247.えっ、何その単位!?
お待たせしました……。
4連休、忙しくて……すいません。
用事自体はちゃんと終わらせたのですが、その疲れで昨日は1日中お休みしてました。
ではどうぞ。
「うわっ……本当に一瞬で、違う場所に移動しちゃった……」
DD――ダンジョンディスプレイの転移機能。
それを使っての瞬間移動。
実際にその機能を体感した空木は、感心するというより、若干引いた目をして俺を見てきた。
……何だよ。
「……お兄さんが、理解の及ぶ範囲での不思議な力を操るってのは分かりました。ただここ……」
空木は周囲をグルっと見回す。
10年後――つまり20歳のロトワのことは勿論、ラティアやレイネを含め、視界に入れて。
そしてここ、京都の修学旅行で訪れたダンジョン内を観察して、一歩分、身を引いた。
「……いかがわしいこととかに使ったりしてません? 人気ゼロですよ? もしかしてウチら、今からえっちぃ目に遭わされたり?」
「遭わねえよ!?」
思わずツッコんでしまう。
「え~。だって一瞬でこんな誰もいない場所に移動できるんでしょ? 声を出しても誰にも聞こえないような所に……はっ!? まさかお兄さん、既にここで梨愛ちゃんや颯ちゃんとかとイチャコラしてたり!?」
「その逞しい想像力が羨ましいわ!!」
そんな使用法の発想すらなかったぞ!!
「あはは!! やっぱりミオちゃん面白いね~! どうどう? お館様の彼女になっちゃったりしない? なったらずーっとお姉さんも一緒にいられて嬉しいんだけどな~」
悪戯っ気のある笑みを浮かべたロトワに後ろから抱き着かれ、空木は驚くと同時に顔を真っ赤にする。
「なっ!? お、お兄さんの……か、彼女!?」
発言そのものにも混乱したようだが、ロトワに密着されていることそのものも落ち着かないらしい。
まあ20歳のロトワはそりゃ大層美人だからな、同性であってもボッチ気質の空木には刺激が強いんだろう。
「おーい、ロトワ、あんまり空木を困らせるなって。――空木も、あんまり真に受けるなよ? 揶揄ってるだけだろうから」
「むっ!」
「むむっ!」
……何で二人ともちょっと不満そうな顔?
えっ、助け舟を出したつもりだったんですが……。
「もう~お館様ったら。そんなんだからラティアちゃんがいつまで経ってもエロさに際限なく磨きをかけちゃうんだぞ?」
「え゛」
何その暗示!?
ほぼ反射的に振り返ってラティアを見た。
「?」
が、そのラティアは“はて、何のことでしょう?”と言わんばかりのとぼけた顔。
クッ、今の俺が未来の俺を苦しめることになるというのか!?
せめてもの抵抗として、ロトワの発言に噛みつくことにする。
「えっとな、ロトワ。無理しなくても良いんだぞ? 未来のことを口にするのはトラウマとかあって辛いだろう? ただゆっくりと普通に過ごしてくれさえすればいいんだからな?」
建前として、しっかりと笑顔で気遣う。
その実、違う意味でも“未来のことは口にせんでいい!”との本音も混ぜて告げておく。
何か意図的に俺の悲惨な未来だけを選んで言ってないか!?
「え? あはは、お館様はやっぱり優しいな~。うぅ、お姉さん、嬉しすぎて涙が出てきちゃいそう」
対するロトワも手強い。
目元を指で拭って見せる仕草は、それだけで異性はおろか、女性に対してまでも同情と溜め息を誘うだろう。
俺の懇願の視線は素知らぬフリをして。
ロトワは気丈に振る舞う健気で儚い美女を演じる。
「でもロトワ、頑張る! そんな優しいお館様だからこそ! ちゃんとロトワの能力を知っておいてもらいたいの! その上でお館様に受け入れてもらえたら、ロトワ、嬉しいな!」
ぐぬぬぅぅ!
正論で攻めてくるとは、ロトワ、小癪なり!!
悔しさ混じりに睨みつけようと、ロトワの笑顔は揺るがない。
くそっ、これ、絶対ラティアの影響受けてるぞ!!
「――えーっと……まあとにかく。このお姉さんがさっきのケモミミちゃんだってこととか、お兄さん達が不思議能力の使い手だってことは理解しました」
無言の牽制のし合いを仲裁するように、空木が自身の理解をそう纏めて告げた。
仕方なくここは引き下がることにする。
空木の件が問題なく収まりそうなので、ここに来た本来の目的を果たすのだ。
チッ、ロトワめ、この恨み、必ず晴らさせてもらうぞ!!
幸福の波状攻撃にて……10歳のロトワへな!!
