265.ちょっ、離れて!?
お待たせしました。
ちょっと寝不足・軽めの疲労を感じたので、大事を取ってお休みさせていただきました。
ではどうぞ。
「じゃあ、行ってくるね!」
ルオが靴を履いて元気に立ち上がる。
今日は“シーク・ラヴ”と“Rays”が補助者を連れてダンジョンに挑む日だ。
ルオも椎名さんとしてそれに参加するため、今日は一段と気合いが入っていた。
「おう、気を付けてな――リヴィル、途中まで頼む」
「ん。まあ大丈夫だと思うけど、任せて」
リヴィルは今日の送り迎え役を買って出てくれていた。
まだ日が出てない程に早い時刻。
欠伸を噛み殺しながら、二人を送り出した。
「ぅぅ……ふわぁぁぁ……」
頑張って早起きしたロトワだったが、休日とは言え、いつもならまだ寝ている時間だろう。
ルオとリヴィルがいなくなってから、うつらうつらと舟をこぎ出した。
「ほらっ、また起こしてあげますから、リビングでもう一度寝たらどうですか?」
「ロトワ、まだ、大丈夫、です……寝て、ません……寝て、ませんですよ」
そう言いながらも、ラティアに支えられながらじゃないと立っていられない。
「……仕方ないな、ソファーまで運ぶか」
「ですね」
ラティアと二人で、リビングまで連れて行く。
ゆっくりとソファーへと降ろし、ブランケットを持ってきてかけてやった。
「にゅぅぅ……すぅ……すぅ……」
直ぐに穏やかな寝息を立て始める。
やっぱり朝早くで眠かったんだろう。
「ふぅぅ……――さてと、これからどうする? 俺達ももう一眠りするか?」
「それは……フフッ、とても素敵なお誘いですね。ですがそれだと……ロトワが起きてしまうかもしれませんね?」
ラティアは薄っすらと頬を染めて、照れた様子を見せながらも。
スーッと目を細め、ロトワと俺を交互に見てくる。
……いや、“一眠り”ってそのままの意味だから。
激しい運動を伴う、後ろに“意味深”とかついたりしない奴だから。
「――ちょ、おい! ラティア、隊長さんと自分だけ何楽しそうにしてんだ! 朝飯の準備、手伝ってくれ」
キッチンで朝食の支度をしていたレイネが、声を潜めながらもやって来た。
それで動じることもなく、ラティアはより一層笑みを深めて迎え撃つ。
「? いえ、“朝はお楽しみでしたね”はこれからなんですが……」
ラティア、朝から元気だな……。
こっちは眠くてツッコミ入れるのも諦めてるのに。
「っっ!! ばっ、バカッ、え、エロい想像なんてしてないで、さっさと手伝え!」
「フフッ……何を意味してるか分かるんですから、レイネもムッツリさんだと思うんですが……」
「なっ――あっ、あたしはエロくねぇ!! て、天使なんだからな! ラティアみたいな淫魔が規律を乱し過ぎないために、か、監視してんだよ!!」
監視“意味深”ですね、分かります……。
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「ふぅぅ……ご馳走様」
「おうっ!」
「お粗末様でした」
二人が準備してくれた朝食を食べ終え。
腹も満たされたことにより、本格的に眠くなってきた。
ようやく日が出始めたくらいの時間だ。
流石にこれから再びベッドに戻ることはしないが……。
「まあ今日はゆっくりするか……っと!?」
背もたれに体重を預けようとした時、丁度スマホの音が鳴った。
この朝早く、しかもこの気が重くなるようなメロディー。
これは……うぅぅ。
「……シイナ様ですか?」
「どうしたんだろうな……ってか、隊長さん、出なくていいの?」
食器を片付けていた二人が手を止め、こちらを見てくる。
……というか二人も分かるんだね、この着信音で相手が誰か。
「いや、うん……出るよ」
バイト先か、あるいは勤め先から電話が掛かって来た時位に指が重い。
社会人になると、こういう気分を毎日味わうのか、嫌だなぁ。
誰か俺のこと養ってくれないかな、マジで。
そんなバカみたいな思考で現実逃避しながらも、通話ボタンを押す。
