が頑張っていたという。
つまりこれからはRaysの班の番なのだ。
そこに関しては、正直未知数と言えた。
さて、どうなることやら……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『――そこっ! 君は立石君の傍から離れないで!』
『は、はい!!』
モンスターと接敵して間もなく。
普段の温厚な様子とは打って変わった、藤さんの大声での指示がビシバシと飛ぶ。
『木田君! 補助者が上手く時間を稼いでくれている! 攻め時を誤らないで!!』
『うっ、ウッス!!』
良い所を見せようとしたのか、飛び出しかけた木田を制し。
補助者の男性との共同を徹底して告げる。
大柄の蛇型モンスター1体を相手に、慎重に慎重を期させていた。
『Siiii! Si,Sii!!』
蛇は中途半端に成長したオタマジャクシのように、その胴体に2本の脚がくっ付いている。
胴体を地に這わせて移動しながらも、その足で補助者たちを鬱陶しそうに牽制していた。
『良し――立石君っ! 今だっ!』
『はいっ!! ――行くぞっ! うぉぉぉお!!』
自分に付き従っている補助者に合図し、立石は駆けだす。
補助者はがむしゃらに持っている大きな盾を構え、慌てて立石の前を走った。
「……上手く補助者との連携を徹底させてるね。レイネならもっと上手に指示出ししそうだけど」
「まあな。ただああしてダメージを与えられない奴も有効に動かすことが出来るのは大事だ」
リヴィルとレイネの会話を聞きながらも、画面を見つめる。
椎名さんや九条など、武器を持ってサポートに回る補助者もいれば。
こうして最初から大盾で防御に特化して、探索士の補助をする者も見られた。
モンスターからの攻撃を絶対に探索士に当てさせず、かつ動き回ってモンスターの気を散らす。
「運動量は凄いだろうな……」
「うーんまあそうだね……あれなら、あの男子たちでも攻撃をあてるくらいは出来るね!」
「……ロトワ、何かRaysの男性陣相手にピリ辛じゃない?」
ただ未来のロトワ自身は顔には出さずに、ニコニコしてこの状況を楽しんでいるが。
「ん? むふふっ、お姉さん何のことだかよく分からないな~」
……あからさまにはぐらかしやがる。
心当たりがあるんだろうな。
「――そんなことよりぃ~お館様、気付かれちゃうからあんまり大きな声出したらダメなんでしょ?」
それは今あちらでDDを持って画面を映してくれている、空木に迷惑をかけないために、という意味でだ。
あちらでは動画の撮影のために、後ろで休む班がそうした機器を持つことになっている。
それに紛れ込ませてDDを持ってくれているというわけだ。
だがロトワがそんなことを言うと、このカラオケボックスという場所と相まって別の意味を含んでいるように聞こえてしまう。
DDの収音する部分に、俺達の声や音が拾われないよう少し離したり、あるいはタオルを被せたりと工夫はしているが……。
「フフッ……あぁ、少し暑いなぁ。あぁ汗かいちゃうから、仕方ないなぁ、ちょっと服脱いじゃおっかな~」
「……クーラーガンガンに効いてんだけど?」
ロトワはしかし、不敵に笑って俺のツッコミをスルー。
服を脱ぎ、下に着ていた水着姿を露わにさせた。
「こ~んなことしても、お館様は声を出せない状況……フフッ、えぃ!」
目が眩しくなる程魅力的な肢体を惜しげもなく、くっつけて来た。
露出された肌が完全に密着する。
その少しばかり体に増した重みも、ロトワの成長した大人な女性の姿を感じさせた。
そんなとても大胆な行動に、俺は――
「…………」
――DDの通信を一旦切る。
それは勿論、これからカラオケボックス内にて、人目を憚るようなことをするため……ではなく。
「ていっ!!」
「あイタっ!?」
くっ付いていたロトワにチョップを入れ。
そうして脱いだままにされていたロトワの服を拾い、突き出す。
「声出しまくるわ! その恰好は流石にダメ! バッテンです!! クーラーガンガンなんだぞ、風邪ひくわ!」
俺の言葉を受け、ロトワは一瞬だけ呆けたようになり、口元を綻ばせそうにする。
「お館様、ロトワのこと、心配してくれて……――っっ!!」
が、直ぐに慌てたようにして不満気な顔を作り、唇を尖らせた。
「ぶ、ぶー! お館様や皆でくんずほぐれつになるから、肌と肌で温め合う予定だったのにぃ~!」
何言ってんだコイツは……。
冗談とも本気ともとれないロトワの態度に呆れながら溜め息を吐く。
「はぁぁ……水着持ってこいって、こういうことだったのか?」
「ん? ああそれは違くて。水着の出番はもう少し後かな? これは……えへへ、お姉さんのちょっとしたお茶目、ってことで」
何じゃそりゃ……。
だがそのロトワの瞳は少し遠くを見つめているようで、嘘をついているとかはぐらかしているという風には見えなかった。
……やっぱり何かはあるんだろうな。
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「所々で暴走しそうになるのが二人いたけど、概ね戦闘は機能してたね」
「凄いなーリヴィルは。さっきの今でそんなに冷静にダンジョン攻略を観察できるのかー」
さっきのロトワを止めようとしなかった皮肉で言ってみたものの、リヴィルはどこ吹く風。
再度通信を繋げたDDの画面を淡々と見守っていた。
その様子を見て、こっちが折れるしかないと悟る。
「はぁぁ……まあ一つの戦闘に随分と時間はかかってたがな」
あれは織部に遭ってダンジョン攻略を始める初期の俺レベルだ。
要するに殆どダメージが通らず、一つの戦闘で物凄い時間がかかる奴。
もしかしたらパワーレベリングに付き合わせた空木の方がまだダメージ通るかも。
「それでもちゃんと“戦闘”になってたのは、司令塔の貢献度が大きいと思うよ?」
確かに……。
藤さん自身は他の補助者と同じく、攻撃力自体は持っていなかった。
それでも、後ろから状況を的確に見て判断し。
時には自分もおとりの一員として前に出て、時には指示に専従して3班を勝利へと導いていた。
補助者も単なるお荷物ではなく、ちゃんと班の歴とした戦力として活用していたし。
普通に立石や木田よりも目立ってたんじゃないかな、うん。
『へへっ、どうよ! 知刃矢ちゃん! 俺って最高だったっしょ? 逆井の奴も、今日来られれば俺の勇姿を見ることが出来たのにな~』
『え? あーえーっと……ですね!』
おい桜田……適当にスルーしてやるなよ。
木田と桜田で、苗字の形も似た者同士じゃないか、もっと仲良くしてやっても……まあ無理か。
桜田自身、ギャルっぽい要素があるくせに、何かチャラチャラした男って苦手っぽいんだよな。
多分桜田みたいなやつは、地味でも家庭的で、ちゃんとする時はちゃんとするしっかり者の方が好みなんだろう。
『――お疲れ、立石君。次、私達の1班が代わるよ』
『ああ、ありがとう……。赤星、俺の頑張り、この動画で柑奈に届くかな?』
いや立石、それを赤星に聞いてどうすんだ!?