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「なるほど……ロトワちゃんはつまり、両親と早くから離れ離れになった、ウチに似たとても辛い境遇を持つケモミミ少女だと?」
「ああそうだ……フフフッ、どうだ、空木。ロトワの姿が戻ったら――一緒に“虐待”してやらないか?」
そんな強い言葉を聴いて、しかし。
空木はかえって嬉しそうに笑みを浮かべた。
「お兄さんも悪い人ですね……ウチ、そんな可哀そうな過去を知ったら、“虐待”せずにはいられませんよ? フヘヘ……」
どうやら空木のやる気スイッチを押してしまったらしい。
ああすまん、ロトワよ。
これでロトワを幸せにするための人員が増えてしまうなぁ……フフフッ。
「……ご主人様とミオ様、悪そうなお顔をなさってますね」
「まあ二人とも、顔の悪さに反してやることはショボそうだけどな……」
何を言う、レイネよ!
同じく早くに両親と離れ離れになった経験を持つ空木の心に、大きな大きな火をつけたのだ!
そりゃもう、ロトワを甘々に可愛がり――違った。
悲鳴を上げたくなる程の虐待に遭わせてくれるさ!
「フフッ……」
当の本人はそんな俺達を楽しそうに、そして懐かしむように目を細めて見ていた。
ずっとこの光景を見ていたいというように。
「あっ――っ!」
だけども俺と目が合って。
時間が限られていることを惜しんでいる、それをバレたくない、見抜かれたくないというみたいに目を逸らした。
…………。
「じゃ、じゃあさ! 発表しちゃうよ! お館様が今一番困ってそうなこと――それを解決できる未来知識をお教えしちゃいま~す!」
クルッと一回転したロトワはこのダンジョンの奥――隅っこで固まって遊んでいる狐モンスターたちを指差ししてみせる。
今回は演技でも何でもなく、純粋に無理して強がって見せている様に見えた。
……しかし、今は言及しないでおく。
「ささっ、コンコンちゃん達、こっち来て!」
ロトワのかけた集合の合図に、あの狐のモンスター達は素直に従う。
まるで言葉でも通じているみたいに、その細かな指示にもちゃんと応じていた。
その10匹ほどが輪を作り、ロトワはその中央に立つ。
「はい、じゃあ今から実演しま~す! 何を解決するのか、正解できた人には“1モフモフ”あげちゃおっかな!」
そう言ってロトワは自分の尻尾を揺らしてみせる。
要するに正解したらあれに触らせてくれるということらしい。
「あっ、お館様、勿論言ってくれればいつでも触ってくれていいよ? ただ、激しいのは……二人っきりの時にしてね?」
いやしないから!
尻尾を触って激しいことって……そもそも何!?
はぁぁ……。
時間ないんでしょ?
やり取りを楽しんでくれてるってのは分かるけど……大丈夫なの?
「あはは、ゴメンゴメン。楽しいからさ、ちょっとお茶目が過ぎちゃった。じゃあ改めてやるね――」
舌を出して謝った後、ロトワが目を閉じる。
ロトワの雰囲気の変化に呼応するように、狐達の周囲から白い煙がモヤモヤっと立ち上って来た。
あれは……?
「≪幻霧よ、真実の姿を、覆い隠せ――≫」
霧がロトワの姿全体を覆いつくす。
視界は白い霧に包まれ、ロトワが見えなくなった。
「――【フォグ・イリュージョン】!!」
魔法が完成した瞬間、その霧全てが風に吹き払われるかのように消し飛ぶ。
そして、ロトワが姿を現した。
「……? 何か変わり、ましたか?」
パチクリと目を開閉させ、空木はロトワを注視する。
が、違いがあるのかどうかすら全く分からないらしい。
間違い探しの前後で、何一つ違いを見つけられない人のように困った様子で唸っていた。
「ふふ~ん、さてさて、どうでしょう? ヒントは……この段階では多分、まだお館様が解決できてない、でも解決したいな~と思ってる部分、かな?」
ロトワが何度も異なったポーズをとり、その違いに早く気付いてほしいと自身の体を見せつける。
……いや、胸とか生足を見せびらかさない!
そこは変わってないでしょ……だよね?
でもそれを言及すると、そんなにしっかりとさっき胸や脚を見ていたんだ、みたいな話になるので言えない……あっ。
「――あれ? “耳と尻尾”は?」
そう告げた瞬間、ロトワはニィィっと笑ってお尻をこちらに向ける。
そして異性を誘惑するようにその腰を突き出し、ゆっくりと振った。
「お館様、せいか~い! 10歳のロトワじゃ無理だけど、未来のロトワはなんと! 耳と尻尾を隠す方法を知っているのでした!! お館様、“1モフモフ”ゲット!」
いや、だからいらないって!!
本当はもっと進みたいんですが……うーん、なかなかうまく進まない。
次のお話ではもうちょっとグイっと進む……はず!




