26.あれ!? 重要局面を切り抜けたはずなのに、今度は別の危険が!?
今まで緊張だったりちょっと重い話が続いたので。
こういう軽い、日常的なお話もありかなと。
是非楽しんでいただければ!!
後……
――このお話で、ラティアに恐怖を感じた方がいれば、是非お報せください。
「――えっと……リヴィル、そろそろ一旦離れてみようか」
「……いやだけど」
「えっ――」
既に泣き止みはしたが、リヴィルは未だ俺の腰に手を回してしがみついていた。
もうええやろとやんわり離れるよう促してみたが、結果はこの通り。
「マスターは、この体勢……嫌?」
不安を覗かせるようにして上目遣いでそう尋ねられる。
今までは表情筋が殆ど休眠状態だったくせに、なぜこんな場面で活発化するのか。
「えーっと……嫌、というわけじゃないんだが……」
「じゃあ……何?」
“何”と聞かれると……ちょっと回答に困る。
「その、ご主人様、私もできればもう少しゆっくりしたいのですが……」
「あ~……うん」
ラティアの言いたいことは分かる。
って言うか、それは多分、ラティアなりの援護射撃なのだろう。
あまり他者に甘え慣れていないリヴィルに、少しでも他の人のぬくもりみたいなのを与えてあげて欲しい。
――うん、その気持ちはよくわかる。
俺もその気持ちは最大限汲んであげたい。
でもね――
「ラティア、言いにくいんだが……」
その前置きを聞いて、ラティアの表情が曇る。
俺が否定的な言葉を告げようとしている、そう感じ取ったからだろう。
だが、それは早とちりで、俺が言いたいことは違うんだ。
じゃあそれが何かって?
――では皆、想像してくれ。
俺は、あの“呪い”との戦闘の終盤、何をしてたでしょ~か!
①ダガーを腰から取り出した。
②それで一枚しか着ていないシャツを切り裂いた。
③更に流れるように下のスポーツパンツも切り刻んだ。
④そして効果の切れたサングラスを未だかけている。
さて、正解は……。
――デデンッ!!
――“パンイチ”の裸体男が怪しいグラサンかけてる!!
つまり①~④が変態――間違えた。
全部が正解でした!!
そして更にボーナスチャンス!!
もっと想像力を働かせてくれ!!
未だダガー片手のほぼ全裸、変態男。
そいつにしがみついている女の子は、この世のものとは思えない程の絶世の美少女だ。
そして現場は人目がつかないようなダンジョンの中。
仮にお巡りさんがたまたまここに通りかかったとします。
――さて、客観的に見て、俺は一体どうなるでしょ~うか?
「――スマン、着替えの服、とってくれ」
「あっ――」
ラティアはようやく状況に気づいたというように、小さく驚きの声を上げた。
うん。
――正解は、お巡りさんとの眠れない夜を過ごすことになる、でした!!
いや、あの戦闘ではしょうがなかったとはいえ、この恰好では流石にダンジョンの外出られないからね。
「す、すみませんでした!! ――リヴィル、一旦離れましょう!!」
慌ててラティアがリヴィルに促し、渋々リヴィルもそれに従ってくれた。
ってかリヴィル、自分がどれだけ女性として魅力的なのか、理解してないんだろうな。
ラティアが察してくれたからよかったものの。
このままの時間が続くようなら、俺のバーサーカーがバーサーカーして、ラティアのいる前で“やっちゃえ、バーサ○カー!!”になってるところだったぞ。
……うん、意味わからんな。
それくらいドキドキしてたってことだ。
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その後、小さなリュックサックに詰めて持ってきていた着替えを纏い――
「――へぇぇぇ。凄いね……」
「ですよね!? 私も初めて来た時にはビックリしました、“スーパー”!!」
ダンジョンを後にして、帰り道にあるスーパーに寄っている。
リヴィルは自動ドアにも驚いていたが、店に入って目に飛び込んで来る光景に、暫く言葉が出なかった。
大型ショッピングセンターとかではなく、地元に何店か出している地域密着のスーパー。
それでもリヴィルには初めての、新鮮な光景らしい。
若干声に高揚感みたいなワクワクしたものが含まれているのが分かる。
「初めてで驚くのは分かるが、はぐれるなよ?」
一応そう告げておくと、リヴィルはしばらく視線を巡らせるだけで、直ぐに俺たちについてきた。
「ん。大丈夫」
「…………後、俺がやった帽子も、しっかり被っとけ。ラティアも」
「あっ、はい……」
俺はそう言って、リヴィルの頭を撫でるようにして、被っている帽子を前にずらす。
ラティアは自分で理解して、俺がやったことに倣うようにして帽子を目深に被り直した。
……偶にだが、チラチラとこっちを見ている客がいる。
夜だし、もうピークの時間は過ぎてるが、流石にこの二人は目立つからな。
「…………えっと、これと、納豆、後オクラも――」
カートを押しながら、店の中を進んでいく。
台所事情は最近主に、ラティアが担ってくれている。
手慣れたもので、籠の中へ手早く商品を入れていく。
対する俺とリヴィルは少し手持ち無沙汰気味。
「……んん」
そんな中、リヴィルが空いている手を頭に持って行っていた。
横目で見ていると、どうやら帽子にコソッと触っているらしい。
……何だ?
