261.ほら~、二人がそっちに注目するから……。
お待たせしました。
ではどうぞ。
「はわぁ、はわぁぁ!! ロトワ、ロトワ、ドキドキでどうにかなってしまいそうです!!」
リビングにて明日の予定を聞いたロトワは、目を輝かせてあたふたし出す。
喜びの感情をどう処理すればいいか分からず、あっちへ行ったりこっちへ行ったりで忙しい。
「ハハッ、大袈裟だな……そうだ、あんまり夜更かししてると、明日置いて行っちゃうからな? 気を付けるように」
冗談交じりにそう告げると、一転。
絶望した表情に変わり、プルプルと震え出した。
……いや、だから冗談だって。
「……ルオ、レイネ、お風呂、一緒に入ってやってくれるか?」
「あはは……うん! じゃレイネお姉ちゃん、ロトワ、行こっ!!」
「おう! ――ロトワ、キツネ共、そら行くぞっ!」
レイネは「うらっ!」と声を上げ、ロトワに付き添っている狐達を抱き上げる。
ロトワも我に返り、急いで脱衣所へと向かっていった。
…………ふぅ。
「……よし、行ったな」
「……ですね」
「……うん、行ったね」
3人――特に、ルオとレイネが風呂場へと向かったのを確認し、ラティアとリヴィルを連れて自室へと向かう。
……いや、いかがわしいこととか一切ないから。
そう、これから織部との定期連絡があるのだ。
「本当はそろそろ、レイネ辺りには言っても良いとは思うんだけどな……」
織部の事情、勇者であるという部分を話せていない後ろめたさが、つい口に出てしまう。
「仕方ないよ。レイネもルオも、過去が過去だもん。ちゃんと分かってくれるって」
リヴィルに慰めてもらい、幾らかその心のモヤッとした部分もマシになる。
「そうだな……」
答えながら、部屋に入り。
椅子に腰かけDD――ダンジョンディスプレイを取り出す。
「それにしても……ロトワもルオも、嬉しそうでしたね。明日のお買い物」
「来週はもしかしたら忙しいかもしれないからな……その埋め合わせってわけじゃないが、いい機会だろう」
ロトワの本格的なお出かけデビューでもある。
6人で外出なんて初めてだから、特に下の二人は楽しみで仕方ないんだろう。
あの狐達のおかげで、耳と尻尾の件は解決できたが、それとは関係なしに麦わら帽子でも買ってやろうかな。
季節も季節だし、ルオもロトワも似合いそうだ。
「……マスター。私達も楽しみにしてるね?」
「お、おう……」
上3人は、そういうのはいらないかな、と勝手に思ってたが……。
どうやらそれはダメらしい。
「フフッ、リヴィル、あんまりご主人様に意地悪してはいけませんよ?」
おおっ、ラティアが優しい!!
いや、勿論いつも優しいと言えば優しいんだが。
こう、その裏に何かあるんじゃないか、と思わされる優しさが多いんだよな……。
今回のは純粋にやり取りを楽しんだり、あるいはラティアも明日のことを楽しみにしてくれているらしい。
「お手柔らかに頼むよ……」
「ん」
「フフフッ、はい!」
『――はい、はい、そこっ! さぁ、そこですそこ! クルっとターン!!』
そんな話をしていると、DDの通信が繋がる。
それと同時に、何だかテキパキと指示を出す声が届いてくきた。
画面に映っているのは織部。
そして――
『――あっ、あの……カンナ様、流石にこの衣装、恥ずかしいのですが』
『何を言ってるんですサラ! サラが言い出したんですよ!? 新海君に見てもらうために、地球の踊りを教えて欲しいって――』
……アイドルのコスプレ衣装に身を包んだサラだった。
えっ……何してんの?
