254.し、志木さん!?
お待たせしました。
ちょっと忙しくて、不安定気味です。
20日くらいまでは多分、こうした感じが続くと思います。
本当なら5月にあった山場が、このご時世で今月に延期になったりでドタバタしてて……すいません。
ではどうぞ。
「あぁ~あれね? マジウケるよね~! あはは、いや柑奈、そうじゃなくって!」
これからダンジョン間戦争を始めるにあたって、自室で準備の最終確認を済ませ。
そうして下の階へと降りて行ったところで。
リビングから、逆井の楽しそうな話し声が聞こえてきた。
『――“ダンジョン探索士”兼“シーク・ラヴ”の逆井梨愛さん、そして志木花織さんが応援に駆けつけてくれました!』
一方で、ルオとロトワが見ているテレビでは収録済みの番組に、その当人が出ている。
テレビで出ている人物が今、自分の家で、異世界にいる同級生と会話しているのがとても不思議な感じがした。
「あ~うん、今日? かおりんと後、ツギミーかな? うんうん、そそ、かおりんかおりん」
「…………」
逆井は俺が貸したDD―ダンジョンディスプレイの画面だけに集中していて、自身と志木が出演した番組には一切視線を向けない。
『――ははっ! 露骨な宣伝だったか~! でもでも、今人気爆発中でしょ? どこも呼ぶの大変だって言うから、隙間時間でも出てくれてそりゃ嬉しいよ!』
と思ったが、なるほど、司会の芸人さんが言う通り。
画面内の逆井と志木は、今度補助者を引き連れてのダンジョン攻略の話だけして、直ぐに帰って行った。
興味が無いというよりは、自分の出演時間が短いのを知っていたからあまり気にしなかったのかも。
「コーヒーって、ご主人いつも飲んでるよね……美味しいのかな?」
「かき氷……!」
“缶コーヒーのCMで、若手人気俳優が熱演した”とか。
“夏本番に向けてかき氷商戦が熱い!”とか。
そんなどうでもよさそうなエンタメなどの情報を、ルオやロトワと一緒に眺めて時間を潰した。
――ガチャッ
ドアが開く音がする。
念のため迎えに出ていたラティアも帰って来たのだろう。
「おっ、来たか――おい、逆井、そろそろ……」
織部と未だ話している逆井に声をかける。
着いた二人は、逆井とは違って織部の存在については知らないからだ。
「あぁ、ゴメンゴメン! 今切るから――」
「――ご主人様、カオリ様とミオ様がいらっしゃいました」
ぬおっ!?
はっ、早っ!?
逆井が織部との通信を切る前に、既に二人は家の中に入ってきていた。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
うわヤバイヤバイヤバイ!?
「えっ、あっ、ちょっ、待っ――」
同じ様に逆井もテンパってしまっている。
仕方なく咄嗟にDDを逆井の手から掴み取り、画面の方が隠れるように胸に抱きしめる。
「お邪魔します――何をしてるのかしら?」
「んっ? あれ、花織ちゃん、止まっちゃってどしたの?」
ラティアに続くようにして入って来た志木に、怪訝な目で見られてしまう。
逆井と俺とで挟み込むようにしてDDを隠してるんだから、そりゃそうなるわ……。
「いや、あの、えーっと……お、オッス! 今日はダンジョン攻略、一緒に頑張ろうな!」
「……貴方、何でそんなに爽やかなのかしら」
疑わしそうにジーっと見てきおって、ぐぬぬっ!
俺が爽やかに挨拶したらおかしいの!?
……おかしいか、うんごめん!
「……確か志木ってウチは初めてだったよな? どうだ、来た感想は?」
何とか話を逸らすべく、適当に思いついたことを聞いてみる。
「そ、そうね……ここが貴方の住んでいる家、と考えると、ちょっと感慨深いものがあるのも事実です。男の子の家ってのも、その、初めて、だし……」
お、おお……。
意外に興味を示してくれた。
志木は変装のためのサングラスを外しながら、興味深そうにリビングをグルっと見回している。
空木はロトワとルオの下に行ったし……よし。
今のうちに通信を――なっ!?
『…………』
画面に目を移すと、織部が石像の如く固まってこちらを見ていたのだ。
普段から慣れているためか、瞳の光も消して、完全に人としての気配を断っている。
織部自身も焦っていたからか、何とかしてバレないようにと置物か、もしくは写真っぽく振る舞ってくれたらしい。
だが違う、お前に求めたい行動はそうじゃない!
さっきの間に、織部の側から通信を切ってくれていても良かったのに!
いきなりそんな織部を見たせいで、こみ上げてきた笑いとも非難ともつかない声を抑えるのに必死だった。
「……どうかしたかしら?」
ああ、ほらっ!
志木は勘がいいから、またこっちに関心が移っちゃったじゃん!!
おい、どうすんだ……もうバラしていいのか?
