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249.えっ、あれっ、どうしたんですかいきなり!?

お待たせしました。


ではどうぞ。



「へぇぇ……静かでいい所だな」



 郊外にある閑静な住宅街。

 そこにある少し古い外観の一軒家。



 その中に招かれ、簡単に辺りを見回してそう告げる。 



「うん。私は新海君の隣のお家にも早く行ってみたいと思ってるんだけどね」



 赤星は先を案内してくれながら、面白い世間話で間を繋ぐ。


 そして着いたリビングでは、手慣れた様子で冷蔵庫を開けた。

 既に勝手知ったるといった感じで、中から飲み物を取り出し、コップに注いでいく。 



「でもさ、ここはあそこと違って“シーク・ラヴ”が契約してる場所じゃないんでしょ? ……あっ、ありがと」


 

 お茶を受け取りながら、リヴィルは視線を盆へと移す。

 そこにあるのは俺とリヴィル、そして赤星自身を除いた3人分。


 つまり、上の階で既に待ってくれているルオ達のものだろう。



「リフォーム費用を持つことを条件に借り上げた家の一つだって、皇さんからは聞いてるんだが」



 俺の家の隣、空木が多くの日をそこで過ごしている借家。

 あそこが“シーク・ラヴ”全員が利用するのを想定していることとは違って。


 ここは借主が志木達の事務所で、所謂(いわゆる)志木達の事務所のメンバーが利用可能だと聞いている。



 色んな所に仮宿を設けるのは勿論、彼女たちへの福利厚生という意味もあるだろう。


 ただ志木からは以前に、別の意味もあるということを聞かされていた。


 メディアなどで露出の多い彼女たちだ。

 単独・少数の場所にとどまるよりは、複数の場所を転々と出来る環境を用意した方が、プライベートも確保しやすいだろうと。 




「えっと私もそう言う風に聞いてるかな……細かい話は椎名さんの方が詳しいから、後で聞いてみたらいいと思うよ」



 赤星はそう答えつつ、素早くお菓子の袋も幾つか選んで盆に乗せる。

 そして粗方の準備を終えると振り向いて、笑顔を見せた。



「それにしても。ルオちゃんだけじゃなくて、新海君とリヴィルちゃんも泊まりに来てくれるなんて凄く嬉しいよ」


「ふ~ん。ハヤテとリツヒ、後シイナも。普段3人で話さないわけではないんでしょ?」 


「うん。でも律氷ちゃんと椎名さんとの女子3人だけだと、ちょっと静か過ぎになると思ってたからさ」

    

 

 なら、ルオの突然の発案も悪くはなかったわけだ。

 ……まあ俺は本当は皆が寝たらその間にこっそり帰るつもりだけどな。







「――あっ、陽翔様!! それにリヴィル様も、ごきげんよう」


 

 俺達の入室に、皇さんが真っ先に反応する。

 お嬢様な皇さんがこうした普通の家の部屋にいることに、なんだか不思議な気持ちがした。


 大きめの洋室で、軽く10畳はある。

 その広々とした部屋にドカッと鎮座するのは、これまた存在感ある薄型テレビ。



 ルオと椎名さんがそこでテレビゲームをしていた。



「ああ、こんばんは……3人でゲームしてたの?」


「はい! あっ、先程までは颯様も合わせて4人で、熱いバトルを繰り広げていました!!」



“熱いバトル”なる言葉が皇さんから出てくるのもなんだかおかしく、ついつい笑みを浮かべてしまう。



「ははっ、私も椎名さんも二人にボコボコにされてたけどね」 



 まあ赤星はともかく、椎名さんは完全にルオと皇さん相手だから接待プレイだろう。



「あっ、ご主人、リヴィルお姉ちゃんも!! ――ってうわっ、やった!! リツヒ、何かよくわからないけどシイナお姉さんを倒したよ!!」


「わわわ~、流石ですルオ様、これは敵いませんね~」


 

 ……凄い棒読み。


 気分良くさせて、あわよくば“ナツキ・シイナ”の際には手心をお願いします、ということだろうか。



 むしろルオのことだ、テンション上げたら余計酷くなるだけだと思うけどな……。



「……おや新海様、こんばんは、いらしたんですね?」



 ……いや気づいてたでしょうに。


 ってかさっきまで楽し気に接待プレイに興じてたじゃん。

 いきなり光のない瞳で俺を見るの止めてくれません?




「はぁぁ……どうも。今日は志木達が出る番組、ここで皆で見るんでしょ? 椎名さんが言ったんですよ?」


「そう言えばそうでしたね、うっかりしておりました……定期の情報交換の場という意味でもありましたが」

  

   

 白々しい。

 そんな態度が続くようですと、こっちにも考えがありますよ、椎名さん?



