246.えっ、ロトワ……でいいの!?
お待たせしました。
ではどうぞ。
「ん? ――はい、もしもし?」
授業を終え、足早に校門を出た所だった。
丁度サイレントモードからマナーモードに変更中だったため、着信に気付く。
表示は“家”となっていた。
『――あっ、もしもし、ご主人様ですか? ラティアです』
「おう、どした? 何かあったか?」
一瞬嫌な予感がして、足を心持ち更に速めに動かす。
『大事、というわけではないんです。ただミオ様が訪ねていらっしゃって……』
「へ~空木がか……丁度だな」
今朝、志木からその件についてメールがあって。
で、午後に訪問か……。
『? 丁度、とは?』
ラティアに聞き返され、手短に朝の出来事を伝える。
勿論、お嬢様逆井とギャルかおりんについては伏せて、だ。
……いや、あれはもう俺の中ではキッチリと忘れたから、うん。
『そうですか……では、ロトワと会っても大丈夫、ということで宜しいですか?』
空木は今、月の大半をお隣のシェアハウスで過ごしている。
だからウチに訪ねてくることは前からもあった。
今回ラティアが俺に連絡まで入れてくれたのは、ロトワの件についての配慮があったからだろう。
特に、地球では一番見た目で違和感を持たれるだろうからな。
……ま、まあラティアも今では、あまりの色気ある美貌と体型で視線を集めはするけどね。
「ん。俺も今から帰るから。何だったら家に戻ってから、隣まで行くって言っておいてくれるか?」
『分かりました。そうお伝えしておきます』
それで通話を終了した。
まあ、逆井や赤星みたいに、いずれは空木にも知らせる予定だった。
今朝の件もあるし、丁度いいだろう。
「――ん? メール? ……あっ、空木だ」
電車に揺られていると、空木からメールが届いた。
さっき本人の話をしていたばかりなので、何か家であったのかと心配になる。
吊り革に掴まりながら、溜め息一つ吐いて心を落ち着け。
そうしてメールを開封。
『――お兄さん……ケモミミ少女が好きだったんですか?』
短く一文でそれだけ。
「……えっ、何でそっちでお冠?」
そして添付ファイルを開くと、今朝と同じように一枚の自撮り写真が。
「何これ……最近自撮り写真流行ってんの?」
ウチのリビングにて、拗ねて膨れっ面の空木が映っている。
バックには楽しそうなロトワとラティア、それにレイネがいて。
空木はラティアとレイネと共に、アニマル型のカチューシャをしていた。
「……しかもパンダって何だそりゃ」
ロトワのこととか、ダンジョン関連のこととか。
色んなことを黙っていた、それを怒っているのではなく。
わんこラティアやパンサーレイネと共に、パンダ空木はアニマルコスをして盛り上がっていた。
……なんだかな。
「――お兄さん、お兄さん!! ウチは徹底的な説明を要求します!!」
家までたどり着き、玄関のドアを開けた瞬間。
焦った様子の空木が目の前にいて、しかもそんなことを言ってきた。
まあ当然そうなるだろうな。
やっぱり、アニマル以外のことも知りたいだろうし。
……いや、パンダのカチューシャは付けたままかよ。
「分かってる。ちゃんと説明するって。それで、志木とかからは何か話は? 0ベースからだと、何から話せばいいか――」
「いやいや! そうじゃなくって! お兄さん、ケモミミちゃん、進化しましたよ! ウチ、レベルアップのための経験値だったとかなんですか!?」
……は?
「ちょっと何言ってるか分かんないんだけど……」
とうとう空木もゲームのし過ぎで、現実と虚構の区別がつかなくなったか……。
しかも自分が物語の主人公とかではなく、経験値と考えてるって……うぅぅ、泣ける。
「いや、お兄さん!? 失礼なこと考えてそうな顔してますけど違いますから! 本当にいきなり光ったと思ったら大きくなったんですって! ウチだけじゃなくてラティアちゃんとかも見てて――」
「――お館様だぁぁぁ!!」
聞き慣れない、しかしどこかで聞いたことがあるような声。
それが、俺と空木のいる玄関まで届いてきた。
そして背の高い女性が、ヒョコっと顔を覗かせる。
ん?
――え!?
「え、え、えっと……もしかして、ロト、ワ?」
スレンダーな美人の女性をそう呼ぶと、見て分かる程にその笑顔を輝かせる。
「――分かってくれたんだ!! うぅぅ~~!! お姉さん、凄く嬉しいぞッ!!」
着物をはだけさせて身に着ている美女――ロトワが飛び込んできた。
「うわっ、とと!?」
「すごっ、胸揺れた!? バインバイン!! お兄さん、ダブルパイダンク食らってる!!」
何やパイダンクって!?
いや、確かに抱きとめた時の胸の反動凄かったけども!
空木、そういう変な命名はしないの、悪い子のラティアが真似したらどうすんの!
