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253.反省してる?

お待たせしました。


ではどうぞ。


『うぅぅ……反省じでまず、反省じでまずよぅ……』



 草の絨毯(じゅうたん)に正座した織部が、鼻をすすりながら謝罪の言葉を繰り返していた。


 DD―ダンジョンディスプレイの画面には怒った様子のサラも映っている。


 普段の従者と主人の関係からは逆転したように、立って腕を組んだサラがその織部を見下ろしていた。



『……ニイミ様、これで大丈夫でしょうか?』


 

 サラに確認され、俺も織部の態度をしばらく観察。

 ……うん、まあサラにもこっぴどく叱られたようだし、今回はこれくらいにしておこうか。

 


「ああ――いいか、織部、織部がどんな趣味嗜好を持とうがそれは自由だ。だがあまりおいたが過ぎるようだと……分かってるな?」



 俺はそう言ってとある本を掲げて見せる。

 傍には他にも沢山の本が準備されていた。


 どれもこれも作者・出版社・形式はバラバラだが、ジャンル・内容だけは似通っている。

 


 その一つを視界に入れた織部は、過剰なまでに怯えた反応を示した。



『ヒッ、ヒィ!? ごべんなざい!! 新海ぐん、ずいまぜんでじたぁぁ! 十分反省じてますので、ぞれだけは! ぞれだけはどうかご勘弁を!』


「…………」


 

 涙で顔がぐちゃぐちゃになるのも構わず、拒絶反応を見せる織部にドン引きする。

 どんだけ嫌なんだよ……。



 俺はチラッとその中の適当な物を視界に入れる。

 そして帯の宣伝文句をサッと見た。





“――胸キュンが止まらない!! 幼馴染の男子高校生に恋する主人公が健気でエモさの嵐!! 幼馴染がいるあなたには必見の超話題!! 青春恋愛マンガです!!”



 そのマンガの表紙には、可愛らしいタッチで描かれた女子高校生の主人公が、頬を赤らめていて。

 幼馴染と思われるイケメン男子へと、熱視線を送っている様子が描かれていた。


 他にも色々あって……。



“純粋な二人の甘酸っぱい恋! 幼馴染相手に主人公の女の子が抱く切ない想い!! 心理描写がとても丁寧に描かれていて、共感せずにはいられない!!”


  

 とか。



“幼馴染は負けフラグ――そんな俗説を完全に否定してくれた作者に感謝! 幼馴染同士の恋ってこんなにも素敵なんだと童心に戻れた気持ちで一杯です!!”



 なんてのもあった。


  

「…………!!」



 適当にマンガを手に取り、パッと織部へと表紙を見せつける。

 すると――



『うっ!? ぐぐっ、な、なんてものを見せるんですか!? や、やめて、苦しっ、息がっ――』



 聖職者に十字架でも掲げられた吸血鬼かってくらい、織部は苦しみだした。


 喉に両手をあてがい、酸素を欲する仕草を見せる。

 かと思うと、今度は体全体に鳥肌でも立ったのかってくらいに両腕で自分の体を抱きしめ、さすっていた。


 

 ……幼馴染との純愛アレルギーかよ。


 まあ仕方ない。

 今回は警告(イエローカード)1回ということで、“幼馴染との純愛物”ジャンルの強制転送はやめておいてやろう。


 別に送られても見ずに捨てればいいだけだと思うのだが、織部はそうしたジャンルのものが自身へと送られてくること自体が嫌らしい。 



 俺は立石に心の中で軽く謝り、織部への成敗を中断した。

 


『驚愕!! あんな、に強かったカンナ、を! 触れる、ことなく瀕死に追いやった!! ロトワ、ハルト(にぃ)が、最強の存在だった!』  


「なんと!? さ、流石はお館様!! ロトワ、ロトワ……感激と驚きで、お館様への、そ、尊敬と忠誠の念が溢れて、溢れて止まりませぬです!!」


「……いやそんなことは良いから、タルラも織部を連れて早く着替えちゃってね、うん」



 ロトワの教育上、非常によろしくない格好を早いとこ着替えさせたいんですよ……。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『そうですか……うん、ですね、良いと思います。ロトワちゃんにも、日本を沢山その目で見て、知ってほしいですし』



 ロトワが一度、未来のロトワを連れてきたこと。

 そしてそのお告げ通り、明後日にダンジョン間戦争を仕掛けることも報告しておいた。



『……安心。ロトワ、そっち、にいたら、大丈夫。ハルト(にぃ)も強い。楽しん、で』 


「はい!! タルラちゃんも、ブレイブ殿との日常、楽しんでね!」

 

 

 うーん……俺としては、出来るだけ織部の影響からは離れて欲しいんだが。


 でも、二人的には織部との関係はこれでOKらしいから口を挟めない。

 織部、タルラをブレイブ道なるものにあんまり引っ張っていくなよ?

