251.小規模だけど、そう言う工作もあるんだな……。
お待たせしました。
ではどうぞ。
『――フッフッフ、俺のマイスイートエンジェル、花織!! どうだ、そろそろ俺と初の共同作業をする気になったかな?』
「龍爪寺君、“俺の”と“マイ”って実質同じこと2回言ってるんじゃ……」
「ハヤテ、あんまりそう言う細かい所にツッコんでたらキリがなくなるよ?」
こら、赤星もリヴィルも、あんまり龍爪寺をいじめない!
アイツはほらっ、その、色々、あれだろ?
帰国子女とか、いきなりアイドルグループリーダーになったり、大変なんだよ。
だから、ちょっとあれがあれなことは気にしないであげること!
『フフッ、いいえ、お気遣い痛み入ります。チームで頑張って勝つことに意味があると思っていますので、もう少し自分達の力だけで頑張ってみますね?』
「流石は花織様……探索士アイドル同士という強みを生かしてアタックしてくる相手に、全くの赤の他人モードで相手してますね」
「一応今回に限っては同チームなはずなんですけどね……もはや他の有象無象のアイドル達と同列扱いっすよ、えげつないですね……」
椎名さんの呟きに全く同意するように、俺も志木の対応を達観するような心持ちで見ていた。
そんな中でも、桜田や飯野さんは懸命に自チームを勝たせようと体を張っている。
『やっ、とう! ふふん、水の上だろうと、板があるならこっちのものです! さてさて、クイズの中身は……――えっ、“アメリカの首都”? えーっと……うわっ!?』
水上の浮遊板を駆け、クイズの書かれた紙を一番にとったまでは良かった。
が、そこで他のチームが追い付き、特に桜田だけを狙ったタックルがなされる。
水に落ちてしまい、またスタートからやり直し。
他のチームが先にゴールしてしまい、そのクイズで勝つことはできなかった。
いや、君ら仮にもアイドルでしょう?
タックルといい、水への落ち方といい体を張り過ぎじゃない?
テレビに出たくて出たくてしょうがない売れない芸人さんかよ。
「うーん……やっぱり純粋な運動勝負じゃない、ってところがネックになってるね。妨害も凄いし」
赤星の言う通りだった。
飯野さんの番でも殆ど同じで。
シーク・ラヴを狙ったように、他のアイドル達は共闘して妨害を行う。
互いに潰し合うと、結局は総合力の高いシーク・ラヴとRaysのチームが勝つと分かったのだろう。
それよりは、と大人の判断をした結果がこれだ。
ただ一方で、勝ちに拘っているという風でもない。
「あっ、あのアイドルの人、チハヤお姉さんに手を差し出してるけど……」
「……純粋なスポーツマンシップ、みたいなものだと良いんだろうけどね」
ルオが指差した場面に、赤星は苦笑を浮かべて答える。
引き上げられた桜田……自身は普通に感謝を述べつつも志木の様子を気にしていた。
映像がそれで切り替わり、志木の姿を映し出す。
その助けたグループの司令塔的な役割りをする男性に話しかけられていた。
……凄いな、顔に出してないけど黒かおりん検定段位持ちの俺にはわかる。
あれはかなり面倒臭がっているな、内心。
「……要するに、どこも自分達を積極的に売り出したいんですよ」
椎名さんが呆れ顔をして番組を見ながらも、俺達相手に解説してくれた。
「ゲームに勝てばそれはそれで宣伝権が手に入りよし。逆にシーク・ラヴのメンバーに恩を売れればバーターで他のメディアに露出できるかもしれない、だからこれもよし……まあそんな心中なんだと思いますよ」
「ほらっ、見て、あの他のアジア出身の男性アイドルグループ、殆ど志木さんやチハ、美洋さんを助けようと動いてるでしょ?」
赤星が補足するようにして、あるアイドルグループのメンバーに注目するように告げる。
その言葉通りしばらく彼らの動きを見ていると、確かに。
そう思って見ると、もうそう行動しているとしか思えないように見えた。
「……カオリみたいな絶世の美少女とお近づきになりたい、なんて単純な事じゃないんだよね?」
「あはは、うーんと……まあそういう下心も多分あるかもしれないけどね」
赤星が少しだけ言い辛そうにしたのを感じてか、椎名さんが代わりにその先を口にする。
「要はあれらも。言葉が強くなりますが、スパイ・工作活動の一環なんですよ。花織様と親しく、あわよくば男女の関係になって、更にダンジョンについての情報も得たい、という下心満載のね」
「なるほど……まあそんな感じだろうね」
リヴィルが薄々は感じていたように、俺も何となくそんな感じだろうとは思っていた。
志木達を助けようと動いているのは、異性のアイドルグループたちが多い。
アイドルというだけあって、どれもこれもイケメンな奴ばかりだ。
反対に、Rays――木田や龍爪寺を手伝おうとするのは逆の女性アイドル達。
志木達さえいなければ普通に注目を集めるだろう可愛い・綺麗な容姿をしている女性が多数を占める。
つまりハニートラップとまではいかないかもしれないが、少しでも印象を良くしたいと。
そして彼らの裏に単なるアイドル事務所以上のものがあるのなら、それはダンジョン関連についての下心まで含まれているのだろう。
「まあ確かに歌も上手かったり、純粋にカッコいい人も多いと思う。でも志木さん達に限ってはハニートラップは効かないと思うけどな……」
「でしょうね……なまじ容姿が良い人たちだというのは事実なので、それがためにかえって下策だと気づけないのが可哀そうですが……」
赤星と椎名さんの分かり合ったような会話に口を挟めず、しばし沈黙する。
……?