聞こえてきた声は、予想に違わず淡々としたものだった。
『おはようございます、新海様、椎名です。朝早くに申し訳ありません』
「いえ、どうも、おはようございます。どうかしましたか?」
ラティア達も気になるようで、手を動かしながらもこちらを見てくる。
俺もちょっと心配して尋ねてみたが、特に椎名さんの声音が変わることはなく。
『問題があったわけじゃありません。ルオ様と合流いたしましたので、ご報告をと思いまして』
「ああ、なるほど、それはご丁寧にありがとうございます」
そうか、着いたのか。
椎名さんも律儀に電話を入れてくれるとは、本当に真面目な人だ。
『――ご主人っ、着いたよ~! ボク、頑張るね!』
通話口からルオの元気な声も届いてくる。
それが漏れ聞こえ、ラティアとレイネも用件を察し、安堵していた。
「おう、まああんま気合い入れすぎず、肩の力を抜いて、な?」
『うん! 分かった! 精一杯やるね!』
いや本当に分かってんのかい……。
あんまり頑張り過ぎるなって伝えたのに。
ルオが頑張りまくるってことは、メイドアイドルのナツキ・シイナさんがハッスルするってことなんだが……。
『――ニイミサマ? イマナニカ、カンガエマシタカ?』
「ヒィっ、椎名さん!? いえ何でもないです!!」
怖っ!?
ちょっ、何でいきなり片言なの!?
この人、俺の思考読み過ぎじゃね!?
俺検定1級かよ……。
「むむっ……」
いやラティアさん?
貴方も会話聞こえてんですか?
何ちょっと手強い相手現る的に眉を寄せてんの?
対抗心燃やさんでも、この人は俺のことそもそもあんまり良く思ってないから。
『……とにかく。ルオ様ですから、危険はないかと思いますが、私の方でも出来る限り安全の配慮は致しますので』
「あ、ルオのこと、気にしてもらってどうもありがとうございます」
まあ椎名さんも言うように、ルオ自身がメンバーの中で一番強いわけだから、そうそう危ないことにはならないと思うけど。
『……新海様は、本日どうされます? 私は一応陰ながらではありますが、現場付近には控えて居ようかと思ってます』
へえぇ。
まあ皇さんもメンバーに入っている分、心配なのかな。
……でもそれを言われると、こうしてルオが帰ってくるまでぐうたらするのが悪いように感じてきた。
でも、多分俺より普通にルオの方が強いんすよ?
「……俺も行った方がいいんすか?」
物凄く嫌そうに切り出すと、椎名さんは向こう側で可笑しそうにクスクスと声を出す。
『フフッ、いえ、誤解を与えたのでしたら申し訳ありません。なんだか催促するようになってましたね。私はルオ様と現場でバッタリ、というわけにはいかないので、いらっしゃるのでしたら随行はできかねます、とお伝えしようかと』
ああなる程、そりゃそうだ。
ん~どうしようかな。
俺が迷っているのを感じ取ってか、椎名さんが助け船を出すように提案をしてくれる。
『いらっしゃるのでしたら、事前にお伝えくだされば“依頼”という形で報酬をお支払いできますよ? 花織様からは、資源採集やダンジョン攻略だけじゃなくて護衛任務も依頼経験が欲しいと聞いております』
「あ~何となく、それっぽいことは俺も聞いてますね」
志木や皇さんの構想では、将来にギルド的な組織を作り、ダンジョン攻略を助けるものにする予定らしい。
護衛ってのは、まあ要するに企業とか個人でダンジョン内のデータを取りたいって人も出てくるから、そういうのを想定してるんだろう。
「実際に俺達が行って攻略しろってことじゃないんですよね?」
『はい。基本的にはボーっとして貰っていて大丈夫です。いざ、何か想定外のことが起こった時にだけお力をお貸し頂ければそれで』
それを聞いてちょっと安心。
椎名さんには、少し考えさせて欲しいと言って一度通話を終えた。
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「へぇぇ……今回は結構大がかりなんだな」
椎名さんから補足情報として送られてきたメール。
