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25.導く人、導かれる人。――何としてでも助ける!!

ふぃぃぃぃぃ……。


ようやく推敲が終わりました。


分割して良かったです。

中々に長くなってました。


では、どうぞ。



「――で、こんなところまで連れて来て、どうしたいの?」



「ご主人様……このダンジョンは?」



 先導する俺についてきたリヴィルとラティアは、それぞれの反応を示す。


『長引かせるのもお互い面倒だろう――今後のことについて、今日に全部、話し合おう』


 真剣にそう言ったら、リヴィルは渋々ながらも着いてきてくれた。

 尤も、終始無言で、ラティアと顔を会わせた際は気まずそうにしていたが。


「安心してくれ。ここは既に俺が一人で攻略したことがあるダンジョンだ」


「そうなのですか……」

 

 勿論、嘘ではない。

 ただ一つ、言っていないことはあるが。

 

 今感心するようにして辺りを見回しているラティアは、自分が来る前に俺が攻略したダンジョンだと思っている。

 が、ここはつい先ほど攻略したダンジョンだ。


 

 つまり≪狂人(バーサーカー)≫を交換したダンジョンなのである。

 では、なんでここへと二人を誘ったかというと――



「…………」


 リヴィルは俺の言葉には反応せず、ただただ俺を睨みつけている。



 ――この警戒感Maxのリヴィルに、心情的に少しでも味方してくれる相手を作りたかったからだ。



「ま、まあまあ!! リヴィルと話がしたいんです、ね?」



 それは勿論、ラティアのことだ。

 俺はどうしてもこれからリヴィルと向き合わねばらない。

 

 その際リヴィルが完全に四面楚歌の状態というのは避けたかったのだ。

 ラティアもリヴィルも知らない場所へと、俺が、連れて来た。


 そしてそこは攻略済みのダンジョン。

 誰に憚ることなく話せるし、少しでもいい、リヴィルがラティアに気を許せる状況になればと思ったのだ。

 

 

「……ああ、お前も、何度も何度もしつこくされるのは嫌だろう」


「…………」


 ラティアの言葉に応えるようにして、リヴィルに語り掛ける。




「――今日、この場で、話をつけよう」



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「――リヴィル、お前の過去、聞いたよ」



「ッ!? ――……だ、れから、聞いたの?」



 俺の言葉に、今までで一番の反応を示したリヴィル。

 だがしかし、その表情はまた直ぐ戻ってしまう。



「……ううん、別に誰からだっていい――それで、聞いたから何? それがどうしたの?」


 自分に言い聞かせるように、二度三度と首を横に振る。

 そしてスッと目を細め、俺を鋭く睨みつけた。


「どう、後悔した? 私を買ったこと。うん、良いよ、売ってくれて」


 殆ど変化のない表情が。

 何故かそれを告げる時にだけは大きく変化した。

 

 相手の同情を誘う意図など全くなくて。

 純粋に自嘲的で、悲し気で、そして寂しそうで。



 ラティアが大きく息を飲むのが分かった。

 そんなリヴィルを見て、何とかしたい、手を差し伸べてあげたい――そんな想いがひしひしと伝わってくる。



 ……うん。



「――どうしたい」


「え?」



 俺のシンプルな問いかけに、一瞬、リヴィルの言葉が詰まった。



「お前は――リヴィルは、どうしたいんだ?」


「どう……したいって……」


 俺の意図が読めないからか、リヴィルは答えあぐねている。


「悪いな……俺はコミュ力ないし、単なる非モテのボッチだ。言葉にしてくれないと分からない」


 そこで、チラッとラティアに視線を送る。

 ラティアは俺の意図を感じ取るまでもなく、リヴィルに自分の想いを伝えた。



「私は!! リヴィルとこの先も一緒に居たいです! 一緒にご主人様にお仕えして! 一緒に過ごして! それで、それで――」


 その熱い想いそのままにして、リヴィルに伝わればと思い。

 俺はラティアの言葉を引き継ぐように告げる。



「――お前が望むなら、俺たちはリヴィルを助けようと全力を尽くす用意がある」



「…………」


 リヴィルは、動かない。

 俺たちの言葉はちゃんと聴いたはず。


 ダメ……――いや。



「――何で……」



 小さく、本当に小さく口から零れたその言葉は、しかし。

 俺たちの耳に、ちゃんと届いた。



「――何で!! 何で!!」


 今度はもう、耳をそばだてる必要はない。

 ちゃんと、その叫びは聞こえた。



「あの勇者もそう!! アンタも!! ラティアも!!」



 リヴィルの今の様子は、あの凛とした、別世界のような美しさからはかけ離れていた。

 とても人らしく、苦しみを、辛さを、全てを吐き出しているようで。



「もう! 目の前に希望をちらつかせないで!! 何度傷つけばいいの!? 何度失えばいいの!?」


「リヴィル……」


 心からの叫び。

 俺たちが聴こうと思ったそれを、ラティアはとても辛そうに、今にも抱きしめたいというようにして、聴いていた。



「生まれたばかりで、何も持ってないはずなのに! この両手は、何もない空っぽのはずなのに!!」

 