要するに……志木は芸能界の人はあんまりお好みじゃない、と?
だから顔が良かろうが悪かろうが、そもそも男性アイドルからアプローチ食らっても意味ないのに……みたいなことでOK?
「……マスターもマスターで意味を若干取り違えてそうだね」
「新海様のこのご様子ですと、リヴィル様のお言葉通りでしょうね」
……何なの二人して。
椎名さんから毒づかれることはまあ慣れてるけど。
リヴィルもたまーにこういう残念そうな顔して俺を見るんだよな……。
わ、分かってるって、俺も!
えーっと……あれっしょ?
志木は……普段黒かおりんで腹黒い相手はもううんざり。
だから、混沌とした芸能界にいる人じゃなくて、一般人男性の方がお好みだ、と。
……た、多分こうでしょ?
「……はぁぁ」
「チッ、鈍感系主人公でも気取ってるんですか?」
溜息と舌打ち!?
酷い……真面目に考えたのに……ぐすん。
「――あっ、凄い凄い!! あれっ、いつの間に逆転してたの!?」
「おぉぉぉ!! 凄いです、大逆転です! 御姉様達が勝ちました!!」
ルオと皇さんの喜ぶ声に反応し、再び画面の方に意識を戻す。
確かに、二人の言う通りゲームは終了していた。
それも、いつの間にか志木達のチームの青が一番多いという状況になって。
「……他のアイドルグループたちはどうやら我が強すぎたようですね。烏合の衆ですし、知らず知らずのうちに自滅していたんでしょう」
青色を除くパネル画面は、様々な色が混在していて、何とも見辛いものになっていた。
つまり……。
『それでは、勝者の“シーク・ラヴ”&“Rays”チーム、最終のパネル獲得枚数は9枚、90秒ですね。では好きな宣伝をどうぞ!!――』
『はい、私たちはダンジョン探索士として今度、ダンジョン補助者の方に同行してもらい、ダンジョン攻略をすることになりました、再来週ですね……』
志木が代表して説明した後、Raysのリーダーではないはずなのに藤さんが話を継ぐ。
『補助者の方だけでなく僕自身も実際の攻略はまだできていないので、今から緊張でドキドキしてます。“シーク・ラヴ”の皆さんの足を引っ張らないよう注意しますね』
たっぷりと得られた時間を上手く使い、視聴者の印象に残るよう色んな表現、話を使って宣伝していった。
――なるほど……最終的なこの状況の絵を描いたのはあの二人、かな。
志木は司令塔の位置にいながら意外にも、クイズの正解率が結構低かった。
対する藤さんは目立たないものの、クイズの正解率は8割を超えていた。
「…………」
俺はあまりはしゃいでいるわけではないながらも、嬉しそうに志木達の勝利を祝っている赤星を見た。
要するに、志木がやったのはいつもの赤星と志木との連携そのものなんだろう。
自分が目立って目立って目立ちまくり、注目を出来るだけ集め。
その隙に、自分以外の切れ者を暗躍させる。
言い方は悪いが、あのメンバーの中で頭を使える彼を自由にさせて、最終的に勝てるように仕組んだのだ。
『あ、あの……花織、冬夜? そろそろこの俺様が宣伝の大役を引き受けても良いんだけど――』
『ごめんなさい、もう少しで終わるからちょっと静かにしていてくださる? 後、私、しつこい人はあまり好きじゃないの。まずは苗字で呼んで下さる?』
『あっ、ハイ』
ただ悲しいのは、その役に抜擢されたのがリーダーの龍爪寺ではなく、藤さんだったということだ。
志木ぃぃ……龍爪寺への扱いがががが……。
改めて志木の凄さを実感したとともに、どうでもいい相手へのつれなさも同じく感じさせられたのだった。
他にも表には出てこないような接触や懐柔など、色んなことを志木さん達はされているんだろうな、というお話でした。
まあお金は志木さん達困ってないし、異性――ハニートラップは特に意味をなさないし……。
協力させたい他国だったり、何らかの組織だったりは頭を抱えるでしょうね。
次話では織部さん達のお話に触れていく予定です。
そこまで話数使うことはないと思うんですが、うーん……どうだろう。




