263.えっ、マジ泣きする!?
お待たせしました。
ではどうぞ。
「はふぅぅぅ……ロトワ、お腹一杯過ぎて、もう食べられませんです」
モール内の休憩スペース。
幸せそうにお腹をさするロトワを見て、俺達も自然に頬が緩んだ。
少し早めの昼食は、どうやらロトワのお気に召したらしい。
「そうか、それは良かった。どうだ、回転寿司。楽しかったか?」
ロトワもそうだが、こうして全員で外食するというのが殆どなかったので、誰とは無しに聞いてみる。
「うん!! とっても楽しかった! 回るお寿司もワクワクしたけど、やっぱりおいなりさん、凄く美味しかったよね!?」
真っ先に手を上げたルオが、同意を求めるようにそう答えた。
「ですです!! もう、おいなりさんが美味しすぎました……あぁ、思い出しただけでもほっぺが落ちそうです」
「そ、そうか……」
下二人がこんなにも純粋に喜んでくれたのはそりゃ嬉しいが、その、何だろう、素直に喜べない……。
君ら、どんだけおいなりさん好きなの。
……ロトワが来てから、食卓にいなり寿司が出る頻度、確かに増えてたからかな。
クッ、食育という皮を被った静かな思想侵略が進んでいたのか!?
いなり寿司だけに!?
「フフッ……私も、凄く楽しかったですよ? それに何と言っても――」
あっ、これはからかい上手のラティアさんパターンの奴!!
言わせねーよ!?
「――ああーっと、そろそろどうだ! 午後のためにたっぷり時間を取ったんだ、買い物、行くんだろ、な!?」
一番勢いに流されてくれそうなレイネを狙う。
午前の礼も兼ねて、後でちゃんとジュース2本奢ってやるから、な!?
「えっ? えーっと……お、おう、そうだな」
よし!
味方一人ゲット!
「リヴィルはどうだ? リヴィルも服、ちゃんと見たいだろ? そろそろ行こうぜ?」
「…………まっ、そうだね」
よっしゃぁぁ!!
これで俺を入れて半数!!
というか、リヴィルは普段から中立的な立場に立つことが多い。
ラティアにも意見する時はしっかり言うし。
だから、リヴィルを引き入れることが出来れば、ほぼほぼ勝ちは決まりなのだ。
「むぅぅ……分かりました。向かいましょうか」
リヴィルがこちらに付いたのを見て、ラティアは大人しく話を広げるのを諦めた。
ただ、珍しくプクーっと頬を膨らませるのみで留める。
……な、何だよ、そう言う仕草されると、ちょっとドキっとするだろ。
「……マスター、嵌ってる嵌ってる」
何ッ!?
罠!?
慌ててラティアを見ると、ラティアは小悪魔めいた笑みを浮かべ。
そして悪戯が成功したというように、チロッと舌先を出していたのだった。
その種明かしのような計算された仕草でさえも、やはりとても可愛く魅力的に映り――
「フフッ……ご主人様、さあ行きましょうか」
「クッ……あ、ああ」
敗北感を味わいつつも、俺はそれを顔には出さずに足を動かした。
そうして内心、いつか何かの折に仕返ししてやろうと心に誓ったのだった。
フッ、今に見ていろよ、ラティア。
今回のようにリヴィルやレイネ達を味方に付け、そうして外堀を埋めて一泡吹かせてくれよう!!
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「ぁぁぁ……疲れた」
自分から衣類の買い物を言い出しはしたが、まさかここまで疲れるとは。
「女子の服選びはそれだけ関心が高いってことなんだろうな……」
織部の注文分を代わりに買ってきてもらう手前。
ラティア達から「この服……どうでしょう、似合いますか?」みたいに聞かれたら答えざるを得ない。
こういう時、普段は寡黙なリヴィルでさえも積極的に尋ねてくるからな。
休む暇もないとはこのことだった。
「ようやく休憩できる……さっきの間にもっと休憩時間を取っておくんだった」
これはむしろ、ラティアからの小さな報復なのではないかとさえ思えてくる。
ツンデレさんなレイネでさえも、こういう時にはちゃんと聞いてきてコミュニケーションをとろうとしてくれる。
“こういう機会ですから、皆に甘えさせてあげてください”ということだろうか……。
ラティアは皆のことを考える時間が増えて、必然自分のことを後回しにすることも意外に多い。
だからまあ、こんな可愛らしい仕返しなら全然いいんだけども……。
「おぉぉ! ロトワ、凄く似合ってるよ、その帽子!」
「ルオちゃんも可愛いです! オレンジのリボンがマッチしててグーです!」
ルオとロトワは年長3人よりも一足先に、服選びは終わったらしい。
お互いに帽子を被せ合って、品評会をしている。
確かに、二人が言い合っているように、どちらの麦わら帽子もその個性に合っていた。
「おっ、二人ともよく似合ってるじゃないか」
「ご主人、本当!? えへへ……」
そのオレンジのリボンが付いた麦わら帽子を胸に抱えて、ルオははにかみながらも喜んでいた。
一方ロトワはというと――
「ロ、ロトワ……お館様のお言葉が、あ、あまりに心に染みて……――このロトワ、一生、今のお言葉を胸に刻み、生き抜く所存であります!!」
いや、これから死地にでも赴くの?