 苦しそうに、締め付けられる痛みを隠そうとするように、リヴィルは両手で、胸を押さえつける。

 そして――



「どうしてこんなに苦しいの!? どうしてこんなに胸が痛むの!?――どう、すればいいの……」


「…………」


 俺も、ラティアと同様に。

 今すぐにでも駆け付けてやりたかった。

 大丈夫だ、何とかしてやる――そう言ってやりたかった。


 でも、まだだ。

 まだ、辛抱強く待つんだ。



「――私は! ご主人様にお会いして!! 灰色だった世界が、虹色に変わりました!! リヴィルと、これから一緒に、その時間を過ごしたいんです!!」



 ラティアは叫ぶ。

 リヴィルに届くと信じて。



「――“導士”でも、何でもできるわけじゃ、ない。自分自身を、導くなんて、できないよ……」



 ――リヴィルの体に、異変が生じ始めた。

 

 

 まだだ……。

 何とか、歯を食いしばって待つ。

 

「――俺はッ! お前の過去を聞いても! それでもお前と一緒に居たい! リヴィル!! ラティアと一緒に、俺を支えてくれッ!!」


 

 反応はない。

 でも、聞こえていると、届いていると信じて。

 俺も叫んだ。





 そして――






「――誰か……私を、助けて。導いてよ」 




 

 ――真っ黒な(もや)が、リヴィルの体から噴出した。


 それは一瞬にしてリヴィルの背後で人の姿を形成しようとする。







「――ラティアッ!!」




「はい!! ――ッ!!」




 俺とラティアはそれを確認し、戦況に突入した。





□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆





[Ⅰステータス]

名前:新海(にいみ)陽翔(はると)

種族:人間

性別:男性

年齢:17歳

ジョブ:≪狂人(バーサーカー)



称号:〔ダンジョンを知り行く者〕→ジョブ:《ダンジョンマスター》+《ダンジョン鑑定士》+(ダンジョン内のみ)全能力+20%


[Ⅱ能力]

Lv.13

体力:128/128

力:41

魔力:77

タフ:101

敏捷:39


[Ⅲスキル]

敵意喚起(ヘイトパフューム)】【回復Lv.1】【回復魔法Lv.1】【解毒Lv.1】【解呪Lv.10】【魔力強化Lv.1】【身体能力強化Lv.1】



[Ⅳ装備]

目:極アサシンの灰グラス




 


「よし――1分間が勝負だ!!」


 返事があることは期待しない。

 今より、俺は二人の認識から消える。



 そして、灰色になった視界を頼りに、俺はリヴィルを見た。





[Ⅰステータス]

名前:リヴィル・ロスト

種族:人造人間(ホムンクルス)

性別:女性

年齢:2歳

ジョブ:《導士》


※状態異常:“呪い 状態Lv.8”


自己所有権:非所有→所有者:新海(にいみ)陽翔(はると)


[Ⅱ能力]

Lv.22

体力:225/225

力:126

魔力:34

タフ:155

敏捷:150




[Ⅲスキル]

【導術Lv.4】【身体能力強化Lv.4】【回復Lv.3】【心眼】【覇王の威光】【水魔法Lv.2】【風魔法Lv.1】



[Ⅳ装備]

無し





「≪闇よ、刃となりて――≫ッ!! ――リヴィル!! 私はリヴィルと一緒に居たいです!!」


 ラティアはリヴィルの“呪い”の注意を引くために、詠唱と詠唱破棄を繰り返してくれていた。

 そして走りながらリヴィルへと声をかけ続けている。



 対するリヴィルは――


「うぅぅ……うぅぅ――」


 