 俺もうっかり口を滑らせて、ルオに“【影絵】【影重】の良い練習だ、椎名さんの再現、頑張るんだぞ!”と一声かけてしまいそうになるな~。




「…………」



 ……ん?

 何でスマホを取り出して……。


 

 

 ――ちょっ!?

 

 

 電話が来たと思ったら、着信音・表示共に椎名さんを示すものだった。



「椎名さん!? 目の前にいますよね、俺!? 言いたいことがあるなら文明の利器に頼らず、口で伝えません!?」 


「おっと失礼。ただ……新海様、私の着信音、素敵な音楽を設定されていますね。参考に何のものなのか、お教えいただけないでしょうか?」



 クッ!

 

 ルオへの告げ口に対する牽制か!!



 ……し、仕方あるまい。

 今回のところは、口を滑らせるのは思いとどまろう。

 


 ……いや、だって方針が“命大事に!!”だし!!

 ビ、ビビってないし!!



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『お兄さん、早速ロトワちゃん、高度な虐待で苦しんでますよ~!』



 週末夜の楽しい時間が始まってしばらくして。

 俺の下に届いた1通のメールを皆で見ていた。



 丁度ロトワの話もしようと思っていたところに、誤解を生む“虐待”という表現。


 それで一瞬だけ変な空気になる。

 が、同時に添付されていた動画を見て、直ぐにそれは霧散(むさん)した。



「あ、あはは……“虐待”って……」


美桜(みお)様と一緒に、美味しそうに干芋(ほしいも)を食べて……る? えっ、“虐待”って……?」


「大丈夫ですよ、お嬢様。空木様も新海様も少々言葉の使い方が特殊なようです。お嬢様の理解で合ってますから」



 俺とリヴィル、そしてルオが留守にするということで。

 ラティアやレイネも対抗するではないが、ロトワを連れて、隣の空木とお泊り会を開いていた。



 その動画では、ロトワが小さな口にこれでもかと干芋を加えていく。



『う、うぅぅ……! お芋って、こんなに甘くて美味しいものなのですか!? ロトワは、ロトワはお腹が一杯なのに! 手が、手が止まらないです!!』


『フッフッフ……ロトワちゃん、ウチが教祖を務めるお芋教への入信、歓迎しますよ。もうロトワちゃんはお芋無しでは生きられない、淫らな体へと改造されてしまったのです!』


「ミオ、ノリノリだね……」


「はは……“お芋教”って何だろうね」



 リヴィルと赤星が揃って苦笑しながら呟く。 

 こんなバカみたいな動画でも笑ってられるのは、映っている当人たちがとても楽しそうだから。



 特にロトワは未だ会って数回のはずの空木に、とても気を許している。


 それがわかっているので、こちらも和むような空気で見ることが出来た。


 俺はこの雰囲気に背を押されるようにして、ロトワに付いて知らせておくことに決める。



「えっと、この子が、話そうと思ってた“ロトワ”って子なんだけど――」



 動画はそのままにしておきながらも、ゆっくりと話し始める。

 

 赤星や皇さんは勿論、椎名さんもそこは口を挟まず。

 ただ俺が説明するのを黙って聞いてくれた。

 

 

「――というわけで。色々と難しい事情もあって、ロトワも特別な力はあるんだけど、そこは出来るだけ関係なく仲良くしてあげて欲しい」


 

 具体的に未来の自分を連れてくることが出来る、とまでは言わなかった。

 ただラティア達の例に漏れず、赤星や皇さん、椎名さん達の想像を超えるような力の持ち主だとは説明しておいた。


 

 その上で俺は、妹でも溺愛(できあい)するかのようにはしゃぐ動画の空木を見る。

 未来のロトワのことを知ってもなお、空木は変わらず楽し気にロトワとはしゃいでいた。



 1週間以内には手頃なダンジョンを3つ見繕って、未来のロトワのお告げ通りダンジョン間戦争を仕掛けるつもりだ。

 その時までに空木とロトワの仲が良くなってくれるのに、悪いことはない。

 


「……うん、分かった」



 俺の意図を汲み取ってくれたのか、赤星も動画に視線を向けながらもそう頷いてくれた。



「えと……勿論私も! その、えと、あの! 狐さん、ですよね? お耳と尻尾は触ったら、ダメなんでしょうか!?」


「え? あ、いや、どうだろう……」

 

 

 皇さんも肯定してくれたが、予想外のところからの質問が飛んできた。

 どう答えるべきか迷い、ルオとリヴィルに視線で助けを求める。



「え!? うーんと……ボクはレイネお姉ちゃんと一緒に触らせてもらったけど……でもなんか“今度からは1モフモフ必要です!”って言われたし……」


 

 え!?