俺が何か悪いことしてるみたいじゃないか……。
「はぁぁ……刻まなくていいから。これからの日本は暑いからな。この帽子被って、外を自由に、沢山駆け巡って。で、楽しい思い出でも沢山作ってくれれば、それでいいから」
俺はそう告げながら、二人から帽子を受け取り、レジへと向かいかける。
先に二人分の会計だけでも済ませてしまおう……と。
だがそれは、遮られてしまった。
「――うぐっ、ひぐっ……お、お館、様……ロトワ、ロトワ……うれ、嬉し、くて」
「うっわっ、ちょ、ガン泣き!? ロ、ロトワ、大丈夫か、いや何で泣くの!?」
ボロボロと零れる涙を、親指で拭ってやる。
だが拭えば拭う程に溢れて来て、一向に止まる気配はない。
「もう、ご主人は全く……そりゃ今のは泣いちゃうよ」
やれやれと言わんばかりの顔をしながらも、ルオは俺に代わってロトワを慰めだした。
それでロトワも少しずつ落ち着きを取り戻し始める。
……何でや。
「――あら? どうかされましたか?」
「あっ、ラティアお姉ちゃん。実はね、ご主人が――」
やって来たラティアへの告げ口を止める間もなく。
ルオが直ぐにゴニョゴニョと耳打ちしてしまった。
そして――
「――もう、ご主人様は全く……」
やっぱり俺がダメなのか……。
そしてラティアも同じくやれやれ系の表情でもって、ロトワの慰め役を交代したのだった。
「しばらく私と、そうですね……リヴィルにでも声をかけてブラブラ時間を潰しておきます。後でまた集合でいいですか?」
「ああ、すまん……」
「フフッ、いえ――じゃあロトワ、行きましょうか」
ラティアはロトワの手を引いて、リヴィルがいるだろう方へと向かっていった。
その背中が見えなくなる頃に、丁度入れ替わりでレイネが戻ってくる。
その腕に提げたカゴには、おそらくラティアやリヴィル達の分の衣類も入っていた。
「聞いたぞ~隊長さんがロトワを幸せ攻めで泣かせたって」
揶揄う調子で言われて、思わず言い返す。
「いや、ホントあれでガチ泣きするとは思ってなかったんだって! ホントなんだよ……」
今でも本当に俺の言葉が原因なのか。
そうだとしても、具体的にどのワードがロトワの心にダイレクトアタックしたのか、全くわかってないのだ。
うぅぅ……。
「ま、まあご主人が原因だけど、ご主人が悪いってわけじゃないから、あんまり落ち込まないで?」
おお、ルオ!
さっきはロトワを慰めて、今度は俺のことまで……!
でもやっぱ原因は傍から見ても俺らしい。
ぐすん。
「とりあえず会計だけ済ませて、あたし達もちょっと時間潰そうぜ? まだ帰りまでは時間あんだろ?」
レイネもさっきの調子は直ぐに引っ込め。
現実的な思考で提案してくれた。
そう言ったサバサバとした部分が有難い。
後でジュース3本奢ってやろう……。
感謝してるって意味も込めて、500ml3本でいいかな?
そうして俺達は一旦ラティアやリヴィル、そしてロトワと別れ。
会計を済ませてからしばらく、時間を潰すことになったのだった。
ちょっと予定変更で、1話追加にしました。
お休み前に駆け足だったので、少し丁寧に彼女たちとの一時を書くことに。
安心してください、奴の影響は今の所、受けてませんよ!!