 黒い靄は完全に人の姿を得た。

 細身ながらも決して油断ならない圧倒的な雰囲気を纏っている。 


 これが外界に顕現してようやくステータス上に反映された。

 つまり、『※状態異常:“呪い 状態Lv.8”』である。


 そして、【解呪】にもレベルがあるように、状態異常の側にもその重症度に応じたレベルがあった。

 ――この二つが、サラが“難儀な呪い”と評した理由だ。


『新海君、気を付けてください。私の老魔術師の白手袋で触れるだけでは何の反応もありませんでした』


 織部から来たメッセージの内容を思い出す。

 今、リヴィルの感情に波ができて、“導力”を制御出来ないでいる。

 それで均衡が崩れて、“呪い”が外に出て来た。


 こうしないと、解除しようとすることすらできない。





「良しッ!! ――≪身を包む呪いよ、その縛を解き放て――≫」  




 俺の【敵意喚起(ヘイトパフューム)】と、ラティアのかく乱で、“呪い”をその場に釘付けにする。


 黒い靄でできた人の姿は、誰か、何かを警戒していた。

 でも、誰に、何に対してそれをすればいいのか、混乱しているのだ。



 ――これが、“灰グラス”着用+【敵意喚起(ヘイトパフューム)】による“ターゲットロックオン不能”、それにラティアのかく乱を合わせた応用だった。

 1分間のみの、ボーナスタイム。


 

「――【解呪】!!」



 その隙を狙って、【解呪】の詠唱を完成させ、あの黒い靄の塊目掛けて放った。



 手から、目が眩むほどの輝きが巨大なレーザー光線のようにして、真っ直ぐ突き進む。

 それは黒い靄の集合体へとぶつかり、火花を散らした。


 だが――



「チッ!! 死に損ないが!!」


 思わず悪態をつく。


 靄はまるで空中にこびり付いたヘドロのようだった。

 それが、光線という水圧洗浄機で洗い流されようとしている。


 ――でも、黒い靄、全てを消し飛ばしきれない。



「リヴィル!! ――≪闇よ、その(かいな)を持って、眠りへと誘え――≫」



 ラティアは機を見て、リヴィルに呼び掛けるべきなのか、それとも詠唱をするべきなのかを敏感に見極め、見えていない俺をサポートしてくれた。


 

「威力が足りない!!――時間は!?」


 

 腕時計のタイマーを見る。

 

 クソッもう一回詠唱して、放って、それで様子を見るのは難しい!!



 攻撃力というか、浄化力が足りない!!



『――“呪い”は、転生のためにエネルギーを吸収します』



 サラが最後に告げた幾つかの注意のうちの一つを思い出す。

 他は何ともなかったが、これだけは乗り越えなければならない壁だった。


 

『最悪、その攻撃を放っている主すらエネルギー源として襲ってきます。――それで、今までの奴隷の主人が、何人も……』


 だからこそ、リヴィルは誰かに助けを求めることも、嫌がったのだろう。


 


 俺の放った【解呪】すらも、触れる瞬間に食っているのだ。

 押してはいる、あともう少しなのだ。


 もっと、その隙すら生ませない力を、浄化力を!!  


 


「うぉぉぉぉ!!」




 俺は腹から気合を入れる。

 それと同時に――




「≪狂人(バーサーカー)≫舐めんなッ!!」




 ――空いている手で、腰に差した『ダガー』を握った。

 そして、自分の服を、切った。





“えーっと……≪狂人(バーサーカー)≫ってのは、具体的には、どんなジョブかわかるか?”


“えっとね? 防御力を低くすればするほど、魔法とか、攻撃とか、の威力・効果がアップするの!!” 



 俺は、ダンジョンとの会話を思い出す。



 

 俺の防御力は、たとえ小さいものだろうと俺の衣服も寄与しているはず。

 今、本当に押している状況なのだ。


 後ほんの少し――その後押しを、気合という根性論以外で上乗せするために、俺はシャツを切り裂く。


 切れ味鋭く、薄手のシャツを首から腹の部分までスパッと引き裂いた。



「グッ!! あと……少し!!」 



 服の切断と同時に、光の勢いが少し、強まった、気がする。

 やはり、あとちょっとで――



「おっらぁあ!! もってけぇ!!」



 

 ――下に履いているスポーツ用のショートパンツにも、刃を入れる。




 グンッ―― 




「ッ!! いけぇぇぇぇぇ!!」




 一度反動で戻ったように見えた光線が、勢いをつけて、靄へと突っ込んでいった。

 そして――




「うらぁぁぁぁぁぁあ!!」




 ――リヴィルを苛む全ての闇を、暗い過去を追い払うかのように。




「過去の亡霊は、消え去れぇぇぇぇぇえ!!」




 ――【解呪】が生み出した光線が、全ての黒い靄を、打ち払って行った。

 