 あれってそもそもロトワ発だったの!?  


 

「私はまだ触ってない、かな? 今度マスターと一緒にいる時に頼んでみたら? 案外簡単に触らせてくれるかも」



 リヴィルの適当な提案を受け、皇さんは輝くような笑顔を浮かべる。

 そんなにケモミミとケモ尻尾が触りたいのか……。

 


「そうですか! わ、分かりました! で、でも先ずはお友達になってから、それからお願いしてみようかと思います!」


 

 今から既に期待で胸を膨らませている皇さんに驚いていると、椎名さんがコソッと耳打ちするために近づいてきた。



「……御嬢様、子犬や狐みたいな可愛い動物が大好きなんですよ。でもご実家では触れ合う機会もなく……なので獣人、ですか? そのロトワ様とお会いするのが楽しみでしょうがないんですよ」



 あっ、いや、うん。

 それは分かったんですが……椎名さん、貴方俺に耳打ちって……。


 こんな息遣い聞こえる距離に近づく程、互いのパーソナルスペース近かったですっけ?


 いや、単に皇さんに年の近しい新たな友達ができるかもしれない、それが嬉しいだけ、なのかもですけど……。




「そ、そっすか……良かったっすね」


「? フフッ、何ですかその変なリアクションは。おかしな人ですね」



 えっ!?

 し、椎名さんが俺との会話で、純粋な笑みを見せた!?



 いつも毒舌で、俺に対しては容赦ない、あの椎名さんが!?


 クールで大人っぽい、いや既に成人なのに“ナツキ・シイナ”でアイドルデビューする羽目になった、あの椎名さんが!?


 ルオが再現している間に“きゃぴ☆”で親友の逸見さんから腹筋崩壊するほど爆笑されていた、あの椎名さんが!?




「――なるほど。新海様、つまり命はいらないということですね。安心してください。遺書には“生きるのに疲れました。どこかの樹海へ彷徨(さまよ)ってきます、探さないでください”と書いておきますから」


「いやいりますよ!! 命大事に!! ってか安心できる要素一切ないんですけど!?」



 って待って待って近い近い近い!!

 ただでさえ顔が近かったんだから、そんなに顔近づけないで!!

 

 怖いのもあるけど、さっきの笑顔の残像がまだあるから!

 それで近づかれると、ちょっとドキっとするから!!



「……ハヤテ、いいの?」


「うーん……これは密告案件、かな? ――律氷ちゃん、椎名さんが……」



 視界の隅で、赤星が何かを皇さんに耳打ちする。

 それで興奮から戻った皇さんが、こちらを振り向いた。



「えっ? 椎名が? ――あっ!! 椎名、陽翔様と何を話してるの!? というか近いです! 接近し過ぎです! 伏兵認定です!!」


「なっ!? 違っ、御嬢様、違います! ただちょっと新海様が良からぬことを考えてそうな顔をしていて――」


「言い訳無用! 全く、椎名はツンと見せかけて、私が見てない時にどうせデレっとしているんでしょう。伏兵です。紛うことなき伏兵です!」


「そ、そんな~!!」



 なんだかよく分からないが、危機を回避できたようだ。



「……ハヤテ、ちょっと悪い顔してる」


「……ハヤテお姉さん、なんだか嬉しそう」


「え? 何のことかな? 良く分からないや……フフッ、伏兵って、何だろうね……」



 ……赤星、自分も良く逆井に“伏兵”とか言われるから、椎名さんを道連れにしたな。


 

 そんな他愛ないあれこれがあって、志木達が出るバラエティー番組が始まる時間となったのだった。

次話では志木さん達が出ている番組を皆で見る回となります。

これは多分次の1話で終わるはず。


それで、その後はまたちょっと織部さん側の話に戻る、かな?

更にその後にロトワのためにダンジョン間戦争3つやる、という予定になるかと。


あくまで予定ですけどね!

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― 新着の感想 ―
[一言] >  ……まあ俺は本当は皆が寝たらその間にこっそり帰るつもりだけどな。 →しかし まわりこまれてしまった!  な展開しか予測できないな! > 「美桜様と一緒に、美味しそうに干芋を食べて………
[良い点] 椎名さんってまじで伏兵じゃん新海くんがあんな反応するなんて…… [気になる点] 新海くんがドキッとするのかなり珍しくないすか? てことはこれフラグ建ったんじゃね?(新海くんの) そういえ…
2020/07/29 23:56 え~シィー
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