うわっ、マジで赤星に織部のこと話してんの!?
コイツ実は龍爪寺よりも凄いメンタルしてんじゃねえの!?
『え? ――それは、うん、きっと』
気遣ってしんみりとした雰囲気のところすまん、赤星。
……全く届く気配無いです、はい。
織部は動画が公開されても、普通に異世界でハッチャケてると思うぞ。
赤星にも、織部のことを伝えてやりたい……!
『ふぅぅ……あっ――お疲れ様。次は律氷ちゃん達の番だね。頑張って……って言わなくても、僕より皆強いもんね、大丈夫か。ははっ』
『いえ、お気遣いありがとうございます、藤様……』
藤さんと皇さんが、擦れ違う際に挨拶を交わしていた。
二人とも気さくに言葉を掛け合い、年の差を感じさせない。
が、それ以上の会話がなされるでもなく、通り過ぎる――と思ったら。
藤さんが立ち止まる。
『あっ、あの……夏生さん? ええっと……君も、その、気を付けてね?』
一瞬“はて、夏生さんとは何方?”と疑問符が浮かんだが、直ぐにその謎は解ける。
皇さんの後に付き従うようにしていた椎名さん――ルオに、藤さんはそう声をかけたのだ。
そう言えば椎名さんって“夏生”って苗字だったか……。
「むむっ! 今のはビビッと来たよ! ねっ、ラティアちゃん!?」
ロトワが指でアンテナを模し、何かを捉えたような仕草を見せる。
ラティアもそれに頷き、笑みを浮かべて藤さんを見ていた。
「ですね。うーん……これは、匂いますね。淡い桃色の匂いがプンプンします」
君らは声を抑えて何を言ってんのか。
確かに、皇さん相手に話しかけた時とは、若干様子が違ったと言えば違ったけどさ……。
「つまり……この男が、シイナを好きってことか?」
「まあ……そうなんじゃない? 今はルオなんだけどね……」
レイネの確認に、リヴィルも頷き返していた。
……それが確かだとしても、そうなんだよなー。
――今の“椎名さん”は、“ルオ”なんだよなー。
『はぴっ? ――心配してくれるんだ~! シイナ、嬉シイナ! ビビビビー! でも大丈夫! 何と言っても、シイナは御嬢様をお守りする、メイドアイドルなんですもの! お掃除お掃除、きゃぴきゃぴー☆』
全然キャピキャピしてねぇよ……。
ああいや、椎名さん違うんです、今のはつい言葉の綾と言うか!
椎名さんの年齢に焦点を当ててのツッコミではないって感じで!
この場にいないはずの本物に対して、脳内謝罪を繰り返していると。
画面内の藤さんは苦笑しながらどう反応していいか分からないような感じになっていた。
『あ、あはは……そ、そうかい、じゃあ、うん、頑張ってね!』
あぁぁぁ、違うんです藤さん!
これ、椎名さんだけど椎名さんじゃなくて!!
本物は勿論、クールで毒舌で俺検定1級のエスパーだけども、ちゃんと仕事は出来る人なんです!
こんな年齢というアイドルにとって足枷以上の何物でもない要素から目を背けるために、あえてイタいキャラを演じているような人じゃないんですよ!!
勿論、そんな俺の心の声が届くわけもなく。
「うう~ん、凄いね、お館様が直接には関わってないのに。ここまでカオスな状況って作れるんだね!」
未来を知るロトワのお墨付きが得られるなんて、相当ごちゃごちゃした感じなんだろう。
椎名さんに今すぐ謝りたい、でも会いたくもないというとても複雑な心境を抱えつつ。
赤星達1班のローテーションを見守るのだった。
色々と遠い目をしたくなるような回でしたね……。
――うん、皆さん、忘れましょう!(白目)
くっ、感想の返しが終わらない!
ちょくちょくまたやっていきますので、長い目でお待ちください!!
すいません!




