260.ゴッさんの朝は早い……。
お待たせしました。
帰ってきて、温かな言葉を沢山いただけて、嬉しいです!
では早速どうぞ。
※最初、第三者視点です。お気を付けを。
□◆□◆Another View ◆□◆□
「……ギシッ」
ゴッさんの朝は早い。
未だ主人の青年が寝ているような時間に一人、淡々と起き上がる。
ダンジョン内に生えている薬草を食べ、栄養補給をサッと済ませると、ゴッさんは走り出した。
「ギシッ、ギシィィ……」
まず、軽く体を動かすことから始める。
しばらくして体が温まると、今度はダッシュだ。
全力で走り、息が苦しくなるくらいに力を振り絞る。
短時間の休憩を入れたら、また走り。
そして休憩、走る、その繰り返しだ。
「シッ! ギシャ! ギシッ――」
地味で辛く、苦しいばかりのトレーニング。
途中、マイナス思考に陥り、足を止めてしまおうと思うことが何度もある。
だがその時は、いつもあることを思い浮かべるのだ。
“フフッ、無様ですね。貴方が足を止めている間に、私はご主人様と下半身を動かすトレーニングでもしていますから、どうぞ休んでてください”
「ギシィィ!!」
悪そうな笑みを浮かべる淫魔の姿を想像すると、全身から力が湧いてくる。
今は無理でも、あの性悪淫魔にいつか一太刀浴びせてやるのだ。
ゴッさんは再び体に鞭を入れ、日課のメニューを消化していったのだった。
「GIGGGGGG!!」
「ギィッ――」
衝撃。
吹き飛び、息が詰まる。
ゴーさんの鋭く、そして重い一撃が体を貫く。
飛んできた大砲でも命中したのでは、という程の威力のパンチだった。
「シィッ、シシッ、ギィッ!!」
立ち上がり、また構えているゴーさんの前まで戻る。
自分も日々、タフさ・耐久度を磨いているつもりだった。
だがその分、相棒のゴーレムもまた、鍛錬を積んでいるのだ。
「ギィィ、シシ――」
だから毎日、このパンチの防御メニューをしていても。
痛くない日などなかった。
辛く、全身が悲鳴を上げ。
ゴーさんの前に行く脚が、それを拒絶するように動かなくなる時もある。
ただ最近、またゴッさんに活力を注いでくれる出来事があった。
2体の狐。
新たに主人の仲間になった少女と顔合わせの時に、突如どこからともなく現れた、金色と銀色の2匹。
「GI,GIGGG!!」
「ギィッ!」
吹き飛ばされ、痛みを覚えながらも。
膝を折ることはなく、しっかりと立ち上がった。
――自分にも、まだ成長の余地はある。
狐達は、一目見ただけでも強者だと分かった。
自分、ゴーさん、そしてワイバーンのワっさんの3体。
まとめてかかっても1体に勝てるかどうか……。
それほどの実力があると思った2体の出自を聞き、ゴッさんも更に希望を抱いたのだ。
――モンスターの守護者化。
自分にも、まだ1つ2つと壁を破れる可能性がある、と。
「ギィ……ギシィィィィィ!!」
ゴッさんは叫ぶ。
今日も、また昨日よりも強くなった。
だが慢心はしない。
明日もまた頑張るんだと。
主人を守れる強さを得るため。
悪の親玉たる淫魔を倒すため。
そして主人の隣に立つ、相応しいメスとなるために……。
◆□◆Another View End◆□◆□
「……そう、そこ。あまり遠くから避けても、上手く、強くはならない」
「ギシッ!!」
ゴッさんが体を動かしながらも、梓の指導に答える。
「――クゥゥニュゥゥゥ!!」
「シッ、ギシィ!」
ワっさんが風のブレスをガンガン飛ばす。
まだ子供とはいえ、ワイバーンが放つそれは軽視できない威力だ。
襲い来る風の弾丸を、ゴッさんはかなり至近距離にいながらにして、ギリギリでかわしていった。
「おぉぉぉ!! 凄いです凄いです!! ゴブ殿、ピョン、クルッで、どれもこれも、全部かわしてます!!」
隣で見ていたロトワは、ゴッさんのトレーニングの様子に大興奮だった。
回避訓練をするゴッさんみたく、耳や尻尾が忙しなく動き回っている。
……そう、ロトワは今は耳と尻尾は隠していない。
ダンジョン内、それも気心の知れた仲間内だからだ。
「まあな……耐久性のトレーニングの方を頑張ってるって聞いてたんだが、これはこれで驚きだな」
はしゃぐロトワに同意しつつ、俺もトレーニングの様子を感心しながら見ていた。
元々動きや足さばきみたいなものは上手い方だとは思っていた。
だが、今のそれは、トレーニングを始めた頃とは大違いだ。
まだそれほど期間が経っているわけでもないはずなのに……。
ゴッさん、凄く努力してんだな。
狐達が守護者化できたんだし、もしかしたらゴッさん達も……。
ダンジョンを強化して、進化というか、パワーアップさせることもできるかもしれない。
「…………」
「…………」