 



「――で、そっちはどうなんだ? 近況とか、その他諸々、全体的に」



 俺の報告はそこらで区切り、織部へと話を振る。

 話を長引かせて、また変な方向に戻ってもタルラやロトワに悪影響になるしな。



 織部がどこからどう話そうかと頭の中で整理するように間を置く。

 急かさずに待っていると――




『――あっ、旦那様、(わたくし)、タルラの件で一安心したら、少し立ち眩みが……』



 …………。 

 

 画面の端で下手な芝居を打っているオリヴェアが目に入った。

 


『あぁ、予備の物はルーネに預けてしまっていたのでした。どうしましょう……このままでは、私、喉と心の渇きでどうにかなってしまいそうですわ』



 飲んだら飲んだでどうにかなっちゃうでしょ……。



「……隊長さん、どうすんのこれ?」


 

 いや、俺に聞かれても……。


 ってか露骨な“血、ちょうだい!”だな……。

 チラチラとこっち見てきてるし。



 ……おい織部、何でそこは我関せずなんだよ。


 不作為によるサポートか?

 くそっ、同類に甘い奴め。




「あ~分かった分かった。この話が終わったらまた送っとくからさ」



 オリヴェアは俺の言葉を受け。

 花の贈り物でもされた箱入り令嬢かのように、胸の前で両手を合わせて笑顔を輝かせた。


 ……こういう姿は素直で可愛らしいんだけどな。 



『まあ! 嬉しい! あっ、その……お恥ずかしい、なんだか催促してしまったみたいではしたないですわよね?』

  

  

 笑顔から若干の照れ笑いに変え、オリヴェアはバツが悪そうにした。

 うーん……やっぱり吸血鬼って大変なのかな。



 普通の人ならオープンにするのを避けるような、エロいことに関して。 

 ラティアがサキュバスとして、日常と切っては切れない関係にあるように。


 オリヴェアも血……まあ異性の血液のことになると、少し自制が利かないのかもしれない。



 そう思うと、少しは大目に見てあげるか、という気になる。



『いつもいつも貰ってばかりで、旦那様には何も返せていないのがとても心苦しいです。ですので――』



 オリヴェアは退散する前に、恥じらいを含みながらもまっすぐと俺の目を見て告げた。



『私の純潔――それだけは旦那様に捧げようと決めております……キャッ、恥ずかしいですわ!』


 

 …………。

 ――はっ!?

 


 我に返ってササっと周囲を確認。

 ふぅぅ……ラティアはいないな。

 

 聞かれていたら何を企むか分かったもんじゃない。

 そうして安堵しているのも束の間。


 オリヴェアは反応も待たず、恥じらいに赤く染まる頬を隠すように、手を当てて去って行った。



「……普通にしてれば、ちゃんと綺麗で可愛い奴なのにな。それこそアイドルの時のカオリと似た雰囲気、結構あるじゃん、なぁ隊長さん?」

   

 

 ……レイネよ、とても答えにくいことを聞いてくるでない。



 それ、うんって答えちゃうと色々と各方面に対してマズいから。


 具体的にはかおりん、異性の血を飲んだらハッピーになっちゃう人と共通項持つって言っちゃうことになるから。



「まあ……しょうがない部分もあるからな、温かく見守ってやってくれ」


「はぁ、まあそんなもんかね。ルーネを助けて貰ったことは恩に感じてるからなぁ……。後はあたしみたいにいつもしっかり者になってくれれば、言うこと無しなんだろうけど」


「…………“いつもしっかり”ですか?」



 こ~らロトワ、ややこしくなるから、レイネの言葉に引っ掛かりを覚えない!


 純粋な瞳による疑問の視線は、時として人を傷つけることにもなるから。


 使いどころはちゃんと区別をつけるように。

 お館様との約束だぞ!