「どしたリヴィル、もしかして小さかったか?」
俺のを譲ったわけだから、明らかに頭のサイズ的には大丈夫なはずなんだが。
それか、俺がさっき勝手に触ってずらしたから、変な感じになってフィットしなかったか?
何となく俺がガシガシと触れた部分中心に、リヴィルが触っていたように見えたが……。
「いや、何でもない。何でも」
素早く帽子をいじっていた手を下ろす。
そして本当に何でもないようにして前を向いた。
だが、注意深く見ていると、ほんの少し、小さくだがその口角が上がっていて。
あまり感情を出さないと思っていたが、ちょっと嬉しそうだった。
……何だそりゃ。
「……フフッ」
一連のやり取りを見守っていたラティアは、微笑ましそうに小さく笑っている。
今のリヴィルの行動の意味を分かったらしい。
……女子にしかわからない何かがあるんだろうな。
「――“カキフライ”が2点。“ニンニク”が1点。計3318円です」
「あ、はい……」
会計を済ませる。
1回の食料品の買い物で、3000円超えたか。
まあこれから、“3人”になるからな。
食費もそれだけ増えるか。
今後、本当に親父たちからの仕送り以外を考えないと。
確か志木が『近々考えてることが纏まりそうだから、また椎名さんを通して連絡します』って言ってた。
現状を少しでも良くするものだったら大歓迎だが……。
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「ふぃぃぃ……サッパリした――おーい、リヴィル、次入ってくれ」
「ん、分かった」
バスタオルで濡れる髪を拭きながら、リヴィルに風呂に入るよう促す。
入るといっても今日は溜めていないので、シャワーだけになるが。
リヴィルは俺と入れ替わるようにして浴室へと向かっていった。
基本的なことはラティアが教えたと言っていたので、まあ大丈夫だろう。
「――あっ、ご主人様。もう少しお待ちください。リヴィルが上がる頃には大体出来上がるので」
キッチンに立って火の加減を見ているラティアから声が届く。
風呂に入る順番も、リヴィルが来たばかりだから疲れているだろうと遠慮して、2番目を譲ったのだ。
シャワーだけなんだし、別に俺が最後でもいいのだが、ラティアが「今日くらいは……」と俺の疲れ具合を気遣ってくれた。
本当、ラティアには頭が上がらない思いだ。
俺は労う意味もあり、何か手伝えないかと台所へと向かう。
「いや、急がなくても大丈夫。ゆっくり……――」
――そこで、俺の言葉が止まる。
「ご主人様、お疲れでしょう。座ってお寛ぎください」
「……えっと、ラティア」
「はい、何でしょう」
かろうじて止まっていた思考を動かすことに成功する。
そして、ラティアに尋ねた。
「その……着替えた、のか?」
「あ!! はい!! 折角リヴィルとご主人様と、3人での初めての食事ですから!!」
本当に嬉しそうに笑って答えたラティアは、また調理の仕上げに戻る。
俺は、その後ろ姿を見て、言葉を失った。
――サキュバスの衣装に着替えてる!?
しかも凶悪なことに、その上から白いエプロンつけとるこの子!!