ロトワと俺のお尻、地面の硬さから守るようにして敷かれている座布団に目をやる。
勿論、座布団なんだから何も反応はない。
だが、この座布団こそ、その例として挙げた狐達で……。
「? お館様、どうかなさいましたか? ――あっ、“ギンギン”、座り心地とかダメだったでしょうか!?」
ロトワが焦って立ち上がり、自分のお尻に敷いていた金色の座布団を持ち上げる。
すると――
「――キュィ!」
ボフッと煙を上げ、座布団があの金色の狐へと姿を変えたのだった。
「ささっ、お館様、ギンギンもまだ慣れてないんでしょう。ですので“キンキン”が代わりに――」
「いや、うん、大丈夫だから。ありがとう、ギンギンで、助かってるよ」
「? そうですか? では……」
素直に言葉を聞いて、ロトワは座りなおす。
金色の狐――キンキンを今度は座布団へと変化させることはなく、抱きしめながら観戦するようだ。
それは良いんだけど……。
……金色でキンキン、銀色でギンギンって、ネーミングセンスゥゥゥ。
まあ本人たちが納得してるのなら、それでいいけどさ……。
……ただし、ギンギン、テメェは要注意対象として警戒させてはもらうがな。
名前の読み・音からして、色々と摩擦を生みそうだからしょうがない。
「――ん、OK。課題はクリアできてる。次に移る……の前に、休憩にしよう」
「ギッ、ギシィィ……」
梓の手が上がり、回避訓練が終わった。
ゴッさんは膝に手を付き、荒い呼吸を整えている。
そんだけ集中して、短時間で激しい運動を繰り返してたってことだろうからな……。
ゴッさんを労いに行ったロトワと入れ替わりに。
梓がこちらに戻ってくる。
いい機会だ、師匠としての評価を直接聞いておこう。
「……どうだ? 率直なところ」
「筋がいい。それに伸びしろもある。教え甲斐があって、こっちも楽しい」
おおぉ。
梓は口数が少なくて誤解を受けることもあるが、でも嘘はつかない。
率直に思ったことを言う奴だ。
つまり、ゴッさんは日々、本当に頑張ってるってことだろう。
「これから直接、私が実践で鍛える……いい?」
「ああ、むしろこっちこそ本当にいいのか? 梓、時間とか、色々と忙しいだろうに」
それこそ今日だって、少ない時間を見繕ってゴッさんの成果を見に来てくれたのだ。
これ以上を望むのは、と思うのだが……。
「大丈夫。こっちも学ぶことは多い。双方得るものがある、だから片務的じゃない」
「……まあ、梓がそう言うなら。よろしく頼むよ」
「ん。――っと、その前に……」
って!?
「おい待て、なぜ脱ぐ!?」
慌てて梓が服にかけた手を掴み、急なストリップをストップさせる。
梓はなぜ止めると言わんばかりに不満げな表情だ。
クッ、何で俺がおかしいみたいに見られなければならん!!
「……指導に熱が入った。これから更に本格的に動くことになる。端的に暑い」
梓は服が上にあげられないならと、服にかけた手はそのままに。
「――んっ!」
「あっ、ちょ!?」
一気に体を落とし、服から体を脱出させるようにして脱いでしまった。
んな強引な……ってか下、更に何故か水着を付けてるし!!
俺が驚いて固まっている間に、梓は手慣れた様子で短パンも脱ぎ去る。
上下に水玉模様の水着、そして梓特有の装備“重剣豪の黒長靴”姿だ。
…………。
「前回のアイドル対抗のクイズ番組ではパーカーだったから、女性用水着、ハルトに見せることが出来て嬉しい」
いやドヤ顔ピースじゃなくて。
確かに、あの桜田とか飯野さんが出てた奴は、男として出てたから仕方ないのかもだけど……。
でもさ、今その姿、ハッキリ言っていい?
――普通の水着姿よりも何かいかがわしい感凄いんだけど!?
「暑いならブーツも脱げよ!? お前何か、逆井か、織部辺りから変な影響受けてない!? 大丈夫なの!?」
「……ハルトの言ってること、良く分からない。何で戦闘訓練なのに、大事な装備のブーツを脱ぐことになる?」
水着にブーツ姿がいかがわしいっつってんだよ!
分かれよ!
「……ハルト、もしかして生足全開の方が好み? それか、ブーツの匂い、癖になってるから嗅ぎたい、とか?」
なってねえよ!?
ってか好みとかそう言う問題じゃねえ!!
「ふぅぅ……こっちも一段落――って、マスターもアズサも、何やってんの?」
ゴーさんの修行を見ていたリヴィルが来てくれて、その場は一先ず収まったのだった。
はあぁぁ……織部とは違う意味で、梓の相手は疲れる……。
――見た目は子供、未来は大人、その名は、“真相令嬢ロトワ”!!
「お館様への愛は、いつも一つ!!」
……皆さん、誤字ですからね、1週間ぶりだったらかちょっとチェックが甘かったんです!
“深窓”を“真相”ってしちゃってたのをあんまりいじらない!