「うわ~10年前のお館様だ~カッコいいままだよ~!」
今も体を支えているロトワは、確かに10年という時の経過を感じさせる重みをしていたのだった。
「――あっ、お館様、レディーに対して失礼なこと考えてる顔だ~! そういうのダメだと思うな~」
……10年という時があったら、考え事も見抜かれるらしい。
いや、体重が、とかそう言うことじゃなかったんだが……。
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「んふふ~! 嬉しいな~、10年前のラティアちゃんもレイネちゃんも、全然変わってないんだ~」
10年後のロトワを客間――つまり自室で一人待たせ。
俺達は今いる全員で、廊下を隔てたリビングに集まっていた。
「えーっと……つまり“進化”した、とか言ってたのはロトワのことか?」
「だから! 最初からそう言ってるじゃん! お兄さん、全然ウチの言うこと信じてくれなかったし、酷くない!? 謝罪と賠償を要求します!!」
テレビの政治関連でよく聞く文言をマネてか、空木が面倒臭いリアクションを見せる。
ただでさえ頭がこんがらがって、ズキズキしだしてるってのに。
「はいはい、後で何か買ってやるから……」
適当にデザートでも買って機嫌とっとこう。
……あっ、そう言えばレイネのプリンまだ食べられてないな。
そんなことを考えて現実逃避しながらも、回復した思考力を頼りに残る二人を見る。
「あれは……何か前兆があったりしたのか?」
チラッと畳部屋を振り返りつつ、ラティアとレイネに尋ねる。
……うわっ、ロトワ、何か全然雰囲気が違うな。
可愛さを残しつつも、大人の魅力も備えた容姿。
10人中10人が揃って美女だと評するだろう。
ゆったりと着流す着物姿には、10歳のロトワにはなかった優雅さ・余裕さが感じられる。
そして流し目を送ってきたと思うと、今度はチラッと肩や胸元の肌をはだけて見せて……ええい、止めろ。
「えっと……そうですね。ご主人様がお帰りになる前に、ミオ様へ話の前部分だけでもお話しておこうと思って……」
ラティアも流石に困惑した様子でいる。
レイネに同意を求めるように視線を送った。
2度頷いたレイネは、今の話に更に詳しい説明を継ぐ。
「まあ色々? あたしらもダンジョン攻略に関わってる、とか。ロトワは獣人っていう種族だとか。話したわけなんだが……」
まあそこはいい。
ラティアに話しても大丈夫って、伝えたんだから。
どうやら問題はそこではなく、その先らしい。
二人がじーっと空木の方を見る。
空木は自分に視線を向けられていることに気付き、おどおどし始めた。
「えっ、あっ、ウチ?」
ラティアとレイネが無言で頷く。
ここから先は、自分達以上に詳しいだろうというように。
それを受け、観念したかのように空木はポツポツと語り始める。
「その……ウチ、最初あんまり信じられなくて。さっき、一回花織ちゃんに連絡して似たようなこと聴いたんだけど……」
「あっ、そうなの? 志木からも話聴いたのか?」
首肯したものの、空木はきまり悪そうにポリポリと頬を掻き。
そこからまた話を続けた。
「で、ダンジョン攻略って実際には見てないわけでしょ? だから、冗談交じりでさ。お兄さんが帰ってくる前に、何か不思議な力を一つでも見れば多分信じられるって言っちゃって……」
申し訳なさそうな、どうしたものかといった風な表情で、畳の部屋の方を見る。
なるほど、それでロトワが……。
「――分かった。とりあえず空木、そう言うわけだ。また詳しく話すが、ちょっと先にあっちと話してもいいか?」
「うん、勿論」
ロトワの方を指差しながら確認すると、直ぐにそう返答してくれた。
有難く今回はロトワの件を優先させてもらうことにする。
「……悪い、待たせた、か?」
部屋を移動し、ロトワの前に。
恐らく20歳……でいいはず。
その二十歳のロトワは笑顔で首を振り、目を細める。
「ううん! お姉さん、お館様のことなら、いつまででも待つよ?」
「……何か別のニュアンスも混じってますね」
流石ラティア先生、俺もそう感じましたです、はい。
「ただ……うん――ごめんね。今回、準備期間が殆ど無しで召喚ばれたから。今から数時間も現代にいれないかもしれないんだ」
「……滞在時間ってやつか?」
ロトワから聞いているのは、貯めた魔力を消費することによって未来のロトワを現代、それも自身の体へ呼び、留まらせることが出来ると。
つまり、蓄積し、消費する魔力は多ければ多いほど現代へと留まらせることができる錨・錘を大きく・重くできるようなイメージだ。
「うん。だから――」
ロトワはスッと笑みを引っ込め。
ゆっくりと立ち上がったかと思うと――
「――一つだけだけど、今回持ってくることが出来た未来知識を、教えておくね?」
意地悪そうに、でもとても惹き付けられる小悪魔めいた笑みで、そう告げたのだった。
すいません、急に1日丸々かかるかもしれない用事が入りました。
次の更新はですので、もしかしたら明後日になるかもです。
出来れば未来のロトワの最初の登場ですから、連続で書きたいんですがこればっかりはどうしようもなく。
申し訳ないです……。