それを見て、今回のダンジョン攻略に参加する人数がかなりな規模になっていると驚く。
色々と事前情報は錯綜していたが、“シーク・ラヴ”からは赤星や皇さん、桜田に空木もいる。
それに逸見さんと白瀬を含めて6人だ。
“Rays”は梓と龍爪寺を抜いた3人、つまり立石、木田、そして先日電車で見かけた藤さん。
そしてこの9人の探索士に、同数の補助者が参加する。
つまり18人と大人数での行軍となるのだ。
「……で、どうだ? 二人的には?」
「あたしは別に行っても良いけど?」
「私も大丈夫です。ただ行くのであればリヴィルは途中で拾うことになるかと」
二人に意見を聞いても反対は返ってこない。
ルオの実力は二人とも知っているから、心配で堪らないというよりは稼げる時に稼いでおこうということか。
「あっ、でもロトワどうしようか……」
「そろそろ良い時間ですし、起きると思いますけど……」
そう言ってリビングの方を見ると、レイネが気を利かせてソファーへと向かってくれる。
「おーい、ロトワァ、そろそろ一回起きたらどうだ?」
膝をつき、優しく揺さぶりながら声をかける。
「うにゅぅぅ……レイネちゃん? おはよう、ございますです……」
眠たそうな声と共に、ロトワは体を起こした。
可愛らしい欠伸をして、ごしごしと手で目を擦っている。
眠いなら無理に連れて行くのもな……。
「これから出かけようかって話してたんだが、どうする? ロトワはお留守番するか?」
最悪リヴィルに留守番を頼めばいいかな。
朝早くルオを送ってもらったし、帰りは俺が代わりに引き受ければ――
「――っ!! お待ちをッ!!」
ロトワがいきなり立ち上がる。
目もパチッとさせ、勢いよく駆けてきた。
「ロトワも! ロトワも参ります故っ、置いて行かないでください!!」
必死な形相で俺の腰にしがみ付く。
いや、大袈裟!?
「いや、うん、そう言うんなら普通についてくれば――」
だがロトワは一人だけお出かけできないものと思い込んでしまっているらしい。
顔を俺の下腹部に埋め、嫌だ嫌だと首を振る。
ちょっ、どこに顔を擦り付けてんの!?
「ロトワ、何と羨ましい……。私も今度からはもう少し大胆に……」
ほらっ、ラティアが変な風に受け取って学習しちゃってんじゃんか!!
「うわっ……隊長さんのあそこに、あんなに顔押し付けて……」
レイネも!!
顔を背けているようで実はじっくりと見ないの!!
二人ともそんなことしている暇があったら……え?
「な、何だ――」
――瞬間、ロトワの体が輝き始めた。
「うぉっ!?」
「これ、は……」
「あっ……来るな――」
ただ二人は心当たりがあるような反応で、俺程には驚いていない。
ということは、これは、もしかして――
徐々にロトワを纏う光の輪郭が大きくなっていく。
そして光が収まると、そこにいたのは10歳のロトワではなくて……。
「――嫌だ嫌だ~! ロトワもお館様とお出かけする~! お館様がうんって言ってくれるまで、離さないんだから!!」
10年後――20歳のロトワは、パッツパツの衣服だった。
それこそ、ルオがシルレなどを演じる際、体のサイズが合わずに着ていた衣類がはち切れるように。
ロトワは小学生の女児が着るような衣服を、無理やり着たようにピチピチだったのだ。
そして腰に回した腕の力も20歳のそれになり、ギュッと引きつけられ、より密着度が増す。
それらのせいで、零れ落ちそうな柔らかい果実が直にムニュっと押し付けられてしまった。
ちょっ!?
何を引き金に未来の自分を呼んでんだよ!?
ってかくっ付きすぎだ、離れろ!!
その後、何とかレイネの力を借りてようやくロトワの引き剥がしに成功したのだった。
これからが忙しいかもしれないってのに。
はぁぁぁ……。
(未来の)ロトワのせいで、ラティアはまたエロさに磨きをかけちゃうし。
レイネはムッツリ度が上昇しちゃうしで、もう大変ですな……。
そして主人公は、パッツンパッツンな恰好の大人ボディーなロトワに、腰に抱きつかれている、と。
……うん、一回爆発しないかな(怒)