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「――へぇぇ~。俺ってそっちじゃ“お尋ね者”になったのか」 


 

 懸賞金何億ベリーだろう……うん、海賊だったとしても俺だもんな、そこまで高くないか。


 織部からの報告を聞きながら、そんな他人事のような感想を浮かべていた。


 

 ただ、それがもしかしたら顔に出ていたのかもしれない。


 

『もう! 新海君、“へぇぇ~”って! そんな吞気な!! あの勇者達、もうカンカンですよ! 勇者としての顔を使って、大陸中の冒険者ギルドにまで新海君の人相書きを手配してるんですから!』



 そう言って織部が見せたのは、一枚の手配書。

 古びた色合いの紙に、フードを被った一人の男の顔が書かれている。


 だが――



「これがお館様……ですか? お館様はもっとお若く凛々しいお顔付きです! やり直しを要求するです!!」


「いやロトワ、これでいいんだって、隊長さんと全く似てないってところが大事なんだからさ!」



 レイネが、変な所で忠誠心を発揮するロトワを宥める。

 今のレイネの言う通り、似てない手配書を配ってるってところはかなり重要だ。



「そうそう。DDで購入する時、そっちでは俺がどういう風に映ってるのか気になってたが、これならバレっこないって」


 

 顔つきも全く似ていないダンディーなおっさん。

 一瞬ロトワ関連で、未来の俺が、みたいな荒唐無稽のことを考えた。


 しかしこれは俺と、顔の輪郭もパーツも全く違っている。


 要するにDDの作った仮人格みたいなもんだ。

 DDの存在を知っていないとたどり着きっこないと言えた。



『……まあ、そうですし、バレても地球(そっち)にいる以上絶対に安全でしょうけど』



 とは言ってくれるものの、織部は不服そうに唇を尖らせる。

 俺を心配してくれているという気持ちもあるのだろうが、何というか……。   



「勇者が好き放題してて気に食わないのは分かったから。今後は織部の方が凄いんだってとこ、俺達に見せてくれたらいいからさ」


『新海君……』



 実際、先程の戦闘は見事だった。

 織部は俺が見てきた中でも一番強いと言えた。


 俺も加わってなおかつ、ラティア達ともパーティーを組んでガチで戦って、ようやく可能性が出てくるか、くらいかも。

 それほどの強さがあるんだから、あんな勇者なんかには負けて欲しくない。


 その気持ちが伝わったのか、織部は吹っ切れたような笑顔を浮かべて、力強く頷き返した。



『――わっかりました! 任せてください! 異世界に織部柑奈その人ありと言われるくらい、私の存在を知らしめて見せます!! あんな勇者擬きには負けませんよ!!』


「おう、その意気だ!」



 …………あれ?


 自分で盛り上げといてなんだけど、ちゃんと実力で名声を勝ち取れって意味だって、分かってるよね?


 別にさっきタルラにやってたようにブレイブ道を広めろって意味じゃないからな!?



 そんな不安を抱きながらも、織部のテンションが下がらないよう気を付けながら通信を切ったのだった。


 

「はぁぁ……不安だ」






 ……あっ、血を送らなきゃ。

 

 

おそらく次話からダンジョン間の戦争3つこなして、ロトワが安心して外に出られるようにするお話をして。

その後はまた逆井さん達アイドル・ダンジョン探索士関連の話になるかと思います。


うーん……織部さんめ、いつも出てくる時は暴れおって!

もうちょっと大人しくしてほしいと思う反面、大人しい織部さんって、そんなの“織部”の概念崩壊だし……と悩む今日この頃です……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 織部卿の弱点発覚w そして、密かにディスられるたてごん サラ様に物を送っておくと 織部卿の活性化を防げるのではないでしょうかw 異世界にブレイブ道がひろまるのも時間の問題 。。。ってことは…
[良い点] ブレイブカンナの辞書に、自重などという言葉は存在しない! ブレイブカンナの異世界での活動が本格化するってことか…
[一言] >  ……幼馴染との純愛アレルギーかよ。  ローリングストーン君は対織部最終兵器だった……? 幼馴染みが駄目なのか純愛が駄目なのか……いや両方合わさったシナジーが駄目なんだな。うん、ただあん…
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