ただでさえ肌面積が小さいサキュバスの衣装。
もう小さすぎてその手の水着か何かとさえ思えるものだ。
その黒いエナメル生地の上から、白いエプロン。
一瞬裸にエプロンを着ているのかとすら錯覚してしまった程で。
サキュバスの衣装にそれだから、なおさら卑猥さ・いかがわしさというか、淫靡さが際立ってしまっている。
「フンフ~ン、フフンッ……」
楽し気に鼻歌交じりで盛り付けに取り掛かるラティア。
本人の言ったように嬉しいからなのか、その体を小さく揺らしながらお皿によそっている。
……その際、エプロンだけでなく、お尻もまた、可愛らしくフリフリと揺れていて。
逆三角の黒い肌着にムチッと収まったお尻は、強調されるように少し突き出されていた。
「…………」
――この子、素で俺をムラムラさせにかかっとる!?
ヤバい……リヴィルの件が解決して緊張が緩んだ今、何かの拍子で本当に爆発してしまいかねない。
気をつけねば……。
「――リヴィル、それ、寝間着にするの?」
「え? うん……ダメ、だった?」
「いや、ダメじゃない、ダメじゃないけど……」
シャワーから上がって来たリヴィルは、顔を仄かに火照らせて、俺のシャツを着ていた。
「一応……ラティアから一時的にこれを着るようにって渡されたんだけど」
やっぱり。
「うん、それはいいんだけど……――それ“だけ”、しか着ないの?」
――リヴィルは、元々俺用だったシャツ、つまり丈の大きいシャツだけを纏っていた。
以前俺がラティアにあげた幾つかの内の一つだと思われる。
長い裾が彼女の下部分を隠す役割を担っているのだが、いつその中がチラッと目に入らないかと冷や冷やするのだ。
「……うん」
何が問題なのかと言いたげなリヴィルの表情を見て、指摘することを控えた。
ってか多分俺の伝えたいことを理解してくれないと思う。
……これが女子と男子の違いか。
「――ではリヴィルも上がったことですし、ごはんにしましょうか」
頃合いを見計らって、ラティアが俺たちに呼びかける。
俺も無用な問答になるのは避けたかったので、渡りに舟だった。
リヴィルがラティアに手招かれてその横に座る。
一方の俺は、二人の正面に当たる場所に腰を下ろ――せずに立ち止まる。
「? ご主人様?」
俺の静止に、疑問符を浮かべるラティア。
「えっと……ラティア、今日の晩飯って――」
俺の問いかけに、意図を理解したとばかりに明るい表情になって――
「――はい!! ご主人様もリヴィルも疲労があるかと思いましたので、精力のつくものを、と!!」
ラティアはテーブルに並べられた料理名を、一つ一つ上げていった。
「“納豆とオクラの和え物”、“レバーを生姜と共に煮たもの”。こちらはお惣菜コーナーであった“カキフライ”ですね。それと……簡単ですが“ガーリックライス”を」
そしてラティアは何かに気づいたように「あっ!!」と声を上げて冷蔵庫に向かう。
戻って来たラティアの手には――
「10本セットで498円だった“マムシドリンク”もあります!!『スッポンエキス入り』らしいですよ?」
「へ~。こっちの世界では、これが精力のつく食べ物なんだね」
「…………」
その笑顔を見ればわかる。
純粋に、俺たちの体を労わってくれたんだと。
でも……。
未だ疑似裸エプロン姿のラティア。
さらに髪が鬱陶しかったのか、欲情をそそるうなじを覗かせるようにしてポニーテールに髪を括った彼シャツならぬご主人様シャツのリヴィル。
この状況で、この料理を出す――
――この子、無自覚に俺をムラムラさせようとしとる!?
ラティア、恐ろしい子!!
ちょっと前書きで脅すような感じになりましたが、意味は分かりましたかね?
まあ軽いノリです。
今までが重かったので、こういうのもアリかと。
さて、ご評価いただいたのが……552名に!?
ブックマークは5462件!!
また増えているようで、驚きと共に大変嬉しい思いで一杯です!
沢山ご声援を頂けているようで、筆者の活力になります。
ご声援・ご愛読いただきありがとうございます。
今後も、ご声援、そしてご愛読頂ければ幸いです。