 最後、光がリヴィルにぶつかり、彼女のこれからを祈るようにして一際強く輝いて、消えた。












「――はぁはぁ……」





 リヴィルを覆う黒い靄を、“呪い”を。

 全て消し去った後。



 流石に息が上がり、脱力するくらいには疲れていた。

【解呪】一発でこれだけ疲れるってなんだ……。




「……あっ」




 丁度、1分が経ったのか。

 視界の灰色がスーッと薄れていく。

 

 そして、完全にただの伊達メガネと化した。


「――リヴィル!! 大丈夫ですか!? 怪我、してませんか!?」


 ラティアがリヴィルの元へと駆けていくのが見えた。

 まだ俺の姿が見えるようになったと気付いてはいないらしい。



「…………リヴィル」



 俺も、近づいていき、その名を呼んだ。



 

 嵐が過ぎ去るのを待つようにして蹲っていたリヴィルは――

 


「あれ……私……?」     



 頭を上げて辺りを見回す。


 そして、ゆっくりと立ち上がった。


「えっと……これって……あっ! ――ッ!!」



 ――俺の姿を認め、急に飛び込んできた。



「うぉぃっと!?」



 ちょっと、いきなり元気になって、抱き着いてこないで!!

 何とか受け止めたけど、こっちは疲れてんだからね!?

 


「っ!! ――助けて……くれたんだ。二人で」


 

 リヴィルは俺のお腹に頭を埋めたまま、顔を上げずにそう呟く。



「……まあ、な」


「これ……防具もつけないで……一撃でも食らったら、危なかったんじゃないの?」


「……まあ、な」


「……アンタって――“マスター”って……意外とバカな人なんだね」


「え゛ッ」


 ヒドイっ!!

 折角体張ったのにバカって言われた!!


 コラッ、ラティアもそこで微笑まないで!!

 俺ってそんなにアホみたいな顔してると思われてるの!?


 彼女らからすると、俺は万年、鼻水垂らして“ホゲェェ~!”とか言いながら歩き回ってるアホに見えているのかもしれない。



「――ま、まあ……でも……とにかく、リヴィル」


「ん」


 俺の改まっての呼びかけに、リヴィルは顔を上げないながらも応じてくれた。


 そのリヴィルに、俺はこう伝えた――






「――今まで生きててくれて、本当に良かった、ありがとな。これからよろしく」



「ッ!! ……バカ。――うっ……ひぐっ……」



「ちょえぇぇぇ!? な、なんで泣くの!? ――ラッ、ラティア!!」


 何とかしてくれと言う願いを込めてラティアの方へと首を向けると――




「フフッ……良かったですね?」



 めっちゃいい笑顔で見守ってるぅぅぅぅ!!



「いや、良くなくてだな! な、泣いてて宥めないと――だ、大丈夫かリヴィル!? 何か地雷踏んだ!? 謝ろうか!?」


「バカッ……ぅぐッ……うっ……バカッ」


「フフフッ……」 

    


 ラティアも全然介入してくれない!!

 それにリヴィルからはバカバカ言われる!! 


 

 結構頑張ってちょっとは見直してもらえたかなとか思ってたのに!!

 やっぱりボッチはどれだけカッコ良さげに頑張ろうとダメだったぞこの野郎!! 



 ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

これで、一応リヴィルの問題解決、それ自体は終了です。

後1話か2話、事後処理的な話で、多分1章が終わり、かな?


2章以降はダンジョン関連の話や逆井さん達のアイドル関連の話も本格的に動き出す予定です。

まあ要するに夏休み明け以降の話ですね。


ちょっとこのお話で軽い燃えつき感があるので、ごゆるりとお待ちいただければ助かります。



さて、ご評価いただいた数は……518名に!!

ブックマークは5274件に増加しました!!


おおお……増えてます!!


しっかり増えてます!!


良かったです、ホッとしてます!

明日も同じとは限りませんからね!


ここまでご愛読・ご声援いただき、ありがとうございました。

まだ勿論続きますが、今後もよろしくお願いします!!


感想については、少しずつですが返していこうと思います。

一気に……はちょっとしんどいので、少しずつで。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一先ず一件落着ですね。リディルが戦闘面でどう無双するのか楽しみです。 [一言] 不満とは少し違いますが、ラティアは良い子過ぎてあまりサキュバスらしさを感じ無いと言いますか… ラティアは…
[一言] 2歳児の前で全裸露出とは事案ですね。
感想一覧
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