『……カンナさん、ニイミさんと、繋がりましたよ?』
どうやらカズサさんが織部のDDを繋いでくれたらしい。
若干声が呆れているのは……気のせいだと思う。
『ふぇ!? うぉわっ!? ちょっ新海君――』
『――にっ、ニイミ様!? キャッ、み、見ないでください!!』
『…………』
織部以上に初心な美少女らしい反応を見せるサラ。
そしてそのサラにリアクションを奪われ、織部は何とも言えない表情をして固まっていた。
……いや、本当に何してんだよ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『その……お恥ずかしい所をお見せしました』
落ち着いたサラが照れ混じりに頭を下げてくる。
その姿はまだ先程のアイドル衣装のままで……。
それを意識しているからか、サラは丈の短いスカートを少しでも伸ばそうと下へ下へと引っ張っていた。
…………。
「それは……まあ、うん、良いんだけど」
「サラはその、何してたの?」
リヴィルも気を遣ってか、少し聞き難そうにしながら尋ねる。
それでまたかえってサラの頬に差す朱の色が増えてしまう。
……そんなに恥ずかしいのか。
『オリヴェア様の収める町に戻ってきて、少しここに滞留する時間が出来たので、色々と考えてたんです……』
サラはチラッと横に視線を向ける。
『ムムムッ……花織さんは“THE王道”って感じで、非の打ち所がない完璧なアイドルですね。私から見ても可愛いですよ……あぁ、なんだか浄化されそう』
隣にいる織部は、俺が送ったポータブルプレイヤーで、これまた俺が転送したシーク・ラヴのDVDを見ている。
明日の買い物は、それを使い捨てとさせないために、ホームセンターにて発電機でもないか探すことも含んでいた。
『おぉぉ!! 今のバク転なんですか!? えっ、これアイドルがやることですか!? ハヤちゃんさん……恐るべし! 最早現代のくノ一ですよ!! クッ、誰かハヤちゃんさんを捕まえて縛り付けて、尋問してくれないかな……チラッ』
『……はぁぁ。それで、ちょっとでもニイミ様やリヴィルさ……リヴィル達のいる世界を理解できることはないかって思って、そしたら――』
恥ずかし気に、リヴィルの名を親しみを込めて呼び直し。
サラはDVDに見入る織部を呆れながらも、でもそんな部分をも包み込むような、慈愛にあふれた目で見ていた。
『律氷たん、萌えぇぇぇ!! えっ、何この小動物!! 歌も良いけど、素で可愛過ぎるんですけど!? サラ、この子、飼っていいですか!?』
『……カンナ様、一日一バカまでにしてくださいね』
サラの手酷い仕打ちに、織部は抗議の声を上げるも。
何だかんだ、そうしたやり取りを二人は楽しんでいた。
「……凄いスルースキルだね」
「……ですね」
こっちもそれが分かるからか、苦笑しながらも二人のその領域には口出しせず、静かに見守ったのだった。
「――で。織部、何もサラにアイドルコスプレさせて躍らせたいためだけに、DVDを俺に頼んだわけじゃないんだろ?」
落ち着いたところで、そう尋ねてみる。
……が。
『えっ?』
「えっ?」
……違う、よね?
そんな念を込めてじーっと見つめると、織部は額に汗をかき始める。
『あ、あぁぁ~! モチ! モチの論ですよ新海君!! 私を誰だと思ってるんですか!』
「……立石の幼馴染である織部さん」
『ぬゎぁぁぁああ!? グッ、呪詛ですか、新海君、いつの間に呪術使いに!? 息が、苦しっ――』
誰が呪術使いか。
……ってか立石、すまん、何かディスるみたいになったが、そんなつもりはなかったんだ。
「はぁぁ……。逆井のことだけじゃなくて、赤星とか、他の奴のことも知りたがってただろ? その一環だと思ってたんだが?」
『そ、そうですよ、ええ!! うん、その通りです、はい!!』
織部は助け船を逃さず、必死に藻掻いてしがみ付く。
調子のいい奴め……。
『新海君、この前言ってくれましたよね? 今度、アイドルグループが合同でダンジョン攻略に挑むって』
織部は先程まで見ていたプレイヤーを掴み、停止していた動画をまた再生させる。
流れるのは、逆井と志木が二人でサビを歌う場面。
『当日、私が何か役に立つわけではないでしょうし、これからもそちらに介入できることは殆どないかもしれません。ですが――』
織部はサラを見て。
そしてラティア、リヴィルへと順に視線を移していった。
『新海君が地球にいるのに、異世界のことを何とかできないかって色々と知ろうとしてくれたみたいに。私も、何かあった時のために、少しでも地球のことを知っておきたくて』
「織部……」
そこまで考えていたのか……。
いつも行き当たりばったりっぽく見える奴だが。
こうして、意外にもちゃんとするべき時はちゃんとする奴なのだ。
『――“君ぃの心ぉ~探してみせるよ~……”』
この間にも流れていたDVDは、白瀬のソロパートを映し出す。
『おぉ! 飛鳥さんですね! なんだかよくは分かりませんが、この子とは親友になれそうな気がします!』
……万乳引力の法則は、無乳同士にも適用されるのか。
一瞬、織部の鋭い視線が飛んできそうになる。
が、次の瞬間に画面に移った二人が、それを阻んでくれた。
「あっ、ミヒロとロッカだ」
「お二人とも、お綺麗で胸も御立派ですよね……」
『…………』
……ほら~、二人が飯野さんと逸見さんに注目しちゃうから、織部が黙っちゃったじゃん。
しかも絶望した目で二人の胸と、自分の胸部を見比べて……あっ、ニヒルに笑ってる。
……大丈夫だって、織部、その二人は別格だから。
飯野さんに至ってはラティアよりもデカいって専らの噂だからさ。
その後、折角いい雰囲気になりかけたものの。
織部の死んだ目は、逆井のソロパートへ巻き戻すまで、蘇生されないままだった。
……お前もお前で、逆井のクソ雑魚メンタルな部分、影響してない?
織部さんの弱点が複数見られた回でしたね……。
特に巨乳相手には、自分が光属性を扱う勇者だと忘れるくらい闇落ちした憎悪の目で見ます。
織部さんは話題に事欠かないな……(白目)