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――え、えっと! あのさ、今まで柑奈の話をしてたんだ! “画像”を見ながら! だからちょっとアタシ達の間でも変な感じになっちゃって。 ね、ねえ新海!」
「あっ……そう、確か“織部さん”、だったかしら……」
さ、逆井!
なんてナイスなアシストなんだ!!
志木も織部の存在自体は知っているらしい。
赤星辺りか、それとも逆井本人から聞いていたのかは知らないが。
それでも織部の名前を出すだけで察したように顔を俯かせ、視線を逸らしてくれた。
「そ、そうなんだよ! えーっと……」
これ幸いという風に、サッと画面を確認。
まだ固まったままの織部は、この画面だけからなら。
普通に織部自身の写真を表示しているだけのようにも見える。
隠し過ぎるとかえって怪しまれるだろうから、ここは逆井の話に乗っかって織部写真説でゴリ押しすることにした。
「ほっ、ほらっ……志木や空木なんかは勿論知らないだろうけどさ、その、俺達にとってはいなくなったとしても同級生だったわけだからさ……」
そう言ってDDを反転させ、志木達に見えるようにしてやる。
「…………っ!!」
だが志木はチラッと見ただけで視線を外す。
そしてスタスタと俺の傍に歩み寄ると、DDを取ってひっくり返し。
織部の画面を見えないようにして突き返してきた。
呆気にとられるようにして志木を見つめていると、志木は顔を上げ。
決意を秘めた強い瞳をしてまっすぐに俺を見てくる。
「――織部さん……彼女のことは聞いています。とても残念に思うし、悲しまないでとは言えない。でも……」
逆井をチラッと振り返り見て、しかし。
主に俺に対して宣言するように、キッパリとした口調で言った。
「あまり引きずられないで欲しいの! 貴方の傍から離れて行った人のことよりも、貴方の近くにいて、貴方のことを想っている人をより大事にして欲しい!」
「…………」
「…………私は、彼女とは、違う。今回のダンジョン間戦争のこともそう。貴方を放って、貴方だけに任せたりはしない。ちゃんと支え合って行ける、その、パートナーのような存在として、頑張るから。傍にいるから」
ええっと……志木さん?
別に織部のこと、そこまで引きずってないっすよ?
織部が失踪していなくなった、という世間的な体裁を前提にしても。
俺別に、織部に片思いしてた可哀そうな男子とかじゃないから。
そもそも俺と織部、赤星にも言ったことあるけど殆ど学校でも会話したことなかったし。
織部を今も想い続けてる可哀そうな男子は立石の方だからね、うん。
……まあ立石はちょっと想い過ぎて拗らせちゃってる感あるけどさ。
「――あっ、その……そ、そういうことだから! えっと……み、美桜さん、着替え、済ませちゃいましょう!」
「えっ!? あっ、花織ちゃん……も、もう……お兄さん、お姉さん、脱衣所借りるね!?」
「お、おう――」
そうして止める間もなく、志木は空木を連れて部屋を出て行ってしまった。
……流石に熱く語り過ぎたとでも思ったのか、去っていく志木の顔は薄っすら赤かったように見えた。
一応ラティアが付いていったが、変装用の服からダンジョン攻略用へと着替えるまでは戻ってこないだろう。
……はぁぁ。
何か、変な勘違いされたかもしれん。
……ったく。
「ふぅぅ……あ、危なかった~」
逆井の安堵する様子を見て、俺も心の中で息を吐く。
「…………」
半分はお前のせいでもあるぞ、という非難の視線をDDに向ける。
すると、やはり織部はまだ固まったままだった。
が、こちらが危険を回避できたと分かったのか、次第に体が後ろ向きに倒れていく。
草原の上にドスンッと仰向けに倒れた織部を見て、驚愕した。
……倒れたことに、ではない。
「うわっ、えっ、何々、柑奈、何かあった!?」
「いやそうじゃない……お前、何やってんだよ」
逆井に大事はないと答えながらも、俺はそう呟かずにはいられなかった。
――織部、人が必死にその存在を隠そうと頑張ってる間、ずっと縛られてやがった!!
首から下が映ってないので丁度、写真・画像として使えると気にしてなかったが。
今見えた織部の体は、あの強力なタルラが切ろうとしても引き千切れなかった光の鎖でガッチガチに拘束されていたのだ。
つまり、志木達が来て咄嗟に自分で自分を光の鎖で縛り上げたのである。
そりゃ身動き取れずに、DDの通信も切れないだろうさ。
「……後で覚えてろよ」
今すぐにでも罵倒してやりたい気分で一杯だったが、グッと我慢する。
ようやく芋虫のように動き出した織部を見つつ、志木達の着替えが終わる前に通信を切ったのだった。
とりあえずダンジョン間戦争の前、触りみたいな話になります。
次話から本格的に中身に突入ですね。
織部さんの存在がバレなかったのは良いけど、志木さんに変な勘違いをされてしまったかも。
織部さんめ、しゃべらずともなおその存在・姿だけで地球にブレイブの波動を送り続けている!
何とかしないと……!




